第四十九話 囚われの夢
遅くなりましたー、すいません!
真っ暗な森の中で、唯一の灯りは自分の手に持つ、蝋燭のみ。夜の森の中とは言えど、今の季節設定は夏。蒸し暑く、虫も多い。
俺の腕に両腕を回してしがみついている朝日奈は、大の虫嫌いらしい。
今日は《平和派》の肝試し大会というモノに参加している。主催者の店長は大のホラー好きで、よくホラー番組を生クリーム飲みながら見ていると言っていた。
「大丈夫だよ……何も出ないって! 」
「わ、分かってるわよ!べ、別に怖くないし! 」
青ざめた表情を見せようとせず、果敢に進もうと腕を引っ張り始める彼女。
その時ーー朝日奈は何かを踏んだ。
「俺を踏んだなぁ……?こうしてやーー」
「いやぁぁぁぁぁぁあああああ!! 」
土の中に潜って足を掴む係を任された轟音は彼女にひょっこりと出していた頭を踏みつけられたことで、作戦変更。"地面から這い出るゾンビ"になることにしたがーー。
今回ばかりは相手が悪かった。
彼女は硬い靴底で轟音の顔をストンピングし続ける。その勢いは留まることを知らず、あまりの連続さに地面の土が足を上げるタイミングで宙に舞う。
「ちょ、冴島ぁぁ!!た、たすげっ、ぁぁっ、ぁぁぁぁぁあああ!! 」
「……轟音先輩、御愁傷様でした。朝日奈、もう居ないよ。進も? 」
俺は顔中に靴跡が付いた轟音に祈りを立てて、彼女を落ち着かせるとそのまま突き進んだ。
朝日奈燈火……幽霊嫌いなのは分かるが、これでは逆に幽霊が恐れて嫌うぞ?
「後少しで目的地だな。 」
俺は、木で出来た表札を見つけ、凝視する。
←学園側 旧学園側→
と、書かれている。
俺はこの時、気がつけなかった。学園側と旧学園側の位置が逆になっていることを。
「学園側だからこっちだね。旧学園側って何だろう……? 」
疑問を頭に浮かべながら進むこと五分。
俺と朝日奈は、木造建築で所々が老朽化し、崩れ落ちている建物が密集した場所に辿り着いた。明らかに此処はいつも利用している寮のある学園なんかではなく、廃墟と化した場所だ。
ゾンビ映画とかそういった系列のセットなどに使われそうな気がする。
俺と朝日奈は戻ろうと、来た道を引き返そうとするがーー。
「〜〜〜〜〜〜 ♪♪♪♪ 」
廃れた校舎の方から綺麗なフルートの音が聞こえてきた。人がいるということなのか?
俺は彼女の腕を引っ張って、「行ってみよう!」と声をかけた。
「……あのフルートの音、もしかしたら、前にクラスの女子が話してた"森に響く綺麗な音色"っていう怪談かもしれない……! 」
「え……? 」
俺は思わず驚愕の音を上げる。
「あの音を聞いて惹かれたものが、近くに行った瞬間……その音に魅了されて身も心も操られ、最後に食べられてしまうっていう、バ、バカげた話を女子がしててて私が寝てた時に聞こえただけよ!! 」
「あぁ、!そうだよな、朝日奈に友達が……あぁ、良かった! 」
「どこに安堵してんのよ!! 」
そんな話を繰り広げていると、後ろの茂みからガサガサと人が来る音がした。
彼女は敏感に音を感じて、叫び声を上げる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!! 」
大きく足を振り上げて、向かい出てくる相手の顔面を靴のつま先で捉える。
彼女は手応えがあったようで、地面を蹴りジャンプすると相手の腹部に飛び乗った。
「……ぐえっ!! 」
「こ、これで…… 」
朝日奈は恐る恐る下を向く。
するとそこにはーー。
「あ、轟音先輩……すいません。お、降ります。でも、良いですよね。先輩こういうことされるの好きって鳴神先輩が言ってたから 」
泥だらけで苦しそうな轟音が転がっていた。彼女はそっと降りて、鳴神から聞いた有益な情報をあてつけに開き直ってみせる。
「はぁ!?俺が好きなんじゃなくて、あいつが好きなんだよ!ホントに! 」
まぁ、鳴神先輩ならドが前に10個くらいつくSだろうな。言動とか行動とか見ててそのくらいは簡単に分かる。
「ところで、轟音先輩はなぜ此処に? 」
「学園側と旧学園側の表記盤が反対になっているのを発見してな。まさか、と思って旧学園側に来てみたら蹴られたというわけだ。此処は危ないから離れないと……行くぞ! 」
その時ーー、またあの音色が聞こえて来た。
綺麗なフルートの音、心や体をも吸い込んでしまいそうな巧みに吹かれたあの音が。
「〜〜〜〜〜〜 ♪♪♪♪ 」
「あの音色はまさか……! 」
突然、廃れた校舎へ走り出した轟音。
何があったというのだろう。轟音が、音魔法の使い手なのは知っているけれど、あの音に何か魔法がかけられているのか?
「……轟音先輩待ってください!! 」
「ちょ、あんたも行くの!?えー、しょうがないわね……!」
俺は轟音を追いかけるように、駆け出した。当然、俺の腕に両腕を回し、組んでいる彼女は強制的について行くことになる。朝日奈は諦めたように顔を伏せた。
付いて行くと、轟音は学園の入り口で呆然と立ち止まっている。その先に何が居るのか、何があるのかを凝視してよく見てみると。
そこには全身真っ白の少女が目を瞑って白いフルートを吹いている姿があった。
どう見たって幽霊だ……あぁ、見てしまった遂に……まじかぁ!!と、悶絶し始めた頃、轟音は白い彼女へ大きな声を上げる。
「仁科二音! 」
すると、彼女は目を見開き、真っ白な身体に似合わない真っ赤な瞳で轟音を凝視した。
そしてーー彼女は驚いたように轟音へ駆け寄った。
「……ゆ、夢みたいだ!!仁科とまた会えるなんて!! 」
「……わっ、私もだよ!音ちゃん! 」
何故か俺達は場違いな気がして、その場を去りたくなった。それ程に二人は感激していたのだ。
「え、そこの人達は? 」
「あぁ、俺の知り合いだよ。マズイ? 」
彼女は深く頷いた。
「うん、でも……此処にいる皆を起こさなきゃいいんじゃないかな? 」
此処にいる皆?つまり、幽霊が何人も此処には住み着いているということになる。
末恐ろしいものだ、幽霊なんか怖くないと言い張っていた朝日奈でさえも今は硬直して、何かブツブツ言っている。
「大丈夫?」
「な、何が……? 」
取り乱している彼女は驚いたように俺へ問いかける。
「いや、なんか怖がっているように見えーー」
「こ、怖がってないわよ!!断じて!! 」
彼女は俺の言葉を遮った。決して、怖いとは言いたくないようだ。
そんなことを言わなくても、朝日奈が怖がっていることは一目瞭然だというのに。
「……ワァァァッ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!! 」
俺が彼女の隙を見て驚かすと、彼女は驚愕にも絶望した表情で驚き、叫び声を上げながら俺の顔面へ拳を……数メートル先へ吹っ飛ばされた。
「うぅ……」
「当然の報いよ、私だって怖かっ……驚いたんだから! 」
強く強打した鼻を抑えながら、上を見上げると顔を赤らめ、鋭い眼光で地面に転がった俺を睨みつける彼女の姿があった。
プイっと横を向いたように俺の視界の届かない頭上へと消える。
「……先輩、そこの人は? 」
「俺と小日向の幼馴染だよ。子供の頃よく遊んだり、音楽を教えてもらったりしたんだ!俺の音楽の原点の人さ! 」
自慢げに話す轟音から紡がれた情報に驚愕した。
小日向先輩と轟音先輩が幼馴染という点だ。今の《平和派》ではあまり絡んでいるイメージのない二人。実は幼馴染だったなんて。
世の中は狭いもんだな、としみじみ思った。
「二人とも名前は? 」
「俺は冴島夜十、こっちは朝日奈燈火です」
俺が代わりに朝日奈の自己紹介もすると、仁科はクスッと笑った。
「え、何か面白かったですか? 」
「いや、何でもないよ。ただ、良い関係だねっ!って思っただけ。 」
今の一瞬で付き合ってること見抜かれた?!
末恐ろしい……。
「音ちゃんは彼女さん出来たの? 」
「あぁ、今は居るよ。 」
「………。良かったね!おめでと! 」
仁科は、何故か哀しげな表情を浮かべ、下を俯くが一瞬で何事も無かったかのように笑顔で拍手をした。
「それじゃ、もう夜遅いから帰りなよ。この辺は危ないから……」
「うん、そうするよ。仁科も元気でな! 」
純粋に疑問が浮かんだ。彼女は、学園に戻らなくても良いのか?と。夜道は女性一人じゃ危ないから一緒に帰れば安全だ。俺は疑問をぶつけてみた。
「仁科先輩も一緒に帰らないんですか?夜道は危ないですし……」
「心配してくれてるんだね、ありがとう。でも、良いよ。私は此処に住んでるから、気にしないで、帰って。 」
彼女がそう言った後、轟音が俺と朝日奈の手を繋ぎ、一気に学園側へと駆け出した。
その行動が何を意味するのか、現時点では分からなかったがーー。
学園に戻ると、怒った小日向が拠点の前に立っていた。遅くなったことで怒りを露わにしているのだろう。
彼女は《平和派》の中でかなりの常識人。度が過ぎることも稀にあるが、基本的には常識人なのだ。
「……みんな心配していやがりますよ!?三人共、端末鳴らしても出ねぇでいやがるし……どこにいやがったんですか? 」
「あぁ、俺から説明するよ。旧学園側で、仁科に会ってたんだ。 」
すると、小日向は驚愕し、驚きの音を上げた。其れ程にビックリすることか!?
「轟音ちゃん……馬鹿でいやがりますか!?過去に縋っても意味はないでいやがりますよ! 」
「分かってるよ。けど、もう一度会って話がしたかったんだ。仁科に……」
俺と朝日奈は状況が全く分からなかった。
仁科に会うことはイケナイことなのか?
疑問そうな表情をしている俺に気づいたのか、小日向は説明し始めた。
「二人とも何が何だかって顔してるから教えてやりますよ。旧学園側は、"会いたい人に会える"っていう怪談で有名な場所でいやがるんですが、とても危険で……"会えないけど、会いたい人に会える"という欲が込み上げて、何度も何度もあの場所に通ってしまうんでいやがります。」
「つまり……依存性があるから、通い続けると永遠にその場所にとどまることになる。あの場所は危険な場所なんだよ。 」
会いたい人に会える……か。
俺も母と父、姉に会いたいな……。
でも、どうせ夢の話。実現させることは出来ても、誰も望んでいない。
俺と轟音、小日向はゆっくりと拠点の方へ歩いて行くとーー。
「キャァァァァァァァァァァァァァ!! 」
朝日奈が甲高い声を上げた。
それが何を意味するのかは、驚愕の表情で俺の背中を指差すことで分かった。
轟音の背中を見てみるとーー。
赤い赤い赤い赤い赤い子供の掌が無数に背中についていた。
あそこは夢が集まる場所、子供の霊達が夢を求めてきたのかもしれず。
人間は、夢に……囚われてはいけない。
俺はこの言葉を胸に閉まい、急いで拠点のシャワールームへ駆け込んだのだった。
四十九話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は夢に関する怖い話?みたいなのでした。こういうの考えるのに結構時間かかった……。
次回は、料理実践授業?朝日奈とペアだ!
女性だから料理得意だろ!ーー如何に!?w
次回もお楽しみに!
【赤い手型】
「全然取れねぇんだけど、これ制服だしマジでどうしよう! このままじゃ、冴島と朝日奈の背中に手型付いてるぜ、お揃いかな?いいなぁ!! って羨ましがられてしまう!! 」
「いや、冴島……どんだけポジティブよ!? 」
※朝日奈も同じようなこと考えていたり、考えていなかったり!?
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




