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追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《強襲編》
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第二百十九話 ローズの最期

 「あの時のこと、一度だって忘れたことはない。アンタにとっては変えが効く奴隷だったかもしれないけど、私にはたった一人の家族だった! 」

「……どの時のことか、俺にはさっぱりだな。 」

ソロモンは退屈そうにロゼを見下した。

「俺に大層恨みがあるようだが、そんなことは俺には関係ない。何故なら、どんな魔術師も俺の前では敵ではなーーッ!? 」

ソロモンの言葉が止まった。

自身の胸部を驚いた様子で見つめる。


「な、なッッ……なんだこれは……!! 」

ドンドンと、ソロモンの胸部の心臓が破裂しそうなほどの大きな鼓動が響く。

「まさか、これは……ッ!? 」

バキバキと地面が割れる、ヒビが割れるような乾いた音が響き、ソロモンは痛烈な声を上げた。

「ぐッ……ぁああ!!これは……久しく感じ難い痛み?! 」

「私の怨念はお前を内部から破壊する。そして、これは決して治癒できない! 」

ロゼの発言通り、ソロモンは口から血を吐いた。パキパキと連続した音を出しながら、彼の腹部が、彼の腕が地面に入るヒビのように割れ始めている。

「これはまずい……! 」

ソロモンは思わず、上の服を脱ぎ捨てる。

顕になった真っ白い肌の引き締まった肉体、ソロモンの胸部、心臓が位置する場所からピキピキとヒビが入っていた。


「……まさかここまでとは! 」

蹲り、地面に手をついた。

魔術師の祖と謳われ、誰にも屈したことのないソロモンがロゼの怨念に敗北を経験しそうになっている。

それはソロモンにとって、かなり虫の居どころが悪い話であった。

「……ふっ、はははははははは!!俺は魔術師の王、この程度の魔力じゃ死ぬことはない! 」


久々に感じた、その緊張感がソロモンを倍に倍にと強くさせてしまったようだ。

おまけに絶対的な自信も相まって、回復するまでの速度が尋常ではなかった。


みるみるうちに亀裂が肌に溶け込むように消え、ソロモンは自分の拳を見つめて、開いたり閉じたりしている。

「ロゼ、貴様の怨念とやらはどうやら、ここまでのようだな。 」

だが、ロゼの表情は変わらない。

まるでここまでの展開を読み切っていたかのようだ。


「たった一度の傷も、そう大きくなんかなくたって、もう一度同じ場所を痛めれば広がっていく!アンタには分かるわけないけどね! 」

ロゼがそう言い放った直後、治癒魔法で修復しかけていたソロモンの身体に異変が生じる。


「……ッ!?ど、どういうことだ!? 」

完全に魔法を理解し、身体を適応させたはず。自身の圧倒的な魔力で治癒し、修復したはずーーなのに、胸部から皮膚がポロポロと崩れ落ち、巨大なヒビ割れが拡がる。


「それほどまでに私のアンタに対する憎しみが重いってこと。何も私の母親のことだけじゃない!cartilに所属してるのはアンタに家族を、故郷を破壊された魔術師ばかりだ!その全ての憎しみは私が背負ってるんだ! 」


ロゼは痛みに苦しむソロモンを見て、怒りを散らす。

「そんな痛みなんか、傷なんか、アンタが全身に負ったとして、二度と動けない体になったとしても足りない!四魔術師制度を確立させるにはどれだけの犠牲が必要だったか! 」

「……くっ、言わせておけば!俺がお前達を作ったのだ!その秩序をどうしようが、命をどうしようが、俺の勝手だろう? 」

ソロモンにロゼの言葉は響かない。

その圧倒的な魔力の力で、生命を築き上げた、実際のところ、魔力の神に近しい存在が、自分よりも下等だと思った相手の言葉に聞く耳を持つはずがなかった。


「話にならないね。……まあいいよ。その痛みは二度と消えないから!」

ロゼはしてやったりな表情で空を見上げる。

「さて、私も行こうかな。同胞の元へ。 」

「……こんなことをして、故郷も家族もどうなるかわからんぞ! 」

怒りに満ちたソロモンの言葉。

「私の故郷はとっくのとうにアンタに消されてるよ。家族もね。大多数のうちの一つなんて所詮覚えてないんだろうけど! 」

そんな脅しの言葉も聞かず、ロゼは静かにパタリと倒れた。

「……まさか!魔法の代償に命を……!ハハハハハハ!!もっと無惨な死に方を選ばせてやったというのに! 」

ソロモンが悔しそうにロゼの亡骸に手を伸ばそうとした瞬間ーー白銀の剣閃がそれを阻止した。

ロゼの魔法で弱ったとは言え、魔術師の王であることは変わりなく、剣閃は軽い切り傷を作っただけであった。


「……戦いを終え、亡骸となった敵に何用だ?お前達の過去など知らない!だがな、亡骸を冒涜するヤツは侍として許せない! 」

ソロモンは自分の邪魔をした男、沖遼介を強く睨みつける。


「こちらに名も轟かんひよっこ風情が、俺の指に傷を作っただと?生意気なやつめ、命はないと思えよ? 」

凄まじい威圧と重圧を発する。

その重圧は地球の重力が変わってしまったかのような重苦しく、押し潰されそうなほどの破壊力。

「……そんな脅しじゃ、俺は動じない。俺はここに遊びに来ているわけじゃないんだ、本気でお前達を滅ぼす気でいる。 」

「ふっ、その程度の魔力量でか?笑わせーー」

ーー沖は凄まじい速度の剣圧でソロモンの頬に一閃の傷を付ける。ツーと、流れる血がソロモンを驚かせるには十分だった。

「……この俺が反応出来なかっただと? 」

「あんまり、人間舐めてると痛い目見るよ。 」

沖は時政を片手に、構え直した。

目の前の人類最大の敵を屠るために。




 「危険信号……?こんなことは初めてだな、ソロモン様どうしたというのか。 」

それがアグニスに届いたのは数十分後の出来事だった。夜十と新木場の師弟タッグを相手に悪戦苦闘の戦いを繰り広げている最中。


「もう切羽詰まってきたのか?魔術師。 」

少し息を切らしながら、新木場は挑発的な口調で煽った。

「この程度の傷でか?笑わせるなよ。お前ら人間と違って、体のつくりが完全に上位互換だ。 」

まだまだ余裕の表情を浮かべているアグニスだが、正直この二人には参り始めていた。

先程、輝夜を一撃で吹っ飛ばした魔法を展開しても、夜十の眼で魔法が消され、消された直後に新木場の強烈な一撃が飛んでくる。

そしてそれを間一髪で避ける、これを何度も繰り返すこと数十分。

「……魔力は無限じゃない。休めば回復するが、ここまでの連発はガス欠になるな。それに危険信号が気になる……」

無視するわけにはいかないが、ソロモンの元へ駆けつけるために空間を展開すれば夜十と新木場もその場に連れていくことになってしまう。

アグニスの空間魔法は万能だった。

一度に何人でも目的の場所に連れて行けてしまう。今回はそれが仇となっている。


「仕方ない……割に合わないが、魔法を温存するとしよう。 」

アグニスは掌の上で赤く禍々しい魔力を踊らせ、刀身の長い鎌を具現化した。

真っ黒い頭身に頑丈で長い持ち手、持ち手を肩にかけ、重心を低くして構える。

「いよいよ、本気ってことか。夜十、構えろ!来るぞ! 」

「はい! 」

アグニスは地面を蹴り、一瞬で夜十の間合いに詰め寄る。

新木場に比べて場数を踏んできた回数が明らかに少ないであろう夜十を狙った攻撃だった。

夜十は、相手の不意な動きに冷静な表情を浮かべ、鎌のリーチを考えて少し後ろに地面を蹴る。

ーー直後、魔力のこもった禍々しい一撃が夜十の眼前を通り過ぎ、空を斬った。

文字通り、空気を斬り捨てるかのような一撃に、明らかな空気の振動を感じ、頬に重みのある衝撃が走る。


「……ッ!! 」


咄嗟にアグニスと距離を取る。

"今の攻撃はやばい"と本能が教えてくれているようだった。

体の穴という穴から汗が噴き出る。



「……夜十、大丈夫か? 」

「……大丈夫です。あの攻撃、一撃でも喰らえば即死ですね。 」

キッパリと言い切った夜十に、新木場は頭を掻いた。

「まだそんな力を秘めているとはな。 」

神妙な面持ちで一切の隙を見せないアグニスに怒りさえ覚える。

ここまで圧倒的な力を持つ魔術師に出会ったのは数十年ぶりか。


「……はぁ、俺は暇じゃなくなってな。少しばかり本気で行かせてもらおう。 」


そう言い放った直後、アグニスは二人の前から姿を消した。周囲をキョロキョロと見回し、気配を元にアグニスの足取りを辿るが、

察知能力の高い夜十ですら、どこから来るのかの予想もつけられない。

「……どこに行った!?新木場さん気をつけてください! 」

「ああッッ……!! 」

夜十が新木場の方を向いた瞬間、衝撃の光景が眼前に広がった。


「……ぁぁあ、、お前いつの間に、どこか、ら……!? 」

アグニスの禍々しい鎌が新木場の胴体を貫いていた。引き裂かれる寸前で痛みに気がついたのか、咄嗟に右手で刃ごと掴み、止めている。


「少しは楽しめたが、やはり人間は雑魚ばかりだな。その腕ごと切り裂いてくれる! 」


夜十は咄嗟に動けずにいた。

何せ、新木場の体がアグニスの意のままに出来る状態。人質を取られているかのようだ。


「末裔、この雑魚がそんなに大切か?ならば、その邪魔な両目を差し出すか、潰すか。やるのはお前だ、どうする? 」


アグニスはニヤリと笑った。


この絶体絶命の状況で出来ることを必死に頭の中で考える。先程の魔法無効化で、夜十の目は限界を超えていた。

ただでさえ、満身創痍の状態。

そこに体に対する反動の強い魔法の連発は命に関わる。だが、弱音ごとを吐いていられない。


夜十は覚悟を決め、魔力を循環させたのだった。


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