第三十七話 沖遼介
今日は朝出勤なので早めに投稿して寝ようかと思ってたのですが、まさかの寝落ち……!!
まぁ……よくある話ですね。
今回は沖くんがーー!?
それでは、どぞ!!
「……クッソ!!」
「キュルルルル!!」
仲間だった二人の怪物に情けをかけ、自分からは攻撃をしようとしない。
音による銃撃が飛んでくれば、近くの机を盾に相手の攻撃を遮る。鋭利にも尖った鉾のような蹴りが襲って来ようとすれば、膨大の魔力を圧縮し、一気に解き放つことで空気を静寂に、場を鎮圧した。
甲高い機械音のような笑い方しか、発さない二人に嘲笑されている気がする。
散々、剣豪、剣豪と奮い立たされ、《平和派》を救ってきた沖に対する挑戦としても受け取ることが出来るが、それは考えすぎであろう。
・・・駄目だ。
ここで力を抑え、相手の攻撃に屠られ続けるならば……"俺"の中に眠る力を呼び醒し、怪物になってしまった二人を助ける手立てを探すのが得策だ。
沖の思考は一つの作戦を目標とし、二人の異形の気絶を全力で狙う。
彼の中で消滅した過去の作戦と言葉は新たなの言葉を問いかけるかのように出現し、相手を屠らんと牙を剥いた。
だがーーこれで何かが変わったわけではない。要は気持ちの持ち方だ、自分が勝てると確信すれば剣を振るう腕が向上し、二人を救出することが出来るような、そんなーー。
「……キュルルルル!!」
甲高い笑い声ーー。
この声はそんなに聞いていないのにも関わらず、もう聞き飽きた。
ここで迷っていても仕方がないのだ。
コレは殺し合い……二人を助けるためには自分が剣を抜くしかーー。
「はぁぁぁぁぁあ……!!!
音を立てねェなんて面倒臭せェことはもうしねーよ!俺は俺のやりたいようにテメェらを元に戻してやらなきゃならねェんだ! 」
膨大な魔力の増幅ーー。
増幅による錯覚からなのか、漏れ出た魔力が緋色の空間を創り出した。
赤鬼は金棒で敵を打ち砕く。
さぁ、攻撃を峰打ちで……やってやろうぞ!
「キュルッ、キュルルル!!」
「その臭ェ言葉は聞き飽きた……良いから黙ってそのうるさい銃撃をやめやがれ!」
連続して乾いた音が募り、沖へ向かう銃撃が永遠に続くかに思えた。
音による銃弾の装填は恐らく、もう上限の数を異常なまでに引き上げられているだろう。
このまま仮に永遠の銃撃を繰り出されようものならば、厄介であることは間違いがない。
魔力消費を少なくするとは言えど、使っているのは彼の身体で彼の魔力だ。
轟音を守る為にも、逸早く行動に出るしかなかった。
沖は、《白銀刀》を手に取るとクルリと回転させて峰の位置を下に持ち変えた。
普段であれば、こんな持ち方はしない。
だが、彼らの身体を傷付けるのは癪に触る。
ーー以降も続く、永遠の銃撃。
目の前に広がるのは無数の銃弾が高速で回転し、襲ってくる地獄絵図だ。
この状況下で鳴神が特攻してくる様子がないことから、思考が出来ないわけではないと悟れば、沖は刀を構えた。
「早く元に戻ってもらわないとな。
……俺が困るんだよッッ!!」
沖は地面を蹴って縮地法の応用を駆使し、一瞬で轟音の目の前に到達した。
地獄絵図のように広がっている銃弾は既に彼の背後で襲う相手が居ないままに、地面へ撃ち込まれていることだろう。
素早い一撃を轟音の腹部にお見舞いし、相手の反応を伺う。速度の篭った一撃、一般の生徒なら誰でも倒れるくらいの威力に調節したつもりだ。
これで倒れなければ……もう斬るしかない。
ぐらりと重心が崩れ、轟音の身体は揺らぐように倒れるかに見えたーー。
だが……僅かに浮いた右足が地面に着いて、倒れることを踏ん張り、沖は絶望に扮する。
今の一撃で倒れない……?
ま、マズイ……この状況下でこの位置関係。完全に相手のペースであることは間違いない!!
焦ったように背後を振り向こうとする沖に、そんな余裕も与えようとせず……これまで動かなかった鳴神が背後からの胸を痛めつけるような一撃を放つ。
当然のように死角から離れた一撃は当たらないわけがないーー。
沖は、銃口を自分に向ける狂気に満ちた笑顔の轟音の前に突き出された。
「……なッ!!」
ーーパァンッ!!
今までの銃撃の中で一番大きな音。
そう言えば、あの技は使用する魔力の量に合わせて銃弾の大きさと威力を変えられるのだった。
そんなことを不意に思い出すが、もう終わったも同然ーー。
沖はゆっくり瞳を閉じて、流れ行く時の中に身を委ねる。
静寂に包まれた世界が自分を包み込んでくれるような気がした。
友達を斬るという残酷な手段を取らねばならないのであれば、このまま落ちてしまってもいいかもしれない。
ーー沖の思考は真っ暗なまま、停止した。
高速で回転するスナイパーライフル程の大きさの銃弾が無気力に落ちていく沖の胸へ、心臓へ迫る。
その時だった。
仏が問いかけてきたのはーー。
「君はこれで終わりでいいのかい?
僕は、大切な仲間を救えなかったことをきっと後悔する。いつもみたいに救ってさ……笑い飛ばしてやろうよ。
僕が……俺が《平和派》の守護神だってね! 」
波打つ鼓動が大きく、早くーー。
優しく鬼を……包み込んだ。
「分かっているだろう?
もう……君の剣だけでは勝てない。僕と合わせるしかないんだ。
僕が……消えよう!!後のことは任せたよ 」
「……やめろッッ!!全部俺に押し付けて消えようとすんじゃねェ!!俺はお前が生み出した怒りの象徴だ、鬼だ! 」
「それは違うよ。
君が生み出したんだ、僕という存在を。
少なくとも、君は普通であろうとした。一族を滅ぼした自分がどれだけ危険な人物なのかということを分かっていながらもね。
だが、それと同時に普通で居たかったんだろ?知っているよ、僕は君で。君は僕。
ーー誰よりも君を知っているから。 」
ジーンと、鼻の奥が痺れるほどの熱い涙が溢れ出てきた。
……嗚呼、そうだったのか、勘違いしていた。
普通の定義なんてのは、他人が決めた勝手なモノ。俺自身は俺自身で他人の評価なんざ気にして居ても仕方など無いんだ。
「今までありがとう。楽しかったよ。
大丈夫、僕は完全に消えるわけではない。
君の中で力として、君を見守る守護神となる!
鬼……いや、沖遼介。さようならーー」
それだけ言い残して仏は消滅した。瞬間、溢れるものが涙だと分かれば、沖は目を見開く。
銃弾がすぐそこまで迫ってきている。
もうーー後戻りは出来ない。
銃弾の発射速度、回転速度、位置、角度を計算し、瞬時に答えを導き出すーー。
蹴り飛ばされたことによる反動で足が地面に着かない……もし、着いて銃弾を弾こうとしようものならば、間に合わないだろう。
ならーーどうするべきか。
そんなのは君が分かっているだろう?僕。
仏ならーーそんなことを言ってくるのかもしれない。あぁ、やめだやめだ。
仏などもう居ない。俺は鬼でもないんだ。
「俺は、鬼でも仏でもねぇ!!
……沖遼介だぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
ーー間に合った!
《白銀刀》の峰で銃弾を受け止めることに成功。だがーー相手は相手の頭を貫通し、撃ち抜くことの出来るスナイパーライフルの銃弾だ。威力は当然高い。
「くっそぉぉぉおおおお!!!こんなもん……効かねェ!!」
峰で抑えきれなくなってきたことを確信すると、クルリと刀を翻して銃弾を受け流した。
地面に撃ち込まれる銃撃で、床が抉れたことを確認すると、沖は青ざめた。
背後からは鳴神が蹴り込もうと迫ってきている。
「だが……これで大きな隙が生まれたな。
俺はもう手加減なんざしねェよ。
仲間を守るってこたぁ、仲間を殺す気でかからねーと、失礼に値すると思うんでな!!」
彼の膨大な魔力が跳ね上がり、《白銀刀》の魔力制御装置が作動した。
刀に宿るは、怒りと悔しさの篭った膨大な緋色の魔力ーー。
「《冷静の仏、暴虐の鬼。仏は鬼、鬼は仏!ここに仏鬼の終焉を果たさせてもらう!
はぁぁぁぁぁあああ!!生棒死棒!》」
増幅された魔力が極端に跳ね上がり、緋色のオーラを纏った刀で轟音と鳴神を勢いのままに斬り伏せる。
飛び散る血飛沫の中で沖は彼らに命じた。
「……お前らの中の要らねェモンは死ねェェェ!!」
ーー瞬間。
白目剥き出しで轟音と鳴神は倒れた。
彼らの中で彼らを操っていた"毒"が消えたのだ。
静寂が包み込み始めたコンピューター室。
血飛沫がパソコンや床、壁に、天井へ付着する。きっと、二度と消えない血痕。
刀を床に刺して、沖は床に膝をついた。
「ほう……沖遼介か。
素晴らしいな……私の《異形化》を止めてしまうとは!!まぁ、此れで邪魔なゴミは大体潰れたであろう!!
ホッホッホ〜〜、冴島夜十を必ず……! 」
今の戦いを影から見ていた老人は、静寂が包み込んでいる廊下に笑い声を響かせると、瞬く間にその場から消えた。
膝をつき、両手を床につけると四つん這いの体勢で彼は吐息を荒げる。
「はぁっ……はぁ、はぁっ!!
クソ……轟音と鳴神が!!早く手当てをッ!」
端末の電源を入れて、風見に電話をかけた。
プルルルル、という発信音の後に急いで電話に出た騒々しい風見の声が聞こえる。
「……沖、何か分かったの?!
てか、吐息荒いけど大丈夫? 」
その声が聞こえただけで、溜まりに溜まっていた熱い泉が堅い地を突き破って溢れんばかりに噴出したような涙を流した。
「うっ……うぅ!!か、風見ッッ……今ずぐ、纏を、コンピューター室に……! 」
「あぁ、分かった!
……理由は後で聞くからな!!」
風見は沖が泣き出したことで心配したのだろう。端末をタップして電話を切ると、一目散に纏を呼びつけた。
「風見……あ、そうだ!風見の日記!!」
『私の日記』
ーーと、書かれている日記を懐から取り出すと床に腰を下ろして冒頭のページを開いた。
四月二十六日(金)
今日から私は日記を書くことにしたよ。
今日からじゃないんだけどね……まぁ良しとしよう。
よく青春してないなーお前!とか言われるけれど、私は学生時代にとことん遊んで楽しく暮らしたい人間だよ!
知っての通り、平和なのが私のモットーさ!
今年は一年生が二人も入ってくれた。
去年、色んなことがあったけれど……私は後悔していない。
今年の一年生は期待甲斐がある子達なんだよ!
自分の信念を貫き通す為ならばどんな手段を厭わず、自分をも犠牲にする平和の象徴になれる子。
大きな家に居ながらも必死に何かと葛藤して、仲間を支えることの出来る優しい感情を持った子。
どちらも素敵だよね。私には無い才能も持っているし、二人とも大好き!
あ、沖……勝手に人の日記を覗くのは構わないけど、戻しておいてくれよ?
これで三冊目だぞ……この冒頭も書き飽きたよ。そんなお前も大好きだけどな!
「ちょ、不意打ち……!!か、風見ぃぃ……!!」
涙を流しながら感動に耽っていると、コンピューター室の扉が開き、纏と風見が駆け寄ってきた。
部屋の惨劇を見て、固唾を飲みながら驚愕の声を上げた。
「えぇ……これはどういうこと?! 」
「風見、沖に話を聞くのは後だ!
取り敢えず、二人の止血だけして拠点に連れて帰るぞ! 」
「あぁ、おっけー! 」
地面に腰を下ろしている沖へ、風見はトントンと肩を叩く。
後ろを振り返る沖は、顔を真っ赤にして服の袖で涙を拭っていた。
「目、腫れてるよ。
辛かったね、大丈夫じゃないよね。今日は、私の部屋に泊まりにおいで 」
コクリと深く頷く沖。
その姿に顔を赤らめながら感激する風見。
「沖……」
「か、風見!! 」
まるでドラマのように唇を合わせ、等しく愛してあっている二人に纏は流石にイラついたのだろうか。怒りの声を上げた。
「そういうのは二人きりの時にやれよ!!
治療に集中できねえだろうがぁぁぁ!! 」
床に腰を下ろしている二人に怒りの鉄槌、げんこつが振り下ろされた。
「い、医者のすることじゃない……! 」
「……痛ェッ!! 」
すると、二人はしっぺ返しをするように纏の右耳を沖が、左耳に風見が噛み付いた。
「自業自得だよお前ら!!全く……ってうわぁぁぁぁ!!何してんだぁぁぁぁぁあ!! 俺を通して、交わろうとしてんじゃねええ!」
この後、怒りの鉄槌が再度、彼らに降り注いだのは言うまでもなかったのだった。
一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は一体化ですね!^^
仏と鬼が交わった瞬間のイメージは、イナイレシリーズの吹雪士郎と吹雪アツヤが交わった瞬間をイメージして書きました(笑)
それでは次回予告ですっ!!
鳴神と轟音、沖が重傷を負ったことで今回の敵が学園側に潜んでいることを可能性の一つと考え始める風見。
その時、彼女の端末に一人の人物からのチャットが届く。
真実にたどり着くことは出来るのかーー!?
次回もお楽しみに!!
【風見の日記】
一冊目
「今日から日記を書き始めたよ!!
さぁぁぁぁぁ!!毎日書いていこう!!」
二冊目
「今日から日記を書き始めたよ……!
さぁ、毎日書こうかー!」
三冊目
「今日から私は日記を書くことにしたよ。
今日からじゃないんだけどね……まぁ良しとしよう!」
四冊目
「もういい加減にしろよぉぉぉおおおお!!」
※風見も沖の日記を盗んでます。お互い様!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




