第三十二話 手合わせ
遅くなってすいません!
今日の朝六時に投稿しようと思ったら寝落ちてました。
ふと、暗夜を眩い陽光が闇に包まれていた街を照らした。
雲に隠れていたはずの太陽を見て、四時に起きてランニングをしていた俺は立ち止まって端末の電源を入れる。
時刻は五時半……。
約束の時間まで後一時間半あるけれど、身支度をするのには今頃戻るのが妥当だろう。
広大な敷地内を有しているこの学園は、ランニングの名所が嫌と言っていいほど存在していた。
最近まで忙しくて全然出来ていなかった筋トレとランニングを再開すると、身体に少しだけ余裕が戻ってきたような気がする。
俺は黙って来た道を戻り、本校舎の左側にある男性寮へ帰って行った。
ーー 一通りの身支度を終えて、鍵を閉め、寮室を出ると《平和派》の拠点へ向かった。
今日は朝日奈との初デートだ。
と言っても、午前中は手合わせの稽古が待っている。
廊下を歩いて教室を通過する、今日は誰も来ない教室は何故か新鮮で、窓から射し込む太陽の光が神々しく輝いているように見えた。
「冴島殿、おはようございます!
……今日も朝が冷えますかな? 」
立ち止まって教室を眺めていると、後ろから現れたのは《祈願派》の体験へ行った時の案内人をした老人だった。
「ああっ、おはようございます。
そ、そうですね……じゃあ、僕はこれで! 」
この老人と話をすると、前のように理性が壊れてしまうかもしれない。
今日に限って、それは避けたいものだ。
急ぐ様な素振りで老人から逃げ去った。
「ホッホッホ、分かりやすい逃げ方ですな。私は貴殿をいつでも見ているというのに 」
老人は空気に溶け込むように、その場から消滅する。何か良からぬことでも起こりそうな不吉な空気が流れ、静寂を打ち壊したような気がした。
ーー 拠点玄関前。
最初に来た時よりも破損部分が減っている、誰かが直しているのだろうか?
予想として直せるとすれば、店長先輩か。
この重労働は風見先輩には無理と踏んだ。
そう言えば、あの件から一度も顔を出せていないな。
結局、沖先輩を正規で救えなかった俺に合わせる顔などあるのだろうか。
いや、もうそんなことを考えるのはやめよう。朝日奈も言ってたじゃないか『皆、心配してるよ』って……!
深く息を吸い込み、続いて吐き出した。
大きな深呼吸で気持ちを入れ替えると、心構えを持って玄関の扉に手をかけた瞬間。
「おやおや、私の力量を舐めている小僧がいるな??」
後ろから二人の人物の気配を察知して、振り向くと風見と店長が並んで歩いてきていた。
風見は俺が考えいることを見抜き、ドヤ顔で声をかける。
心を入れ替えた瞬間に現れる二人。
俺はこの二人の先輩に礼と詫びを入れなければならない。それは自覚していたこと。
「あっ、……ま、前の件はありがとうございました!!
あの……」
「てんちょー、夜十君の顔殴って! 」
「オッケー、任せろ! 」
眉を細め、鋭い眼光で視線の中心に俺を捉える店長先輩。
正直、殴られる覚悟も責められる覚悟もしていた。だから、今更驚くこともない。
やるなら、一思いに殴ってください!
店長は俺に近くなり、拳を握りしめて肩の上に掲げる。
拳を振り下ろそうと、弓矢を引くように腕を後ろに引いた。
……く、来るッッ!
俺が身構えて目を瞑ると、
デコにコツンッと軽く拳が当たった。
恐る恐る目を開けると、彼の後ろで、のたうち回るほど爆笑している風見とニヤニヤしている店長が視界に入った。
「俺らは別に怒ってねーよ!
寧ろ、感謝してるくらいだ。あれだけの人数を一人で倒して、その上、回復しきった瞬間にあの現場に飛び込む勇気と根性、誰が責めるんだよ。
逆にお前を責めるような奴が現れたら、俺は真っ先にそっちを殴るねッ!! 」
拳を胸に収めた店長は、寛大な心で俺に接してくれた。
どうやら引き下がるしかないようだ。この人達は、俺を責める気なんて毛頭無くて、寧ろ再び受け入れようとしている。
「あ、ありがとうございます!!」
真っ直ぐな結託のない笑顔で彼らに返答する。朝日奈に沖先輩が無事だということを聞いた時は舞い上がって喜んだが、何よりも嬉しいのは二人の笑顔が消えなかったこと。
瞳から零れ落ちる涙を見て、店長は笑いながらこう言った。
「何泣いてんだよ、気持ち悪い!
さっさと入るぞ、バカ後輩!」
「……んん、はい!」
「夜十君は泣き虫だなぁ!
私は滅多に泣かないんだよ〜?」
風見の言葉を耳にすると、店長は夜十の耳元で囁いた。
「お前が力尽きて倒れた時、一番心配して涙を流してたのは彼奴だよ。
……笑って流してやれ! 」
俺は深く頷いて、風見先輩に向けて乾いた笑いを放った。
「あはははははははは!」
「あっ、今二人でなんか話したでしょ!?
何話したの、ねぇ、ねぇーー!」
必死に探ってくる風見を無視して、俺達は拠点の中へ笑顔で入っていった。
発明室を覗くと、早くも自ら発現させた剣で虚空を斬り刻み、空気に振動を与え続ける朝日奈の姿があった。
彼女は汗を掻いているようで、割と前々から来ていたことが分かる。
「あー、お前ら!
……まさか手合わせか?」
朝日奈の目が合って、口元を歪めた俺を見た店長は様子を察したのだろう。
こんな提案をしてきた。
「今日は、防御障壁の耐久テストを沖にやってもらう予定だったんだけど、二人が手合わせするなら好きに戦っていいからデータ取らせてくれない? 」
「……別に構わないですよ? 」
「よし!んじゃ、セットするから待っててくれ!」
机の上に置かれた多数のディスプレイを起動させて、キーボードを見事な光速タイピングで制しながらセッティングを始めた。
「あ、おはよう。
早かったんだね!」
「……おはよう。
うん。障壁を張るってことはぶっ放しても問題ないってことよね?」
ぶっ放す?とは?
前の巨大烏賊を攻撃した時の高火力技を使わないのであれば問題はなさそうだ。だが、たかが手合わせくらいで自分の切り札くらいの魔力消費がある魔法を淡々と使ってくることはあり得ない。
「はーい、んじゃ準備オッケーだよ!
その白い線の枠の中に入ってー」
店長に言われた通り、発明室に引かれた白い線の内側に二人で足を踏み入れる。
するとーー普段から水色の防御障壁で構成されている障壁の色が淡く濃い青色に変化した。
「防御魔法濃度、全体的に100%……維持問題無し。ここまでは順調!!」
一人で液晶を見つめながらブツブツと独り言を始めた店長を放っておいて、俺と朝日奈はお互いに右手に剣を持った。
「ここの数ヶ月であんたの力量は分かったわよ。大丈夫、あんたが私を見ているように私もあんたを見てたんだッ!
絶対に負けない……! 」
「嗚呼、《追憶の未来視》で試したいこともあるし、丁度いい!
全力で戦うまでだ!」
ーー戦闘開始。
今日は二人で決めた稽古を兼ねた手合わせということもあってか、スタートは言わなかった。風見の中途半端な合図よりも、無言で始まる方が良いとさえも思ったのだ。
先手必勝、朝日奈にとって勝負が長引けば長引くほど勝率が上がってくるのは明確なのだが、何故か早急に対処しようと、地面を蹴って一気に俺との間合いを詰め、鉾の刀身を伸ばした。
「はぁぁぁぁぁあああ!!」
腰を低く、重心を低くした状態で彼女の鉾をくるりと回転するように避けると、峰の部分に強く黒剣を振り下ろした。
ーーキンッ!
甲高い金属音が鳴り響くと、俺は彼女の剣へ牽制することに成功。
そのまま大きな隙を逃すことなく、黒剣へ体重を支えてもらう柱とし、渾身のドロップキックを肩にお見舞いしてやった。
「チッ……」
後ろへ肩を抑えながら後退するが、彼女はまだ折れていない。
真っ直ぐな闘志を写した瞳が燃え盛る炎のように滾っているのがわかる。
彼女は再び地面を蹴って間合いを詰め、先程とは違って刀を頭の上に掲げた。
振り下ろすつもりなのだろう。
また牽制して、次は左肩に拳を入れてやる。そうすれば、やがて剣を持てなくなるのは歴然。相手が攻撃出来ないような形に持っていければ、それほど良いことはない。
「それはもう喰らわないよッ! 」
「……どうかしらね?」
何か嫌な予感が通り過ぎた気がする。
だが、ここで彼女の剣を止めなければかなりのダメージを負うことになるだろう。
「……はぁッッ!」
上から振り下ろされた剣を避けて、剣が虚空を斬りながら地面に着いた瞬間。
彼女の剣を片足で抑え、拳を左肩に伸ばす。
この時ーー彼女は何故か笑っていた。
自分の罠に引っかかった兎を「ざまぁみろ」と嘲笑うかのように。
「……ありがとう、分かってたわよ!」
剣を手放して一歩下がれば、俺の拳が虚空を裂いて大きな隙を見せてしまう。
その間に彼女の掌には握られた形で炎の二丁拳銃が具現化された。
「……嘘だろッ!?」
小さな爆発音が何重にも鳴り響き、銃口から放たれた炎を纏う銃弾が凄まじい回転速度で俺の肉を抉ろうと向かってきた。
この体勢でこれを避ける術は流石に……。
ーーッッ!!いや、ある!
俺は黙って目を瞑った。
空気の振動と回転速度の音はもう頭の中に入っている。
そうだ、空間を把握し銃弾を"斬ればいいんだ"!
迫り来る銃弾の位置を特定する。
一発目は右肩、二発目は右足、三発目は左足、四発目は左肩。
発射された銃弾の位置特定完了……。
小さな数値が無数に俺の瞼の下にオレンジ色の発行した文字で蔓延る。
計算完了……!
《追憶の未来視》に異常なし。
ーー"視えた"!
左足を軸にして何とか踏ん張ると、足に痛みが走った。もしかすれば、捻ったかもしれない。
だが、このタイミングで痛みが走ったとしても俺は、やれるだけのことをやるしかない!
「はぁぁぁぁぁあああ!!」
黒剣で予測した位置に剣を伸ばす、次は斜め、縦、横、最後に弾く。
だがーー
俺の予測は完璧だったはずなのに、剣は虚空を斬って、銃弾全てが俺の肉を抉った。
「……なッッ!!
《追憶の未来視》が未来予測を外した!?」
両腕両足が燃えるように痛い、熱い。銃を撃たれれば、そういう効果があるのだと昔に聞いたことはあったが、これは炎の銃弾だ。
普通の銃弾の倍になる程、熱いし痛いのだろう。
立ち上がろうとするも、思わず地面に足をついてしまう。
体が思い通りに動かないのだ。
「……やっぱりね。
絶対反応はしてくると思ったわ 」
俺は目を見開き、彼女の周囲に浮遊しているモノに驚愕した。
無数に蔓延る炎の銃弾。
四発だけじゃなかったのか……?というよりも、宙に浮いている!?
「これは私の魔力で浮かせているから、私に絶対服従の銃弾なのよ。
これで終わりね……!」
炎を纏う銃弾だから、操作が可能なのか。
朝日奈、考えていやがる……《追憶の未来視》の最大の弱点を。
ーー彼女は自分の周りに飛んでいる無数の銃弾を俺へ放った。
回転速度を上げ、あらゆる角度から四方八方で撃ち殺す。
もし此れが当たれば死ぬであろう。
普通の手合わせで死にたくない……!!
「あっ、夜十君大丈夫だよ。
纏ちゃんが直してくれるから! 」
いや、そういう問題ではない!
この銃弾の攻撃を受けるのは相当なダメージを負い、さらには負けることになる。
それは避けたい……!!
そう願った俺が取った行動はーー!?
三十二話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
昨日の休暇ありがとうございました。
お陰でゆっくり休めました。
これから頑張ります!
今回は、朝日奈ちゃんのが一枚上手でしたね!!
それでは次回予告です!
猛追する無数の銃弾が夜十を襲う。
その時、夜十は目を開きながらとある行動を取ろうと決意した。
とある行動とはーー!?
次回もお楽しみに!!
【観戦組】
「やばっ、燈火ちゃん!
なんか蝿を従えているみたいだ!」
「風見、お前のせいでそういう風にしか視えなくなっちまったじゃねえか!!」
「知らないよ!いいから観戦続けよ!」
ーー数分後。
「ああ、銃弾に見えてきた。
良かった……!」
「蝿に見え……ッッ!?」
※いい加減にしろの拳が飛んできたことは誰にも言わない。 by 風見蓮
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




