表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶のアビス  作者: ezelu
第1章 学園編《侍編》
26/220

第二十六話 満身創痍

誤字、脱字、文法がおかしいなどあれば是非ご指摘お願いします。

静寂漂う個室でキリストのように十字架へ吊るされた沖は、目の前に立つ少年を見つめる。この少年と最後に会ったのは何年前だろう。


流藤賢祐……此奴は僕の家の門下生だった。



「……流れていく時の中で俺はお前を憎んできた!!

何故だ!!何故、お前は家族を全員、惨殺しやがった!!答えろ、クソ野郎! 」


怒りの感情を露わにする流藤に沖は何も声をかけられなかった。


それは……自分にも分からないからだ。

あの日、あの場所で俺が殺ったと思われる行為の記憶はない。

あるのは血の付いた刀を握り、ツンとくる生臭さ、返り血を身に纏っていた僕自身を孤独にする静けさの記憶。



「何故って……そんなの分からない!!僕はあの日、自分が家族を滅ぼしたっていう記憶がないんだよ!!」


瞬間。

必死に流藤へ叫びかける沖に腹部への痛烈な打撃が走る。

流藤の拳はまるで、鋭利な矢のように突き刺さり、確実に沖の肋骨を粉砕した。

彼の拳の強さは、まさに速度の篭った重い一撃が根源にあるようで《無刀侍(むとうざむらい)》の本気の拳は龍を屠る力を持つと言われている程のモノだ。



「ぐっ……はぁっ!! 」


口から大量の血液を噴出し、冷たいコンクリートの床を赤く染める。

腹部を殴られたことで胃や腸にかかる負担は計り知れないモノ、思わず気分が悪くなり吐き気を催した。

涙と鼻水、血液でグシャグシャに歪んだ沖の顔を見て流藤は黒い笑いを浮かべた。



「ザマァねえな!お前が起こした過ちはそれだけ重いモノなんだよ!!虹色と獅子王を抑えて、剣術の名家で一番になるはずだった沖家を潰したお前はぁッ!!

……天に処されるべき存在だ!! 」



浴びせられる罵詈雑言の数々は、沖の心には響かなかったようだ。

ぺっ、と血反吐を床に吐きながら満身創痍にも関わらず、真剣な表情で流藤を睨みつけた。



「チッ、お前(・・)じゃ埒あかねえ!

まあ……鬼の姿になるように楽しい楽しいゲームをしようかなーって思ってさ。沖遼介に恨みを持った奴らを集めたんだが、ビックリしたよ。何でお前、120名の生徒に嫌われてんの? 」



コンクリートで出来た個室の扉が開き、薄暗い部屋に漂う静寂をまるで踏みつけて潰すかのように、大勢の生徒が駆け入ってきた。

沖は視界に現れた120名の生徒全員を覚えているはずがないが、大半の生徒は自分が返り討ちにした生徒達だと覚えていた。



「ふっ、無様だな。長きに渡り《平和派(ジャスティス)》の剣豪として仲間を守ってきたヤツが今ここで死ぬんだよ。俺は俺の復讐を遂げる!此奴らは各々(おのおの)の恨みを晴らす!俺達は最高のチームメイト……だろ? 」


「うぉぉぉおおおおおおおおおお!!!」


流藤の問いかけに120名の生徒は大きな声で武器を掲げながら叫んだ。



「お前はここで何も抵抗できずに死ぬ! 」


流藤の微笑みはどこまでも黒く冷徹だった。




ーー流藤の寮室に到着した夜十。

扉の形や色などの形状は俺の寮室と全く同じ。だが、何か違和感がある。生臭いような匂いと……!!


ドアノブを握り、扉を開くと下の方からーー

「うぉぉぉおおおおおおおおおお!!!」

という低く固まった叫び声が聞こえた。


部屋の中心には地下へと続く大穴が開いており、確実にここが沖を捕まえた場所であることは間違いが無さそうだ。


仲間を呼ぶか?

いや、呼ばないほうがいい。

俺が一人で戦って、沖先輩を救う!


ーーガチャンと扉を閉める音が聞こえると後ろを振り向いた。

すると、驚愕にも目を見開き、視線の中心で俺を射止める虹色吹雪の姿があった。



「もう追ってきたんだ。でも、無駄だよ!

君は私に勝てなければ、流藤にも勝てない!それに、下には120名の沖に恨みを持った生徒が居るんだ。

……一人で乗り込むなんて自殺願望でもあるの? 」



ひゃ、百二十名!?


それでも……俺がここで躊躇している暇はないんだ!

沖先輩を泣きながら待ってくれる人に、俺は今度こそ笑顔を振りまいて欲しい!!


目の前で人を失うなんてさせない!!

その悲しみをもう誰にも味合わせたくないッ!



「ふっ、さっき、私にぼろ負けしたのにまだ立ち向かうなんて、君は大馬鹿ものだね。でも、良いよ!相手になってあげる。 」


俺は黒剣を右手に携えて、彼女の瞳を見つめる。まずはどこへ来る?

俺が出来ることは最初から一つだと決まっているんだ……!!


ならば、それを実行すれば良い!!



「《追憶の未来視(リコレクション)》とやらは、使わせないよ。君が使える唯一の技はそれだけだよねぇ!? 」


彼女は俺に一つ勘違いをしてくれているようだった。まあ、外で一度も公表していない技だから勘違いしてしまうのは仕方がない。


それに、彼女のあの技。

使われる瞬間はいつも同じ条件が揃っていた時になっていた。

その条件は簡単に言えば分かるが、まだ完璧ではない。そこを調べ上げる必要性がある!



「かかってこないなら私が行っちゃうよ!」


狭い寮室の中で床を蹴り、刀身を俺に向けて振り下ろした。

だが、その一振りは俺に当たらずして虚空を切る。



「相変わらず、避けるのは上手いねー!」


彼女の怒涛の剣戟を華麗なステップで避け続ける俺へ賞賛の声が届いた。

しかし、俺の耳には届いていない。

彼女の動きを把握する上で不要な要素……「声」に関する情報の取得は一切、打ち切っているからだ。



「《追憶の未来視(リコレクション)》はさせないよう!!」


一気に速度と重みを切り替えて剣戟のスタイルチェンジを行ってくる。

こんなことが出来るのは、虹色家の現当主であり、類まれな才能を持ち、努力を重ねてきた天才であるからだ。


思わず重心を崩しそうになるが、ここで崩れては元も子もない。

今まで培ってきた情報が全てパーになってしまう。俺は必死に足が折れようとも踠いて、彼女の攻撃をひたすらに避け続けた。



「ああッ!!もう!!邪魔臭いんだよッ!! 」


疲労と苛立ちから段々と剣に綻びが出てきた。

当然だ。いくら天才といっても、人間であることの本質は変わらない。

感情や疲労感で自分の剣が万全の状態であれば余裕で届く相手でも、届かないようになってしまう場合があったりするのだ。


「申し訳ないが、虹色、お前の剣はもう把握完了だ……」


瞬発力の高さ、攻撃力、剣の重み、虚空を切った時の威力、太刀筋、音、空気の振動、剣が放たれる位置、角度、自分が今、回避行動を行っている中で掌握した情報を全てーー


一つの"未来"に複製する!!

頭の中で計算された数式はオレンジ色に光る文字で俺の瞳の上を凌駕する。


もう、俺が"視えない未来"など無い!



そして、瞳を閉じた。


この狭い空間内で迷わずあれだけの剣戟を振るえる相手だ……間違いなく剣では格上。

それでも、今相手が作り出してしまった綻びを俺が逃すと思うか?


ーーそれは否だ。

この勝機を簡単に逃すわけがない!



俺は、全力の横振りで彼女の顔面を捉えるように刀身を放つ。

これはしゃがんで避けられる……次だ!


俺の攻撃を避けた後に間合いに入ってから、頭から下まで剣を振り下ろす攻撃をしてくる……つまりこれは横に良ければ良い!


ーー回避成功。

避けることに成功し、相手が見せた大きな隙を逃すことなく、全力の蹴りをお見舞いした。

だが、腹部に直撃したことで後ろへ幾らか後退するが、彼女は台所に掴まって威力を最小限に抑える行動を取る。


先程から称賛してばかりいるが、自分と同い年の人間でここまで出来るとは中々、修羅の道をくぐってきた事は間違いがなさそうだ。


「いやぁ、良かったよ。

君と戦うなら狭いところでやりたかったんだ。そうでなければ、また固められてしまうからさ」


すると、彼女は驚愕した表情で俺を問い詰める。当然だ、ネタバラシされるとは思っていなかったのだから。


「まさかッ!わっ、私の!魔法を見抜いたの!? 」


「君の魔法は空間生成魔法だろ?その空間内では自分の思い通りになる。でも、狭すぎる場所では作れないみたいだな。君があの時、発明室に入った時点で空間は作られていたんだ。

その中に俺達は"入ってしまった"

どうやら、空間内に入れる為の条件が"相手が自分に攻撃する為に向かってくる"という風な設定にしてんだろうさ。

だから、俺と鳴神先輩は自分だけの時を止められたようにどうしても動けなかった。……そうだろ?」


まあ此れは俺が戦っていた時の違和感と拾った情報で作り上げた仮説なんだけど。

恐らく合ってると思われる。



「……正解だよ。あの戦闘の中でそれだけの答えが出せるなんて……!!恐るべき記憶力と計算力ね 」



「まあ俺は、君みたいに才能に恵まれていたわけでも無いから、教えてもらったことを忘れないよう、必死に憶して自分が強くなる為の方法を探していたからね。」



俺には魔法師としての才能がない。

だから、人一倍努力して、自分の能力をできる限りで見つけていくしかなかった。



「君は凄いなー。でも、私は才能だけじゃない。努力も沢山してきた、名家だからって女当主は舐められる!強さは必然的に必要不可欠なんだよ!私はあんたを…………はぁぁぁぁぁあ!!」


彼女は床を蹴って、自由自在の剣戟を続け様に放ちーー軌道を変えようと、拳や脚による物理攻撃も行ってくる!


その"未来"が見えた頃、

俺は次の攻撃で勝負を決めようとしていた。


横や縦、斜めに剣を自在に操り、俺の命を掠めとろうとする彼女の攻撃を重心の応用やステップなどの軽い身のこなしで避け続ける。



「全部予測されてるんだ。私の攻撃!なら、これで……どうだぁぁぁ!!」


彼女は殺気を凝縮した剣を俺に放ち、剣を手放す。それが明らかに囮であることが分かるのは《追憶の未来視》があるからだ。

もし無ければ、その完璧なフェイクに引っかかり、強烈な足技を後頭部に食らっていた。


全ての攻撃を回避したことの影響か、相手の疲労感と大きな隙は見逃す方が難しい代物へと成り果てる。



"朝日奈、もう一度俺に力を貸してくれ!"



「はぁぁぁぁぁあ!!!」


寮室の部屋を巻き込んだ大きな魔法ーー狭い位置でならより高火力を望めるだろう。

俺の放った魔法によって、部屋の床全体が高熱を帯び始めた。


「……なッ!!」


そしてーー《緋色の情熱花(アンスリューム)!》


床中から噴出する火柱が、彼女と共に俺を巻き込みながら爆発した。

部屋の中ということもあってか、爆発した瞬間に寮の部屋の窓ガラス及び、家具は粉々に砕け散った。扉は衝撃で外れてしまった。

部屋からは煙幕が立ち込め、魔法の威力を物語っている。


彼女が横で動かなくなっていることを頬を叩くなどして、確認する。

動かないことを確認すれば、完全に気絶していることが分かった。


「ごめん、もう少しッ!……寝ていてくれ。

多分ッ……はぁっ……今の爆発で…人が来るはずだ! 」


俺の声は届いていないだろう。

だが、彼女を医務室に連れて行ってやるだけの力も時間も俺には残されていない。



視線を外すと、部屋から立ち込める煙幕で咳き込んだ。


「ケホケホッ!朝日奈の魔法、こんなにも高火力だったのか。振り分け試験の時、当たってたら死亡モノだったな……!!」


頭からは血液が垂れ、彼女の攻撃を避けていながらも少しの擦り傷はあった。その部分からの少しの出血で制服に血が滲む。


既に満身創痍な状態を超えているのか、足がふらついて目眩がした。

近くの壁に手をついて、なんとか身を落ち着かせる。

今倒れたらさぞ気持ちがいいのかもしれない。楽になる。けれど……!!




それでも……今は倒れることが出来ない!

沖先輩を救わなきゃ……!!


地下に続く穴を覗き込むと、鉄で出来た梯子があった。これを使って降りるしかないな。

下に地面が見えるが、この位置からだとかなりの高さはある。

もし、落ちれば今度こそ立てなくなってしまいそうだ。



「はぁっ……はぁっ……!!」


なんとか慎重に下まで降りると、目の前に広がっていた光景はーー!!












二十六話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


またブクマが増えました!ありがとうございます!後少しで50件!!


次回予告入りまーっす!


虹色吹雪を倒した時点で既に満身創痍な夜十!地下に降りた彼が目にした驚愕の光景とはーー!?

遂に《平和派》が始動ッ!?


次回もお楽しみにー!


【出番無い組】


「燈火ちゃん、私……このお話で最初にボコられてから一度も登場させてもらえてない!

夜十君、出過ぎじゃない!?」


「鳴神先輩はいいじゃないですか!

私なんて……夜十に心配の声かけただけだけですよ!?夜十出過ぎー!」


ーーその頃、夜十。


「うっ……寒気が!!」


※この後、殺気も感じて怖かったらしい。




拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ