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追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《強襲編》
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第二百十七話 最善策

 「小蝿共、何故戦う?貴様らが束になろうが絶対に勝てない相手、それが魔術師だ。 」

嫌味ごとをつらつらと並べるアグニスを無視して、新木場は一気に間合いを詰めた。


「負けることがッ……挑まない理由になるわけがないだろッ!! 」

地面がつま先の形に窪むほどの強い踏み込み、その加速による空気抵抗を受けても歪むことのない強い軸を身体に持ち、目の前の憎き魔術師の顔面へ空気さえも爆発させる拳を叩き込む。

「ほう、お前も中々やるようだな。 」

が、アグニスは自身の炎の魔力を何重にも重ねた防御壁で新木場の拳を止めた。

「魔力が微量に感じる程度でこの力か。お前、まだまだ本気を出していないんだろう? 」

防御壁で弾かれた衝撃で新木場は数メートル先に吹っ飛ばされる。

「ミクル!! 」

その瞬間、吹っ飛ばされたはずの新木場の身体は消え、アグニスの背後からは巨大な大剣を振りかざす瞬間の輝夜が現れた。

「……ほう、空間魔法の使い手か。 」

輝夜の光の速度で繰り出す斬撃は防御壁によって防がれ、弾かれてしまった。

直後、アグニスの頭上から決死の表情の新木場が全力の拳を掲げ、声を荒げながら詠唱を手向ける。

永覇拳破(エターナルインパクト)! 」

咄嗟に頭上へ防御壁を出すアグニス。

だが、自分の全身全霊の魔力を込めた新木場の一撃は絶対防御の壁を簡単に破壊。

唖然とするのも束の間、新木場の拳は口をぽかんと開けたアグニスの右頬を貫く勢いで地面へ叩き伏せた。

「がはッぁぁぁぁぁああああッ!! 」

「そんな安い防御じゃ防げねえよ! 」

アグニスを中心に演習場の壁と床が崩れ落ちる。島を一個滅ぼせると現役時代に歌われた究極の一撃。立ちこめる砂埃の中、三人は倒せていたらと願いを込め、眉を細める。



 「全く……咄嗟に防御壁で受け身を取れなければ、今頃どうなっていたか。ただの未完成(ざこ)だと侮っていたのが悪かったな。 」

演習場の壁の破片を踏み躙る音と共にボロボロのアグニスがぷらーんと力が入っていない右腕を押さえながら苦虫を噛み締めたような表情で現れる。

「その満身創痍の身体じゃ何も出来へんで?今更後悔しても遅いわ! 」

輝夜は背負った大剣に手を掛け、しっかりとアグニスに狙いを定めた。

「勝手に満身創痍と決めつけるなよ雑魚が! 」

アグニスの身体が火照り、緋色の光に包まれる。拳を強く握り締め、目を閉じた。

明らかに今までのアグニスとは違う、何かを感じる。言葉では形容し難いが、ミクル、新木場、輝夜の三人の本能がこの場から逃げたほうがいいと、体から汗が噴き出して、教えてくれているみたいだった。


「これを出すのは数百年ぶりだ。少しは楽しませてくれよ。 」

床に掌を伏せる。

アグニスの身体を纏う緋色の光が収束し、アグニスを中心として、演習場の床全てを覆うだけの大きな赤い線で円が描かれる。

まるでこの空間を掌握されたかのような変な緊張感が走った。


「何を変なこと言うとんねん! 」

輝夜は大剣を振り掲げ、光の如き速度でアグニスとの間合いを詰める。

「輝夜、待て! 」

「……まずは小蠅を落とすところからか。 」

新木場が声を荒げた直後、空間全体が歪み、色が僅かに褪せて見えた。アグニスの首に大剣を走らせ、届くか否かに見えた瞬間。

バチバチと何の前触れもなく、輝夜の身につけている装備が火照りだした。

自分の異変に気がつくのも束の間、空気を焦がす程の爆発が輝夜を襲った。まさに直撃。

「……エクスプロード・ドミニオン。魔術師が生み出した魔法の中で最も攻撃性の高い魔法のひとつだ。 」

「がはっ……ごぼっ……!! 」

地面に叩きつけられ、口から大量の血液を吐き出す輝夜。駆け寄るミクルと新木場に目もくれず、悔しそうに拳を握って、アグニスへ問いただす。

「……なにをッ、した……!? 」

「この魔法はこの円の中ならどの場所、どの物体に対しても全てに等しく、爆心地を植え付けることが出来る。 」

決して防御力がない装備ではないはずなのに、たった一撃の爆発で爆心地として設定された箇所は崩壊し、夥しい量の血が流れる。

爆心地と形容しているだけに、威力はかなり高いようだった。


「空間魔法の使い手よ、何もお前だけがこの空間を支配できるわけじゃない。 」

「チッ……!なんて強さ! 」

「当たり前だろう、この俺様は四魔術師の中で最強。アグニス様の意思を継ぐ者だ。貴様ら如きでどうにかなる相手じゃない! 」

新木場は腹部を抑え、目で戦わせて欲しいと願う輝夜へ首を横に振った。

これ以上は危険だと、そう判断したのである。


「ミクル、輝夜と神城を治療してやれ!後は俺一人で充分だ。 」

新木場はこんな状況なのににっこりと笑って、拳を握った。

「神城隊長は致命傷を避けています。それに輝夜さんも自分では戦えるとーー」

「ーーミクル、頼んだぞ! 」

新木場の決意と覚悟を肌で感じたミクルは、苦虫を噛み潰したような辛い表情で空間魔法を展開した。

「夜十、いつまで寝てんだ。向こうじゃ、お前の親族の日南がやられた。申し訳ないが、お前に休息の時間を与えてやれる暇はない! 」

「……すみません、もう大丈夫です。お時間取らせてしまってすみません。 」

夜十は立ち上がり、新木場の肩に触れる。

「《l全回復(オールヒール)》」

「……へへっ、すまねえな。ありがとよ。 」

先程の戦闘で疲弊した体力と、広がった傷口が塞がり、新木場は弟子の立派さに思わず笑った。

「その魔法、魔力消費凄いだろ。いくら、《l魔源の首飾り(アミュレット)》持ちとて、魔力消費の疲労感は平等なはずだ。無理はすんなよ? 」

「休息の時間はくれないんですよね?なら、俺は俺のやることをやるだけです。 」

生意気な態度に、新木場はさらに笑った。

「言うようになったな、夜十。構えろ、コイツは一筋縄じゃ行かない! 」

新木場と夜十、師匠と弟子のタッグvs四魔術師最強のアグニス。

激闘の幕が切って落とされた。




 「やはり、《未完成(アンフ)》ではこの程度か。その力と、威勢だけは認めてやる。さてと……? 」

ソロモンは地面に横たわった日南の亡骸に目もくれず、空を見上げた。

「余計な邪魔が入ったが、ローズ。話はまだ終わってないぞ?お前の部下の失態と落とし前、着けなきゃ終わらないと言ったはずだ。 」

「……はい、申し訳ございませんでした。 」

ソロモンはローズの前に瞬間移動したかのような素早い動きで現れ、ローズの首を片手で持ち上げる。

「頭が高いな。お前如き、いつからそんなに偉くなったんだ? 」

「ぐっ……!!も、もうしわけ……ッ!! 」

目に涙を浮かべ、許しをこう。

だが、その謝罪も虚しく、地面が割れるような強い力で顔面を叩きつけられた。

「これでも頭は高い。 」

ソロモンはローズの後頭部を強く踏みつけた。

あまりの威力にローズは既に意識を手放していた。それがさらにソロモンの怒りを増幅させる。

「……誰が死んでいいと言った?《l蘇生魔法(リーサースティーション)》! 」

顔を持ち上げ、ソロモンは一言詠唱を手向ける。すると、息を吹き返したかのようにロゼが目を見開いた。

「はッ……!な、なっ……!? 」

「《蘇生魔法》を意図も簡単に……!!? 」

不知火は魔力消費量も高く、人間が行えば、一生分の魔力(命)を一瞬で失ってしまう魔法を意図も簡単に使用したソロモンに言葉を失う。

「ローズ、お前は俺が死んでいいというまで簡単には死ねないよ。部下も同じだ。さて、どれだけの回数、どれだけの種類の死を味わいたい? 」

ローズの表情から血の気がすーっと抜けたのが分かる。完全に絶望した表情である。

目を見開き、言葉を失い、悔しそうに涙を流す。先程まで陽気に話していたローズとは全然違った。

「私の夢は……」

「……あ?誰が話していいと言った? 」

ソロモンはローズの首を吹き飛ばした。

「《蘇生魔法》」

そして簡単に戻す。

「……はぁ、はぁ、はぁ……ッ!! 」

ローズは自分の首を触れて、ソロモンを恐怖に満ち溢れた表情で睨んだ。

「まだ、恐怖が足りないか? 」

「いや、やめてッ、くださッ……!! 」

ぶちっ、と不快な音が響き、ローズの首が宙を舞う。

「《蘇生魔法》。 」

数秒後には元に戻り、ロゼは絶叫した。

「うるさい。耳障りだ。 」

何度も、何度も、何度も。

ローズの首は宙を舞い、時には腕と身体、足が粉々に粉砕しても、数秒後には元に戻った。


もう、何回繰り返したか。

ローズは正気を失い始めていた。

「……ははははは、殺してください!殺して……!! 」

笑いながら、ソロモンの足に縋り付く。

「……」

ソロモンは無言でローズの身体を切り刻んだ。

そして数秒で元に戻す。

もはや流れ作業だった。


「お前の部下が俺の最高傑作の一人を殺すことは分かっていたが、俺は止めなかった。この意味がお前に分かるか? 」

「へへへ……へ? 」

気の抜けた返事をした瞬間、首が飛んだ。

数秒後には元へ戻る。

「も、申し訳ッ!! 」

我に返ったようで意識が戻った瞬間にソロモンの足元に頭を擦り付けながら謝罪をする。

「そもそも、四魔術師の撤廃など、四魔術師を作った俺に提案して通るとでも?魔術師の祖であるこの俺に逆らう奴は一人として居ない。なのに、お前達と来たら……」

ソロモンはつまらなそうな表情で頭を掻いた。



 cartill カーティル、数名の魔術師で構成されたソロモン非公認の組織。

魔術師の世界はいつだって、ソロモン中心で回っている。

ソロモンが雨を降らせたければ、その日は雨になり、晴れさせたければ快晴となる。

それが常、当たり前の惨状だった。


「……そろそろかな。 」

ローズはゆっくりと立ち上がり、衣服越しに自分の心臓を強く掴んだ。必死の形相、まさしく鬼と化したロゼの右手がぐんぐんと身体の肉を引き裂きながら体内の心臓に近付く。

大量の血液が流れ、口からも溢れた血が流れ始める。

「……ほう? 」

ソロモンはその光景をただ見つめていた。

これから起こることが何かも分からぬまま。


「……これは私の固有魔術。自我がやられそうになろうと、この痛みで全てを思い出す。ソロモン、全てがお前の言いなりじゃないッ! 」


ローズは大きく息を吸い込み、いつの間にか体内でしっかりと鷲掴んだ自らの心臓の鼓動を感じる。ドクドクと一定のリズムで大きく膨らんで萎むを繰り返す命の源。


「復讐魔術……復仇術(ウルティオ・マギア)! 」


ローズは叫ぶと同時に心臓を強く握り潰した。

生々しい破裂音と共に、呆然と立ち尽くすソロモンの身体を無数の赤い鎖が縛り付ける。


「これがローズの切り札か。初めて見る魔法だな、その威力……味合わせてもらおう! 」


心臓という動力源を失った身体は朽ち果て、地面に重い音を残しながらピタリとも動かなくなった。

しかし、赤い鎖は消えず、まるで生き物のように縛り付けたソロモンの身体を貫いた。


「ふっ、この程度か? 」 


口から血液が垂れた程度の威力にソロモンは失笑する。


「これは復讐魔術、アンタを私の呪いで内部から破壊し尽くす!アンタから受けた報いを絶対に果たし通してやる! 」

ローズは強く怒鳴りつけ、目の前の敵、ソロモンを睨みつけたのだった。










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