第四十二話 決して滅びることのない永遠の愛
タイトル長っ!?
もっと短い予定だったんですけどね、やっぱり黒薔薇の花言葉は個人的に好きだなーって思いまして^^ついつい!!
破壊と轟音で埋め尽くされた《平和派》拠点前は、星咲の魔法によって降り注いだ隕石で穴だらけになっていた。
無数に降り注いだ隕石が真っ直ぐ向かっていき、直撃した相手は煙幕に包まれている。
倒しきったとは思えないが、あの威力の魔法だ。下手すれば、倒せたかもしれない。
さっきまで破壊音が連続して起こっていた場所とは思えない程、辺りは静寂に包まれていた。
「はぁっ……はぁ……はぁっ!!
これで倒せなきゃ、俺は勝てねぇな……」
急激な魔力消費に疲弊した身体がついて行かず、空中浮遊が溶けた。
地面に落下した星咲はすぐに立ち上がろうとするも、立ち上がる事は出来なかった。
恐らく、普段戦闘時の比ではない隕石の具現化を行なったのだろう。そんなことをすれば、当然、疲労も溜まるし、暫く初歩的な魔法も使えなくなる。
「星咲先輩……ッッ!!大丈夫ですか !? 」
言われるがままに遠くへ避難して、彼の魔法を見物していただけの俺は、うつ伏せに倒れている星咲へ駆け寄った。
「……大丈夫大丈夫ッ、恐らく当分は身動きすら取れなーー」
星咲が何とかうつ伏せの体勢から座った体勢に移ると、地鳴りがし始める。空気の歪み、振動は凄まじく、人一倍感じるのが得意な俺にとって、この状態は異常だった。
突如、世界蛇が居た場所の煙幕が切り裂かれた。そして、俺達は想像を絶するような光景を目の当たりにしてしまう。
「オイオイ……俺の魔法全部吸収して、脱皮しやがったのか!? 」
ーーそれは文字通り、隕石のようだった。
岩を纏い、所々にヒビが入っていて、ヒビからは高熱を帯びたマグマがブクブクと噴出している。世界蛇の能力の一つだろうか?
ただただ、戸惑うしかなかった。魔法が効かなければどうやって倒せばいいのだ。
「やっぱり、高熱の魔法って炎魔法じゃないと通らないんですかね? 」
「クッソ……!そういうことだろうな。
俺は炎魔法は使えねぇんだよ。この学園で炎魔法を使える奴は居ねぇのか? 」
あれだけの魔力を消費したのにも関わらず、少し休憩しただけで星咲は立ち上がった。
何という神経、集中力だろう。
「一人いるんですけど……今、意識不明の重体で……」
「朝日奈燈火か。彼女の魔法であれば、効くだろうな。火炎とは比べ物にならないくらいの魔力操作、魔力消費低減、何よりも強いのは魔力の底が尽きないこと。あの若さであの能力は羨ましいよ本当に。 」
俺は星咲の言葉に激しく同意する。
いつも朝日奈の魔法に関する才能には圧倒され続けたからだ。今回の件で、疎遠になってしまったけれど……起きたら全部話す!
包み隠さず、俺が体験したことを全て……。
その決意を胸に、今は目の前の戦いに集中しよう。
「……く、来るぞ!! 」
「はい! 」
巨大な尾が俺達を狙い、大きく振られる。
当然、この攻撃は当たらない。地面に突き刺さり、回避に成功したかと思えばーー。
尾の先のヒビから、無数の小型隕石が宙を舞いながら猛追してきた。
「ええええっ!?ちょ、ヤバイ!! 」
「先輩の魔法、全部良いところ持ってかれてますね……」
《追憶の未来視》によっての空間掌握に必要な情報は整っている。つまり、幾ら無数の小型隕石が俺へ猛追してこようが関係はない。
全てを回避し、脱皮したことで強くなってしまった相手を視野に捉えた。
「チッ……《追憶の模倣で複製出来る炎魔法もあまり強いのは出来ないからな。精々、《焔弁の爆炎花》くらいだ……! 」
あの姿となると、炎の剣は通るのか。
鉄であれば岩に勝てないので、通らない気がするのだが弱点の炎であれば、どうだろう。
右手に炎の剣を具現化させると、《追憶の未来視》で空間を掌握しながら相手の隙を伺う。その図体故に隙が存在しないことはないが、アビスにも自我はある。
大型アビスは動物的な自我というよりも人間的な自我が備わっていると言われている。
理由としては、幾多の魔法師の攻撃を一度に受けても最善の方法で回避、挽回の機会を伺うかのような人間的考えで攻め入って来るからだ。
「……星咲先輩ッッ!!危ない!! 」
「……なッッ!! 」
尾が向かっていった先には、回避行動で疲弊しきった星咲が立っていた。
尾の速度は凄まじく、彼は大きく吹っ飛ばされてしまう。
「俺以外壊滅……クソ!!周りが死んでいなくても、此処で俺が食い止めなきゃ、沢山の血が流れることになる!!なら、こいつを……殺すしかない!! 」
顔の血管が浮き出るような程に、怒りが感情を、怒りが力を支配する。握っている炎の剣を強く握りしめ、覚悟を決めた。
「はぁぁぁぁぁあああ!!」
世界蛇の身体に飛び乗って、首の方へ間合いを詰める。先程傷をつけた位置だけは、岩が纏われていない。つまり、炎といっても本物でなければならないようだ。
「俺が朝日奈の力で……お前を地獄に連れていってやる!! 」
首の付け根へ到着すると、力一杯に剣を振り下ろした。中からは紫色の液体が僅かながらに噴出し始める。相手の攻撃が来ないうちに、何度も何度も振り下ろして出来る限りの攻撃を行なった。
「シャァァァァァァァァァァァ!! 」
世界蛇は出血の痛みで、甲高く掠れた声を上げた。俺が振り下ろす剣を止めようと、尾を宙へ掲げて先端を鉾のように尖らせる。
ヤツの狙いは真っ直ぐ俺だ、それに感づいていないとでも思っているのか?
振り下ろされた尾をすり抜けるように回避すると、俺の予想通り、尾の先端が首へ突き刺さった。穴が広くなったことによって、紫色の液体が滝のように流れる。
「シャァァァァァァァァィィァァ! 」
「ザマァみろ!少しは効いたか!! 」
ヤツは痛みによってか、叫び声を上げた。当然だ、自分の渾身の一撃が思わぬ方向で自分に突き刺さってしまったのだから。
急いで尾を抜くも、液体が余計に噴出するだけ。
「今のうちに……《焔弁の爆炎花》! 」
合計120本の炎の剣を具現化。宙へ浮かばせ、大穴へ降り注がせた。
もう相手に容赦などしない……アビスは壊滅させるべき対象だ!
ーーだが、120本の鉾は届かなかった。
紫色の液体に触れるだけで溶けて消滅してしまうのだ。あの液体はなんだ?血液であることは間違いない……。思考を巡らせて、相手の特性が"毒"であることに気がついた。
恐らく血液が濃度の高い毒なのだろう。物や身体に当たれば致命傷を与えてしまうようなレベルの。
「……クソ面倒臭ェ!あの毒液も溶かしてしまうような炎魔法が欲しい……!! 」
やはり、朝日奈が脳裏にチラつく。
彼女であれば、こんな窮地を脱する為の魔法を使用することなど当たり前に出来る。
毒液を周囲に噴出する世界蛇相手に俺は、様子を伺うしかなかった。
ーー《平和派》拠点。地下の療護室。
真っ暗な地下の療護室を照らしているのは、一つの蝋燭のみ。赤く白い火が暗闇を照らし、一筋の炎に燈を付けた。
「んんっ……! 」
「朝日奈、起きたのか? 」
纏が朝日奈のベッドに近寄り、肩を叩いて起こそうとする。
「えーっと、纏先輩……私は? 」
「長い間眠ってたよ、三日とか四日とかな。
病み上がりで申し訳ないんだけど、お前を欲しているヤツがいる……医者としてはまだまだ動かしたくないのだが、そうもいかないらしい。頼むよ、お前の力を貸して欲しい! 」
彼女は言われるがままに承諾し、制服を着て拠点の外へ向かう。
出て行く前に渡されたガスマスクの意味が分からなかったが、外に近づく度に不穏な空気と共に流れる紫色の蒸気が何なのか気づくのに、多くの時間は必要ではなかった。
「はぁっ、はぁっ!!私を必要としてる?
誰よ……でもっ!! 」
薄々感づいていた。夜十しか居ない。と。
彼女は地下の階段を駆け上がり、外へ向かう通路をひたすら走る。
地上まで、あともう少しだ。
ーー世界蛇との啀み合いで十分が経過した頃。
俺も世界蛇も相手の様子を伺うことに一頻りの体力と集中力を使っているので攻撃するに攻撃が出来ない。
「クソ!ここに来て、隙が見当たらない! 」
身体に開いた大穴を余計に守ろうと警戒しているのか、世界蛇は此方に睨みを利かせている。この状態のまま緊迫した時間が漂うだけで面倒になってくる。相手に攻撃の思考を巡らせたくはないからだ。
そんな時、突然として背後から高熱を帯びた「何か」が迫ってくるのが感じ取れる。
聞き慣れた声と共に。
「《残酷な炎を滾らせよ、華は散り行き、綻びを!地獄の炎花!》 」
空中に何重にも重ねられ、連なった魔法陣が形成され、爆発しながら増幅する炎が夜十を通過して世界蛇の大穴へ直撃した。
その熱、角度調節、威力だけで誰が放った魔法なのか、一瞬で理解出来る。
暖かく俺を包み込んでくれた優しい熱、美しい炎のコントロール。
後ろを振り返ると、両掌を前に突き出して俺へ笑顔を振りまく、朝日奈の姿があった。
前のことは怒っていないのか?
彼女が振りまく笑顔に恐怖さえ感じるが、今はそんなことも言ってられない。
俺は笑顔に笑顔で返すと、炎の剣を具現化し、右手に携えると足を踏み出した。
今の一撃で少なくとも敵は困惑している。
俺以外の人物からの攻撃、しかもそれが一番苦手な炎魔法であるということ。
炎を消そうと、のたうち回っているのは歴然だった。
「もうお前と俺の一騎打ちなんてものはねぇよ!クソッタレな蛇野郎を葬り去ってくれる! 」
一気に間合いを詰め、岩を纏った皮膚に切れ目を入れていく。速度を生かし、切り刻めば相手も溜まったものではないだろう。
一定に斬り刻み、相手の皮膚を爛れた状態にすると、彼女の名前を叫んでその場から離れた。
「……朝日奈ッッ!!」
「分かってるわよ、攻撃の一手を緩めてはいけないものね!
《千石の光よ、焔に咲く一輪の花は舞い、咲き誇る!黒薔薇の一閃!》 」
黒薔薇の花言葉は、「決して滅びることのない永遠の愛」ということを夜十は知っていた。
彼女がこの魔法にどんな意味合いを込めたのかは分からない、だが……空気中の振動を感じる限りでは途轍もない威力の魔法なのだと感じ取ることが出来た。
満身創痍で前の攻撃の炎の余韻が消えていない相手は、自分の下に敷かれてしまった黒の魔法陣に気がつかない。頭の上には、大きな緋色の魔法陣が浮かび上がっている。
二つの魔法陣が全く一緒の角度になり、繋がった時ーー。
「いっけぇぇぇえええええええ!! 」
黒き光の柱と緋色に輝く炎の柱がぶつかり合い、想像を絶するような魔力の柱を創り出した。
それはーー空気中の毒霧を全て焼き払い、毒液をも蒸発させてしまうような威力の魔法。
既に満身創痍だった世界蛇に降り注がれた攻撃力の高い一撃。
ーー流石にこれで倒れただろう。
「はぁっ、はぁっ、!!
……この魔法は私の上限三回消費の技、これで倒れなきゃ、卒倒モノだわ……! 」
「朝日奈ッッ! 」
急激な魔力消費でいつものように倒れてしまう。彼女は魔力の才能は随一だけれど、まだ高校一年生の年齢……身体がついていかないのも無理はない。
「何よ、私に何も教えなかったくせに! 」
「…….やっぱり、怒ってる?
これが終わったら全部教えるから、だから……許してほしい! 」
彼女はクスッと笑顔を溢して、俺を包み込んでくれるような優しい熱を飛ばす。
「今は怒ってないわよ。それに、許すも許さないも……あの時、突然あの場から逃げてしまった私も悪いから、ごめんなさい 」
突然の謝罪の言葉に困惑する。何故、朝日奈が謝るのだ?悪いのは全て俺なのに。
恋人なのに信用してあげられなかった。
組織のことなんか、もういいんだ。信用出来る相手に全てを捧げよう。
コトが終わったら……そう考えていたけれど、もう終わった。
良かった、これで全て話せる。
俺は安堵したーーーーしてしまった。
それで、緊迫が溶けて警戒しなくなってしまったのかもしれない。
瞬間。シュルリと伸びてきたピンク色の鞭のような鉾が、安堵した様子の彼女へ向かっていくのが分かった。
いつも警戒している俺であれば、剣で弾くことなど容易い攻撃だったのにも関わらずだ。
今の俺にはーー。
ーーグサグサグサッッ!!
肉が引き裂かれ、グロテスクな音と共に、俺は腹部を貫かれ、血液を空中へ散らせた。
バタッと重みのある肉が地面に落下し、真っ赤な液体と地面の砂が混ざり合う。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!! 」
彼女の叫び声も聞こえなくなった。
……ごめんなさい。俺にその言葉は言えない。
薄れていく意識の中で、絶望に扮していく彼女の青ざめた表情がぼやけていくのが分かる。
ーー俺は、意識を手放したのだった。
一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は夜十君が死んだッ?
……主人公だから簡単に殺すわけないだろって?
いやいや、この作品、強いとか弱いとかに関係なくどんどん人死にますからね……現に流藤君殺しましたし!!
まぁまぁ、そんなことは置いといて次回予告です!
朝日奈の想いに安堵した夜十が見せた隙を、綻びを、世界蛇は見逃さなかった。腹を貫かれて、意識を手放した彼にまたあの"声"が聞こえてーー!?
次回もお楽しみに!!
【星咲、八城、火炎】
「あれ?俺ら、夜十の引き立て役じゃない? 」
「そうですね、ボス!蛇側に加勢しますか? 」
「火炎君、怖いこと言うなぁ。
自分、殺されかけてんのに……」
「うるせぇよ!変態アビス信者! 」
※変態アビス信者は強ち間違いではないけれど、八城のガラスのハートが敗れ去ったことは言うまでもない。
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




