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追憶のアビス  作者: ezelu
第1章 学園編 《祈願派編》
34/220

第三十四話 デート ②

ちょっと早めの投稿ですが、今日は予定があるので夕方には投稿できません。

ので、早くしました!


それではお楽しみください^^

ファストフード店を出た俺達は、近くの公園へ向かった。

この間、巨大烏賊(クラーケン)が出現したことによって、アビスに対する避難訓練や外出を控えるようにとの注意喚起は、より一層厳しくなったらしい。

そのせいなのか、人気が無さすぎる。

静寂に包まれた公園は、何処と無く嫌な雰囲気に包まれていた。


俺達は、木製のベンチに腰を下ろして、今後の予定について口を開いた。



「この後の予定は?」


「んー、今十三時くらいだしな。

ここで少し休んでから遊園地とかどう?」


俺の提案に驚愕した表情を見せる朝日奈。彼女の表情は驚きというよりも感激に近いように見えた。

頬は火照り、赤くなっている。



「ゆ、ゆ、遊園地ッ!?

そ、そこも初めてなの!行ってみたかったから!!ほ、本当に良いの……!?

さっきからお金出してもらっちゃってるけど……出すよ?私」


嬉しそうな彼女に俺の口元も歪む。

こんな笑顔を見せられたら、お金なんてとんでもない。払うに払わせることはできない。それに、あの変態隊長のせいで女性に金を使わせることが反射的に出来ないのだ。



「お金のことは気にすんな。

……俺が全部払うからさ!

女に金遣わせるなんて男として最低だと思ってるんでね」


これは、新島の受け売り。

新島は組織内で言わずと知れた女好き。

女好きに女性が迫って行くことは普通であればあまり無いのだが、彼の格好良さに見惚れてしまう女性が多発し、一度に50人以上の女性とデートしたことがあるらしい。

その時も一度として女に金は使わせねえ!の一点張りで一円も使わせなかったという。


まぁ、本人からの言葉だし何と無く盛ってありそうな感じもするんだけれど。



「えぇ……悪いよ。

私の家、お金持ちだから沢山お金あるし! 」


「良いよ、お金払う代わりに楽しんでくれたら、それで! 」



俺がそんな臭い言葉を発した時、後ろから聞き覚えのある人物からの声が聞こえた。



「……オイオイ、夜十!

そんなクッセェ言葉吐くようになったってことは、変態長に似てきたんじゃねえか? 」


「……神城さん!

どうしてここに!?」


後ろを振り向くと、白いスーツ姿に白のズボン、白のハットを身に纏う全身白色の服装をした茶色に染まった髪を肩まで伸ばす男。

彼の瞳は茶色だが、何処と無く虚ろで吸い込まれてしまいそうになる。

スラリと伸びた長い手足と、少しだけ生えた顎髭から察するにダンディーなおじさんだ。



「……神城優吾(かみしろゆうご)!?

なんであんたがこんな有名な魔法師と?」


「あらぁ、そこに居るのは朝日奈家の次期当主と謳われる朝日奈燈火さんか。

夜十、良い女連れてんじゃねえか!

まさか!?彼女……?」


コクリと頷くと、身体を逸らしながら空に頭を向け、右手で顔を覆いながらーー



「マジかぁぁぁぁぁあ!!

あのクソガキがマセたもんだなぁぁぁ!」


と、絶叫した。

この人は41歳にして、未だに独身。

世界に名を残すレベルの魔法師なのだが、恋愛に関してトラウマが残るらしく、女を作ろうとしない。


「まぁ、あのクソガキも大人になったってことだな。

んじゃ、これから仕事だから!まったねー 」


「……はい!また後で連絡します!

聞きたいことがあるので……!」


「おう!」


彼はクルリと方向転換して、手の甲を見せるように振って、その場から消えて行った。


彼が去っていく姿から視線を外し、

朝日奈の方を向き直すと、

顔を赤らめて怒っているように見える。


え?なんで?なんかあった?

ーーと、疑問が残るがそれは次の言葉で理解出来た。


「……あんた、どこの組織に所属してたの?

まぁ、ずっとおかしいとは思ってたわよ!!一般生徒のくせに私に勝つなんて……あり得ないって! 」


「ごめん、それは……」


「言えないの!?

組織の秘密とかそういうのは良いじゃない!私達、付き合ってんのよ!?隠し事は無しって……うぅっ……」


彼女は泣き出してしまった。

でも、これは言えない……もし、言ってしまったら余計に悲しむ姿が目に見えているから。魔法師の家系じゃなければ、話していたかもしれない。


俺は申し訳なさそうに彼女の潤った瞳に視線を合わせ、深々と頭を下げた。



「ごめん……これだけは言えないんだ! 」



「……もういい!!なんでよっ!!

あんたのことなんか知らないっ……!!」


ベンチから立ち上がって、彼女は地面を蹴り、俺から逃げるかのように走り去っていった。



「ま、待ってくれ……」


ーー声が出ない。微かに出た声は虚空を切って、空気上で消滅する。


でも、本当に言えない。

六年前に起きた事件の影響で、俺の所属していた組織はーー全ての家系魔法師に恨まれることになった。勿論、それは朝日奈に関しても例外ではない。


だから、もし話せば嫌われる。

また、前のように話してくれることはきっと無くなってしまう。

俺の思考と身体は止まってしまった。


ーー恐怖に恐れ慄いて。



「はぁっ……はぁ、はぁ!!

わ、私……夜十に迷惑かけちゃった……! また後で、謝ろっ……!


……えッ?なにあれ? 」



ーー 泣きながら走り去った自分に苛立ちを覚えながら、彼女は目の前の光景に驚愕し、思わず立ち止まった。


静寂の中で黒マントを被る謎の影。

其れが危険なモノなのだと気づくのに長い時間は必要なかった。



「……モク、ヒョウ……サエジ、マ、ヤ、ト!アレハ……モ、クヒョウ、ジャナイ……ケド、コロ、ス……!!」


マントの下から見えるギョロリと動く虚ろな瞳は、眼球の瞳孔である部分が異色にも多かった。

機械音のような声で周りの静寂を打ち砕き、悍ましさをこの場に認めさせる。



「い、いや……いやぁぁぁぁぁぁ!!!」



グサッ!腹部を医療用のメスやら、包丁やらが集合した無数の鉾が貫いた。

そして、彼女の意識はーーー。


助けて……夜十……っーー。




ーー聞こえた。

彼女の悲鳴が、劈くように空気を裂く悲鳴が。

俺は無我夢中で速度を上げ、悲鳴のした方向へ向かう。何があった?

……まずいーー。



「はぁ、はぁっ……!!ッッ!! 」


午前中にあれだけのダメージを与えられて、纏に治してもらったが安静にするという約束を受けていたことを思い出した。

その理由は、一時的に新しい皮膚を生成して銃弾が捻じ込まれた時の傷口に蓋をしているらしい。

もし、過度な動きをすれば皮膚が剥がれ落ち、傷口が簡単に広がってしまうとのこと。



だがーー

その忠告を思い出した時には時すでに遅し、俺の両腕両足からは大量の血液が噴出した。



「ごぼっ……!!」


口からの吐血で、目の前が一瞬ボヤけた俺は立っていることさえままならなくなってしまった。ブレーキをかけることが出来なくなり、前のめりに倒れては顔を地面に擦ってブレーキをかける形となってしまった。



「くっ、くそ!!朝日奈がヤバいんだよ!

動け、動け、動けええええ!!」


だが、体は動かない。

もう限界が来ているのだ。連日で傷の修復が終わったとは言えど、流藤の時の戦いで負った傷もこの間塞がったばかり。

身体にガタが来ていてもおかしくはない。


「はぁっ……、はぁっ!!

ダメだ……朝日奈ぁぁぁああ!!」


灰色のコンクリートに緋色の血液を撒き散らしながら、赤く染まった上着を投げ捨てた。

白いシャツ一枚になると、全力を振り絞って立ち上がる。

あまりの必死さに歯を食いしばってギリギリという音を立てながら顔を歪めた。



「こんなところで……!!」


ゆっくりと一歩を踏み出す。

その度に溢れ出す血液と正気だったが、

俺は目の前に広がっている光景に思わず驚愕してしまった。


ーー地面に横たわる彼女の姿が見え、

腹部からは血液が漏れ出し、地面に丸く赤い血溜まりを作っている。


なっ、なんでっ……!?

朝日奈、朝日奈ぁぁぁぁぁあ!!


俺は心の中で絶叫した。

自分の身体が自分の物じゃないみたいに熱い、痛い。痛烈な痛みを抑えて、彼女の返り血に染まっている黒いマントの存在に声をかける。



「……な、なッッ!!

……お前がやったのか?」



「キュルルル……サエジ、マ、ヤ、ト!

ハッケ、ン、コレヨ、リ、セン、メツヲカイ、シ……スル!!」


どうやら、話をする気は無いらしい。

俺が目標だったかのように、俺を視界に捉えた瞬間、甲高い機械音声で速度を篭らせた突進をお見舞いしようと近づいてくる。



ーー掌に熱を引き出すイメージで、炎の剣を右手に具現化させると、速度が篭った突進を受け流して、相手との間合いを取った。



「キュルルル、アラキ、バノトキ、ノヨウ、ニハ……イカナ、イカ!!」


なっ、こいつが新木場さんを!?

なら、此奴が中型の人形アビスか!!


組織的にも個人的にも恨みが募り、俺は目の前が一瞬見えなくなった。

黒マントの異形は身体をウネウネと唸らせながら、また機械音声で言の葉を紡ぐ。



猛追してひたすらに突進を繰り返してくる異形の一度目の突進を華麗なステップで避け、くるりと回転しながら一刀両断ーー縦に剣を振り下ろした。

真っ二つに切断された異形の断面からは、血液ではなく黒い霧のようなものが外へ漏れ出している。


な、なんだ?

牽制の為に剣の矛先を異形に向けながら構えているが、ヤツの瞳孔は見開いたまま、ギョロリと俺の方を凝視する。



「キュルルル、キカナ、イ!!

コ、ノテイ、ド……!!」


黒い霧が断面と断面を繋ぎ合わせるように収束し、まるで斬られたことがないかのように完全な状態へ戻った。


嘘、だろ!?朝日奈……ッッ!!

まずい、これ以上時間はかけられない!

もし、生きているとしたら早く手当を!



「キュルルル、オンナノ、コトガ……キニナ、ルカ?ア、ンシン、シロ……コイ、ツハ、シンデ、ルゥ!キュルルルルルル!」



その異形は高らかに笑った。

俺は彼女を救えなかったことによる怒りと後悔に包まれる。目、目の前でまたーー。


ーーその時、異形の頭頂部に深く剣が刺さる。白い雪で具現化された剣を持ち、鋭い眼光でその人物は俺を睨みつけた。




「……キュル?」


痛みさえも感じない異形は首を傾げながら、ギョロリと大きい瞳孔を頭上の人物に向ける。黒く三本しかない指で突き刺さった剣の刀身を掴み、引き抜こうとする。



「オイ、夜十!

……女連れて逃げやがれ!安心しろ、女ならまだ死んでねぇ!早く手当を!」



ーーか、神城さんッ!?


「で、でも!!」


「今救える命があるなら救え!!

また、美香の時みたいに後悔するぞ!!」


ーーッ!!

其れは嫌だ……姉ちゃん!!


声にならない声で叫び、俺は血塗れの彼女を背中に負ぶる。

そして、学園へと凄まじい速度で向かった。



朝日奈っ……頼む、間に合ってくれ!!

公園から学園までの道のりはそう遠くはない。

学園の入り口を突っ切って、迷わず《平和派(ジャスティス)》の拠点へ突っ込んだ。

あまりの早さに玄関の扉をぶち破り、破壊音と轟音を鳴り響かせながら壁を突き破って静止した。

この走り方は一定距離を越えると、速度が倍に倍に積み重なることから、ブレーキが効かなくなるのが難点なのだ。



「な、なにごと!?」


侵入者だとでも思ったのだろうか、破壊された玄関に驚愕し、自分なりの強面で発明室の方から風見が駆け寄ってきた。

壁に当たった時に木片が頭に突き刺さって、頭から血を流し、既に満身創痍の俺に戸惑いながら、風見は纏先輩を呼んでくれた。



「か、風見先輩!

纏先輩を呼んでください!!早く!! 」


「え、夜十くん!?ちょっと待って!!

え、纏!?纏ぃぃぃ!!!!」



ーー数秒後。

纏先輩が到着し、朝日奈を療護室へ連れていった。俺の傷は取り敢えず包帯を巻いて欲しいとのことで、風見と店長に包帯を巻いてもらった。

現在は、風見と店長と一緒に発明室の床に腰を下ろして状況説明を行っている状態だ。




「……その異形ってのが致命傷を?」


「はい……俺がいけないんです。

隠し事をしてしまったのは……」



「その隠し事って?」



「い、言えませんよ……!!」



すると、俺を見つめる風見。

彼女の行為を見て、やれやれと首を傾げた店長は難しい顔をした。


何をしているのだろうか?という疑問に陥ったが彼女の言動で何をしていたかが、歴然として理解出来た。



「ふぅん、夜十君。

君は、そういうことだったんだねーー。 」


よく見ると、彼女の瞳にはエメラルド色の魔法陣が幾つも連なって発現されていた。

遅い回転を瞳の中で繰り広げる魔法陣は、時折、緋色の光を放つ。



「なっ、何してるんですか!?」



「君の中を覗かせてもらったんだよ。

こうでもしないと、どうせ教えてくれないだろう?」


なっ……!!

ということは今考えていたことが全て筒抜けに!?いや、全てか。

あれだけ大それた魔法陣が一堂に連なって構成された魔法だ、俺の全てを見抜く魔法で間違いが無さそうである。



「大丈夫。他言はしないよ。

私の《六神通(ろくじんずう)》は本来、仲間を守る為に使うことが許された技だ。

他人を傷つけるようなことはしないし、私が今使ったのは君を心配してのこと。


今、私が君について知らないことはない。

過去のことも含めてだ、知られてしまったことに関して気に病むんじゃないさ。

……私を信じてくれ ! 」


全てを勝手に知られた上に信じろ!とまで、

俺は彼女のことが信じられない。

今までの人物だったらば……の話だが。


うん、信じよう。

風見先輩は、きっと俺を良い方向に導いてくれる。

既に信頼などしきっているんだ。それに、能力のことも教えようと思っていたこと。



ーー風見先輩であれば信じられる


俺はゆっくりと、深々く、頷いた。



「ああ、信じてくれるか!!

強制的に酷いことをしてすまない……でも、こうするしかなかったんだ。今日覚えたことは全て忘れる、だから安心して私を頼ってくれ!」


忘れる?忘れられるわけがないだろう……。

疑問そうな表情をしていると風見はーー。



「ああ、《六神通》の中に忘却の術があるんだ。

私はそれで君の情報を前の状態まで忘れる!

これで良いだろう?今からは、その中型アビスとやらを殺すためにはどういう手段を取ればいいか、それから考えるよ? 」



「……はい!」


俺は大きい声を出して、風間に答えたのだった。







ーー静寂に包まれた公園。

黒いマントを被った異形を凍りつかせ、凍結させた神城は目の前に現れた禿げた老人に声をかけた。


「こいつぁ、やべえ奴だな。

新木場がやられるのも無理はねェよ!

なぁ、老人、お前が望むものは何だ?」



「私は《未完成(アンフ)》をこの世から消し去ることですかねえ。ほっほっほー、その為に邪魔な存在を消し去っているのです。

貴方方、廃れた組織から、ねぇ?」


神城が二本目の剣を発現させた時、

既に老人は空気に消えるように居なくなった。

そして、透き通るような声だけが聞こえてきた。



「冴島夜十、此奴から私は消し去ります。

全ては《(アビス)》の為に……」


再び、静寂に包まれた公園。

神城はオレンジに染まった夕焼けを眺め、強く願った。



"夜十、負けんなよ!

お前は「世界を守れる力」を持ってんだ!"


彼の願いはーー。

一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


早速ですが、次回予告でっす☆


幸せは突然に崩壊する。

彼女は自分の取った行動に後悔をーー。

夜十は直ぐに追わなかった自分に苛立ちと後悔をーー。

既に満身創痍の夜十に全てを見透かした風見が取った言動とはーー!?


次回もお楽しみに!


【その後】


「夜十くんのあんなことやそんなこと……見ちゃったじゃないか! 」


「あんなことや、そんなことって何ですか!

てか、さっさと忘れてください!」


「嫌だね、私はこういうのが大好きなのさ!

夜十君のアレの長さはーーッ!! 」


「な、なに言おうとしてるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!! 」


※調子に乗った風見は彼の渾身の拳に頬にお見舞いされてしまったのだった。



拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!

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