第三十六話 両想い
今日は四時に投稿する予定だったのですが、まさかの執筆していた分が全て消えるというアクシデントが起きまして、全て書き直したらこの時間になったという次第です。
申し訳ございません(´;ω;`)
静寂漂う二年の教室で沖は、窓側の後ろから三番目の席の机の中をガサゴソと漁っていた。
行動を共にしている鳴神は彼の行動に不信感を覚える。
「ねぇ、沖。何やってんの?ここ、沖の席じゃないよね? 」
「うん、違うよ。風間の席だね 」
平気な顔でそんなことを言ってのけた沖に、鳴神は雷となって凄まじい速度で飛び膝蹴りを放ったーーだが、この攻撃は止められる。
攻撃が来ると予想でもしていたのだろうか、彼の左肘に遮られてしまった。
彼女は何故、沖に攻撃したのか。
ーーというのも、沖は自他ともに認める程の剣豪中の剣豪で《平和派》を様々な猛威から救ってきた守護神だ。
だが、その実態はーー風見に付きまとうことを辞めず、挙げ句の果てには風見の私物にまで手を出すストーカーなのである。
「……沖!!あんた、もうストーカーみたいなことはしてないって言ってたじゃん!
風見のストーカーはやめたって! 」
「うん、やめたよ?
僕は何も風見の私物を見つけようと漁ってるわけじゃないんだけど? 」
へ?彼女は拍子の抜けた言葉を口にした。
ーーとなれば、自分が先程放った攻撃は野暮な一撃となってしまう。
悪いことをしてしまった……完全回復の沖で、いつもストーカー行動ばかりしている変態だから、手加減が出来なかった。
彼女は少しの罪悪感に苛まれる。
「そっか、ごめん!
先走っちゃったよ、てっきり風見の私物を取ろうとしてるのかと思ってた! 」
「そんなわけないよ。
……あ、見つけた!風見の日記! 」
「風見の私物じゃねぇかぁぁぁぁ!!」
彼女の腰を入れた全力の拳は、沖の掌によって止められるーーと思えば、掌に遮られるタイミングで雷に変わった。
頬がゼロ距離の位置で拳に戻ると、沖の顔面を貫くように壁まで吹っ飛ばすほどの威力の攻撃を叩き込んだ。
「……いっ、痛ったー!!
鳴神、何するんだよ! 」
「何するんだよ!じゃないよ!
何で風見の日記を見る必要があるの!! 」
追い討ちをかけるように、壁にもたれかかる沖の顔面に足を置き、グリグリと捻りを加えながら踏みつける。
「……鳴神のドS癖は治らないのかい?
僕はこの中に《ヘレティック》の情報が書いてあるかもしれないと踏んだんだよ! 」
「私はドSじゃないし!
……だから、無いよね!?
沖があると思っているその日記の中には、達筆な文字で一日を大切に過ごす風見の毎日が綴られてるだけだよ!もし、本当にあると思っているなら、頭冷やせ!!ストーカー! 」
「ストーカー……ねぇ?
オイ、轟音!……しないのかい?」
「なっ……!!バカ沖!!
お、俺は先に次のコンピューター室に行ってるぞ!!じゃあな!!」
教室の外で待機している轟音へ、ニヤついた表情の沖が問いかけた。
するとーー彼は顔を真っ赤に染めて、一目散にその場から走り去って行った。
まるで、逃げたかのようだ。
「何、あれ……?」
「……さぁ?鳴神の美貌に圧倒されちゃったんじゃない?あ、へぇー?鳴神って猫さんのパンt……! 」
ーー次の瞬間。
適当なことを言った沖へ、赤面して羞恥の表情をした鳴神は沖に乗せている足をギロチンの刃のように上げると、叫びながら勢いよく振り下ろした。
「こぉぉぉのぉぉぉおお!!
変態、変態沖ぃぃいいいいいい!! 」
ーー静寂漂っていたコンピューター室。
上の方からの轟音と叫び声によって、その静寂は叩き潰された。
先にコンピューター室に着いていた轟音は、幾つも立ち並ぶパソコンの一つを起動し、椅子に腰を下ろした。
ギシギシと軋む音とマウスのクリック音以外、この教室に響く音は何もない。
「はぁ……お節介だよ。沖。
俺が伝えられるわけないじゃん……鳴神のことが好きだなんて! 」
ーータッ!タッ!タッ!
突如ーークリック音と軋む音以外に音が聞こえた。それはーー何かが闇の中でパソコンを操作している轟音に迫ってくる足音。
「……な、何者だ!!」
「キュルルルル……」
違和感の篭った笑い声が聞こえてくる。
先程、教員に見つかるのは厄介としてコンピューター室の明かりを点けなかったのは大きな間違いだったのだろうか。
だとしても、まさかこんな風に何かが襲いかかってくるとは思っていなかった。
「大丈夫、俺には音が付いている。
……音は全てを明確に写してくれる鏡だ! 」
彼の耳に届いた音と自分の瞳を接続させる。音を司る轟音ならば、容易いこと。
瞳には黒い五本の指が生えた人間の足が映り、黒いマントがチラつく。
黒いマント……?轟音が考え、出した答えはーーこれが、《ヘレティック》か?
その答えに辿り着いた瞬間ーー轟音の背中に熱い何かが触れたような感覚が走る。
疑問に思って熱くなった部分を触れると、彼の掌にはベッタリと赤い液体が付着した。
「なっ……!!
駄目だな……姿が見えねえってのは! 」
「キュルルルルルル!!」
自分の耳で拾った相手型の笑い声からなる"音"を弾いて、部屋の電気が点くスイッチに飛ばした。
ドクドクと流れる血液に意識が段々朦朧としてくる。
相手の攻撃は突進だけではないのか?
「暗闇の中じゃ、よく見えなかったがコレでテメェの残念なツラを拝めるぜ! 」
電気が点き、眩い光が教室を包み込んだ。
すると、視界が突然の光に慣れることが出来ず、一瞬だけボヤけて見える。
視界が慣れてくると、目の前に居る存在は風見が説明していたモノとは大きく異なっていることに気がついた。
「お、お前は……!!」
「キュルルルルルル!!」
黒マントに姿を包み込んだ少年。
片手に矛先から地面に血を垂らしている刃渡りの長いナイフーー小刀のようなモノを片手に携えて、狂気の笑みを浮かべている。
「なっ、ま、まずい……!!」
グラっと意識が消えそうになる。
あの刀、毒でも仕込まれていたのだろう。
中々、全身に力が入らない。
次の瞬間には、床に膝をつき、今にも倒れこみそうになっている轟音の姿があった。
「……キュルルルル!!」
相手は彼の大きな隙を見逃さない。
小刀を右手に忍ばせ、地面を蹴って轟音との間合いを一気に詰めると、トドメの一撃を放った。
ーーその瞬間だった。
閃光の如き速度で現れた守護神が、相手の小刀を一瞬で打ち砕いたのは。
「……武器破壊。コレで君はもう戦えない!」
「キュルルルル……」
行き詰まった黒マントの少年は説破が詰まったのか、苦難の表情で空気に溶け込むかのようにその場から逃走した。
「はぁっ……はぁ、はぁ!! 」
「アレが人型アビス、《ヘレティック》?
オイ、轟音!!しっかりしろ! 」
刀を地面に置き、轟音へ駆け寄る沖。
背中からの出血が止まることなく、ドクドクと流れ出ている血液の影響からコンピューター室のフローリングの白い床に赤い水溜りが出来ていた。
「ま、マズイ……血が止ま……ッッ!! 」
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ!
波打つ鼓動の音が自分の中で早まっていくような感覚に陥った。
いつの間にか出血が消え、傷口が黒い霧のようなモノで修復されていく。
「な、何だよこれ!! 」
ドッックン!!ドッックン!!
波打つ鼓動の音がさっきよりも大きくーーその瞬間から、轟音は自分の身体を失った。
狂気の笑みを浮かべ、瞳は何処を向いているのか分からないーー逝っている。
「キュルルルル……」
奇妙な笑い声を上げながら、表情変わらずのままに腰を下ろしている沖へ轟音だった"ソレ"は、拳を放った。
「……沖、危なぁぁぁい!!」
沖の危険を感知し、突如として現れて彼の拳を右手で受け止めた鳴神は全力の拳を轟音へ返した。
「……ありがとう、鳴神!
さぁ、これは一体どういうことなのか。調べる必要がありそうだね、轟音を気絶させるっていう方法を取るか! 」
口にはしたものの、はっきり言って行動に移せるかどうかは分からない。
彼から織りなされる全ての攻撃は、著しく沖の苦手な分野だ。
自分が立ててしまった音も、自然に起こった音もーー音であれば、魔力を通して攻撃や防御に変換する力。
轟音を味方とするならば心強い仲間だが、敵とするのであれば……最悪の敵だ。
「……キュルルルル!! 」
「二人が喧嘩してるってわけじゃなさそうだね。轟音がおかしくなっちゃったのかな?私が治さないと……!! 」
彼女は床を蹴り、吹っ飛ばされても立ち上がって奇妙な笑い声を上げる異形に雷光の速度の篭った蹴りを喰らわせた。
頸に当たったので運が良ければ、一撃で気絶する場所。
これは、入った!
自分の中で満足に手応えがあった攻撃を放てたようで、気絶は確実なものとまで思えた。
だがーー
「キュルルルル!!!」
当たり前のように這い上がってくる轟音。
攻撃を受けた箇所に黒い霧が纏わりついて、修復作業を行っているようだ。
「……ダメか〜〜。
今の一撃は間違いなく入ったと思ったんだけどな〜〜 」
「……キュルルルル!!!!!」
立ち上がった轟音は、高らかに甲高い笑い声を叫びながら両手に二丁の拳銃を発現させた。
二人はそれを見て、思わず目を見開く。
そう、コレは……沖も鳴神も絶対に相手にしたくない攻撃の一つーー《調律の銃撃》だった。
彼の得意技の一つにして、少ない魔力消費にも関わらず、尽きることない永遠の銃撃を繰り広げる技だ。
この技の対策方法はーー音を立てないこと。
だが、この局面でそれは難しい。
銃弾を避けながら、相手の眉間に拳を叩き込むのは至難の技だ。
「マズイ……あの技が来る!
沖、銃弾を全て斬れる? 」
「……あぁ、任せろ! 」
刀を手に取り、立ち上がった沖は鳴神の前に立った。
今から、彼女ーー自分に降りかかるモノ全てを斬り刻むという強い闘志を燃やしながら。
ーーパン、パン、パンッッ!!
二丁拳銃から織り成される三回の銃撃から放たれた銃弾を沖は見逃さない。
角度と回転速度、位置を鋭い動体視力で計算しながら斬り伏せていく。
三つ目の銃弾を真っ二つに斬り終わるが、今の攻撃の間に起こってしまった"音"によって銃弾の残弾数は増えてしまったに違いない。
これは、早めに勝負を決めなければーー耐久戦で簡単に負けてしまう。
「……!!」
迂闊に叫び声を上げながらの攻撃も出来ない、息苦しい戦闘。
精神と身体が同時に疲労によって、参ってしまいそうだ。
次々と繰り出される乾いた音は、その音だけでまた銃弾の残弾数を上げる。
永遠の銃撃を繰り出す技とはよく言ったもの。味方だった轟音を考えれば、チート級の魔法だ。
敵にしてみて、分かってしまった事実。今は、絶望的だ。
「鳴神、行けそうかい?」
「うん、大丈夫!
次の銃撃が終わった瞬間に雷になって突っ込むから、沖は後退して!! 」
「え?あ、あぁ、分かったよ。 」
てっきり、突っ込むから援護よろしく!と、言われるものだと思っていた。
何か秘策でもあるのだろうか、今は鳴神に委ねるしかない。
現在放たれた銃撃を斬り伏せながら、鳴神にアイコンタクトを入れた。
"この銃撃が終われば、轟音。解放してあげるからね!!"
彼女の想いは心の中で溶け込むように消滅する。
ーーパンッ、パンッ、パンッ、パンッ!!
四回連続の銃撃。一足早く構えていた沖は、地面を蹴って銃弾との間合いを一気に詰めた。
銃弾の位置はそれぞれ違えども、狙っている場所は一点している。
つまり……其処がどこなのかを突き止めることが出来さえすれば、簡単に"斬れる"!!
四つの銃弾は真っ二つに斬れ、沖達を避けるように散らばった。
ーー瞬間。
雷光の如き速度で、彼女は異形に乗っ取られた"轟音"との間合いを一瞬で詰めた。
だが、沖は違和感を感じ取る。彼女の攻撃モーションはいつも助走の瞬間に入るのにも関わらず、今回の攻撃は何処かーー。
「轟音、戻ってよ〜〜!!
……私の大好きなあんたに!! 」
彼女は轟音の唇に自分の唇を合わせた。
速度が篭っていた所為なのか、彼女は彼を押し倒す形になる。強く抱きしめながら紡がれる愛のベーゼを彼はーー。
ーーパンッ、パンッ、パンッ!
突如として、静寂が込み上げ始めていた教室内に乾いた音が連続で鳴り響き、重みのあるモノが床に落ちた時の「ドサッ!」という音がした。
彼女の白いTシャツは点々とした場所からの出血で赤く滲み始める。
「キュルルルル!!」
彼女の攻撃は効かなかったようだ。
大好きな相手を止めようとする心を簡単にまで踏み躙る今の"轟音"。
いや、轟音ではない。
"異形"に腹を立てた沖の視界は真っ赤に染まった。
「はぁっ……はぁ、テメェ!! 」
駄目だ……轟音を殺してしまう!!
この状況下で轟音を止める良い方法はないか!?
そんな風に思っていた時ーー沖の腹部に鋭利に尖った鉾のような蹴りが突き刺さった。
それはーー味わったことのある痛み。
「なッ……なんでッ!!鳴神ィィ!!」
狂気の表情を浮かべながら、彼女もまた甲高い声で絶望的な状況の沖を嘲笑する。
「キュルルルル!!!!」
沖は……覚悟を決めた。
鬼になる決意をーー。
三十六話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は、窮地で明らかになった両想いです!
因みに今回の《祈願派編》を終えると、当分はギャグ回続きの予定です。学園祭とか学園祭とかやりたいですしね!!!
まぁ、それまではシリアスの中に混じるギャグをお楽しみください^^
それでは次回予告ですっ!!
轟音を助けようと特攻した鳴神のベーゼによる攻撃は意味を成さなかった。彼女を容赦なく撃った轟音の形をした異形に沖は鬼の姿を見せる!!
だが、撃たれたはずの鳴神も異形の姿になってしまいーー!?
次回もお楽しみに!!
【風見と沖】
「風見〜〜!」
「あぁ、沖か。待っててくれたのかい?」
「いや、たまたまだよ。」
「そうかい?」
(沖が三十分前にこの場所で待機していることは纏から教えてもらい済み)
「嗚呼!
じゃ、拠点行こう!風見!!」
「うん、行こう!!」
(沖が可愛い……あぁ、天使だ!!)
※実は風見も沖のストーカーだったりする。
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




