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追憶のアビス  作者: ezelu
第1章 学園編 《祈願派編》
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第四十六話 人類の過去 ③

遅くなりました、明日は夏コミに行くのでどうなるか分かりません。夜、投稿出来るかも?

漆黒の黒炎を身に纏う龍は、その猛威をシンへ振りかざさんと立ちはだかった。

彼は今、姉を一刻を早く取り戻さなければならないという使命感に追われている。

目の前を遮る黒龍に赤い血管が浮き出た血眼で睨みつけた。



「そこを退けよ……今、お前の相手をしている暇は無いんだぁぁぁぁぁあ!! 」



「グォォォォォォォォォ!!!! 」



黒龍の咆哮にも狼狽えることなく、彼は剣を手に取って真っ直ぐ突き進む。

一度、地面を蹴ると一気に龍との間合いを詰め、懐に侵入することへ成功。剣先を相手の皮膚へ忍ばせた。


だがーー龍の皮膚は硬い鱗で覆われている為か、剣が通らない。寧ろ、剣先が刃(こぼ)れしてしまう。



「……クッソ!!こんな剣じゃ、こいつに立ち向かうことさえ出来ない! 」



人間には勝てない絶対的な存在。

圧倒的な力の前には、捩伏せられるのが至極当たり前のことだ。


ーー突如、黒龍の口から黒い炎が湧き上がるように発現し、紫と黒の入り混じったような不吉な色の炎の咆哮がシンを襲う。



「……避けることは出来ても、ダメージを与えることが出来ないなんて、どう戦えば勝利に導かれるんだ!? で、でも……あそこなら! 」



咆哮を素早く華麗な身のこなしで回避に成功する。重心を低くして龍の真下へスライディングをして背後へ回り込むと、高く飛び上がり龍の瞳へ剣を一刺しした。



「どんなに硬くても、瞳だけは柔らかいだろ!それに……この状況でどういう風に対処すべきか、もう分かった!! 」



シンは、龍の真下へスライディングした際に、相手へ勝つための活路を見出すことに成功をし、

どんなに皮膚が硬くて、鉄壁の守りであろうと、瞳の粘膜だけは人間も龍も柔らかく、大切な部分であることを思い出した。


それだけで黒龍に打ち勝つ為の方法を見出したようなものだ。彼は、剣を手に取って今度は一度の太刀の為に、重心を低くして龍の懐へ潜り込んだ。



「これでも、喰らえぇぇえええ!! 」



黒龍の腹部に鱗が纏われていないことを考えて、剣を用い、尾の方へ滑りながら腹部を斬り裂いた。

溢れ出る緋色の液体から見るに、お腹の部分が急所であったことは明確。



「グォォォォォォォォォ!!! 」



黒龍は哀しげに瞳を泳がせて、咆哮の音を上げた。既に満身創痍なようで羽を広げて飛び立とうとする際に大きな隙を生み出してしまった。

勿論、血眼のシンは龍の僅かな綻びを逃すことなくーー。



「これで終わりだぁぁぁぁぁぁあ!! 」



尾まで腹部を掻っ捌いた瞬間、たった一太刀の剣筋が無数の斬撃として更に黒龍の腹部を斬り裂いた。

黒龍は、腹部から出血によって意識が朦朧とし、足をガクガクとさせながらうつ伏せに倒れる。瞳は輝きのない虚ろになった。




「はぁ……はぁっ……!! 」



今の攻防を必死に頭の中でシュミレーションもすることなく、実現出来たのはシンの剣術センスと、視野の広さ、必死さが足りていたからだ。

黒龍を倒したシンは安堵することなく、辺りを見回した。



「……姉上!! 」


キョロキョロと辺りを見回すが、人一人居ない。諦めようとした刹那ーー背後から喝采の如く、拍手が舞い降りる。

振り向くと、笑顔のシュタインが立っていた。



「黒龍を倒すなんて、本当に人間か?

……まぁ、その努力だけは買ってあげるよ。けど、君はもう姉と話せないね、彼女は今俺にゾッコン中なんだ! 」


シンには彼の言っていることがまるで理解出来なかった。姉がゾッコン中?嘘だッッ!お前が嫌で嫌で必死に踠き苦しんでるに違いない!姉上を助けなければ……!!


シンの心は、あの純粋な自分の前を歩いてくれる姉を助けることでいっぱいだ。頼もしくて、強く、笑顔で微笑んでくれる姉。



「……君達兄弟は狂っているね。圧倒的な強さを持つ故に、何処かは綻びがあるか。とにかく、姉に会いたければここを真っ直ぐ進んだ先に見える黒い屋敷においで。 来れば、わかるよ? ふははははははは!!! 」



シュタインは盛大な笑いを周囲に飛ばし、紫に光る禍々しい魔法陣の中へ消えていった。



「姉上を……救わないとッッ!! 」



シュタインに言われた通り、真っ直ぐ直線上の道を加速して向かって行ったのだった。






ーー黒の屋敷。

ここは森の奥にある黒く不気味な屋敷。

長年掃除されていない屋敷の窓ガラスは曇り、ヒビが入っている。

壁には、無数のツタが這うように絡みつき、老朽化し、腐った木の扉は風に押される度にギィギィと音を立て、その不気味さを更に惹き立てた。


その屋敷の中で手足を拘束されながら眠り続けるユリはふと、目を覚ます。



「……シュ、シュタイン? 」



「どうした?ユリ。 」



ユリがシュタインの名前を呼ぶと、彼は姿を現して彼女へ寄り添った。

ベッドの上に拘束された状態で寝かされているユリの身体を舐めるような視線で見つめるシュタインに、顔を赤らめる彼女。



二人は雰囲気だけで分かってしまうほど、愛し合っているような仲に見える。




「あぁ、シュタイン。貴方となら…… 」



「……自分もだよ。ユリ、君となら。」



ーー二人はベッドの上で愛し合うように交わった。激しさと熱の量は、情熱を感じる程、熱いもののよう。







「はぁ……っ、え、うぉっ……!! 」



カァカァと鳴くカラスが樹々の間から通り抜けるように羽ばたく音で驚いたシンは、思わず声を上げた。



「か、カラスか。あれから真っ直ぐ進んでるってのに、全然屋敷なんか見えてこない。嘘だったのかよ、もう暗いし……今日はここで野宿かなぁ! 」



すっかり太陽も落ちて、真っ暗になった一つの明かりもない森を進むのは危険だ。

何が襲ってくるか分からないし、よくよく考えてみれば、ここは魔術師の領土。


迂闊に動けば見つかって、殺される。今の、体力が限界を迎えたシンでは、昼のように魔術師を翻弄しながら殺すことは出来ない。


彼は手頃の丸太の上に腰を下ろすと、姉のことを考えながら一夜過ごしたのだった。





ーー翌日。

「んんっ……シュ、シュタイン? 」


全裸姿でベッドの上に横たわるユリを傍らに、服を着たシュタインは窓の外を見つめていた。ふと、彼女に呼ばれたことで後ろを振り返るシュタイン。



「おはよう、ゆっくり眠れたかい? 」



「うん、お陰様でね……! 」


満面の笑みを振るうユリに彼は嘲笑し、事態が深刻なのだと突きつけるような演技で彼女にこう言った。



「……君の弟が僕らの関係を引き裂こうと屋敷まで来ている。先程、右目を失った。君の綺麗な姿を一つの瞳で見ることしか出来なくなってしまったんだ……この意味、分かるかい? 」


ユリはぞわーっと血の気が引くように、何かを察する。つまり、彼は自分に弟を殺して、右目の仇を取ってほしいと言っている。




「そ、それは……」



「じゃあ、君と僕の関係は終わりだ。

弟も殺せないような弱い女だと思っていなかったよ。さようなーー」



「……わ、分かった!!私がシンをこ、殺す!だから……捨てないでください」



シュタインは影でニヤリと微笑んだ。

人間を操作するのは楽しい、狂気の兄弟の運命を左右することが出来るのは自分だとそう考えるだけで興奮する。

胸の高鳴りと高揚感に満ちて、彼は彼女の私物である愛剣を差し出した。



「君の弟なら屋敷の近くに居るよ。早く斬って、首を持ち帰ってくるんだ。いいね? 」



「はい……」



本当にやるしかないようだ。彼に捨てられるくらいなら、死んだほうがマシ。

彼女の心は完全に洗脳されきっていた。





ーー朝目覚めると、屋敷を発見した。

どうやら、すぐ側で断念したみたいだ。だが、真っ暗な森で突き進んでいれば、何と遭遇したか分からない。

昨日の判断は間違っていなかった。


そう信じて、ユリを探しに足を踏み出した刹那。敵の気配……姉の気配を感じて、横方へ転がるように避ける。避ける前の場所には、高速で地面に剣を突き刺すユリの姿が見えた。

地面に着いた瞬間、爆発音と、地面の土や枯れた葉が宙へ舞う。



「姉上、一緒に逃げよ!あいつ、魔術師なんだよ!早く逃げなーー」



シンはユリの姿を見て歓喜する。

だが、彼女はそうでは無かった。彼を見つけるなり、一閃の速度で加速し、一太刀の剣でシンの顔に傷を付ける。



「馬鹿な弟の首を持ち帰る、馬鹿な弟の首を持ち帰る、馬鹿な弟の首を持ち帰る、馬鹿な弟の首を持ち帰る、馬鹿な弟の首を……」


ブツブツと同じ言葉を繰り返して言っている彼女はまるで正気とは言えなかった。

瞳は虚だが、奥底で何かを訴えているような。




「シュタインのやつに洗脳されてる!!くそ……これは、峰打ちで!! 」



姉の剣戟に合わせ、重心を低くした上での回避を行う。いつも、稽古の時に一度として姉に勝ったことがないシンは、姉を助けることを最優先として、峰打ちを狙うが。

対する姉は、弟を斬ることに何の厭いもない、懺悔無き剣士。


シンの不利は一目瞭然だった。



「姉上、正気を!!姉上ぇぇ!! 」


剣戟を回避しながら呼びかけるが、声は届かない。



「馬鹿な弟の首を持ち帰る、馬鹿な弟の首を持ち帰る、馬鹿な弟の…… 」


剣の一太刀、一太刀が華麗に構成された剣戟は、峰打ちを振るう暇すらない。

回避行動や、姉の癖を見抜いての同じ行動等を取って剣を弾いたりしても、まだ追いつかない部分がある。



顔や背中、腕、足などに小さな切り傷が付いていくのが自分で理解出来る。

段々と軋み始める筋肉と骨、シンは既に限界を突破していた。



「くっ……姉上ぇぇぇぇぇえええ!! 」



ーー本当に一瞬だった。

彼女が一瞬だけ自我に戻り、ほんの綻びを見せたのはーー。


シンの声に本当の自分が呼び覚まされたように、彼女の動きが止まる。

その綻びを鋭利に尖ったシンの瞳は、逃すことはなかったーー。



僅かに一瞬だけ止まった際に生じる隙が出来た瞬間、懐に侵入したシンは、柄の部分で溝を大きく突いた。


肺の中の空気が押し出され、呼吸困難になる。ユリの身体は空気を吸い込もうと、必死に悶え苦しみ、気を失った。



姉を洗脳された憎しみ、憎悪が募ったシンの瞳は、屋敷の曇ったガラスに映る黒い笑みを浮かべるシュタインへ向けられ、顔に血管を浮かべて、彼はこう言った。



「お前を……魔術師を許さない!! 」



四十六話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回は兄弟対決でしたね。

そういえば、明日は夏コミに行くのでどうなるかわかりませんが、夜、出来れば投稿します!


それでは次回予告です!


気絶した姉を傍らに、姉を洗脳した憎っくき魔術師に制裁をーー。シンは怒りの音を上げながら、剣を手に取った。だが、思わぬ存在に驚愕してーー!?


次回もお楽しみに!



【右目】


「スプーンで抉るのがいいって聞いたことあるぞ!いや、でもなぁ……痛いよなぁ!!

いや、こういうのは指で一気に!! 」


ぐりんっ!


「うぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」



※シュタインさんも一苦労です。


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!

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