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追憶のアビス  作者: ezelu
第1章 学園編《侍編》
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第二十七話 二度目の願い

文法などの修正はいたします故に、定期的にご指摘いただけると有難く存じます。

本校舎一年生男子寮で《平和派(ジャスティス)》拠点にまで届く程の爆発音が鳴り響いた。


「い、今の爆発音は何!?てんちょー、解析!」


「はいよ!」


カタカタとパソコンを使って爆発した場所に店長が発明した魔力小型探知機を向かわせる。小さなヘリコプターのラジコンを改造したもので、魔力を探知するとパソコンに自動で通知をくれる代物だ。



「……出たよ!!場所は一年生男子寮の106号室だ! 」


「そうか、こんな時にこんな爆発が起こるなんて不自然だ!そこであることは間違いない!よし、行くぞ!お前らぁ!」


《平和派》のメンバー全員は、男子寮へ向けて足を踏み出した。


仲間を救い出す為に!



風見の願いはーー「」






地下室で彼が目にした光景、それは120名の生徒全員が順番に沖の身体を拳で痛めつけている光景だったーー。


「なぁ、お前……俺ら《戦闘派(クルーウ)》を散々馬鹿にしてくれたなぁ?ここで死ねやぁッ!!」


ドスッ!という重低音が響き、

殴られる度に血反吐を吐く沖。


「ゲホッ……ゲホッ!

俺、はぁっ……自分を!見失わっ……ねェ!!」


必死に耐え凌ぎ、血眼になって理性を抑え続けている沖の表情は到底見ていられるものではなかった。




「ぐへへ、無様だな!オラァ、後50人くらい残ってんだ!こんなもんじゃ済まされねえ……ぞッ!」


次の拳が沖の腹部を捉えた瞬間ーー


既に満身創痍だというのにも関わらず、俺は身体を精一杯動かして拳を代わりに受けた。

腹部を襲う大打撃に俺の身体は悲鳴を上げ、地面に膝をついてしまう。



「ぐぁっ……!!」




すると、複数の生徒達は俺の存在に気がついて、ふと言葉を漏らした。

だが、殺気に満ち溢れた彼らが違う相手を殴ってしまったからといって、早々に止まることはない。

寧ろ、殺る気が増したように思えた。



「何だこいつ、紛れて来やがったぞ!! 」


「あっ、新入生で沖にボコられたやつじゃねえか!どうしたんだよこんなところで!」


「……偉いボロボロだなオイ、こいつもボコられてえってことか?」


沖は自分の目の前に飛び込んできた俺へ怒鳴り声を上げる。

まだそんな余力が残っていたのかと、少しだけ疑問に陥る程の大声を立てたのだ。



「……何してんだよッ!!僕は大丈夫だからッ……さっさと逃げろ!夜十君、このままでは君が死んでしまうんだぞ!?」


沖の言葉は俺の耳には響いてこなかった。

絶望的な状況なのは知っている、それに身体がもう持たないことも!


それでも……助ける為にはこうするしかなかったんだッ!!



「俺は目の前で二度と人を失わせないと心に、この命に誓っただけです……!!

貴方が大丈夫でも、貴方を心配している人達の心は張り裂けそうになるくらい辛いモノなんだッ!!だから、覚悟を決めて俺は貴方を護るッ!!」


この状況下で俺が取るべき最善の手立ては、アレしかない!


もう、身体が自分のものじゃないみたいだ。

思考も停止しそうになる……ならば、今ここでやれるだけの力を引き出せばいいッ!


コツコツと足音を立てながら、120名の生徒達の間から俺の前にやって来た流藤は高らかに笑った。



「興醒めだな……!ハハハハハッ!この人数に俺が入っていることを知ってて来たのか?まるで馬鹿だな!」


「流藤……俺はお前を止める!復讐するな!とは言わない。だが……俺は厄介な性分でね。大切な人だろうが、嫌いなやつだろうが……目の前で人が死んでいく姿を止めなきゃ気が済まねえんだ!」



「そうか……お前は良い友達だと思ってたんだけどな。俺の目的を邪魔するなら誰であろうと潰してやる。さあお前ら、やってやれ!」


背後にいる120名の生徒達に命じた流藤は、後ろの方は下がっていった。この人数あれば、俺が潰せるとでも思っているのか!?


彼らは武器を持ち、舌を舐めずりながら夜十を見下した。


この人数に飛び込むなど……"馬鹿"だと。


それでもやるしかない……!


俺は、制服の下に隠れている十字架のネックレスを取り出すと、握りしめて思いのままに叫んだ。




「……風見先輩が、店長先輩が悲しむんだ!沖先輩はそれだけ愛されている……過去を忘れろとは言う権利なんて無いけどせめて……絶望的な状況下で大丈夫なんて言うなッ!!

《この腐り切った世界に終焉を、十字架の光の下に、願いを叶えよッ!願いの十字架(アウグリーオ)!》」

この状況下を打破する為に……!


俺は……最強の矛(ハルバード)になるんだ!


突如、銀色の十字架のネックレスから放たれる光は、彼の願いをーー彼自身を包み込むかのように、世界を一変させる。


薄暗いコンクリートに囲まれた部屋を眩い一つの光が照らす。

光は壁に当たると複数の白い光へと分散され、徐々に俺の身体を纏う鎧へ具現化された。

銀色に輝く鎧の表面は剣の刀身と何ら変わらない鋭利さを持ち、俺の眼光は流藤を確実なまでに捉えた。



「夜十君……その姿は!?

君は魔法が使えないんじゃ……!」


「先輩、後で全部話します。

だから、今は!」


振り返ることもなく沖を諭すと、目の前の武器を持つ複数の相手を睨みつけた。



「かかれえええええええええ!!」


一度に複数の生徒らが俺に直進し、襲いかかってくる。


ならば、迎え撃とうか。

俺は今、矛!この身体で迎え撃ってやる!


複数のうち五人が前に出て同時に上や斜め、下などの四方八方から刀剣を当てようと振り上げた。

だが、この程度の相手であれば《追憶の未来視(リコレクション)》を使うまでもない。


彼らの攻撃を自分の動体視力だけに委ねた分析力で瞬時に剣の軌道を見極め、一歩後ろへ後退する。

そしてッーー目にも留まらぬ速度で五人の横を通り過ぎた。


残り百十五名!

腹を斬られながら宙を舞い、地面へ落ちていく五人の生徒。

彼らの末路を見届けている時間などない。


一気に決めるか!!


あの攻撃は異常なほど痛かった。

合計380発の斬撃を一堂に食らったのだから、当然といえば当然だ。


"沖先輩の力借ります!"



「ここからは俺の間合いだ。

……近づけば、お前らは斬られる!」


半径5m圏内は既に俺の領域(テリトリー)

空気をも切り裂く無数の斬撃が俺の間合い内には飛んでいる。

これに気づかず、近づいてくる馬鹿ばかりなようだーー迎え撃とうか。


「一年のガキが調子に乗んなよ!!」


パンッと乾いた音が何十にも聞こえ、生徒のうちの一人が拳銃で銃弾を放ったのが分かった。

凄まじい速度で回転し、空気を裂きながら貫き進もうとする銃弾は俺の鎧に当たった瞬間。


ーー粉々に砕け散った。


「なっ……どうなってやがる!!

なら、喰らえ!《炎の銃弾(ファイヤーバレット)》!」


拳銃を持った生徒は、魔力を流し込み爆風で吹き飛ぶのではないかというくらいの炎を纏った銃弾を放った。

さっきとは違うーー高速回転する炎を纏った銃弾だ。火力も少しは上がっているだろう。



だがーー


「残念だけど、

今俺は……最強の矛(ハルバード)なんだ。

俺の鎧を貫こうとするモノは非情にも必ず、真っ二つに斬られるんだよ!! 」


炎を纏った銃弾は音もなく消滅した。


「う、嘘だろ!」


戸惑い逃げようとした生徒が俺の背後に迫る巨大な槌を見て、ニィと口元を歪める。


「おりゃぁぁぁぁぁぁ!!」


直後、

巨大な槌を持った身長の高い生徒がピンポイントで俺の背中を殴りつけた。

だが……槌は音も無く真っ二つに斬れてしまった。


「言ったろ?効かねえよ、お前らの攻撃なんか! 」


「な、なんっだと……!?」


ニヤリと微笑み、男の腹部に精一杯の拳を叩きつけた。

彼の図体のでかさから吹っ飛ばされた時に巻き込む生徒の数は尋常ではなく、複数の生徒を巻き込みながら意識を手放した。



「オイ!どけ、この!のっぽ野郎!」


「クッソ、完全に伸びてやがる!

……邪魔なんだよ!」


それでも彼らは何とか抜け出して、必死に俺へ立ち向かってくる。

複数の接近班が突っ込み、

後ろから無数の矢を降り注がせるという複数であるが故にその利点を生かした連携攻撃!


普通の相手であれば即死モノの絶妙な連携だが……俺には効かない!



大方、流藤を除く115名の生徒全員が俺の無数の斬撃に触れたのではないかと思う頃。


ーー俺は立ち止まり、下を俯いた。

それを身体が限界を迎えたことで止まってしまったのだと相手は勘違いをしてくれた。

だが、それは否だ。


俺はまだ立ち止まることは出来ない。

この手で流藤を止めるまでは……!!



「貰ったぁぁぁ!!」


「限界でも来たかぁぁぁ!?」


「死ねええええええええ!!」



沖先輩の痛みを喰らうが良い!

お前らの汚い拳に屈しなかった先輩を讃えろ!



ーー《空気の刃(エアーキリング)


瞬間、通算1000回以上を超える無数の斬撃が115名の生徒全員を襲った。

何処から来る痛みなのかさえ分からずに、彼らは侵食されていくだけだ。


ーー痛みという糧に、辛さに。


制服を斬り刻み、腕や背中に生傷を残しながら彼らは容易なまでに意識を手放す。

当然だ、俺が食らった倍以上の数の斬撃を生身で食らってしまったのだから。




「沖先輩の痛みを思い知ったか!

馬鹿ども!このステージにお前らは要らないッ!」


一瞬で115名の生徒を斬り捨てた俺に、流藤は驚愕の表情を浮かべた。



「……ここまでやりやがるのかよ。

(つくづく)、化け物だな、お前……!」


「まあな……!!

……お前を死ぬ気で止めてやるよ!

その化け物の討伐準備は出来たか?」


眉を細め、納得していなさそうに狂気の表情を浮かべた流藤。

彼は精一杯の声で叫び声を上げ、戦闘準備を瞬時に整えた。


「まだ冗談も言えるくらい余裕が残ってんのかよ!あぁん?……言われなくても、俺がお前を屠ってやるよ冴島ァ!!」


く、来る……!!

流藤は地面を蹴り、俺との間合いを一瞬で詰めた。そして、腰と重心を入れた状態での拳を全力で俺の鎧へ叩きつける。


ここまでの行動を"地面を蹴った瞬間"に行ったのだから、到底、避けられるわけもない。

だが、今の俺は決して折れない最強の矛だ。


流藤の拳は俺の鎧に当たった瞬間、血液を噴出させた。

彼は鎧の硬さを知りたかったのだろうか、見極めに納得し、瞬時に後退する。



「成る程、こりゃあ硬いな!!

俺の一撃でも傷一つ付かねえとはーー」



「……絶対に負けない!! 」


彼の言葉を遮るように目の前に現れた俺は、拳を出すフェイクで相手が両腕をクロスさせてガードしようとしたのを見計らい、

すぐさま、横腹への回し蹴りに切り替えた。

これには反応出来まい!


思い通り、横腹に蹴りは入った。


手応えあり……!!

今ので確実に肋骨の数本は逝っただろう。

苦難の表情で痛みを耐えている彼に安息などさせない。

蹴りが当たった後、僅かに相手の重心が崩れたタイミングを逃すことなく、着地地点で足払いをかけた。



「なっ……!!」


絶妙なタイミングで放たれた足払いを避けることは絶対にできない。

彼は転倒し、尻餅をついてしまう。



「……これで終わりだッ! 」



拳を軽く握り、本気の拳をお見舞いしようとした瞬間だったーー


いつの間に流藤の右手に握られていた赤い刀剣が俺の鎧を切り裂いたのは。



「ぺっ……お前の負けだよ。

冴島っ……!俺の剣に触れちまったからな」



「なッ……!」


ドクンッ、ドクンッ!

ーーと、次第に鼓動が波打つ速度が高まったかと思えば、俺の銀色の鎧は空気に溶け込むように消えてしまった。


ーー時間切れ?

いや違う……今のはまるで剣によって魔法が消滅させられたような!!

おかしい……俺の魔法が強制的に終了された!?



「なっ、なぜ!?

……うぁぁぁぁぁあああ!!!」


何が起こったのかさえも分からないが、突如として背中に痛烈な痛みが走った。

前の時と同じだ……まるで、皮膚を強引に剥がされているような感覚。


地面に仰向けに倒れた俺は、背中に走る激痛を抑えながら床で悶え苦しむ。

不味い……このままでは意識が!!


ああ、こんなところで終わるのは嫌だ。

流藤を止められないなんて……!!



「……冴島、終わりだッ!! 」


彼はゆっくり立ち上がり、刀身の矛先を俺の首元に当てた。

尖った矛先が皮膚に触れるだけでチクリとした感覚が俺を苛むが、今はそれの倍以上にもなる異常な程のダメージが止まらない。

首元の痛みなど頭にもならないレベルだ。



「……俺に剣を持たせるとはな。

まあ、よく頑張ったんじゃないか?


一人で120名と虹色を倒したんだから。

上での爆発はそれだろ? 」



「うっ……ぐっ、ぁぁぁぁぁぁああ!!」



「……って、聞いてねえか。

それじゃな、冴島!!」


背中の痛みで血眼になった俺へ、流藤は容赦なく剣を振り下ろしたーー



瞬間。

高熱を帯びた剣が無数に流藤へ襲いかかる。

咄嗟のことで無意識にも後ろへ後退した彼は、飛んできた方向を凝視して薄ら笑いを浮かべた。



「なんだよ、朝日奈ァ!

やっぱり、お前ら出来てんじゃねェのか? 」



「最初からあんたは嫌いだったけど、最近はそうでもなかったわ。

でも……今は大嫌いよ!流藤!


《朝日奈の名の下に、焔を従え、神火の如きで敵を貫け!焔弁の爆炎花(アキメネス)!》 」


炎から具現化された無数の鉾は、流藤を貫かんと襲いかかる。

その速度は遅からずとも速からずーーだが、現在の流藤に追いつける速度ではなかった。



「……遅えよッ!!」


地面を蹴って一気に朝日奈との間合いを詰めながら、剣を全て避けた流藤は、赤い刀剣を振るう。

すぐさま、高熱を帯びた剣を具現化させると彼の剣へ刀身を重ねた。



「その程度の弱っちい剣じゃ俺の剣と交えることさえも許されないッ!」


彼の言葉通り、彼女の持っている剣は流藤の刀剣と交えた瞬間に粉々に砕け散ってしまった。




「それでも……!!

流藤、あんたは負けるわよ!


……鳴神先輩ッ!!」


「燈火ちゃん、夜十君は任せて!!」


鳴神は、自らの身体を雷に具現化させて、雷光の速度で夜十を鉄の梯子近くまで避難させた。

まだ、完全に回復しきってはいないようだ。

夜十を運んだ直後に膝をついて、梯子に掴まった。




「はぁっ……やっぱり、まだ無理だね。

燈火ちゃん、後少しで皆、着くから!!」



「分かってます!

それまでの時間稼ぎをすればいいんですよね!


流藤……あんたはこのッ!

平和派(ジャスティス)》の朝日奈燈火が食い止める!」


人と関わることさえも嫌がっていた彼女にとってみれば、この数日間は気持ちが大きく動いた数日だった。

そして、彼女を変えたのは間違いなく、

そこで横たわっている冴島夜十だ。


「いつも守ってもらってばかりじゃ、気が済まない!私はあんたを守り抜いてやるんだから!


流藤、観念しなさい!」


さあ、もう一度手に取るは炎の剣。


例え、何度、朽ち果てようとも……。


その真っ赤な闘志が折られることはない!


二十七話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


何と!一ヶ月経たないうちにブクマ50件達成です!ありがとうございますー!

これからもよろしくお願いします!!


それでは、次回予告ですーっ!


背中の傷に悶え苦しむ夜十を流藤から護ろうとする燈火!迫り来る流藤の剣戟から無事に夜十を守ることが出来るのかーー!?


次回もお楽しみにー!!


【出られた組】


「やったぁぁぁぁぁ!!少しだけだけど、出られたぁぁ!!

てかさ、夜十君の傷が完治してるのに私は完治してないっておかしくない!?

私だって流藤と戦いたい!!」


「鳴神先輩、少しは落ち着いてください!

私だって、鳴神先輩が居たら百人力ですけど仕方ないですよね?此処からは私の独壇場です!」


「……くぅぅぅ!!!

こういう時だけ嫌な後輩ぃぃぃ!!」


※燈火の黒い微笑みで苛ついた鳴神先輩なのでした。


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!

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