第四十三話 真実
仕事によるストレスや疲労で昨日は投稿をお休みさせていただきました。ありがとうございました!お陰様で疲労感は取れたので、この投稿をしています!
眼を覚ますと、またあの場所に居た。
真っ赤な月が俺を見下ろすように高い空に蹂躙し、何もかもが真っ赤な世界。
俺は確か世界蛇からの鞭のような何かに貫かれて意識を失ったはずだ。
けれど、身体には何の異常もない。あの、想像を絶するような痛みが嘘だったみたいだ。
「私は願いを叶える者、貴方の肉体は機能しない程に状態が良くないものになっています。もう一度、現実に戻るならば一つだけ、見て欲しい過去がございます……! 」
「過去……? 」
またあの"声"が聞こえてきた。
《願いの十字架》で間違いはないだろう。"声"は過去を見ろと言っている。それがどんな意味を持つのか、俺には分からなかった。
それでも、現実に戻れるなら……!!
ーーその瞬間、視界が真っ白になり、景色の移り変わりが早い映画のように俺の目の前の光景は変貌した。
その光景は、姉と過ごした最後の一日に、俺が魔法の診断を受けた時の光景だ。
幼い俺がベッドに寝かされて、姉ともう一人の女性が液晶を眺めている。
あの時、俺が降りた時には液晶に映る文字は何も無かった。だが、今映し出されているのは液晶の中身。姉視点でもなければ、もう一人の女性視点でもない。
まるでそこにカメラが仕掛けてあったこのように、液晶だけを捉える映像。
「やっ、やっぱり……!! 」
あの時の声と同じだ。あの声が聞こえる最中、俺は意識を失ったのだ。
そしてーー、俺は知るべきコトを知った。
魔法は通常、一人一つまで。何があっても、一つの種類のみ。それを応用し、様々な魔法を作り出すことは出来るが、根本の土台は絶対に一つと決まっているーーのに、
『冴島夜十の魔法は、記憶魔法。
世界を思い通りにする魔法。 』
『特殊体質の発見。
魔法でないことは確実だが、コレは初めてのデータ。魔法であると、判断する。』
と、書かれていた。
……特殊体質?記憶に関する力は、俺の体質だというのか?魔法ではない?だがーー、根本的に《追憶の模倣》を使う時も魔力消費をしていない。
それは確証的な事実であり、真実だ。
ーー《願いの十字架》が教えてくれた。
俺の魔法についての全ての真実をーー。
「貴方の魔法は二種類ではございません。
記憶に関する魔法が貴方の持ち合わせている魔法。ですが、貴方は幼少期から私を身につけてくださいました。
私は、《願いの十字架》という魔法武器にございます。身に付けた人物の魔力消費を最低限にする代わりに、この世で最も強い魔法を使えるようにするという現代で禁止された武器にございます。そして、私には無限に限る魔力が秘められています。
《願い》を十回行わなければ……貴方は記憶魔法を無限に使える。だから、魔力消費の感覚が無になっていたということです。 」
長々と話した《願いの十字架》は、俺にとんでもない事実を突きつけてきた。
幼少期から身につけていた親の形見が現代で使用禁止の武器?なら、何故俺はコレを幼少期から身につけていたんだ?
いや、姉もつけていた!だったら、《戦場の歌姫》として名を馳せた姉は、どうやって《願いの十字架》から逃れた?!
「願いの十字架は十回制限にしてしまうんだよな?なら、姉はどうやって逃れたんだよ! 」
「貴方のお姉さんがつけていたのは、私ではございません。そもそも《願いの十字架》はこの世に三つしかない魔法武器なのです。禁じられた武器ゆえに、数は多くありません。貴方のご両親が何らかの意図で貴方につけたのでしょうね……それが何なのか私には分かりませんが……」
姉が付けていたものは偽物?だとすれば、話は合致するーーけど!!
なっ、だったらーー!!
「俺の元々の使用回数は何回なんだ?! 」
「65回だったかと……? 」
……。
………。
…………普通の人であれば、上限回数が五十以上であることは当たり前だ。
だが、そうで無かったとしてーー上限回数に物凄く悩みを持っていたのだとしたら、自分の回数は正常でしたよ。と告げられた時。
平常でいられるだろうかーー。
ーー俺には無理だった。
「ぐっ……ぅぅ、あぁっ!!う、ぉ、俺はぁっ!ふ、普通……っっ、!!」
俺の瞳から一雫の涙が零れ落ち、後へ続くように頬を伝って、地面を濡らす。
地面なんてない場所ーーけれど、ポタポタと雫が落ちる音も、我慢してきた涙を我慢しなくていいと悟った自分の嗚咽が、とても身近に感じ取れた。
65回という普通で、当たり前の数字だった俺の上限回数。それでもあの時、新島と新木場に伝えられた辛辣な上限回数は、頭から離れることはない。
姉の仇を取ろうと、自分の魔法を極めようとさえ思った俺に神は牙を剥いて襲いかかってきているのかと考えた。
でも、それでもーー魔法師になると考えたのは、何故だったんだろう。
魔法なんか無くても……強くなろうと固く決意したから、だ!
「なぁ、《願いの十字架》。
俺の魔法は自分を思い通りにするんじゃなくて、この世界を思い通りにするんだろ?
なら、この世界をアビスの居ない世界にする!って言ったら、どうなるんだ? 」
「それは、出来ません。
貴方の残り回数は8回。肉体と魂、回数を消費しても、アビス一個体の数とはかなりの差が広がり、最悪の場合、反映されずに無駄死に……という結末が待っていると予想されます。 」
つまり、実力以上。代償以上のことは出来ないってことか。
ここで現実に戻って、あの蛇野郎を一撃で屠ることは簡単かもしれないが、それに伴った代償ーーつまり、俺は魂を削らなければならない。
「……そうか、分かったよ。ありがとう 」
「……戻られますか?でしたら、最後にお願いがありますーー。次に瀕死になっても私は助けられません。
武器がこんなことを考えるのはどうかと思いますが、どうかーーお気をつけて……」
スーッと、世界が消えて、"声"も消えた。
俺は現実世界へ戻るーー。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!! 」
彼女の叫び声が聞こえる。
俺の腹部には、太く長く薄っぺらなピンク色の鞭が突き刺さり、ドクドクと溢れる血液で地面を赤く染め上げた。
これがーーこれから俺の身に起こる話。
だとすれば、どう動けば避けられる?あの時に、安堵せずに警戒すれば良いのだ。
強く念じて……あの時の意識に潜り込む。
「……朝日奈、ちょっと待ってな!このクソッタレな蛇野郎を倒してから言いたいことを言わせてもらうよッ!! 」
シュルリと伸びてきたピンク色の薄っぺらな鞭状の何かを炎の剣で弾き、賺さず、地面を蹴って間合いを詰めると、黒焦げの世界蛇に真っ直ぐ剣を突き刺して、直ぐに離れる。
だが、……様子がおかしい。
炎の剣を食らって、何ともならない?
そんなはずはない……だって、奴の弱点は!
彼女が目にした光景は酷く残酷な光景。
俺も賺さず視線を移し、驚愕な光景を目の当たりにしてしまった。
「う、嘘でしょ……?!
私の魔法を吸収した……? 」
それは文字通り、彼女の炎を全て取り込んだかのような真っ赤に燃えた身体をくねらせ、うねりを上げる世界蛇の姿があった。
「マジかよ……これが、世界に名を轟かす大型アビスの実力……!? 」
自分の身に食らった魔法を吸収し、瞬時に体質を合わせる。魔法師にとって最低で最悪な相手であることが間違いない。
だから、実戦で倒したという報告がないのだろう。
魔法師が倒せないアビス、それはそうだ。
幾ら強力な魔法を放っても、吸収されて我が物にされてしまっては勝ち目がない。
「……クソッタレ!!あいつを倒すには、吸収しきれない程の極大魔法級の魔法を浴びせて、消滅させるしかねぇじゃねぇか! 」
それが今出来るのはーー朝日奈でもなければ、星咲でもない。
……"俺"しかいないーー!
「ねぇ、あんた……何をするつもりなの!? 」
彼女は心配そうに問いかけてきた。
それについても終わったら、全部話すつもりだ。
だから、今はーー
「……決まってるだろ?俺は俺の護りたいものを守るために戦うんだよ!! 」
黙って、見守っててくれ。
《願いの十字架》が握り潰れるのではないかという程に強い力を込めて、俺は叫んだ。
「 《堅く決意した証を、二度と俺は目の前で人を殺させることはさせないッ!来い、俺が命を費やして救える命があるならば、喜んで救ってみせる!!願いの十字架!》 」
頭に浮かんだ文字ではない。自分が今思ったことを口にした詠唱、《願いの十字架》に想いよ、届けぇぇぇええ!
【ヤツが吸収しきれないほど、膨大な魔法をーーこの一瞬だけ放てるように!】
ーー瞬間。
十字架のネックレスから紡がれる白い光は、輝いて空へ放出、曇天の空を快晴へ変貌させると、無数の線が連なる魔法陣を空中で展開した。
それは、一般的な魔法からなる魔法陣ではなかった。新島や朝日奈家の当主が使うようなレベルの高難易度な魔法展開が必要となってくる魔法陣だ。
「まだ……放出には時間がかかるか……!
この間に焦点からヤツが離れないようにしねぇと! 」
大型アビスは自分の意思があり、動物的な行動を滅多にしないアビス。
世界蛇が頭上で行われている強大なエネルギーのぶつかり合いに気がつかないわけがなかった。
世界蛇は、後退りしてその場から離れようとうねりを上げながら後退する。
だがーー世界蛇の前に立ち塞がる夜十。
ここで逃げられれば、終わりだ!
「どこに逃げようってんだよ。お前は俺が地獄までご案内してやんさぁッッ! !
《焔弁の爆炎花》! 」
もう通用しないことは嫌という程わかってるーーけど、何もやらないよりもきっとマシなんだ。ここで逃すわけにはいかない!
宙に発言した炎の鉾は連なり、一本の丸太のように集合体として世界蛇の胸元へ直撃した。やはり、多少のダメージはあるようで動きが鈍くなる。
「後少し……! 」
息を巻いて、全力で世界蛇の逃走を阻もうとする俺に救いの炎が手を差し伸べてくれた。
「《羽を広げ、大きく羽ばたくは、炎の鳥……たった今、飛び立ちなさい!火焰被綿!》 」
彼女の右手と左手に小さな魔法陣が展開され、その後へ連なり、重なるように幾つもの魔法陣が上へ上へと発現された。
そしてーー中心を突き破るように空へと噴出するマグマが如く、二筋の焔は空中で交わり、炎の球体に変化する。
グルグルと蠢く姿は生き物のようで、薄暗い世界に優しい光を灯す。
「シャァァァァァァァァァァァ!! 」
異変に気がついた世界蛇が自ら、根元を潰そうと球体へ尾を伸ばしたーー刹那。
ピキピキと、ヒビが割れ始め、中からは大きな焔の鳥が現れた。あれは鳳凰だろうか。
世界蛇の尾が鳥を真っ二つに裂いてしまうと、一瞬で二匹の鳥となって世界蛇へ襲いかかる。
「分裂した……!!朝日奈、あれは? 」
「あれは私の新技よ!空高く飛ぶ焔の鳥は私達を明日まで運んでくれる!
明日が来れば……きっと楽しくて平和な世界が待ってるわ! 」
朝日奈の新技。火焰被綿は、世界蛇を翻弄し、攻撃を受けては分裂してを繰り返す。あっという間に十体を超える燈が世界蛇の周りを飛び交っていた。
「……準備は整ったみたいだ。朝日奈、ここを離れよう! 」
俺は彼女の足を掴んで横に倒すと、逆側の腕で頭を支える。お姫様抱っこだ。
「え、え!?ちょ、あんたぁ!これは、いくらなんでも……! 」
「あー、聞こえない。ごめん、聞こえない。魔法陣展開した後の衝撃かなー、 」
「ぁぁぁぁぁあ!!!もぉぉぉ!!
……夜十のバカぁぁぁぁぁあ! 」
彼女の叫びを笑って受け流し、縮地法の応用で《祈願派》の教会の方まで逃げた。ここからでも宙に展開された魔法陣は見える。
「学校消し飛ばない? 」
「大丈夫、建物なんか作り直せばいい。
あの近辺に人が居ないかどうかだよ! あ、火炎……!! 」
世界蛇に叩き潰されて地面に埋まった人物を思い出した。八城と星咲もだ。風見は退避していったのを確認したので大丈夫だが。
「俺様が簡単に死ぬわけねぇだろ?冴島夜十……!! 」
「ほら火炎、あまり無理すんなよ。お前、背骨とか全部逝ってんだから! 」
背後には、ズタボロの八城と星咲、火炎が立っていた。いつの間に逃げたの!?
「燈火、俺を嫌うのはいいが……冴島の後ろに隠れて石を投げるとか、小学生かお前 」
俺を盾に地面に転がっている形の良い石を火炎に投げては跳ね返されている。
てか、それ!当たるの全部俺だから!痛っ!
「冴島、お前どうやったらあんな魔法使えんだ? 」
「それは言いません!けど、そろそろ放出の時間のはずです! 火炎、星咲先輩を守るんだろ?カウンター展開よろしく! 」
「はぁ!?なんでテメェに! 」
火炎の耳元でこそっと囁く。
「燈火も居るよ? 」
「うぐっ……!わ、分かったよ!俺の後ろへ集まれ、仕方ねぇから助けてやる! 」
火炎の後ろへ集まり、彼は両手を突き出した。《全反射》の時の比ではない。両手でカウンター魔法とは、如何なる攻撃も弾いてしまいそうだ。
そしてーー刹那に奏でる音が耳へ入る。
魔法陣が外側から破壊され、最終形態の中心部分だけとなる時のガラスが割れたような破壊音だ。
そして紡がれ始めたのは悲しみの旋律。残酷で苦しみのあるそんな……。
「シャァァァァァァァァァァァ!! 」
世界蛇が尾を伸ばし、今も焔の鳥と戦っている様子がこちら側からでも見える。
白い光の魔法陣からは、三角の尖った弓矢の先端のようなモノが発現され、狙いを定めるために世界蛇を捉えているようだ。
「《My arrow has will to carry through, and the world is infringed upon by me. It is an arrow regaining peace now to let loose!》 」
そんなメッセージが頭から流れ、勝手に口が開いた。適度な英語は出来るが、こんなに流暢に話すことは出来ない。英語を使用する外来国の出身者みたいだ。
瞬間ーー魔法陣から放たれた光の矢は、俺の言葉へ反応したかのように解き放たれ、世界蛇、目掛けて一直線に貫き刺さった。
広大な敷地内が揺るがされ、世界が光の矢一本に作用される。空気が一瞬だけ、世界が一瞬だけ停止したような気がした。
「……な、なんだよこれ!!鳥肌が止まらねぇ!! 」
凄まじい衝撃波は学園の防壁を突き破り、周囲の防壁を次々と打ち砕く。これが衝撃波のレベルであれば、中心にかかるエネルギーとダメージは相当なものである。
人間がその場にいれば一瞬で消滅ーーなんてこともあり得るだろう。
「《I who expect world peace am a cross of the wishes! Expel an abyss; the revenge of the older sister!》 」
頭に浮かんだ言葉は勝手に再生されていくビデオのように口に出ていた。それがどんな意味をするのかも、俺には分からない。
けれど、この状況で示すものは……俺の願い。
"アビスをこの世から駆逐する"
この意思と願いであることは何となく分かったような気がした。
「火炎、力を弱めるな!これから来る衝撃波はこんなものではない! 」
「わーったよ、はぁぁぁぁぁあ!! 」
数々の爆発を繰り返し、威力が増大された衝撃波と中心部分の絶大なエネルギーの衝突で学園の校舎、及び敷地内の建物は壊滅的な状態になってしまう。
だが、これは少ない犠牲だ。
人が居るから建物は生まれるのだから。
凄まじい衝撃波の中、俺は背中の痛みに気がついた。
ーー衝撃波が消え、辺りが静寂に包まれようとする頃……俺は意識を手放したのだった。
一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は《願いの十字架》と冴島夜十の真実がわかる回でしたね!今回が今作品の分岐点のような回になるのでしょうか!
それでは次回予告デェーッスッ☆
世界蛇を倒し、学園を救った英雄ーー冴島夜十は背中の激痛で意識を失い、また真っ赤な世界を訪れる。その最中、夜十を除く、火炎、燈火一行はあの老人を見つけてーー!?
次回もお楽しみに!!
【聞こえる】
「私は世界蛇、数々の魔法師を打ち負かしてきた世界最大級の蛇型のアビスだ。そんな私が今回、初めて体験したことがある。それは、聞こえるのだよ、声が!何処からか……」
「オイデオイデー!こっちは楽しいよ、世界蛇さん!僕は巨大烏賊!死後の世界は美味しいものも溢れてて、悪くないよー! 」
「俺は流藤ってんだけど、いいよこっちの世界は!来いよお前も!物事が思い通りになるぜ! 」
「嫌だ……あいつら、死んだ後はプライドのかけらも無くなってしまったのか!!本編だったら、もっといいキャラだっただろ!巨大烏賊は別として……!! 」
※メタ発言になりましたが、死後の世界がどんどん賑やかになっていきそうです。
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




