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追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《強襲編》
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第二百十六話 凶報

「な、なん……で……! 」

日南は口から大量の血を噴き出した。

腹部に突き刺さった恐ろしく太い刀剣の刃を震えた両手で掴み、押し戻そうとする。

「あの程度の攻撃、一瞬で回復すれば次の攻撃までにタイムラグなど無用。そんな実力で俺に勝てるとでも? 」

ソロモンは日南に突き刺さった刀剣を抜き去り、ため息を吐いて退屈そうな瞳で彼女に視線を向けた。

「貴様が未完成じゃなければ、少しの勝算はあったかもしれないが、現実を見ろ。全力を振り絞った一撃が俺に届いたか? 」

シュゥゥと焼けるような音がして、破れた服以外の身体の傷は全て完治。ソロモンは拳を握り、「……またか。 」と呟いた。

その言葉の意味を聞き返す余裕が日南にあるわけもなく、膝から地面に崩れ落ちる。



「日南ぃいいいいいい!!! 」

不知火は目の前に横たわる彼女に手を伸ばした。

ソロ専でありながら、肩を並べて、共に過ごした日々を頭の中にフラッシュバックさせる。

瞳から止まらない涙が宙を舞った。




ーーATS本部。

開かれた空間の先、演習場の床は夥しい量の血が飛散していた。

下腹部から滴り落ちる血を右手で抑え続ける神城と、新島の服を纏った黒い髪に紅瞳、右眼に刀傷のある男が立っている。

夜十はその男に見覚えがあった。

半年前、魔術師と人間の戦争を取り付けてきた張本人であり、燈火の母、光明に奇襲をかけた人物、アグニス・ウィッシュガルドに間違いがなかった。


「……お前が何故ここにいるッ!! 」

声を荒げ、夜十は両手を叩いて素早く剣を顕現、地面を蹴って一気に白刃をアグニスへ滑らせる。一瞬で懐に入る速度、この間合いでアグニスが到底避けられるはずもない。

「末裔か、厄介だが遅い! 」

アグニスは素早く後ろに地面を蹴って夜十の剣を簡単に避け、両足で着地した。夜十が次の攻撃を放とうと行動を起こした瞬間。

夜十は嫌な胸騒ぎを感じ、攻撃を辞めて後ろへ後退し、アグニスから距離を取る。


「ほう、それを感じ取る察知力もあるのか。流石はあの男の末裔よ。 」

「……戦争中に本部を叩きに来たのか?たった一人で来るなんて、人間を舐めてるな。 」

額に血管を浮き上がらせ、鬼の形相でアグニスを睨みつける。その表情を見たアグニスは、一瞬だけ真剣な表情を出し、直ぐに鼻で笑った。

「俺からすれば人間なんぞ小蝿程度。それに叩きに来たのではない。少し交渉をな? 」

「交渉?今更何を話す? 」

こちらは不意打ちで司令塔を失っているのだ。

宣戦布告されて始まった本部での戦いに終止符を打ち、今更交渉などするわけがない。

「たった今ここで降伏したら、種族を滅ぼそうなどとはしないと約束しよう。永劫、魔術師の奴隷として飼われるがな。 」

「……」

夜十は無言で地面を蹴って、加速。

加速時に両手を叩き、愛刀を顕現し、怒りの向くままにアグニスへ黒刀の一閃を。

あまりに速い攻撃、夜十には珍しい無言での攻撃、感情の昂り、怒りが限度を越し、目の前の敵を殲滅することだけに向けた圧倒的な殺意。

「……交渉は決裂か。 」

アグニスは夜十の刀を魔力のこもった素手で受け止めんと、手を伸ばした。人間が繰り出す攻撃など。と、舐め千切った果ての行動、その全てが仇となる。


ーー黒刀の一閃。

まさにそれはたった一撃の両断。

夜十の放った殺意剥き出しの一閃は、アグニスが渾身の魔力を込めた腕を簡単に両断した。

宙を舞う右腕がボトリと重い音を出して、アグニスの後ろへ吹き飛ぶ。

「……ッ!? 」

「驚いたか?人間ってのはお前が思ってるほど弱くはないんだよ。 」

明らかに動揺した様子のアグニスは、表情を一変させて嬉しそうに笑った。

「フッ、ハハハハハハハハハハハハ!! 」

「何がおかしい! 」

「悪い悪い、約100年ぶりか。戦闘による高揚感、気持ちの昂りを感じたのは。少し本気を出すか。 」

アグニスはツカツカと歩いて、飛んでいった腕を拾うと断面と断面を合わせて口を開いた。

「……治癒(ヒール)

魔力の動きが活発になり、アグニスの腕がくっつき、みるみるうちに傷が塞がり、腕は完治した。

「おっと……これは面白い展開だな。 」

動き出そうと一歩を踏み出したアグニスは何かを感知したのか、動きを止めた。

「交渉は決裂ってことでいいんだよな? 」

「当たり前だ! 」

「そうか、これでもか? 」

アグニスは魔力のこもった指先を宙に向け、光を放った。空中に出来上がるは、どこかの様子を映し出す炎で出来た特大の液晶画面だった。

そこには腹部を貫かれ、大量出血で横たわる日南の姿があった。側には不知火が付き添い、心配そうに体を揺らしている。

「悪いが、声を反映させられるほどの精密な力ではなくてな。 」

「……ひ、日南さん?! 」

食い入るように炎の液晶画面へ視線を向ける夜十。その直後、夜十の顔面に痛烈な蹴りが叩き込まれた。数十メートル先まで吹っ飛ばされ、演習場の真っ白い壁にめり込む。



 「がはッ……!はぁ、はぁ……」

「お前がどんなに頑張ってもソロモン様には勝てない。この俺にもだがな? 」

アグニスは炎の液晶を閉じると、壁にめり込んだ標的にのみ、視線を映した。

「ここで末裔は終わる。俺の手によって……っと、小蝿どもが! 」

嗚咽しながら立ちあがろうとする夜十と、とどめを刺そうと殺気を剥き出しにしたアグニスの間へ、三人の魔法師が立ちはだかった。

「終わらせるわけないでしょ、私達の仲間を! 」

「せや、当たり前やろ!お前じゃ何も終わらせられへんよ! 」

「頼もしいねぇ、若いモンも。いっちょ、やってやるか! 」


ミクル、輝夜、新木場が怒りの炎を瞳に宿し、魔力を滾らせて、アグニスへ眼光を向けたのだった。


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