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追憶のアビス  作者: ezelu
第1章 学園編 《祈願派編》
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第三十五話 平和派始動!

今回から《祈願派編》スタートです。

今回の話で老人の唱える《未完成》の意味が少しだけ分かります。物語に必要な話なので是非、お見逃しなく!


あ、今日はギャグ回だった……。

暗闇の中に集まった《平和派(ジャスティス)》のメンバーは、店長が動かす液晶の白い光だけを一点に視界に捉えている。

これから始まるのは、"夜十と朝日奈の戦った敵"についての会議。


液晶の光を背に、真剣な表情をした風見はメンバー全員に言った。


「昨日、燈火ちゃんと夜十君が見知らぬ敵に襲われた。燈火ちゃんは意識不明の重体、夜十君は幾たびの戦闘のせいで纏ちゃんからのドクターストップがかかってる。

纏ちゃん、説明よろしく! 」


バトンタッチを受けて、次に液晶の前に立った纏は棒付きの飴を口の中で転がし、咥えながら話を続けた。



「今回の件で冴島夜十は戦闘を禁ずる。もし、戦えば……その時は《平和派》が、お前を殺そうとするだろう。なぁ、沖 」


壁にもたれかかりながら、右手で頭を抑えている沖は呼ばれるなり、纏の方へ視線を向ける。

沖はこの間の戦いで重傷を負ったが、纏の治療によって全回復。剣を持つことも生成することも出来るようになった。事実上の完全回復だ。



「そうだね、夜十君は……取り敢えず縛って朝日奈さんの隣で寝てもらおうか。今回の件で出撃は風見も僕も大反対だよ、君は戦いたいだろうけどね〜〜」


闇夜に液晶から漏れた光が、彼の眼光を鋭利に研ぎ澄ませる。そこから漏れ出るのは、殺気と"仲間を守る副隊長の決意の証"だった。



元より口を押さえ付けられながら、会話を一通り聞いていた俺だったが、この仕打ちに納得がいかない。

風見先輩……信じていいんじゃなかったんですか!?

これじゃまるで……!!



「んっ……はぁっ、はぁっ……!!店長先ぱっ……んあっ!!」


腕の力だけで店長の手を振り解く。彼は戦闘能力は一切ない。だがーー強めに頬を殴られ、地面に転がった俺は目の前の背中を"見た"。


風見という人物に惹かれ、《平和派》を愛し、愛された者の大きな背中を。


店長結弦。

彼は《平和派》を愛する心と燃え滾る闘志が瞳に宿っていた。

そう、紛れもなく彼もまた、一人の戦士だ。




「大丈夫だよ、安心しな。こう見えて私らも、か弱くないんだ 」


風見は涙を流す俺の頭に手を置いて、優しい言葉を紡ぐ。

ダメですよ、先輩……これは俺の案件なんです。それに……!!



「……目の前で人を失うのはもう嫌だ?って?夜十君、私らを舐めすぎだよ。君の目の前にいるのは、《平和》を望む正義の味方(ヒーロー)さ。 」


……ッッ!!

なんでそんなに優しいんだ……俺の為に危険を犯してまでッッ!!

先輩方……!!



「それは、仲間だからだよ。

君が私達にしてくれたように、私達も君に答えなければならない。先輩なのに後輩に頼ってばかりじゃ、私らのメンツ丸潰れだからね。」



彼女が言い放った後、轟音は俺の腕に鉄の手錠をかけた。

もう、縛られなくても抵抗する気はないのに。

けれど、先輩方は分かっているんだろう。

土壇場の俺の暴走をーー。


流藤の時も所属狩りの時も、俺を止められなかったことをきっと後悔している。

感謝もあるだろうけれど、もっと深くにあるのは悔しさだ。


"先輩として後輩に出来ることをしてあげられていない。だから、ここで返す!"


風見の表情はどこかそう言っているように見えた。





「んじゃ、続ける。夜十君と燈火ちゃんを襲った相手は、黒いマントに身を包む異形だったみたい。私が間接的に"視た"けど、アレは人間というよりも何か違う。そう、《アビス》のような存在に私は見えたよ。 」


そうだ、新木場さんが襲われた中型アビス。人間型アビス……戦ってみてわかったけど、アレは強い……斬っても意味が無かった。



「回復力が凄まじく、夜十君が交戦した時に相手の腹部を一刀両断で真っ二つに斬ったのだが、一瞬で修復された。

ただ、確認されている攻撃は突進だけ。

それであるとするならば、大したことはない。


けど、胸騒ぎがするんだ。何か良くないようなモノが隠されている気がして……」


風見の言葉に沖と黒が同時に反応した。

この二人にある共通点が惹かれ合ったのだろうか。



「じゃあ、斬り刻めばいいんじゃない?」

「なら、修復不能にまで刻めばいいんじゃねぇの?」



「戦闘狂、うるさいぞ!!

風見の説明、最後まで聞けや!」


店長の突っ込みに沖と黒は顔を見合わせて、下を俯いた。

それは自分が戦闘狂ではないと言いたげな表情だった。


いや、先輩方……戦闘になるといつも狂気じみた笑顔出すじゃん。二人で戦ってればいいのに!



「まぁ、そうだね。相手のことを今回は仮に《人型のアビス》として呼んでいたけれど、それは凄く呼びにくい。この世界で怪物ではないアビスなんて異端者ではないか?ならば、《平和派》は今からこの敵を《ヘレティック》と呼ぶことにする!各自、情報を集めろ!それが私からの命令だ、頼んだよ! 」



「……はい!!」


全員の返事が重なり合い、空気中で衝突を繰り広げると会議は解散となった。

つまり、この会議で言いたかったことは危険性があるモノに対して慎重に情報収集に当たること。といった内容だった。



「そう言えば、てんちょー、沖の武器、完成した? 」


発明室の電気をつけて、液晶パネルをリモコン操作で畳む作業をしている店長は風見の言葉で、思い出したように声を上げた。



「ああっ!!出来たよ!昨日徹夜して完成させたんだ……!はい、コレ! 」


あらゆる発明品が無残に蔓延っている瓦礫の山をゴソゴソと漁り、店長が取り出したのは、銀箔がつけられている高級感溢れる鞘に納められている刀身は緋色に滾る炎のようは赤色に装飾され、柄の部分は光に反応して輝く銀色になっている刀だった。



「……これは《白銀刀(アルジェント)》という刀。

沖の鬼になった時の魔力を最小限に抑えられるよう、《魔力吸収装置》を組み込んでおいたんだ。

俺が設定した魔力制限を超えると、装置が作動して、刀に魔力を吸収させる。

鬼になったとしても適度な魔力放出を避けるようになってるから、調整が出来るのと、

溜まった魔力を一度に放出することも出来るしで、結構便利だと思うよ! 」


沖は刀を鞘から取り出して、右手に持つと全力で刀身を振ってみた。

瞬間ーー巻き起こる虚空を斬った時の斬撃が空気に多大なる影響を与えて衝撃波を生み出す。

遠くの防御障壁に当たると、少しの傷をつけて静止した。



「あぁ、腕にしっくり来るよ。

やっぱり、店長は発明に関して"だけ"は凄いね。

尊敬するよ、ありがとう! 」



「「だけ」とはなんだ、「だけ」とは!

……そんなこと無いぞ!

俺だって先輩として頑張ってるしぃ!」


「はいはい。凄い凄い。」


沖の棒読みに呆れたのか。

「はぁ」と小さな溜息をついて、瓦礫の山を貪り始めた店長を励まそうと、俺は一度聞いてみたかったことを声に出した。



「あの、店長先輩!!先輩の作った発明って他に何があるんですか?!」


その言葉に場の空気が一瞬で凍りついた気がした。すぐさま、回避しようと沖と轟音、鳴神らが発明室を適当な理由をつけて出て行く。

風見も少しだけ青ざめたが、周囲の反応を見て笑いながらその場に腰を下ろした。


俺には全員の行動と反応が理解できなかったがーーそれは次の瞬間で分かることとなる。



「えっ、夜十君、聞きたい!?

よっしゃぁぁぁぁああ!!やっと、やっとだよ!!先輩として発明品を教えることが出来るなんて!!やったぜ!!」


なんという喜び方……途中、キャラ崩壊しそうになってるではないか。

せめて理性だけは切れないように抑えて欲しいものだ。


俺と黒、風見は店長の発明品紹介に付き合うこととなった。

怪我をして寝込んでいる朝日奈も心配だが、纏先輩に任せればいい。

今は、こういう余興を楽しむのも悪くないかもしれない。そういった考えで、言動に走ったわけではないが、俺はそう考えるようにした。




「……じゃあ、第一回!

店長発明品紹介ショー!いぇーい!!」


無造作に並べられる拍手だけで物足りなかったのか、店長は自分の盛大な拍手を足した。

白く長い折りたたみ式のテーブルの裏には、無残にも無数の瓦礫……発明品が転がっている。発明は凄いと思うのだが、整理整頓という概念は存在しないのだろうか。



「はい、まずはコレ!

夜十君、何だと思う?」


取り出したのは、一般的な緑色の歯ブラシだった。未使用なのかブラシの部分は真っ白で、一個も欠けていない。

だが、一つとして違うのはブラシの持ち手に取り付けられた三つのボタンだ。

赤と黄色、緑のボタンは信号機を連想させる。



「歯ブラシですよね……なんか特殊な機能がついてる?? 」


「そのとぉーり!

……因みにその特殊な機能とはコレだ!」


店長はカチッと緑色のボタンを押した。

すると、ブラシの細部から白いクリームがブラシ全体に行き渡るように噴出された。

噴出する量も角度も完璧ーーあぁ、これは歯磨き粉!!めっちゃ便利じゃないですか!


だが、俺は次の言動に思わず叫び声を上げてしまう。




「コレは生クリームだよ!」


はぁぁぁぁぁああああ!?!?

どうしてそうなったんですか……!!


「もし、もしだよ。

歯を磨いている時に甘いものが食べたくなってしまった時、どうする?

もう一度冷蔵庫とか開けてさ、お菓子食べるのは面倒だよな?なら、歯磨きから生クリーム出せば、問題ねぇじゃん!」


いや、問題大有りだよ!!

てか、歯を磨いている時に甘いもの食べたくなったからといって面倒臭さで歯ブラシから生クリーム?

何だよそれ、どういう発想だよ!


「因みに、黄色は辛子。

赤は明太子だよ!」


どうしてぇぇええええ!?

歯磨きしてる時に辛子食べたくなる時ってあるの!?明太子もだよ!!



「例えばだよ?

歯磨きしてる時に辛子がなくなってしまった場合、どうする?答えは一つ!

歯ブラシから出せばいいんだよ!」


もう、何ッッでもありだな先輩!!

俺はそんな機能のついた歯ブラシ要らねえよ!何で歯磨き粉入れなかったんだよ!

もし、それが歯磨き粉なら貰ってたよ……!



「はい、次はコレね。

黒、何に見える?」


続いて取り出したのは、一般的な消しゴム。

四角く模られた消しゴムは何故かふんわりとしている。何となくわかってしまった……。



「……マシュマロだろ?」


「………」


少しだけ長い沈黙、沈黙、沈黙。

俺のような純粋な反応が欲しかったのか、ぐすん。と涙を服の袖で拭いながら、消しゴムだと思われる物体を黒に投げつけ、続けた。



「うおっ!?

本当にマシュマロだな、消しゴムみたいに模られてら!スゲェ!」


その「スゲェ!」に一瞬反応したが、自分の発明を見破られたことによるショックは大きいらしい。

首を横に振って、次の発明品を机の上に出した。



「……夜十君、これは何見える?」


またロクでもない発明品がーー。

と思ったが、俺の目に飛び込んできたのは自分の愛剣……黒剣によく似た剣だった。



「えっ、お、俺の剣ですよね!?」


先程の沖先輩の刀の機能を見る限り、この人はやる時はやる。

歯ブラシやマシュマ……消しゴムのような時とは違って、武器に携わると凄いんだろう。

きっとそうに違いない。

俺は期待を乗せて、そう問いかけた。



「そう!これは君の剣にとある機能を二つ付けたものだよ!」


とある機能を二つも!?

な、何だろう……想像もつかない!!



「……一つ目は、刀の斬れ味を自動的に研ぎ澄ましてくれるっていう装置を付けたよ。

まぁ……コレは刀の内部に内蔵されている砥石が出たり入ったりすることで可能とされる機能だから現時点では実現が不可能だったんだけど、応用力というか天才力で何とかモノにしたよ!」


おお!!!!と感激したいところだったけど、先輩……その刀。元々そういう刀なんですよ。

対アビス用に作られた組織の特殊な刀だから……錆びないし刃こぼれもしない。

まぁ、黙っておこう。もう一つは……?



「もう一つは、この柄の部分を押すとね!!

生クリームが、刀身から出るんだよ!!」




……もういいよ生クリームはぁぁぁぁぁあ!!

馬鹿なの!?戦闘中に刀身から生クリーム出ても意味無くね?

「ぁぁ、小腹がすいた。生クリーム ♪♪」

ーーならねぇから!!


店長先輩、いい加減にしてください!!

俺の叫びは届くことはなく、虚空を斬って心の中に消えていったのだった。

三十五話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回は圧倒的にギャグ多めでしたね。

因みに店長の大好物は生クリームです!

彼は……ご飯にもかけますからね、生クリーム。


さあ、気を取り直して次回予告っ!!


遂に動き出した《平和派》。

情報収集に動き出すメンバーの前に蔓延る無数の影は、彼らを苛む。その時、《白銀刀》を携えた沖が取った行動とはーー!?


次回もお楽しみに!


【店長の得意料理レシピ〜!】


・まず、ご飯を用意します。

熱々のご飯であることが大切ですね!


・次に7箱から8箱程の生クリームを一気にご飯へ注ぎ込みましょう!!

気持ちを込めて注げば、より美味しくなります!


あっという間に完成!

生クリームかけご飯!!


口いっぱいに広がる生クリームの甘みとご飯独特の食感が絶妙に合わさって、俺の中で綺麗なハーモニーに進化を遂げる!

是非、やってみてくれよな!


※絶対に真似しないでください。


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!

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