第三十八話 思わぬ呼び出し
おはようございます!
明日の投稿はおそらくお休みになるかと思います。申し訳御座いませんがご了承くださいませ。
ーー翌日。
昨日の一件で沖と鳴神、轟音がアクシデントにより、三人のうち沖を除く二人が重体で医務室に運ばれた。
現在は全員で発明室にもう一度集合している。
今後についての話し合いだ。明かりを消した発明室は、真っ白い液晶の光だけで場の空気を明るくさせている。液晶の前に立った両腕、頭などに包帯を巻いている沖は神妙な面持ちで語り始めた。
「……なんていうか、まるでウイルス感染のような。敵からの攻撃を食らって動けなかった轟音と、おかしくなった轟音を止めようとして攻撃を受けた鳴神が奇妙な声を出しながら襲ってきたって感じだな〜 」
沖の話し方と態度で思わず身構える店長。
その様子にケラケラと風見が笑った。
「どういうこと!?
……鬼じゃん、話し方!」
「あぁ、よく分かったな。
俺から言うのもなんか恥ずかしいから、風見、説明よろしくっ! 」
「はいよー!
昨日の一件で沖は《仏鬼》を卒業したんだよ。簡単に言うと、別れてしまった人格が元に戻ったってところかな。 」
話を聞いていた黒は、ふと気がついたように言った。
「え、じゃあ……あの狂気に満ちた姿はもう見れないのか。残念だな。
一度手合わせしてボコボコにしてみたかったのに! 」
「あぁん?なんなら、今するか?
……俺は構わないよ?」
一気に威嚇モードへ入った沖は腰に挿している《白銀刀》の柄に手を掛けた。
「……はぁ?沖〜〜、そんなこと俺が許すと思うか?療護中は絶対安静だっての!! 」
鋭い眼光で纏が睨みつける。
今、沖と鳴神、轟音、朝日奈、夜十の五人を療護している纏は、「絶対安静」というワードを利用するという狡猾さを秘めている。
ここで下手すれば、「絶対安静」というワードを上手く利用して拳か蹴りがお見舞いされることだろう。
ロープで常に拘束されている俺にとってみれば随分と辛辣な状況だ。
「纏ちゃん、その辺にしておきなよ。
沖と黒ちゃんは、馬鹿なんだからッ! 」
いつものように変な場の収め方をしようとする風見に、沖は大人の対応で目を瞑った。
だがーーもう一人はそうは行かない。
「そこにいる変態ドクソ性悪野郎に比べればマシだと思うけどな〜 」
「……ちょっ、黒ちゃん!!
私の呼び方のレパートリーを増やしていくのやめて!? 」
パンパンパンッと、乾いた音が三回鳴った。
小日向が小さな身体と小さな手で紡ぎ出した音だ。
彼女は全員の様子を見て思ったことを上級生らしく声を張り上げて言った。
「はい!!皆さん話が逸れていやがりますよ。
敵の動きが早いのに私らが遅くてどうしやがりますか?
さっさとこれからの意向を決めて解散したほうがよろしいんじゃないですか?風見ちゃん……? 」
その表情は普段のニッコリ笑顔のツインテール天使のような表情では無かった。
そう、例えるならば鬼のような黒いーー。
風見は身震いして焦りながら立ち上がると小声で小日向に謝罪をし、大きな声を上げた。
「んと、沖の話と私が今考えていることを合わせて結論から言えば、敵は学園内の誰かということになる。心当たりは居ないだろうけど、引き続き、情報収集に当たってくれ!
あっ、後は……警戒心を強めにな。返事したら解散ッッ!! 」
「はい!」
全員が返事をしたところで解散となった。
やはり、現時点で取れるのはこのくらいの対応しか出来ない。風見先輩の考察があながち間違いではないような気がする。
敵はーー学園内にアリか……!
俺が下を俯いて考え事をしているとーーその集中を乱すかのように風見の端末の着信音が鳴り響いた。音はノーマルの端末音だ。
「なっ……! 」
風見は端末を取り出して、液晶をタップする。画面内に映し出されている着信相手が思わぬ人物だったようで、驚愕にも目を見開いた。
端末をスライドして、通話に出た。
「……なんだい?お前が電話なんて珍しいじゃないか。星咲……! 」
その名前に俺以外が反応し、風見に視線を向けた。星咲?誰だ……有名な人なのか?
「あぁ、居るよ。なんだって?
うん、うん。夜十君、一人では行かせられないな。私が同伴なら許してもいいよ。 」
まさかの指名?
その星咲という人物は《平和派》にとっても、一般生徒にとって嫌な人物であることが全員の表情から読み取れる。
どういう人なのだ?偉い?強すぎて有名になったとか?
様々な選択肢が湧き始め、もう一度考え事に耽ろうとした時ーーいつの間にか通話を終えていた風見が神妙な面持ちで俺の前に立っていた。
「てんちょー、ちょっと星咲のとこに行ってくる。夜十君の縄を解いて! 」
その言葉に店長は反抗的な態度を取り、沖もそれを止めるかのように風見の前へ立って、心配そうに言葉を並べた。
「二人で行くなんて無茶過ぎる。
もし、何かあったら……俺も行く!! 」
「……沖はここで待機。纏ちゃん、沖を一歩も外に出さないようにしてね。
ほら、てんちょー、解いて! 」
「わーったよ。もし何かあれば、いつものボタン。分かるな? 」
「うん、分かってるよ。ありがとう! 」
店長は一度言い出したら聞かない風見の性格に見兼ねて、夜十を縛り付けている縄を解く。
腕のロープが解かれるのは久し振りなので何処か開放感が味わえた。
「じゃあ、夜十君ついて来て! 」
「はい……!」
《平和派》の拠点を出ると、渡り廊下を渡って本校舎の三階の生徒会室へ向かう。そもそも、星咲という人がどういう人物なのか分からない俺は、風見に問いかけた。
「風見先輩、星咲さん?って誰ですか? 」
「……そうか。知らないのも無理はないね。
この学園の生徒会長で《戦闘派》を統率している人だよ。
彼を一言で言い表すならば、「クズ」かな」
学園の生徒会長で《戦闘派》のボス?
火炎の上に立ってる人ってことか……。気を引き締めてかからないと!!
「そんなに堅苦しくならなくていいよ。
大丈夫、私が何もさせない……! 」
その言い回しにはどこか意味深な部分があると捉えられる。
星咲さんは何をしたのか……。触れてはいけない過去のような気がした。
ーー生徒会室に着くと、風見は扉をノックした。中から、低くも高くもない丁度の良い承諾の声が聞こえると、風見は扉の取っ手に手を掛けて勢い良く開いた。
「やぁ、君が冴島夜十君だよね?
俺は生徒会室兼《戦闘派》のボスをやっている星咲嶺王。よろしくね? 」
生徒会長室は壁側に四つの本棚が設置されていて、中心には折りたたみ式の机と椅子が無造作に置かれている。
然程、広くはない普通の教室の三分の一程の面積で窓側には『星咲嶺王』と黒い石に刻まれた名前の表札が置かれている大きめの机が設置されていた。
行儀というものを考えていないのか、俺に自己紹介を紡いできた人物はその机の上に腰を下ろして足を組んで偉そうな態度をしてきている。
幾ら生徒会長とは言えど、椅子に座れば良いのに。
彼は雪のように白い髪を短く、剣のように尖らせた髪型をしている。
瞳の色と肌の色も白に近く、無色素だろうか。彼の存在にも色が感じられなかった。身長は160cm程の低身長だが、ルックスと顔つきの幼さから年上のお姉さんに可愛がられやすいタイプだと直感的に分かる。
体型も特に目立った部分が無いので、ビジュアル的には整っている方だ。
「よ、よろしくお願いします。
星咲さん……? 」
「嗚呼、よろしくね。
風見、彼に説明はしたんだろうな? 」
すると、風見は星咲の言葉を無視して鋭い眼光で彼を睨みつけている。
「はいはい、分かったよ。
全く……はいよ。 」
何かを察したように、机の上から降りた星咲は机の中を漁って山葵のチューブを風見に渡した。
「はぁ?!要らないよ、こんなの!!
そうじゃなくて……!!説明?まだしてないよ」
チューブ型山葵を投げつけ、風見は白く透き通る彼の瞳に、瞳を合わせる。
山葵を片手で受け取った星咲は笑いながら、俺へ近づいてきた。
「……やめろ!!夜十君に手を出したら許さないからな? 」
「へぇ、怖いね〜〜。何もしないさ、ちょいと実力を調べるだけよ!んとねーー」
瞬間。俺は凝縮された膨大な殺気を感じ取り、首を右の方へ傾ける。
ギリギリ反応出来たが、目にも留まらぬ速度で放たれた星咲の拳が俺の左の頬を掠めて、勢いのせいなのか、ツーッと血液が一筋の線を作った。
「やっぱり、見込み違いじゃないね。
今の避けれるんだから、間違いないよ。
冴島夜十君、生徒会に入らないか? 」
分かっていたことだったが、風見は心底嫌そうな表情をしている。俺個人としては、風見先輩について行くのが一番動きやすいと言えるだろう。
「まぁ……兵士は使えないしな。
特別な隊長が欲しいところなんだよ。というか、さっきからうるさいなお前。
俺は冴島夜十君と話がしたいんだが? 」
彼の言葉に目を見開いて怒りを露わにする風見は、罵倒するように叫んだ。
「お前にそんな権利あると思うか? 」
「うるせえよ……! 」
その時ーー俺の洞察力は嫌なものを捉えてしまった気がした。
色素が無かったはずの星咲の瞳が淡い黄色に染まり、一瞬で元に戻ったのだ。
突っ込むに突っ込むことが出来なかったが、俺は風見に視線を移したことで驚愕する。
「なっ……!風見先輩ッッ!! 」
「手荒な真似はあまりしたくないんだよ。
風見、黙っててくれないか?黙らないなら、その、切り取り線に沿って顔を斬るよ? 」
風見の顔には赤いペンで幾つもの点が点で結ばれた切り取り線が書かれていた。
数分前には無かったはずの線。
風見自身は彼がしたことに気がついたようで、俺に小声で『行くよ』と呟き、生徒会長室を出ようと扉に手をかける。
「……まだ答えを聞いてないよ。
それに君達が一生懸命詮索している情報、人型アビスと言ったか?
場合によっては、その情報を提供してやってもいいけど、どうする? 」
風見は立ち止まる。
敵について情報が少なすぎる中、三人の深手を追うという現時点の状態は素人目にもわかるほどの窮地だ。
何かを知っていると自称する星咲。風見が食いつかないわけがなかった。
「……夜十君が生徒会に入れば教えてくれるのかい? 」
「ああ、その予定だよ。
そんなに仲間が心配なら見守ってればいいじゃないか。お前も一応副会長っていう立ち位置にいるんだし? 」
「……ごめん。夜十君、お願いしてもいいかな?後で抜けてもいいし、私みたいにすっぽかしても構わないから! 」
風見先輩が副会長……?!
聞き捨てならないような事実を知ってしまった。
というか、何で副会長なのに生徒会をそんな適当な風にしか思ってないの!?任された仕事はやり通そうよ!!と、言うのも野暮なので胸の中に言葉をしまい込んだ。
そもそも、誘われたは良いが俺はこの学園の生徒会についてよく分かっていない。
星咲へ恐る恐る怯えながら、問いかけた。
「……こっ、この学園の生徒会って何をするんですか? 」
「嗚呼、問題児を粛清する為に戦うというか、注意活動を行う、とかだね。
他にも色んな仕事があるけど、大したことないよ。夜十君、入るよね? 」
こんな自分でよければ……と思い、風見の全身全霊のお願いもあってか、コクリと頷いて承諾した。
コレで人間型アビス《ヘレティック》の情報も手に入れられる。後のことよりも今は現在のことを優先的に考えた方がいい。
俺はこうしてこの学園の《生徒会》に加わった。
俺が承諾したことを確認すると、風見は《ヘレティック》の情報を吐いて欲しいと言わんばかりの眼差しを星咲へ向ける。
彼も察したように、神妙な面持ちに表情を変えると口を開いた。
「俺が持ってる情報は、あの怪物が何処から来たのかってところだな。
どうやら、《祈願派》の拠点の教会側から歩いてきたって話を聞いたぜ? 」
《祈願派》!?
ここであの老人の言葉が脳裏に巻き戻される。人間が《未完成》であること、アビスとは褒め称えるべき存在であること。
操作魔法の実現化について。
今考えればあの老人が黒幕であることは当たり前のようにわかるようなものだった。
人間を滅ぼすことを優先的に考えているのは、前の体験の時に嫌という程味わった。
つまり、今回の怪物を作り出しているのは《祈願派》の老人か。可能性はなきにしもあらず。
ーーだとしてもだ。引っかかる部分がある。
新木場さんについてだ。
学園内で巻き起こっている事件だから、犯人は《祈願派》の老人という風に絞ることが出来たのだが、今回の件と照らし合わせても新木場さんは全くと言っていいほど関係がない。
何か意図があって、新木場さんを?
いや、待てよ。考えるんだ。
相手が狙っている相手は俺。であれば、組織のことを色々と調べて回っているんだとしたら?
新木場に申し訳ないことをしてしまったかもしれない。俺のせいで、俺の代わりで怪物に襲われたかもしれないのだ。
「夜十君、どうした?心当たりでもあるの?」
「はい……《祈願派》に老人がいるの分かります?」
その時ーー辛辣な空気だった生徒会長室は暖かな笑い声が溢れる部屋に変わった。
"老人"というワードを聞いて、星咲が吹いて笑ったのだ。
「この学園にっ、老人?
き、聞いたことねえぞ!! 」
え?でも……老人は確かに居た!
風見も同じような反応をしている。どういうことだ?俺は幻を見ていたのか?
ーーと、疑問に陥った。だが、あれは幻なんかではない。
すると、突如ーー自分な背後に人がいたような気がして、後ろを勢いよく振り返る。
だが、誰も居ない。背後に気配を感じた時、静かな声で笑っていたように思えた。
老人がむせ返るように笑ったような。
そんなーー。
……感覚に。
一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は新しいキャラが出てきましたね!
あ、前にTwitterのDMで言われたことを書いておきます。この作品はどんどん人が死んでいきます。急展開やギャグ要素で自分が面白いと思ったことを詰め込んで書いています!現在、プロットは120話くらいまで作りこんでます。
後はそれを文章にするだけ……それが結構難しいんですが、頑張りますよ^^
前書きにも書きましたが、明日の投稿はお休みさせていただきます。
理由は引っ越し関係です。申し訳御座いませんが、ご了承くださいませ。
それでは、次回予告です!
段々と黒幕像が明らかになる中、夜十と風見の不在中に拠点に迫る三体の黒い影。
戦闘狂コンビが食い止めようとするがーー!?
次回もお楽しみに!!
【出し間違え】
「あっ、全く……はいよ! 」
「これ生クリーム!!
てんちょー、喜ぶやつじゃん!」
「あぁ、店長な。
あいつの雑食性はカラス並みに気持ち悪いよな……」
「お前にあまり同意したくないけど、それだけは激しく同意するよ」
※生クリームかけご飯のことです。
納豆にも生クリーム入れるらしい。
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




