第四十話 世界蛇(ヨルムンガンド)
遅くなりました、すいません!
最近寝落ち確率が高い……!!
「殲滅……完了……!! 」
発明室よりも奥深くの部屋で、頭と体の潰れた《ヘレティック》を前に、疲弊しきった店長はだらけるように床に腰を落とした。
「風見……ッ、早く来い!このままじゃ……お前の居場所が潰されるッッ!! 」
店長の願いはーー
黒く大きな身体には、ゴツゴツとした黒い鱗が覆うように身に付いている龍に跨って、《平和派》の拠点に着いた、夜十と風見は自分達の拠点の荒れくれた姿に驚愕を隠せない。
無残にも破壊された玄関扉と、この間修復したばかりの外観。修復する元に戻ったかのように壁には穴が空いている。
「夜十君……行くーー」
「ホッホッホ〜……どこへ行くのですかな?貴方方の相手は私の一生涯を使って生み出すことの出来る神様ですよ? 」
俺と風見先輩が拠点へ足を踏みいれようとした瞬間、背後には黒いローブを被ったあの憎っくき老人が立っていた。
「神様……?お前の生み出したアビスは、もう死んだぞ!! 」
「そうですね、その拠点からも殆ど反応がない。校舎の方は先程ゼロになった模様です。次は簡単に消せるほど弱い神様では御座いませんよ、はぁぁぁぁぁああああ!!! 」
老人は叫び声を上げながら、無数の呪文式を頭の中で解いていく。その姿はまさに異形で、彼の下には暗い魔法陣が無数に連なるように形成された。
今の今まで快晴だった空は真っ黒い雲が侵食し始め、あっという間に曇天が出来上がる。
「ホッホッホ〜、夜十殿。
この神にひれ伏せばよろしい!! 」
「なっ……!?」
俺は目を疑った。そして、憎悪が湧き上がる。何故、何故、何故、何故、何故!!
我を失ってはいけないという理性の鎖が容易にも切り裂かれる音が聞こえた。
咆哮だけで場の空気を制圧し、最強と謳われる種族故に破壊を繰り返す。
弱者も強者も立ち向かってくる者も、平穏に過ごしていた存在も迷わず貪り尽くし、人間の平和をーー俺の平和を簡単なまでに破壊したアビス、黒龍が現れた。
「……グォォォォォォォォォ!!! 」
巨大な羽を大きく広げ、自分の身体の存在感を示すかのように咆哮を周囲に浴びせた。
「あの大きさ……間違いない。
……姉の時と同じ龍!! 」
この時、風見は言葉が出なかった。
纏に言われたように、彼を止めなければならない。
けれど、憎しみ、憎悪が湧き上がる表情を前にして彼の覚悟の重さを実感してしまった。
だが、老人のアビス召喚はこれだけではなかった。黒龍も大型アビスとしてかなり有名だが、前に夜十が遭遇した巨大烏賊レベルの怪物ではない。
いくつもの魔法陣が空から重なり、老人が口から吐血し始めた頃。
黒龍によって染め上げられた空気を、一瞬で変える奴が現れてしまった。
「このクソジジイ、次は何を召喚しやがった!」
「八城、落ち着け!老人は召喚のショックで気を失ったようだぞ、このままにしておけ! 」
八城がパニックになる程、空気が汚染されたような嫌な雰囲気が漂い始める。
彼らは今到着したのだ。ありえない速度で《ヘレティック》を倒して。まるで瞬間移動でもしてきたのではないかと思うほどの速度で。
魔法陣の中から召喚されたのはーー体の太さだけでも校舎の一角よりも高く、横幅も異常な程長い怪物。
俺達から見れば、ヤツの顔は全然見えない。
まだ召喚されたてなのか、動く気配がまるでないが……もし、学園内で暴れられてしまった場合にここ一帯は壊滅するだろう。
「こんなの俺達だけで倒せるのか? 」
それは無理に等しい話だ。
八城と星咲の実力が分かっていないが、コレを倒せるのは新島隊長や組織の人間だ。
組織の人間でも一歩間違えれば死ぬ……ここは逃げるのが正解。
だけど、俺はこういう時にダメな性分だった。
自然と足が前に出てしまう。
「お二方、力を貸してくれますか。
空中に行けば……あいつの名前が分かると思います。そうすれば、弱点を見抜ける! 」
二人は俺の実力が分かっているのか、それさえも理解できていないが、此処は従って欲しい。
「まぁ、いーよ。なぁ、八城! 」
「おう、しゃあねぇ!こんなのが出てきてしまったら顔を拝んでおくのも悪くないしな! 」
快く承諾してくれたようだ。良かった。
俺の背後には「行かないでくれ」と言わんばかりに哀しい表情をした風見先輩が立っていた。
分かってます、先輩……でも、俺の性格上戦わないのは無理なんです。
二度と……目の前で人を失うのは嫌だから。
俺は戦わないと、いけないんです!!
「じゃあ、八城、夜十君、俺の腕に掴まって! 」
星咲に言われた通り、腕を掴んだーー瞬間。
三人は一瞬で上空に移動した。
ーーッッ!?突然のことすぎて頭がついて行かなかったが、これは恐らく星咲の魔法だろう。瞬間移動というやつか。
スカイダイビングなように空からまっすぐ落下していく様は、何故か心地いい。
空気を裂く音と顔が空気によって歪まされている感じを無視して、巨大な怪物の方へ視線を向けた。
「……世界蛇!? 」
その姿は前に組織の中で見た資料や文献通りの形をしている。
全長はゆうに600m超の怪物で、過去に討伐されたという報告は未だにない。
文献には、遭遇したが最後……建物も人間もありとあらゆるモノ全てを飲み込み尽くすと言われている。
「星咲先輩、大丈夫です。
地上に下ろしてもらえますか? 」
「……良いのか?了解! 」
俺の星咲は風見の目の前に戻ってきた。
だが八城はーー。
「え?星咲先輩、八城さんは? 」
「あいつは自力でどうにでもなるだろ 」
悪戯心満載で嘲笑している星咲はこの局面でも平常運転なようだ。
空中で落下してくる八城は涙と鼻水を出しながら、こう叫んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!
黒ちぃぃぃぃぃぃぃいいいん○ォォォ!!」
主人に呼ばれた黒龍は舞い上がり、彼を背中で受け止めた。黒龍の背中はとても硬い。
今の衝撃ならば、地面に落ちた時と大して変わらなかったのではないだろうか。
「……オイ!!今はこういうことをする時じゃないだろ!痛ってぇ……黒ちんの皮膚硬いからあんまり意味なかったなー。てか、そんなことよりも……どうだった?冴島! 」
八城が神妙な面持ちに顔を切り替えて、聞いてきた。当然、答えよう。
「アレは世界蛇という巨大な毒蛇です。皮膚から湧き出る猛毒ガスで周囲の空気を変えてしまうのと、その体長は600m異常なのであと五分もすれば猛毒の空気がこの学園に充満してしまいます。そこで風見先輩……学園のアナウンスを使って学園外に避難するよう呼びかけてください!これは生徒が戦って良い相手じゃないです! 」
「うん、分かった!! 」
風見は言われるがままに、行動した。
冴島夜十という人間を信頼してのことだ。
自分は戦うことが出来ない。ならば、出来る限りのことをしよう。それに、放送室はすぐそこだ。大音量でアナウンスして、生徒を避難させるのが第一次項目だ。
「……お前も生徒じゃねえか。俺らに任せて、お前も避難しろ!なぁ、星咲! 」
相手が世界蛇と知った時、星咲は何か頭に浮かぶものでもあったのだろう、考え事をし始めた。
「いや、夜十君は戦って貰うよ。
そうか、世界蛇か。ちょっと待ってな 」
端末をポチポチと操作して、どこかに電話をし始めた。
「おう火炎、俺だ。ちょっと外に出てこい!《平和派》の拠点前だ。
来る時に、俺の武器を持ってこい!!いいな? おう、待ってるよ 」
電話の相手は火炎だったのか。
そういえば、星咲は《戦闘派》を統率しているリーダーだった。
温厚で優しい性格から《戦闘派》の長には到底見えないから、すっかり忘れていた。
『ごほんっ、学園内に居る諸君。
《平和派》のリーダーを務めている、風見蓮だ。御機嫌よう!
現在、学園内に生徒じゃ手をつけることの出来ないレベルのアビスが出現している。
生徒は直ちに学園の地下シェルターか、学園の外に避難してくれ! もう一度言うぞーー」
最大音量で流しているのか、鼓膜が破れてしまいそうになる。頭は軋むように痛い。こんなアナウンスをされれば、間違いなくーー「もう一度の説明はいいよ!わかったから逃げるから!」とかそんな風に投げやりに逃げてしまいたくなるだろう。
まさか、そこを計算してーー?
「風見のやつ、うるせえな。
……あいつはなんで昔から馬鹿なんだよ 」
星咲が呆れたように耳を抑えている。
あぁ、狙っているわけではないのか。何だよ、期待して損した気分だ。
「……ボス、お持ちしました。
《戦闘派》の本部に置いてあった刀です。これで良いんですよね? ところで、あの怪物はなんですか? 」
火炎が到着すると、真っ直ぐに星咲の元へ向かった。普段の彼からは想像も出来ないような丁寧な敬語で話す火炎は、大人な雰囲気を醸し出している。
普段の火炎といえば、冷酷無比で自分が楽しいと思うことも残酷ながらに平気でやる。
入学したてで、そこまで経っていない俺とも何度ぶつかり合いになったことか。
「げっ、冴島夜十かよ。
お前、ボスに何かしようとしてんならぶっ殺すぞ!! 」
「……しねぇよ!てか、あの怪物は世界蛇。お前も戦うのか?足手まといにはなるなよ 」
辛辣な感じで言ってやった。
こいつにはこれくらいの扱いの方が良い気がしたのだ。
「仲良いじゃん、夜十君、火炎は嫌い? 」
「そうですね、大嫌いです。前に死んで欲しいとさえ思った人物ですから……」
「そっかー、ならその気持ち、今回だけは免除してほしいかな。今から、敵対するのではなく……協力してあのクソッタレな怪物を倒さないといけない「仲間」になるのだからね 」
仲間……こいつと?嫌な気持ちでいっぱいだ。だが、確かに協力しなければ倒すことはできない。性格はクソッタレだが、実力は本物だ。
彼の《全反射》を出し抜いたモノを見たことがない。
「まぁ、今回だけはお前と共闘してやんよ。甘ったれた考え方はやめて、相手のことだけ考えろ!じゃなきゃ、ぶっ殺す!! 」
今回は敵ではない味方の火炎。何故か、とても頼もしい気がした。
星咲と八城、火炎、俺……現状で揃えられる戦力にしてはかなり良いチームではないか?
だが、それでも届かないのは知っている。やれるところまでやるしか……ない!
「後は火炎に持ってきてもらったガスマスクを付けんだよ。じゃなきゃ、あの猛毒ガスはやべェ! 」
ガスマスクを装着した四人は、巨大な猛毒蛇……世界蛇の領域へ足を踏み入れたーーその時だった。
「……火炎、危ねえ!! 」
「あぁん?《全反射》! 」
巨大な黒龍が火炎を狙うように襲いかかってきていた。だが、火炎の《全反射》によって自分が突っ込んだ時の威力を自分に喰らってしまった黒龍は空中で慌てふためいている。
「先輩にはせめて、さん付けしろよ!!
クソッタレな後輩だなオイ……!! 」
火炎は黒龍と向かい合って、背中に挿した巨大な大剣を抜く。大剣を前に突き出して、構えた。
「星咲先輩!」
「良いよ、夜十君。彼は、君が思うほどクソッタレな人間じゃないし、俺が認めた男でもあるんだからな。あの程度、一人で充分! 」
大型アビスの中堅を一人で充分とは、かなり信用されているご様子。
だが、俺は初めてだった。あいつが剣を抜いて、自らの意思で戦いに赴こうとするのは。
「はぁぁぁぁぁあああ!!
《密封反射》! 」
彼が作り出した《全反射》の壁が黒龍を覆い被さるように具現化された。
当然、この魔法の壁を打ち破るには黒龍では無理なことなのだと立証され済み。
黒龍に逃げ場などなかった。行く手を阻む反射壁が自分を覆っているのだから。
「グォォォォォォォォォ! 」
口から紫と白のオーラが篭った咆哮を放った。だがーー魔力量では勝ち誇っていても、結局のところは彼に勝ることは出来ない。
全てーー自分に返ってきた咆哮を体の節で受け止めることになった。
「まぁ、アビスは滅びるべき対象だ。
俺の王の前に……その姿を見せるならッ、俺はお前らを平気でぶっ殺す!! 」
巨大な大剣を壁に密封されて弱った黒龍へ振り下ろした。刹那、瞬殺。
黒龍は真っ二つに斬り裂かれて、虚ろの中へと吸い込まれるように消滅した。
「歯応えのねえ、アビスだな。
黒龍は最下層クラスだろ、まぁ……これが三体と来れば流石の俺も死ぬだろうけどな 」
黒龍を容易に倒した火炎は、大剣を背中に挿して星咲の隣に走って戻る。
彼の定位置とはココで、守るべき王は星咲なのだと実感したのだった。
一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は、火炎という存在が味方になる特別なお話でしたね。世界蛇……勝てんのかな?
それでは次回予告です!!
老人が召喚した忌まわしき神と称された怪物。それは、巨大烏賊と同等のアビス、世界蛇だった。
ヤツを倒すのは、八城、夜十、星咲、火炎の四人!たった四人でどこまで戦えるのかーー!?
次回もお楽しみにーー!
【風見のアナウンスの反応】
「うるせぇぇぇええええ!!投げるから! 」
「風見ってあの人でしょ!?性格悪いことで有名じゃん、嫌だぁぁぁぁぁあ!勘弁して! 」
「頭割れる!!鼓膜破れ……耳から血が!!
ママぁぁぁぁぁあ!! 」
※学園内はパニック状態に陥りましたが、殆どの生徒は避難しました。
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




