第五十話 料理実践授業
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「はーい、今日は二人一組でホットケーキを作ってもらうdeath☆ 材料は簡単!ホットケーキミックスの袋に書いてある通りに作れば良いだけ!先生を満足させれたら、A評価あげちゃうdeathよ☆ 」
黒く艶やかなコンロや銀色に火照る流し台が付いた大きな白い机が九個立ち並ぶ、広めの教室。長い教卓の後ろには、縦にも横にも長い緑色の黒板があり、白いチョークで「卵料理」と書かれている。
今回の議題だ。教卓の前に立っている、教員の話を熱心に聞く。今日は料理実践授業らしく、二人一組のペアで簡単な料理をして、評価を得るというモノ。
魔法師は如何なる戦争に備えなければならず、容易な料理くらいは出来ねばならない。
「はーい、ペアは席順death☆ 」
ーーということは、必然的に朝日奈と一緒になるわけだ。前々から感じていたが、あ行の朝日奈が何故、俺の後ろなんだ。
俺はさ行であり、あ行の人と無縁なはずなのに。
一つの班に四人、俺の班は朝日奈、俺、久我、山口だ。
「えーっと……私は山口多恵です。冴島君とか燈火ちゃんみたいに戦闘向きの魔法も体術も出来ないけど、料理なら任せて! 」
茶色いセミロングの髪を揺らめかせる丸い顔の少女。ぽっちゃりとした体型は、マスコットキャラのような愛嬌がある。クラスに一人は欲しいお母さんキャラだ。
「良かったー……料理得意なんだね。この班には女の子が二人も!久我には期待してないけど、無事に終わりそうだよ! 」
「え……? 」
顔を引きつらせて驚きの声を上げる朝日奈。俺は気づけていなかった。彼女はーー。
「……はい!じゃあ、各班で卵料理一つとご飯を炊くこと!始めdeath☆ 」
先生の合図で一斉に食材を取りに行く各班の生徒達、完全に出遅れた俺が行列を前にモタモタしているとーー。
「冴島君、ほら取り掛かるよ!お米と卵四個取ってきたから! 」
疾風の如き、凄まじい速度で卵四個とお米を人数分調達してきた山口は俺へ声をかけた。
な、なんという速度なんだ!?戦闘が苦手とか言っていたが、寧ろ逆ではないか?
あの速度なら……って考えるのはやめよう。
山口について行き、朝日奈と久我の待つ班の机の前に立つ。
持ってきた食材を机の上に広げた山口は、自分以外の三人に指示を言い渡した。
「それじゃあ、私と久我君が卵料理を何か一品作るから、冴島君達、ご飯炊いてくれる? 」
「はい!分かりましたー! 」
ざるとボウルに入ったお米を手に取り、流し台の方へ持って行った俺は、女性にコンロを使わせたくないと思ったので彼女へお米を渡しながらお願いを一つ紡いだ。
「朝日奈、お米洗ってもらって良い? 」
「え?あぁ、洗えば良いのよね! 」
「よろしくー! 」
黒い艶やかなコンロの上に透明の鍋を用意すると、必要分の水を入れ、ガスを強火に設定した。
お湯が沸騰する間に、彼女の手際でも見ようかと思い、視線を向けた瞬間ーー。
「……はぁ!?朝日奈、ちょっと待って!! 」
「え……?何? 」
彼女が手にしているボウルは何故か泡だらけになっていた。お米が入っていたのに、泡?何故なのか分からず、顔を引きつらせて問いかけた。
「え、泡?お米洗ってって言ったよね?ボール洗わないでよ! 」
「はぁ?馬鹿じゃないの!洗ってるじゃない!お米! 」
目を凝らして、よくよく見てみると泡の中に白い粒が無数に入っている。
まさか!!と思い、朝日奈が手にしているボールを取り上げて泡の中に手を突っ込んでみるとーー。
「え……朝日奈、マジで? 」
「さっきからなんなの!何か洗うのに洗剤使って何がいけないのよ!! 」
教室の大声で響いた罵声。
何がいけないのではなく……食材を洗うのに洗剤を使うということ自体が間違っている。朝日奈は料理したことがないのか?
「料理したことは? 」
「無いわよ……家では仕えてる方が料理作ってくれるから!何か違うことした? 」
彼女はふざけているわけでは無い。
大真面目で真剣にお米を研ぐという行為を初めてやったのだ。
俺の対応は間違っていた。驚くのではなく、ここでは教えてあげるべきだった。
「あぁ、お米は水だけで良いんだよ。水を入れて、何回かこねるんだ。そしたら水が白くなるから、水を捨ててを三回くらい! 」
「ん、汚くない?お水だけで良いの? 」
最早、ここまで来るとその純粋さに素晴らしさを感じてしまう。
炎魔法の提唱者の家系であれば、必然的にお嬢様か。この考えは普通か。いや、普通?
「大丈夫大丈夫!そういうのは問題ないから、俺が言った通りにしてくれ! 」
「うん、分かった! 」
せっせと水で洗い始めた彼女を微笑ましく思い、しばらく見守るーー。
ザバァァァッと水を流した拍子に無数の小さな粒が金属の流し台に落ちていく音が聞こえる。のほほんと見守っていた俺は、思わず焦って流し台を覗き込んだ。
「朝日奈、お米は零さないようにしないと! 」
「え?そうなの?溢れてしまった負け犬も食べるの!? 」
負け犬って……別にお米が悪いわけじゃないんだよ。お米は踏ん張れないからね!?
しかしーー、ここは合わせる必要があるか。
「うん、負け犬ってか落ちてしまったのも、もう一度洗い直せば大丈夫だから! 」
流し台に落ちてしまったお米を掻き集め、ボウルに戻して、再び洗い始めた彼女に一切の油断も行わず、目を凝らして見張る。
ブクブクと鍋に入ったお水が沸騰し、蓋が暴れ出した。
「よし、水を止めてーっと!朝日奈、もう出来た? 」
「うん!出来たよ、やっと出来た! 」
水が透明になるまでお米を研いでくれた彼女は、澄んだ水を見て感激の声を上げる。
お米洗うだけでは普段十分もかからないのに対し、二十分ほど時間を費やしてしまった。でも大丈夫だ、今日の授業は二時間授業。120分間で卵料理とお米を炊けば良いっていうだけの簡単な授業なのだ。
「……よし!お米を炊こう! 」
無数の米粒がお湯へ入る音が辺りの空気を振動させ、朝日奈が苦労かけて洗ったお米は鍋の中に入った。ここから、約三十分以上。一定の熱量で蒸し続ければ炊けるはずだ。
昔、組織の料理当番をしておいて良かった。まさか、こんなところで役に立つとは。
「朝日奈ってご飯炊いたことないだけ?料理そのものもない? 」
「……ないわよ。だって、召使いが……」
お米が炊けるのを待つ間、手頃で小さな椅子に腰を下ろして雑談でもと口を開く。
彼女は何もかもが初めてらしい。俺はとんでもないことに気がついた。
朝日奈といえば、ファストフード店に行った時、凄まじい食欲を見せつけてくれた。あの量を食べるのに、普段何を食べて生きているのだろうか。食堂?
「普段は食堂で四人前を食べているわよ?!そ、そりゃあ……食堂でシェフをしてくれている方は最初は驚いてたわよ!でも、こればかりは隠せないし……」
だから朝早くに学校にいるのだ。同居人のせいばかりではなかった。
俺はまず、今まで話してくれなかったことを平然と話してくれるようになった彼女へ感激する。
椅子を持ち上げて、身体を寄り添うようにくっつけると、彼女の顔が火照った。
照れてるのか。可愛くて仕方がない。俺は彼女の肩に頭を乗せて目を瞑った。
するとーー。
「あんた、二人で居る時は別に構わないんだけど……教室の中でやるのは勘弁して!皆、見てる! 」
ハッ!と気がついた俺は、思わず目を見開いて辺りを見回す。
彼女の言う通り、クラス中が注目していた。え?何?という反応も通用せず、教卓の上でニヤニヤと口を歪めて、眉間にしわを寄せている教員が皮肉そうに言った。
「ちょっと〜〜、授業中ラブラブするのは勘弁してくれますか〜?それは単純に気がついていなかったのか、独身の私への見せつけ行為と取ってもよろしいdeath? 」
瞬間、教室中に笑いが巻き起こった。
確かに二人きりで雑談していて、彼女の魅力に取り憑かれたとは言えど油断しすぎた。
俺は朝日奈から離れると、顔を真っ赤に赤らめて下を俯いた。
すると、端末に振動が加わり、液晶を覗き込むと久我からチャットが来ていた。
人を小馬鹿にするようなチャットだったが、相手を子供と認識しているからに腹も立たない。
くーがん
『へへっ!ざまぁざまぁ!!リア充滅べ! 』
夜十
『久我、休み時間覚えとけよ? 』
取り敢えず、煩そうなので威嚇気味に書いた文章を送って、ズボンのポケットの奥へ押し込んだ。
その後の振動音は気にしないことにする。
「あっ、冴島君!ご飯、吹いてるよ! 」
そう言われて、コンロに乗せた鍋を見てみると白い泡を吹いていた。朝日奈が使った洗剤が抜けていなかったか?と一瞬、疑問に思ったが如何やらそういう泡ではないらしい。火を止めて、蓋を開けた。
「うわぁぁぁ、熱い!! 」
「気をつけてね、火傷だけはダメだよ! 」
蓋を開けた瞬間に解き放たれた熱と湯気に触れただけで手が痛い。賺さず、火傷の心配をしてきた山口の声を聞いて用心する。
鍋つかみを両手に嵌めて、ゆっくりお米を取り出すと下の方は茶色くなっていた。
黒ではないので成功か、前に焦がして新島に怒られたことがあったかな。
後はしゃもじで滞り無く、混ぜて空気に触れさせてやればーーご飯は完成した。
「夜十、これは私の分? 」
「いや、皆の分だよ!授業で作ったご飯だから、そんなにガッツリ食べなくても良いって!どうせ、この後、昼食だから食堂行くんでしょ? 午後は体育の授業だし……! 」
俺が言いたいことは全部表情に出ていたのか、彼女は諦めたように深く頷いた。
皆で食べる場では遠慮してほしい、いつも先輩の前では遠慮しているイメージなのに同年代だと気にしないのか?
「食堂のご飯、奢ってあげるから! 」
「……え?ホント!? やったーー! 」
彼女は夜十に奢ってもらったことに感激したのではなく、奢ってくれるということは一緒に食堂へ行ける。
"其れ"に感激したのだ。この時の感情が夜十に知れることは絶対に無い。
「山口さん、終わったー? 」
「うん、オムライスを作ろうとしたんだけどね。久我君が混ぜたせいでスクランブルエッグになっちゃった……!ごめんね? 」
彼女の言う通り、皿の上には積み上がった大量のスクランブルエッグが乗せられていた。
まぁ、これも卵料理だし問題はないか。
俺は全ての悪の元凶である、久我に鋭い視線を向ける。
すると、彼は驚愕しガックリと下に視線を落として、反省したように俯き始めた。
「良いよ山口さん!卵料理であることは変わらないし、早く食べよ! 」
山口は、教卓の上に乗せられている様々な調味料の中でケチャップとマヨネーズを選択し、机の上に持ってきた。
一つだけマヨネーズの容器に入っていながらも緑色の液体が入っている謎の調味料が置かれている。あれは何だ?
目を凝らして凝視している俺の視線に気がついた教員は、笑顔でその調味料を俺の班の机の上にそっと置いた。
「先生、それは何ですか? 」
「使ってみればわかるdeath☆ 」
幾ら何でもこれは使う勇気がない。
試しに下を俯いて撃沈している久我に毒味させることにした。
小皿に盛られている久我の分のスクランブルエッグに滞り無く、隙間が無いように緑色のドロドロとした調味料をかけて、俺は口を開いた。
「……誰にだって失敗はあるさ。久我、一緒に食おうぜ! 」
すると、俯いていた彼の表情は晴れたように笑顔に変わる。切り替え早いなこいつ……。
だが、流石に黄色のスクランブルエッグに謎の緑の液体がかかっていれば困惑するのは必然だ。
彼は何とも言えない表情で俺の方を向いた。
「あぁ、なんか元気が出る世界に一つしかない調味料らしいよ! 」
俺は子供でも嘘と分かるような嘘をついた。けれど、此奴には通用する。そう信じた。
彼の反応を待つ、微妙な表情から口元が歪んでーー。
「え、マジで!?よっしゃぁぁ!!いっただっきまーす!! 」
感激の音を上げた彼は、口を大きく開けて緑色の液体がかかったスクランブルエッグを頬張るように口の中へ入れた。
ーー刹那。
久我の額から溢れ出るように汗が噴き出し、顔が青くなった。目には涙を浮かべているが、男としての小さなプライドが彼を揺さぶったのだろう。必死に飲み込もうと踏ん張っている、その様は殺虫薬を掛けられてのたうち回る虫のようだ。
そしてーーゴクリ。
久我は涙ながらに死にそうな表情で"ソレ"を飲み込むことに成功した。
だがーー。
「久我……?久我ぁぁぁぁぁあ!! 」
顔が青ざめた久我は、白目を剥いたまま意識を失った。何だったんだ!?あの緑色の液体……まさか毒薬?
そんな思考に耽っていると、教卓に座る教員が高らかに笑い始めた。
その笑いは悪魔にも匹敵する程、甲高い声。
「先生、あれは何だったんですか!? 」
「私は普段、この世界に起こる謎の不祥事を研究しているのだけど、アビスが発生した時に繁殖し始めた謎の植物。通称、ウラベというトマトのような緑色の球体型の野菜をベースに作った、命名!ケチャウラだよ! 」
ドヤァ、下顎をクイッと上げながら堂々と笑う教員。ふざけているのか、この人は……。
なんというものを生徒に!!
「……あ、味はどんな感じですか? 」
「ゲ○death☆ 」
「……え? 」
思わず、二度聞いてしまった。
すると彼女は自信満々な表情と声のトーンで。
「○ロdeath☆」
二度目で理解出来た。人間が食べるべきではないな。良かった、久我に毒味させて。
久我で……本当に良かった!!
俺は安堵し、気絶した久我から視線を外してマヨネーズをかけた美味しいスクランブルエッグを口の中に運んだのだった。
第五十話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は料理回でしたね。因みに、朝日奈がやったお米を洗剤で洗うのは知り合いが実際にやったことなので実体験です(笑)
それでは次回予告death☆
一緒に食堂で昼食を済ませた朝日奈と夜十は、次の授業内容に驚愕した。魔法を使ったドッチボール!?負けたチームにペナルティって!?
次回もお楽しみに!
【久我の叫び】
「久我で良かった」じゃねぇだろぉぉおおおお!!めっちゃ不味かったよ、不味い通り越してあれは奇跡レベルだな!ぁぁぁぁぁあ、一瞬、三途の川が見えたもん!
流藤が変なイカと蛇と手招きしてるところが見えたんだけどぉぉ!?
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




