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追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《強襲編》
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第二百八話 親子喧嘩



 「お母様が……ッ!? 」

突然の悲報を聞いた燈火は電話越しの焔へ驚いた声を出した。

その悲報とは、魔術師に司令塔を襲撃され、重傷で病院へ搬送されたとのことだ。

「命に別状はないが、意識が戻らねえんだ!クソ……!! 」

「焔、冷静を欠いてはダメよ!お母様はきっと大丈夫!お母様ならそう言うはずよ! 」

電話越しにも何かを殴りつけて感情的になっている焔を燈火は優しく宥めた。

「……確かにそうだな、すまない。どちらが親なのか分からないな。ありがとう。 」

「別に良いわよ。普段、他方からの圧に耐えながら気を張ってるんだもん。お母様が重症じゃ、気が動転するのも無理はないわ! 」

ところで、と繋げながら燈火は問いかけた。

「お母様の近くには誰か居るの? 」

「ああ、光明は青火(せいか)が見てくれてる。容態が戻るまではずっと居てくれるそうだ。 」

「そう、青火なら大丈夫ね。 」

内心ホッとして、燈火は胸を撫で下ろした。


 「光明がやられちまった今、指揮官が居ない状態での戦争だ。普通なら考えられねえよ。それに代わりを務められるような人材もまだ成長中ときた。 」

「焔、まさか、まさかしないわよね? 」

察しの良い燈火に思わず笑いを溢す。

「もう新島には声掛けてんだ。今日の夜、幹部会議を開く。そこにお前も来い。話は付けてる。四魔術師で最強と謳われた男、アグニスをぶっ倒す計画だァ!!! 」

新島静雄にまで声をかけているとなると、いよいよ自分一人では父を止めることはできない。

燈火は覚悟を決めるしかないのだと思った。

焔に二つ返事をして電話を切り、別室で休んでいる夜十の元へと走った。


 夜十の部屋の近くまで来ると、中から声を荒げる夜十と新島、それを宥める新木場の声が聞こえてきた。

「光明がやられたんだぞ!アグニスは確実に先手を取りに来たんだ!今こそ戦力を集めて、敵に全力でぶつかるべきだろうが! 」

「だからそれが罠かもしれないって言ってるんだよ!指揮官潰されて黙ってるわけないって相手側は分かってんだ!今ここで動いたらこの戦争は確実に負ける!! 」

「……まあまあまあまあ! 」

新木場が宥めようと必死になっているが、意味はなさそうだった。

「それにこっちは任務中に大事な生徒を拐われてんだ!直ぐにでも虎徹を探さなきゃならない! 」

「それこそ罠かもしれねえじゃねえか! 」

「罠だとしても大切な生徒だ!死んでも取り戻す!!もう二度と目の前で大切な人を失わねえために!!! 」

二人ともヒートアップし始めたのか、夜十は新島の胸ぐらを掴んだ。

「テメェ、クソガキ!何しやがる! 」

「俺らの組織のボスが冷静な判断も出来ねえのかって言ってんだよ!アンタは俺も神城さんもミクルだって!全員の命の判断してんだろうが!もっと冷静になれよ!! 」

掴んだ胸ぐらを離し、顔を真っ赤にして新島の顔面へ全力の右ストレートを放った。

「ぐっ……!!テメェ、やりやがったなぁあああッッ!!! 」

新島の拳が夜十に突き刺さるや否や、新木場がその拳を受け止めた。

「新木場、何しやがる!いくらお前でも、この喧嘩に茶々入れるんなら容赦しねえぞ! 」

「……お前ら、親子喧嘩をやるなら誰にも迷惑がかからないところでやれ!!! 」

新木場の言葉で夜十と新島、新木場、たまたま居合わせた燈火は演習場に到着した。


「今からは立場とかそういうのを全部無しにして死ぬ気でかかってこい!夜十!! 」

「押し通りたいことがあるなら、力づくでやって見せろってことかよ。良いよ、新島さんを俺が倒して言うことを聞いてもらう! 」

夜十と新島は拳を構え、互いに睨み合った。

「久々に本部来てみたら、なんかおもろいことやってるやん!何しとーん? 」

演習場の入り口には陽気でおちゃらけた輝夜が立っていた。明らかにこの場の空気とテンションが違いすぎる輝夜へ燈火が駆け寄った。

「輝夜さん、お久しぶりです。 」

「おー、燈火ちゃん!新島さんと夜十が戦うってどない用件なん?見るからに練習ってわけでも無さそうやけど? 」

「実はかくかくしかじかで……輝夜さん止めれるなら止めてくださいよ! 」

燈火に事の顛末を聞いた輝夜は少しだけ笑った表情を見せ、即答した。

「絶対無理やし、俺は止めへんよ。 」

「何でですか! 」

「この二人の勝負に興味があるからに決まってるやろ! 」

ケラケラと笑う輝夜を横目に右手で片目を隠し、下を俯いた。どこのどいつも戦闘狂ばかり。確かに勝負は興味はあるが、今は戦争中。無駄な体力の消耗は避けるべきではないのか。

「はぁ……諦めます。好きにやってください。 」

両者いがみ合い、対決の火蓋が切って落とされる瞬間や否や。

その空間の空気が一瞬で冷却され、空間ごと真っ二つに両断された。

「……ッ!?な、なにがッ!? 」

驚きを隠せない夜十の前に現れたのは酷く心配した様子のミクルだった。


 「夜十!新島さんとやり合うのは考え直して!このままじゃ、敵の思う壺だよ! 」

「……ミクル、それに神城さんもか。それは無理だよ。神城さんが一番よく分かってるんだろ? 」

だから空間ごと冷却し、身動きが取れないところを更に空間ごと分断したのだ。

「それはそうだけど……今戦争中だよ?戦える人員を内部で減らすような真似してどうするの! 」

ミクルは真剣な表情で強い声音を吐く。

「そりゃ、俺も分かってる。でも、指揮官の代役でも出さなきゃ、新島さんは分かってくれないよ。 」

「だからって力で解決するってわけにもいかないはずだよ!それに指揮官の代役なら、燈火ちゃんが良いと思う! 」

「何故そう思う? 」

「魔力感知能力ってのは本来、遺伝なの。何処からどこまで見ることが出来るとかってのは、親族なら当然燈火ちゃんにも光明さん程の探知能力はあるはず! 」

「そんなの初耳だぞ!! 」

ミクルと神城はそれに賭けようとしている。

今頃、新島は神城に諭されているだろう。

「初耳でも夜十のお姉さんが感知能力に長けていたって話は、父親の夜百さんって方が歴戦の指揮官だったからって事で組織内ではかなり有名だったみたい! 」

「夜百……俺の父さんらしいな。それなら、俺にも指揮官の素質はあるってことか? 」

「そうだね。でも、夜十は誰かを後方で支援するよりも、とにかく突っ走って前線で背中を見せてくれてた方が似合ってるよ。 」

「……そうかもな。分かった、戦いは中断するように新島さんに頼んでみる。 」 

空間は開かれ、夜十の目の前に飛び込んできたのは驚くような状態の新島だった。



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