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追憶のアビス  作者: ezelu
第1章 学園編《侍編》
31/220

第三十一話 約束

おはようございますー!

ーー翌朝。

五時に起床した俺は三日間もサボっていたせいなのか、この時間に起きるのが新鮮になっていた。

朝の身支度を済ませて、寮室を出た。


廊下に出た瞬間、ズボンのポケットに入れていた端末が小刻みな振動を与えてくる。

端末を取り出して、液晶をタップすると朝日奈からのチャットが来ていた。



燈火

『まだ来ないの……?

早く来てよ、遅い!』


遅いってまだ六時だぞ?

教室に人が集まる時間帯が七時半とか八時近くなのに、いつも朝日奈はどうしてそんなに早いんだ?教室に行ったら聞いてみよう。


夜十

『今出たから待ってて!

二秒以内にそっち行くから!』


端末をタップして文章を送信した直後ーー俺は廊下の床を蹴り、縮地法で教室に着いた。



「……二秒以内とか言って三秒経ってるわよバーカ!」


彼女は「おはよう」も言わずに、辛辣な言葉をかけてくる。

思わず、その言葉へ声を出した。


「……鬼かよ!!


あっ、気になってたんだけどさ。

朝日奈は何時に教室に来てるの?」



「えーっと……今日だったら、昨日あんたの部屋を夜の七時頃に出てから、一度部屋に戻ってお風呂と着替えを済ませた後〜だから、夜の八時半頃からだったかしら?」


はぁ……!?!?

……ってことは、寮室で寝てないの!?



「な、なんで!?

同居人関係でトラブル?」



「えーっと、《祈願派(プレア)》に所属してる人が同居人なんだけど、「アビス」のことを崇めているみたいで夜な夜なうるさいのよ。

私は静かな場所で寝たいから、ここで寝泊まりしてるってわけ!」



《祈願派》という言葉にピクっと反応してしまった。

前に体験へ行った時、そうとうな頭のおかしさを実感できたし、それと同時に殺意さえ湧いた派閥だ。


あの爺さん以外にも所属している奴ってのは居るんだな。

アビスという人類の最大の敵を神として扱ってる時点で異常なのに、変なことも言っていた。



「今の人間は《未完成》」


この言葉の意味は理解出来ない。

それに、理解する為には、世界を破壊し尽くすアビスを心の中で許さなければならないのだ。




「ちょっと、聞いてるの!?

……なんでぼーっとしてるのよ!」



「あっ、ごめん!!


じゃ、じゃあさ。

朝日奈、俺の部屋に来る?」


突拍子もなく、彼女が思わず赤面してしまうような恥ずかしい言葉を俺は口走っていた。



「はぁ!?

そ、そんなの出来るわけないじゃない!!」


「あぁ、そうか。

男性寮は女性厳禁だったな……」



「そういう問題じゃないわよ!

てか、あんたこそ同居人は!?」


机に身体を乗り出して、赤面しながら彼女は俺は問い詰める。

何を必死になっているのだろうか、別に一緒に寝るわけでもないし、ベッドは別々だぞ?




「俺は居ないよ。

だから、ベッド空いてるんだけど……」


「……ベッド空いてる!?」


朝日奈は思わず驚愕して、変な想像をしてしまった。

というのも、女性寮には二段ベッドがない。

大きなトリプルベッドが置かれており、そこに二人で寝るのだ。


昨日、夜十の寮室に入ったとは言えど玄関先まででリビングルームには足を踏み入れていない。



頭の中には、夜十がトリプルベッドに寝そべって笑顔で手招きをしてきている様子が流れる。

そして彼女は思わず、自分の前の席に座り、こちらの方に顔を向けて笑顔を絶やさない夜十へ平手の一撃を浴びせた。



「わ、私があんたと一緒に寝るわけないでしょ!!」



「へ……?」


俺は、突然なんのことなのか分からずに聞き返した。



「だぁかぁらぁ!!なんで、あんたが私と二人きりで寝ないといけないのよぉぉおお!」


時刻は六時半。

馬鹿で勘違い体質の久我がそろそろ来てもおかしくない時間帯だ。

俺は朝日奈の口を右手でふさいだ。



「勘違いされるから大声はやめろ!

……久我に聞かれたら面倒なことに!」


「もご、ふご!!」


何を言っているのかわからないが、彼女が何か勘違いしていることは分かる。

一緒に寝ないといけない?この言葉の意味を理解するのにそう多くの時間を消費することはなかった。





「あ、朝日奈。

男性寮は……二段ベッドだぞ?」



「え……?」


俺が考えていた彼女の勘違いしていたことと、見事に考えが一致したようだ。

彼女は自分が考えていたことを覆されたことでアホ丸出しの疑問の根をあげる。


そしてーー



「知ッ……知ってたわよ!!

……馬鹿にしないで!!」


やはり素直ではない。

それは出会って三秒くらいで分かったことだったが、慣れてしまった今でも不思議だなぁと疑問が残る。

絶対知らなかっただろ!と、俺が言うのも野暮なので言葉を胸元に押し込んだ。



「あっ!!そうだ、あんたに聞きたいことがあったのよ!」


彼女は思い出したように俺の瞳を見つめる。俺の黒い瞳と彼女の淡い桃色の瞳が交わった。



「明日、学校休みでしょ?

……明日とかって空いてたりする?」



「うん、空いてるよ。

なんかあるの?」


朝日奈は思った。

「こいつ……鈍感過ぎる。

なんで私が言わなきゃならないのよ!男なら察してほしい!!」


しかし、彼女の願いは当然のように届かない。

黙ってこちらを凝視している彼女にキョトンと首を横に傾け、疑問げな表情を浮かべる。




すると、再び顔を真っ赤にした彼女は深呼吸をして俺に言の葉を紡いだ。



「け、稽古がてらだけどね!

ちょっと出掛けたいなーって、学園の外に出てみない?」



俺は心の中で確信した。

そうか、これがデートの誘いというやつか。

生まれてこの方ムサイ、男に囲まれて、

修行しかやってこなかった俺にはそもそも女性と付き合うという行為さえ真新しいモノ。


それにプラスして新境地である。

「デート」というものを行おうというのだ。


男女が二人で楽しく和気藹々と話をしながら休日に買い物などをし、謳歌するイベントと新島から聞いている。

「デート」の定義なんぞに興味も無いが、あの変態野郎は聞いてもいないことをベラベラベラベラと話すのが好きなのだ。


この要らない知識もその時に付けられてしまったモノ。



「いいよ、午前中は稽古な。

……午後は?」



午前中は《平和派(ジャスティス)》拠点の発明室で手合わせの稽古を行うらしい。

そう言えば、一番最初の振り分け試験以来、彼女と一度も手合わせをしていない。


あの時は《追憶の未来視》が絶妙にハマって、早期決着に持っていくことができたが、手合わせの試合となれば話は別だ。

今度こそ負ける可能性だってある、だがそれは避けたい。どうせやるなら、また勝ちたい!

俺は、腐っても、性根から負けず嫌いだ。



「うーん、行きたいところがあるのよね。

あんた、《メテオバーガー》っていうお店行ったことある?


私は無いんだけど、行ってみたいのよ!」



《メテオバーガー》とは、

世界に有数の店舗を置いて、売り上げを伸ばし続ける屈指の人気店。

一番人気の看板メニュー《メテオバーガー》は、まるで隕石のような大きなハンバーグを強引にパンとパンで挟んでいる高カロリーのメニューだ。

定価は258円でかなり安、味は絶品で前に一度だけ食べたことがある。

口に入れた瞬間の肉汁の溢れ出し具合は、本店のキャッチコピーはナイアガラの滝のよう。肉厚と大きさはこの世界に幸せを運んでくれる隕石なのだとか。



だが普通に考えれば、隕石が落ちてくることによって幸せが生まれるか?

そのキャッチコピーは、割と本当にセンスをが感じられない。


前に一度食べたことがあるというのは、

ファストフード店で、

組織にいた頃、新島が差し入れとして買ってきた《メテオバーガー》のハンバーガーを食べたっていうだけだ。


何度も何度もリピーターとして行ったことはないし、直送お店に入った事もない。



それに、彼女はどうしてそんな場所へ?

朝日奈はお願いすればどんな高級料理店でも許されそうだけどな。美貌と家の名前で。



「どうして、そんなところへ?」



「いっ、一度も食べたことないのよ。

私の家は家から出ること自体がまず禁止だから……」



ーーまるで束縛ではないか。

これも一家の伝統を引き継ぐためのものなのだろう。だが、俺はこの時思い出した。


この世界で魔法を提唱し、KMCの魔法管理の為に功績を挙げた者達の一家は金持いで、広大な広さの家に住んでいるということを。


さすれば、家の外に出る必要もなく、

自分の魔法管理のために鍛錬を続けられるというものだ。

だから、彼女の魔法の精度は恐ろしく高いのかもしれない。



「嗚呼!

じゃあ、明日の午前七時頃に発明室な!

んじゃ、ちょい寝るわ……」


彼女と明日の予定について、一通りの予定を決め終わると、俺は机に突っ伏して腕に顔を埋めた。







ーーゴォォン、ゴォォン、ゴォォン。

と、低い鐘の音が鳴り響く頃、俺と朝日奈は仲良く深い眠りについていた。


HR中も寝ていたというのに、一時限目開始時もだ。

流石に、温厚で優しい夕霧でもこればかりはイラついたのだろうか。


朝日奈の方へは、優しく肩をトントンと叩いて起こしたがーー


「……痛"ッぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」


出席簿の角の部分を俺の脳天へぶち当てるように振り下ろした夕霧は怒り狂った様子で怒鳴り声を上げた。



「起きなさぁぁぁぁぁぁぁい!!」


今日も一時限目からうるさい日常が始まろうとしている。

もしこの場に流藤が居れば、速攻で端末にチャットが届いて。



流藤 賢祐

『ザマァwwww』


とか送られてきたに違いない。

案の定、クラスの中で一番幼いと思われる大馬鹿者からの通知で端末が振動したようだ。

液晶をタップしてチャットを開く。



くーがん

『ざまぁないね!

二人で仲良く添い寝?

……なんかしてるからだよ!』

※画像が添付されました。


そこには俺と朝日奈が机に突っ伏して睡眠している時の写真があった。

やれやれ、こいつも懲りないなぁ。


俺は黙って端末をそのまま電源ボタンとホームボタンを同時押しでスクリーンショットを起動させると、後ろで寝ぼけている彼女へ見せた。



夜十

『久我の終了のお知らせ。』



くーがん

『 はぁ!?お前ら仲良しかよ!

うわぁぁぁぁぁぁぁああああ!! 』



それからというもの、

一時限の授業が終わった瞬間に彼女の凄まじい蹴りが久我の顔面を捉え、クリーンヒットして空の彼方へ蹴り飛ばした。


これが世に言う、「因果応報」というやつだ。俺は心の中でそう考えたのだった。


三十一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今日は戦闘シーンが一切ないギャグ回でしたね。

では、次回予告ですっ!


今日は昨日取り決めた二人きりのデート!

ただ、午前中は手合わせの稽古がある!振り分け試験以来の彼女この手合わせに胸を昂らせた俺はーー!?


次回もお楽しみに!!



【メテオバーガー】


肉厚ジューシーなハンバーグから溢れ出るナイアガラの滝の如し、肉汁を堪能あれ!

まるで隕石!?

肉の大きさと肉厚は尋常ではない。


メテオバーガーの幸福運ぶ隕石を喰らうがいいわ!



拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!

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