第二十二話 助っ人
2017/08/26 文法の修正を致しました。
ーー翌日。
早くも教室に着き、自分の席に座って机の上に広げた腕へ顔を埋める。
今日は朝日奈が早く来ていないようだ、珍しい。いつもであれば、俺の後ろで寝息を立てながら寝ているというのに。
そう言えば、昨日、銀と新島と別れた後からずっと考えていたことがある。
それはーー沖遼介について。
現時点で俺の持っている沖先輩の情報はとても少ない。俺が倒れた後に銀と戦って、鬼を出したと聞いたが、
実際のところ目にしてはいないのである。
朝日奈から後々聞いた話では、鬼になった状態で放った回数一回分の魔法を抑えるのに、防御障壁のエネルギーを一つの場所に収束させたらしい。
その規模の魔法が撃てる侍というのも、銀の話を聞いているだけで珍しいと思われる。
やはり、幾ら推測しても無駄か。
このままの足りない情報からいろいろな推測を上げていっても、それが事実に繋がることはない。有力な情報から事実を思考錯誤して知りえるのが一番有力な方法だ。
この件は少しだけ興味があるので、色々と調べてみよう。
ーーそう思って目を瞑り直した直後。
俺の肩に大打撃が入った。
「……はぁっ!?」
飛び上がるように跳ね起きた俺を目の前で笑っている少年ーー流藤。
人が気持ちよく寝ようとしている時に睡眠妨害とか、舐めてんのか?
だが、彼は俺の怒りなどまるで無視するように笑顔で、次の瞬間には俺へ頼みごとをしてきた。
「毎日早朝に学校へ来て、朝日奈さんとの添い寝?を楽しむ夜十君よ!
お願いがあるんだが、聞いてくれないか?
……うぉっ!?今日は恋人居ないの?」
「はぁ!?
恋人じゃねえよ!!肩への大打撃と早朝からのdisりで、心の優しい俺はお前のお願いを聞く気になれなくなってしまったー!
……ドントマインド!」
ぷいっ!とそっぽを向くと、
彼は俺の視線を先読みし、目の前に現れて、必死に拝んでくる。
「頼むよ、俺とお前の中じゃないか!!」
このままでは、面倒臭そうな展開になっていくような気がしたので、彼のお願いを聞いてあげることにした。
当然、内容次第では殺しにかかる場合があることは否めない。
「今日の放課後、3on3のバスケの試合があるんだ!一人足りないんだけど、夜十どう!?」
「割とマトモなお願いだった……」
「マトモじゃないと思ってたのかよ、そこまで俺の信頼低い!?」
バスケットボールの助っ人をやってほしいという話だったが、何故俺なんだ?
流藤はクラスの中で中立的な立ち位置になっているので、俺や朝日奈のようにクラスメイトとあまり関わらないタイプとは違う。
友達も大勢いるはずだ。
「何で俺?」
「お前の身体測定の結果を聞いてな。
マジでバケモンだと思ったから声をかけたまでよ!で、どう?」
どう?と言われても、バスケのルールまでは何となく分かるが何せやったことがないのだ。ど素人だが大丈夫なのか?
強い選手であれば、相手が身体能力で上回って来たとしても技術でねじ伏せてしまうだろう。
「大丈夫だって!!
お前の身体能力を超えられるやつなんか、敵にいねえから!あっ、でも俺らの学年でヤバイ奴が相手に一人いる!」
次に流藤が発した名前は、昨日聞いたばかりで忘れることなど万に一つもあり得ない名前だった。
「虹色吹雪っていうのが居てな。剣の名家の一つ、虹色の現当主だ!」
虹色家の現当主が俺と同じ年齢!?
満を辞して告げた流藤は神妙な面持ちで続けた。
「こいつが只者じゃないんだよ。
俺が入った派閥は《戦闘派》なんだが、《戦闘派》にある小隊で《侍》ってのがある。
その《侍》二十五名を一人で斬り捨てた女だ!」
女!?話を聞いている限りでは男臭があり、現当主で名家の出となれば、現当主が女の子で十代という話は果てしなく珍しいことだ。
「その虹色とバスケで戦うってことか?」
「そういうことだ!物分かりが良くて助かる!」
まあ、剣で有名な人物だったとしても必ずバスケが出来るとは限らない。
相手も数合わせに呼ばれたのだろう、ここは剣の名家の現役当主との交流も含めて協力するか。
「んで、どう?」
俺は彼の問いかけに真っ直ぐ頷いた。
その瞬間に、瞳から溢れて額へ流れる涙に俺は困惑した。
ちょっとしたお願い聞いただけだよ!?
流藤、大袈裟だってば!!
「流藤、流石に大袈裟だよ!
そんなに約束拒まれたの?!」
冗漫のつもりで言ったが、当の本人は深々と頷いた。
まあ、でもそうか。
《平和派》に所属しているので基本、放課後は暇だが、
他の派閥は突然の召集がかかったりするから迂闊に予定を入れておけないらしい。
幾ら友達のお願いだったとしても、恐らく優先対象は間違いなく派閥側だろう。
……何とも冷たい世界である。
「そう言えば!!流藤は《戦闘派》に所属しているのに何で召集のことを気にせずに予定が入れられるんだ?」
「それは言えない……。
それに冴島、知らなくて良いこともあるよ」
いつの間にか泣き止んでいた彼は、真顔で俺を静止させた。
今の一言だけで感じられた空気の振動から推測できる魔力の昂ぶりで予想するに、
今まで考えたことさえなかったが流藤はもしかしたら凄く強いのかもしれない。
完全に相手の気迫に押されてしまった、これ以上は問い詰めれないな。
次回にしよう。と、腹の中で決めた瞬間、低く響きやすい鐘の音が学園中に響き渡った。
ーーゴォォン、ゴォォン、ゴォォンッッ!!
話に夢中になっていたせいか、クラスメイト全員の出席が視界を過ぎった。
今日の朝は遅かったが、朝日奈も後ろに座って寝ているようだ。
「取り敢えず、放課後また声かけるわ!
んじゃ、授業頑張ろうぜ!」
さっきとは打って変わって、テンションが高くなった流藤は笑顔でグッドサインをしながら、そう告げると自分の席へ帰っていった。
今日の一時限目は、魔法史か。
魔法で紡がれた歴史を紐解く授業だけれど、もうすでに今まで起こった歴史上の事件等は頭の中に憶しているので聞く必要さえない。
俺は机の上に突っ伏して、寝る準備に入った。
ーー時は過ぎて、放課後。
特にいつもと変わらない日常で安堵していた俺は、流藤の席へ向かった。
「オイ、流藤!
……行くのか?」
声をかけると、彼は笑顔でこう答えた。
「おう、ちょっと待ってろ!
あっ、場所はアリーナだから先に行っててもいいぞ!!」
じゃあ、そうさせてもらおう。
教室を出て、アリーナへ直で向かう。本校舎の下駄箱脇にある通路口からアリーナへ渡れる渡り廊下が存在するので直で行けるのだ。
ーーアリーナ到着後。
既に俺と流藤を除く四人のメンバーがアリーナ前に集まっていた。
「すいませーん!
流藤君に誘われたものなんですが!」
俺の声に気がつき、小さな体をした少女はくるりと後ろを振り返った。
短い白に近い銀髪に、翡翠色の瞳は見開かれ、俺を視界に入れたことで更に大きくなった気がした。
制服に身を包んだ腕から足にかけてまでの程良い筋肉を付けた肢体を黒ニーソで隠している。
だが、所々から見える皮膚の色は淡く白く、雪の妖精のようだった。
まだ四月真っ只中だというのに、彼女を一目見るだけで今が十二月だと勘違いしてもおかしくはないーーそれほど綺麗な少女だった。
「流藤君の助っ人かな?」
小さな桃色の唇から発せられた声は、女の子らしい高めの可愛い声をしている。
俺は彼女の問いかけに、深々と頷く。
ーーそのタイミングでアリーナへ流藤が大声を出しながら走ってきた。
「待たせたなぁぁああああ!!」
待って貰っていた立場なのになんて横暴な台詞なんだ。俺を含めた六人は、防御障壁が備わっていない通常のアリーナへ足を踏み入れる。
どこの学校にもありそうなバスケットゴールが完備され、コートのハーフライン中心には一つのバスケットボールが置かれていた。
「さあ、今日の試合で負けたら、
私と正式な決闘をしてもらうよ!流藤!」
え?決闘?
そう言えば、何のための試合をするのか聞いていなかった。
困惑した表情でキョトンとしていると、それを見兼ねた虹色が答えを言ってくれた。
「私は流藤と決闘がしたいんだけど、こいつは全然承諾してくれなくてさー。
この間、誘った時に「俺の得意なもので俺に勝ったらいいぜ!」って言ってきたから、バスケの試合で決めることになったんだー」
なんて薄情な奴なんだ、流藤。
俺はお前を軽蔑するぞ……!!
「……審判はどうするの?」
俺の問いかけに、三名のモブの内の一人が掌を床につけて詠唱を唱え始めた。
「《我に従え、泥人形!!》」
すると、地面から這い出るように泥人形が一体出てきて、普通の人間の容姿に変わった。
生成系魔法の一つらしい。
「じゃあ、試合開始ー!二本先取!
先行はもらうよ、流藤ー!」
ジャンプボールから始めるのが野暮なので、対戦を申し込んできた虹色に先行を譲ると流藤の表情は真剣になった。
そもそもどう動けばいいんだ?
バスケのルールは確か、
ボールを持ちながら二歩以上動いてはいけないーーのと、
ボールを突いて、一度持ったボールをまた突いてはいけないっていうルールに気をつければいいかな?
トラベリングとダブルドリブルである。
「じゃあ、いっくよー!」
ハーフライン中心からボールを突いて、目の前に立つ流藤を抜こうと試みる少女。
静止状態から一瞬で加速し、相手が後ろへ後退したことを見計らって、ジャンプシュートを放った。
まるで素人とは思えないほどの綺麗なフォームから放たれるシュートは放物線を描くようにリングとネットへ一度も擦ることなく入った。
スリーポイントラインを超えていなかったので、コレは三点になる。
だが、二本先取のルール場では意味をなさない得点だ。
0 対 1
エンドラインからスローインでボールを得た流藤は俺に小声でーー
「この距離なら一秒かからねえだろ?
先に走っとけ!ボールは投げる!」
「あいよ!」
言われるがままに地面を蹴って両足のタイミングを同時に行うーー俺は直ぐに相手側のエンドラインの近くのゴールに近い場所へ現れた。
「おらぉぁぁ!!!」
俺が出現したことを目視した流藤は全力のパスを俺へ放つ。綺麗な軌道を描いて俺は飛んでくるパスには微妙な回転がかけられている。
「いっ、いつの間にそんなところへ!?
さっきまで流藤のそばにいたのに!」
驚愕した彼女は、俺の元へ必死に走ろうとするが時既に遅し、ボールは俺の手中に収められ、ゴールめがけて素人なりのシュートを放った。
虹色と比べたら圧倒的に汚いフォームだが、奇跡かマグレなのか。
ボールはリングに当たって跳ね返りながらも、ゴールの中へ入っていった。
1 対 1
「よっしゃぁぁあああ!!」
試合の中でシュートを決めたことが予想以上に嬉しかったのか絶叫した俺。
その姿を笑顔で見定める流藤は、
スローインで始まった虹色の猛攻を一瞬で見切ってしまった。
案の定、あと一点で負けという恐ろしさからくる焦りだ。
相手メンバーの一人が確実に虹色へボールを集めたかったのだろう。
現役選手でも難しいパスになってしまう場所から虹色に放ってしまった。
ーー相手が出した綻びを逃がすわけがない。
ボールを空中で受け取った流藤は、そのまま空中の上を歩いて、真上からゴールに叩き込んだ。
2 対 1
勝者、流藤チーム!
「試合終了だな!!
んじゃ、虹色!!決闘はお預けだな!」
いつも笑顔でニコニコしている流藤の表情は、少しだけ違った。
冷徹な瞳に映されたモノは恐らく何もない。虚ろな瞳そのものだ。
「冴島、ありがとな!
もう終わったから帰っていいぞ!」
俺に礼を告げて、彼はアリーナから去っていった。
アリーナには勝負に負けた虹色が悲しそうな表情をしていた。
彼女は俺の視線に気がついたのか、静寂に包まれた
「……冴島夜十君よね。《平和派》の!
また近いうちに会うことになるでしょうけど、その時は容赦してね」
それだけ言い残して、四人のメンバーはアリーナから去っていった。
近いうちに会う?何故?
今日の朝の流藤の様子もおかしかったし、これから何が始まろうとしているんだ?
雪のように凍てついた空気は尖り、アリーナを忽ち侵食していっているようだった。
その空気を後にして俺は疑問が残るまま、
上の空で夕暮れの赤い空を見つめながら、寮室へ帰って行ったのだった。
二十二話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
遂に第一目標の200ptを一ヶ月経たないうちに達成しました!ありがとうございますー!
引き続き、「追憶のアビス」をよろしくお願いします!
次回から《侍編》に入っていく形となっていきます。シリアスになるのは幾らか先ですので、
ギャグ要素も含みながら《侍編》に入っていきたいと思います!
次回は、え?鳴神先輩と決闘!?
次回も是非、お楽しみに!!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




