第二十九話 紅い結末
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沖と流藤が戦っている頃、鳴神と朝日奈を除く《平和派》のメンバーはやっと流藤の寮室へ辿り着いた。
「はぁっ……はぁ、はぁ!!
あの二人速すぎだろ……!!」
「はぁ……ほ、本当だよ!
纏君、私のスタミナ回復してぇぇ!」
風見と店長は寮室の前で息を切らしながら、鮮やかな黄緑色の長髪に、綺麗な淡い緑色のエメラルドのような輝く瞳をした少年に声をかけた。
彼の容姿は男性にしてみれば、スラリとしていて、制服が男性用のズボンだから男性と分かるのだが、スカートを履いて仕舞えば違和感を感じないような綺麗な容姿をしている。
「あぁ、うるっせーな!
お前ら黙って、さっさと鳴神達を助けんだよ!」
自分の髪をワシャワシャと掻きながら、纏は真っ黒焦げの寮室へ足を踏み入れた。
鼻が曲がりそうな匂いに思わず噎せそうになる、窓ガラスが割れているので通気性が少しはいいかも知れない。
爆発時に比べれば匂いもマシになっているのだろうが、少しだけ気にはなる匂いだ。
「アレ……?
こいつは虹色吹雪じゃないか!
……まさかさっきの爆発は此奴と冴島夜十の一戦で出たものなのか!?
だとしたら辻褄があうな!
酷い怪我だ……高熱を帯びた爆発をモロに食らった上に爆風も浴びたんだろう。
……医者として見過ごせん! 」
纏は、床に転がっている虹色を発見すると、しゃがんで彼女の右腕を触れた。
「《治癒魔法》! 」
緑色の光が虹色を優しく包み込む。
するとーー熱で爛れてしまった皮膚、他に怪我していた場所が一瞬で皮膚に馴染むかのように消えた。
「よし!それじゃ、行こうか。
あー、地下なのな。風見と店長、降りれるか?」
彼は二人が戦闘向きでないことを心配して、声をかけた。
もしかすれば、運動神経が悪すぎて鉄の梯子も降りられないかもしれない。
「「降りれるわッ!」」
「ああ、そう。
んじゃ、先行ってるわ」
二人の叫びを軽く流して、鉄の梯子に手と足をかけると彼は下へ降りて行った。
「風見、先でいいよ!」
「いやっ、てんちょー、先行けよ!」
二人が冷や汗をかきながら譲り合いをしていると、後ろに居た轟音と小日向は黙って二人の横を通り過ぎ、下へ降りる。
その様子を目にした二人はーー
「ゆ、ゆっくり行こう!!」
「大丈夫だよ、下さえ見なければ!!」
風見と店長が降りられないのを知っていた纏は、下まで降りきると、近くで床に腰を下ろしている鳴神に声をかけた。
「オイ、鳴神!!
だ、大丈夫か!?」
「あ、纏ちゃん!
私は大丈夫だけど……纏ちゃんが乗ってる彼はヤバイと思う」
彼は「へ?」と言葉を漏らし、自分の足元に視線を落とした。
すると、黒髪の少年が酷い怪我で倒れているのが見える。
「ま、マジかよ!
ごめん……俺そんなに体重重くないから痛くなかっただろ!?
オイ!冴島夜十……!しっかりしやがれ!」
纏の呼びかけは彼には届いていない。
半開きの瞼からうっすらと見える瞳は虚ろになっていた。
ーー赤い月が浮かぶ世界。
気がつけば、俺はまたここに来ていた。
背中の痛みも消えて、目の前には誰も居ない。
そうだ。ここに来ると必ず、誰かの声が脳内響くのだった。
俺は、虚ろに呼びかけてみる。
「オイ、居るんだろ!?
お前は一体何者なんだ!?」
「ワ、ワタシハ……ネガイノジュウジカ……アウグリーオ。
アナタノウンメイヲ……シルモノデス!」
甲高い声で俺の質問に答えてくれた。
どうやら、声がするのは脳内ではなく身につけている十字架のアクセサリーからのようだ。
これは昔から付けている両親の形見であり、姉の形見でもある。
もう一つ、気になることを聞いてみる。
「ここは何処なんだ!?」
「ココハ……ネガイガツドウ……バショ!
モ、モウジカンデス……マタアイマショウ」
願いが集う場所?
どういうことだ?願いの十字架で願いを叶えた後に必ずと言っていいほど見る夢が為に、薄っすら気づいていたが意味が分からない。
「ま、待ってくれよ!
まだ聞きたいことは山ほどあるんだ!!」
「ネガイハ……ノコリ、八ツ……!」
赤い月が浮かぶ世界は、俺の視界から抹消された。そしてーー
「酷い怪我だけど大丈夫。
俺に治せない怪我は無いさ!
おっ?気がついたか?」
目の前には、黄緑色の髪の少年が俺の右腕を触りながら地面に腰を下ろしていた。
「俺は纏癒姫。
あっ、一応言っておくが俺は男だ!
……変な感情抱くなよ? 」
「……ま、纏先輩ですね。
よろしくお願いします……!」
彼が右手から発している緑色の光が俺を優しく包み込んで、見る見るうちに怪我という怪我を治癒していくのが分かった。
「両腕、両足、後は肋骨だな。
全部バッキバキだったから、治しておいたぞ。
ところで、背中の傷はどういう経緯でついたものなんだ?
なんというか十字架のように見えたが。」
俺は思わず目を見開いてしまうほど、驚愕した。背中の傷を見られた?!
まだ朝日奈にも教えていない、俺と組織の人間だけが知る謎の傷は、背中全体の面積を大きく占める十字架の形をした傷だ。
火傷痕でも切傷でも無い、組織内の医者に聞いても解明が出来なかったモノ。
これから先、誰にも教える予定はなかったことだ。だが、見られてしまっては教えない方がおかしいと思われてしまう。
俺が下を俯いて、瞳を虚ろにしていると、
纏はーー
「べーつに、言いたくなかったら言わなきゃいいんだよ。言いたい時になったら言ってくれ!俺は医者だ、お前の傷をもしかしたら治せるかもしれないだろ?」
「……はい、ありがとうございます。
あの……あっ、朝日奈は来てるんですか?」
いきなりガラリと話を変えたことで、目を丸くした纏だったが、先程、夜十よりも先に治癒した薔薇色の髪の少女を思い出して、自信ありげにこう言った。
「彼女なら大丈夫だよ!
君の前に治癒したから!」
「よ、良かった……!!」
辺りを見回すと、ピンク色の毛布に包まれてスヤスヤと眠っている彼女の姿が見えた。
やはり、俺を助けてくれたのは朝日奈だったか。
倒れてた瞬間に暖かい熱が俺を優しく包み込んでくれたような気がしたのだ。
怪我も治してくれたようだし、此処にいれば心配は要らない。
上体を起こして床に座り込むと先程から、
空気を裂いてお互いの拳を交える沖と流藤へ視線を移した。
「やるじゃねえか、青二才の割にはッ!!」
「うるせえッ!
そんなことよりも、お前は何故、家を滅ぼした!」
素早い身のこなしで沖の攻撃を華麗に避けながら、流藤は反撃の拳を沖の顔面へ放つ。
だがーー
「まさか、あの中に生き残りがいたとはなッ!
あぁん?お前、何も知らねぇのな!」
放たれた拳を避けながら、彼の右腕を強く引っ張り逆に拳をお見舞いした。
顔面に強い打撃が直で入ったことによって、彼の鼻から血液がポタポタと流れ始める。
「俺が家を滅ぼした?
家が俺を滅ぼそうとしやがったんだよ。
だから……返り討ちにした、それだけだ!」
鬼になっているとは言えど、沖の表情は尖ったように恐く、何処か哀しげに見えた。
鼻を手で覆って血液を止めながら、沖の言葉に驚愕する。
「ど、どういうことだッ!!」
「お前が何を思って……どういう気持ちで沖家の門下生になったのかは知らねぇが、俺はあの家のお荷物だった。
名家と呼ばれた家に一人でも弱い剣士が混じっていたとしたら、どうするか?
其奴を殺して居なかったことにして仕舞えばいい……。
あいつらはそういう考え方の人間だったんだよ!!」
哀しげに語る沖に文句の一つも出てこない。
流藤は思い出した。
毎日稽古に通っていた沖家のお屋敷の隅っこで、いつも竹刀を持って、一人、素振りを続けていた遼介のことを。
そして、誰よりも自分に優しくしてくれたことを。
「ああ、俺は何で思い出せなかったんだろう。
りょーすけ兄さん……!」
打ち解け始めた心。
彼の心は沖に対する敵対心は愚か、殺意までもが一瞬のうちに消えていこうとする。
だがーーそれを心の中の「何か」が遮ろうと現れる。
低く野太い声で溶け始めた流藤の心を凍結させようと、心の中から現れた「何か」は姿も露わにせずに流藤に命令を下した。
ーーお前は血に濡れた侍。
錆びた侍……あの憎き遼介を殺せ!!
我が一家を滅ぼした悪の《赤鬼》を潰せ!
お前の力なら出来るはずだ。
私の力を貸してやろう。
さあ、早く殺せ!!
「……全部騙されていたのか?
この俺に憑いた悪霊にッ……だとしたら、俺がりょー兄を殺す意味なんて無えッ!!
嫌だ、辞めろ、出ていけ!!
りょーすけ兄さんは悪くないじゃないか!!」
ーーそんなことはない。
悪いのは全てあいつだ。
彼奴が我々の邪魔をしたのだ。
さあ、さっさと殺せ!
お前にはそれが出来るんだよ。
何をしている、騙してなんかいないぞ。
彼奴のことを信じるな!!
流藤は頭を両手で抱えながら苦しみ始めた。
「うっ……がぁぁぁぁぁぁ!!
やめろ……出ていけ!りょーすけ兄ぃ、りょー……」
「……賢祐!!」
幼き頃に遼介を呼んでいた名前を必死に悶えながら叫ぶ流藤。
それに気がついた沖は応えようと、彼に駆け寄って、肩を揺さぶる。
「りょー……すけぇ?」
グサッ、という残酷な擬音が周りに響いて、沖はその場に膝をついた。
腹部からはあり得ないほどの血液が流れ、口内にも溢れんばかりの血液がこみ上げてきた。
「ごぶっ……!!」
大量の血を口から吐いて、蹲った。
突然のことで思考が追いつかない。
恐る恐る痛みを抑えながら、見上げると、そこにはーー
「……使えないクソガキだなぁ。というか遼介、良い男になったじゃないかぁ。昔からそうであれば良かったのになぁ! 」
目は虚ろに、眼球が黒く染まっている。
瞳孔は真っ白で、その姿はまるで異形。
沖はこの話し方に聞き覚えがあった。
自分を貶めて、一家全員で殺そうとしたその時代の沖家の当主、遼介の父親にして惨いことを平気で行う最低な男ーー沖遼次だ。
「でもでもぉ?あの頃のように家族も敵だと思うような警戒心は無くなってしまったようだねぇ!……さっさと死ね!!」
流藤の姿をした異形は、既に一度、腹を刺されて地面に膝をついている沖へ血液の付いた剣を振り下ろした。
噴出された血液はコンクリートを赤く汚して、
ボトリという重みのある肉が落ちる音と、剣がコンクリートと接触する際に生まれる軽い金属音が辺りに響いた。
「え……?」
流藤の中の異形は、振り下ろした自分の腕が"無い"事に気がついた。
そして、気がついた時には既に遅くーー彼の首元には冷たい刀身が突きつけられている。
「……流藤の身体を返せッ!!」
「ひっ……ぃぃぃぃぃいいい!!」
流藤の腕を斬り落とし、瞬時に背後に回って首に刃物を突きつけている俺ーー冴島夜十は、喉が張り裂けそうになる程の叫び声を上げた。
「……なんてなぁ?俺はこの身体に憑依してるだけの存在だッ!痛みこそ感じるが、お前はこいつの友達なんだろぉ?殺しちゃって良いのかぁ?なぁ、なぁ?良いのかぁ?」
再び黒い笑顔を振りまき始める異形は、俺の心をイラつかせた。
だがーー首元に突きつけた刃物を強く押し当てて、そのまま引くことは"出来ない"。
流藤は、俺を殺そうとさえした。
だけど、それは目的があって邪魔だったからだ!俺は……こいつを殺す理由なんてない!
この異形を流藤の中から取り除く方法は無いのか!?探せ!探せ!探せッッ!!
「……こ、ろせ。さ……冴島ァ……はや、くしろ!」
異形から一時的だが自我を取り戻した流藤は、
俺に最悪の手段を突きつけてきた。
「そ、そんなこと……ッッ!!……出来るわけねえだろ!!」
「お、おま……えならッ、良い……ッ!たの、む……」
瞳から涙を流し、彼は背後にいる俺の方へ真っ白い瞳孔を向ける。
俺も自然と涙が溢れていたーー流藤と過ごした少しだけの時間。それでも、それは退屈さえしない、楽しい時間だったんだ。
俺はお前とまたバカやりてえよ!
こんな形で終わりたくない!!
なぁ、流藤……!!
「冴島ッッ……もうもた、ない、!あ……そうだ、冴島、朝日、奈のこと守って……やれよ!」
瞬間。
彼の自我は消滅したように、異形へと変わった。
「やめろぉ、やめろぉ!俺はこの手で遼介をぉ!殺さないといけなぁい!嫌だぁ、ここまで積み上げてきたのにぃぃぃ! 」
俺は覚悟を決めて、流藤の首元に突きつけた刀身を強く引いた。
瞬間。吹き溢れる血飛沫は、コンクリートと俺を当たり前のように緋色に染めた。
魂を失った身体は機能しなくなり、赤い水溜りの上にバシャリという音を立てながら崩れ堕ちた。
「る、流藤……い、やだ……!!流藤、流藤ぉぉぉおおおおおおお!!!!」
俺の涙が混じった悲痛な叫びは、地下中に響き渡り、
流藤の中の異形は"沖を殺せなかった"悔しさに見舞われながら、ゆっくりと暗闇の中へ、溶け込むように消えたのだった。
二十九話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は流藤君死す。でした……!
何とも、人が死ぬ回は自分で書いてて泣いているものですからしんみりしますね。
さあ、ここで次回予告です(^^)!!
流藤を自分の手で殺してしまった夜十は、自分の信念が分からなくなり、寮室に引きこもってしまう。そこに薔薇色の少女が現れてーー!?
次回もお楽しみに!!
【死後の世界】
「ルトウ君、オイデオイデ!!」
「げっ……!!なんだよ、このクソデカイ烏賊は!!話しかけてんじゃねえよ、臭っ!」
※死後の世界で流藤君は巨大烏賊と仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




