第四十七話 人類の過去 ④
遅くなりました!夏コミ楽しかったです!
それでは、過去編……いよいよ大詰め!!
というか、ラストです!
漆黒の森を抜けた先に見える黒屋敷の上の階に黒い嘲笑を浮かべるシュタインが、血眼になったシンを招くように手を振った。
勿論、彼は魔術師の元へと赴こう。
地面に転がった姉に白いシャツを脱いで被せた。露わになった半裸から見えるのは、彼の努力の結晶と言わんばかりの綺麗な肉体。
しなやかに付いた程よい筋肉と白い肌、どんな状況をも潜り抜けるのに必要な頭脳と肉体は兼ね備えているようだ。
「待ってろ、姉上の仇!!この世界を混沌へ陥れる憎っくき魔術師め!! 」
シンは一歩を大きく踏み出して地面を蹴る。屋敷の中へ駆け込むと、最初に出くわしたのは三十名程の魔術師の軍勢。
屋敷のロビーに備え付けられている階段に一列で並び、シンへ片手を向けながら詠唱を唱え始めた。
「シュタイン様をお守りするのだ!!
レッグ・シュザリア・バルバトス・デュナ・フォルティア!! 」
全員の詠唱が重なった時、一際大きな炎の球体がシンの目の前に具現化された。
迫り来る炎の球体は熱を上げ、その業火の元にうねりを上げて、蠢く。
まるで生き物のように、ゆっくりと。
シンは剣を抜き、球体に刃を向け、受け止める。魔法を剣で受け止めるものなど、これまでに現れすら居なかったことで魔術師は一瞬驚愕するが、余裕の笑みを浮かべた。
次第に柄の部分からは皮膚が焼けてしまうような高熱が帯び始める。
ギリギリと皮膚が痛み始めるが、その痛みよりも今は憎しみの方が強いーー。
シンは死にそうな表情に渾身の力で、燃え盛る炎の球体を"断ち斬った"!
彼の背後へ真っ二つに割れた半円型の炎がロビーの壁に当たり、木製の屋敷の為、壁と床に炎が引火した。
燃え広がる炎を背景に鋭利な眼光を魔術師へ向ける。
「ひ、ひぃぃ!!」
「マジかよ、あいつ、魔法をッッ!?」
「シュタイン様!お助けをぉぉ!!」
魔術師達は焦り、一歩足を退いた。
その直後ーー。
「……ぐぁぁぁぁああああ!!! 」
急いで手を掲げ詠唱を始めようとした魔術師達は、掲げた腕を斬り落とされ、痛烈な叫び声を上げた。
「……絶対に許さない!!
魔術師を……お前らをぉぉぉおお!! 」
彼の結膜は滾った血液で赤く、瞳孔は見開かれたように黒く染まった。
それはもう人間の姿ではない……。
ーー言葉で言い表すのであればそれは、まさに"化け物"だった。
「ぐっ、人間風情がぁぁぁ!!! 」
刹那。魔術師三十人のうちの一人を残した二十九名の首がぼとりと重々しい音を立てながら地面に落下した。
吹き出した血液でシンの皮膚や服が濡れる。
「ひ、ひぃぃぃ!!勘弁してくれ!
……お、俺はあの男に頼まれただけなんだよ!なぁ、頼むよ!! 」
地面に尻餅をついた男は絶望し、悲しみの音を上げる。必死に後退するが、背中が壁にぶつかると顔を伏せ、失った片手を庇いながら命乞いをした。
だがーー。
「お前ら魔術師が行ってきたことはなんだ?戦う気のない人間から領地を奪い、抵抗も出来ない女、子供をその忌々しい魔法で殺してきた!!違うか!? 」
「そ、それは……申し訳ないと思ってる。
……俺には家族が居るんだ!! 」
それでも、シンは魔術師に耳など貸さなかった。自分にも両親は居た。けれど、魔術師に村を襲われた時、奴らの具現化した炎に身体を焼かれてこの世を去ったのだ。
「……お前らに命乞いをする権利はない! 」
最後の一人を手にかけた時、二階の部屋の扉が開き、光栄な拍手を浴びせるシュタインが現れた。彼は黒い笑みを浮かべながら、宙に掌を広げて、大剣を発現する。
禍々しい黒と紫が入り混じり、燃え盛る炎が描かれた混沌の大剣は、いまにも世界の理を断ち切ってしまいそうだ。
「さぁ、化け物に昇格したシン君の腕を見ようかなぁ? 」
彼の挑発に容易く乗ったシンは、闘志を奮い立たせて銀色の矛先を振るう。
甲高い金属音が場を制すと、ギリギリと距離を詰めて、黒い笑みを浮かべたシュタインと、血走った憎しみの瞳をギラつかせる両者が互いに視線を交えた。
「その速度、もはや人間じゃないね。
姉の洗脳で怒りと憎悪が募り、自分自身を修羅の鬼へと化させたか!! 」
大剣に力を込め、シンとの距離を離すが、一瞬で地面を蹴って間合いに入ってくる彼の剣先を絶妙なタイミングで躱すシュタイン。
だがーー彼は見抜けていなかった。
自分を独楽のように回転させながら避けたシンの剣はありふれた速度による残像で本当の剣が左目に近づいてきていることを。
ーー刹那。
シュタインへ痛烈な痛みが走った。
眼球をその場で真っ二つに斬られたのだ、当然、おかしくなりそうなほどの痛みだ。
左目を抑え、溢れる血液と涙が指の間から流れる。
地面にポタポタと零れ落ちるほどの勢い。
「こんの……クソガキィィ!! 」
先程の余裕げな表情と言葉遣いとは打って変わって、嗚咽を漏らしながら低く深く野太い大声を上げる。
「お前はもっと辛い思いをさせてやる!!
……地獄に真っしぐらってな! 」
「ディアス・アズカバン・ベルメリオ・ギアス・ギアーズ・ゲート・フォルメウス! 」
瞬間。早口で展開された幾つにも連なる魔法陣の詠唱が完成すると、左目の血液を服の袖で拭ったシュタインが、嘲笑の笑みを浮かべた。
彼が言い放ったのは、自分の力を強制的に向上させる魔法だ。
「……ふはははははは!!この状態であれば、修羅に落ちた餓鬼をぶっ殺せる!計画を邪魔させるわけにはいかない! 」
手に携えていた大剣を真っ二つに引き裂くと、闇夜に光る両手剣に具現化した。
シュタインからはあり得ない程の卓越した魔力と力が溢れ、周囲にその禍々しさを周知させる。
「……計画だとかそういう難しい話は知らない!ここでお前に負けたら、人間は滅ぶかもしれないんだよ!絶対負けない! 」
血走らせた瞳で相手を捉えた瞬間に目と鼻の先へ接触するまで接近する。シュタインへ矛先を向けて剣を振るうと、片方の剣の刃ではない部分で受け止められて左肩にもう片方の剣が刺さった。
「ぐっ……! 」
肩からの出血を気にせずに、シュタインの懐へもう一度入ろうと試みるが、全ての行動が見透かされているかのようで、シンは腹部を強く蹴られ、後ろへ後退してしまう。
「ダメだ、動きが読まれているみたいだ! 」
「……動きを?まさか!お前が遅すぎるだけだよバーカ! 」
今度はシュタインが地面を蹴って、シンの懐に潜り込むと一瞬だけ剣を離し、腰と捻りの入った渾身の拳が鳩尾に決まった。
すぐさま、剣を手に取り戻して距離を取る。
瞬間の嗚咽と痛みが襲い、意識が朦朧としそうになった。
思わず、その場に蹲って体内の液体を口から吐く。
「……はぁっ……はぁっ!!くっそぉぉぉおおおお!! 」
伏せていた頭を上げて、地面を練ろうと足を踏み出した瞬間ーー。
彼の瞳に映ったのは、薄く汚れた黒い靴底。
「ぐぁぁぁぁっっ!! 」
顔面を蹴り飛ばされて、燃え盛る炎の中に落ちて行ったシンは熱と炎に呑み込まれてしまった。
悶え苦しむも、時は既に遅い。彼の身体は焦げ付き始め、周りに肉が焼ける生臭い匂いが充満する。
「ふっ、呆気なかったな。
本気を出すまでもなかっ……! 」
彼が余裕綽々とした笑みで遺体を浮かべた瞬間だった。
彼の腹部に剣が突き刺さり、貫いているのが見えたのはーー。
「……誰を見てんだよ、お前!!こっちに戻ってくんな、地獄へ落ちろ!! 」
ドクドクと溢れ、滝のように流れ落ちる血液は、次第に加速してシュタインの口からも溢れ出た。
「ごぼっ……な、なんだと……!?
こ、こんなガキにッ、俺の計画がッ……!! 」
白目を剥いて、前のめりに倒れたシュタインの顔が地面に着くと、バシャッと生々しい液体の音を周知させながら意識を手放した。
「こ、これで姉上の洗脳が解けたはずだ!!……姉上ッッ!! 」
彼を待つのは、姉ではなくーー。
屋敷を包み込む高熱の炎だった。
このまま屋敷が呑み込まれて、燃え尽きるのも時間の問題。けれど、自分まで燃えるのは姉を助けた意味がない。
彼は顔に焦げを付けながら、一気に加速して炎の中を潜り抜けることに成功する。
屋敷の外へ出ると、周りの樹々に炎が燃え広がり、大変なことになっていた。
姉が寝転がっている位置にも、後少しで炎が燃え移りそうだ。
「……あ、姉上!! 」
シンは駆け寄ろうと足を踏み出したがーー瞬間。
彼の目の前に木の根が燃えて、軸が歪んでしまった大きな木の幹が倒れ、行く手を阻む。
「……シン、私は貴方とは行けない。
私はやらなきゃいけないことがあるから……」
起き上がったユリは額から血液を流し、瞳から涙を流すシンへ、辛辣な言葉を放ち始める。彼女は哀しげな表情を浮かべながら、燃え盛る炎に呑まれる森を去って行った。
「……姉上ぇぇぇぇええええええ!! 」
彼の叫びは、苦しみはーー届くことは無かったのだった。
ーーそして十五年の月日が流れ、魔術師と人間の関係はより一層危険な状態になっていた。
十五年前に魔術師の櫓を一人で壊滅させたシンという男が人間を統率し、近辺の魔術師狩りを行い始めたのが、十年前。
圧倒的に開いていた魔術師と人間の差も大層広がっていることはなく、五分五分で今は人間の方が優勢。
そんな歴史を迎え、仲間達と今日の勝利の宴をしていたシンは昔のことについて、仲間達に問いかけられた。
「……昔の話?人間を統率して、魔術師を倒すための兵士を掻き集めようとしてたんだ。一人じゃなくて、姉と一緒にね。 」
神妙な面持ちで語り始めた人間の長に、兵士達は耳を傾ける。
「……姉はもう居ないけれど、どこかで生きてるんだろうな。
でも、きっと生きていれば大丈夫。何処かでまたーー」
「……た、大変です!!
西に集まっていた見張り兵が一瞬で……いや、一撃で殺されました!! 」
見張り兵がゼェゼェと息を荒げながら走って、叫び声を上げる。
敵兵からの強襲の一報だ。
西に集まっていた見張り兵の数は100を超え、老人も子供も戦えれば使っている。
だが、それでも今や戦争の巧みになりつつある彼らを一撃で?どんな魔術師がーー!?
「……俺が出向くよ。皆は、武器を携えて待機!合図があったら、西へ向かえ! 」
白い白馬に乗ったシンは、腰に指した剣に手を掛けて、西へ駆けた。
前よりも剣の腕は上がり、緋色に染まっていた結膜も今や白に戻っている。
修羅の道こそ超えたが、彼は人間として自我を再び取り戻した。
それには、出会ってきた人間との信頼や助け合いに関係している。マトモに生きることが出来ていた。
西の集会所へ着くと、血生臭い匂いが充満しており、周囲に血液が散乱している。
まさにココでとんでもない惨劇が繰り広げられていた事実の確証を得ることに、大層な時間など必要なかった。
「……誰だ?そこに居るヤツは。人間じゃないな?だが、魔術師でもない。匂いが……」
血のついた壁のある納屋から出てきたのは、一人の少年だった。薄暗い笑みを浮かべ、汚れた白い布を身に纏っている。
「へぇ……?叔父さんが来たんだね。
まさかこんなに簡単に呼べるとは思わなかったよ! 」
「……叔父さん?俺はまだ25を過ぎたばかりだぞ?お前は何者だ? 」
少年は問いかけには答えなかった。
黒い笑みを辞めて、屈託の無い笑顔を見せながらゆっくりと近づいてくる。
まるで、寄り添ってくる子供のようにーー。
「ぬっ……!! 」
少年の"演技"を瞬時に見抜いたシンは、剣に手をかけて一瞬のうちに抜き去る。
雷鳴の轟と眩い光が周りに発現された刹那に抜き放たれた斬撃が目に見える"モノ"となって少年へ襲いかかった。
「……疑り深いんだね。
でも、この程度の斬撃じゃ回避しなくても十分だよ。叔父さん、もしかして弱い? 」
シンは耳を疑った。自分よりも弱い人間に放った斬撃は、渾身の力を込めたものであり、手加減など一切していない。普通の人間、又は弱い魔術師が触れれば最後。
一瞬で身体が真っ二つに裂けてしまう威力のモノだ。
「……母さんの弟さんはこんなもんか。
弱いんだね、終わりだよ? 」
少年は小さな右腕を広げて、余裕の笑み浮かべる。その様子に流石のシンも察していた。
卓越した魔力とその操作力、周囲の空気を歪ませる圧倒的な強さ。
《反射魔法》
彼から放たれた一言で、斬撃の流れが真逆に走った。シンは驚愕し、奔ってくる斬撃の回避方法を探るべく、床に伏せてみる。
だがーー。
「叔父さん、斬撃で頭一杯になった? 」
彼の頭を汚れた靴で踏みつける少年。
頭を上げようと腕に力を込めるが、持ち上がらない。その小さな身体にどうして力があるのか、シンには理解が出来なかった。
「ふふっ、叔父さん弱いね。
このまま殺すのは簡単だし、その予定だったけど……助かりたいなら一つだけ方法があるよ! 」
それはーーと、聞こうとした直後に少年はその言葉を口にしていた。
流石のシンも怒り狂うレベルの舐めた言葉だ。
「ここで死んでる人間達の頭を斬りとって並べてよ。そうしたら、人間側を殺さないようにするよ! 」
屈託のない笑顔で放たれる言葉は、自分を馬鹿にしているような言葉だった。
グリグリと顔を踏みつけられ、シンは屈辱を味わった。
だが、この少年に自分は勝てない。
渾身の一振りが跳ね返された上に、大人の男を起き上がらせない程の怪力。
人間ではなくーー、魔術師でもないーー。
「き、君は……何者なんだ!? 」
「んー、僕は何だろうね。魔術師は僕のことをこう呼ぶんだけど……」
地面に頭を擦り付けられたままのシンが耳にしたのはーー古い人間を超越し、魔術師という最強種族を絶滅の危機まで追い込む新たな人間の名前ーー。
「……その名はね、《未完成》 」
四十七話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回で過去編は終了です!
それでは次回予告です!!
過去を見させられた夜十は、自分が知っている全てのことを《平和派》に話すーー。
全ての真実を教えるためにーー!!
夏コミはとても暑く、相変わらず人混みやばかったです!去年よりも増えた気がするのは気のせいかなー、なんてね。
会いたい方にも会えて、欲しい人のも買えたので良かったです!
明日からの推敲も頑張ります!!
一日の休暇、ありがとうございました!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




