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追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《潜入編》
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第百九十七話 ガレオンの過去②

 

 早朝、顔に冷たい水をかけられて起こされる。

独房に布団もベッドも無く、あるのは冷たいコンクリートの床と薄汚れたトイレだけだった。


「おはよう、カス。飯の時間だ! 」

牢屋の鍵は開けられず、隙間からパン一個を投げ入れられた。

「……要らん。私をどうする気だ? 」

「全く贅沢なやつだな。飯を粗末にする奴は首を刎ねられても良いってのによ。 」

「質問に答えてくれ! 」

ルドルフが呆れた表情を浮かべる。

「その質問に答える義理が俺のどこにあんだよ?アンタはもう少しすれば、そういう反抗的な態度も取れなくなるからよ、黙っとけ! 」

「……?どういうことだ? 」

「だから黙れって言葉、分からねえのか? 」

ルドルフは呆れた様子でさっさと行ってしまった。反抗的な態度が取れなくなる?

首を本気ではねられるのだろうか、ガレオンはどうにかして民を守る方法を考えていた。

今の窮地から脱して、民と国を取り戻す方法を。




 「全く、アンタの魔法は効き目が遅いね。 」

「うるせえな!そうだとしても効かないことは絶対にねえよ。んなことより、例の新システムの話は? 」

黒い笑みを浮かべるベティにルドルフは言った。

「それね、あの使えないフレディの魔法で人間達の魔力の核に爆弾を仕掛けたの。つまり、アイツらは死ぬまで私達の奴隷ってこと! 」

「中々に酷いことを考えるな。それで逆らえば身体の内部から爆散か。繋がりを大切にする人間共からしたら耐え難いものになるな。 」

このシステムを考案したベティに、仲間内のルドルフですらも戦慄し、恐怖する。

人間を管理するシステムを作ろうと会議で決まった数日後に恐怖によって支配する方法を作り出す辺り、ベティは頭が良い。



 「……カハァッ!はぁ、はぁ、はぁ……」

「お目覚めか、王様? 」

暗い独房の中で跳ね起きたガレオンの頭上には退屈そうに壁にもたれかかるルドルフの姿があった。

「……貴様、何をしに来た! 」

「オイオイ、主人になんて口の聞き方だよ?さっさと跪け! 」

ルドルフを凄い形相で睨みつけるガレオンだったが、彼は自分自身の体の変化に驚きを隠せなかった。ルドルフが"跪け"と口調を荒げただけでガレオンは彼の足元に跪いていたのだ。


「なっ……!何故、私は……ッ!! 」

「アハハッ!そろそろ効いてきた頃か。お前もタフだな。俺の虫がここまで手こずるとはね。 」

「……虫?だと? 」

「俺は体内で虫を育成している。その虫がお前の神経を刺激し、俺の言葉には逆らえなくなってるわけだ。他にも色々試したが、一番の効き目はコイツか。 」

ルドルフの人差し指の先には緑色の小さな虫が現れ、ルドルフは不敵に笑った。

「持ってあと三日だな。お前の命は亡くならないが、意識も身体も全て俺のものになる。つまり、お前は俺の奴隷だ。 」

「……私はお前らに投資して来たはずだ!民を解放してくれるという約束は!! 」

「はぁ?そんな約束知らねーよ。ベティに何を言われたか知らねえが俺は何も聞いてねえ。 」

ルドルフは呆れたようにため息を吐いた。



 「……わ、私はこの国の……」

「んあ? 」

ボソッと呟いたガレオンの言葉、ルドルフの耳にはしっかり届いていた。

「……王?いや、分からない。 」

「お前は王じゃない。俺様の奴隷だ。 」

「ど……れ、い?うぐっ……! 」

土下座した頭を踏みつけられ、思わず嗚咽が飛び出す。一国の王として数ヶ月前までは民を守って来た誇り高き英雄、現在は魔術師の奴隷。

たった数ヶ月の自分の身分の変わりようと、約束を守ってもらえずに民を粗末に扱われたことで彼は絶望し、心が完全に破壊された。


「……やっとか、長えんだよ。まあ、こっから調教すんのが怠いんだけどなァ! 」

ルドルフはこの日以降から、凄まじく酷いことをガレオンに行い、心を支配した。

そして、今は奴隷という身分ではなく、裏から表を支配する王として全てを書き換えられている。






 「……お前ら、人の心を何だと思ってんだッ!! 」

六神通で事の始まりを全て知った夜十は容赦なくボルハザードの胸ぐらを掴み、殴り飛ばした。

「がはっ……! 」

「お前ら魔術師の事情なんか知らない!人様に迷惑かけて、挙句人生無茶苦茶にして許されるわけねえだろうが!! 」

何度も何度も何度も振り下ろされる拳にボルハザードは悲鳴を上げて、両手で顔を覆った。

「や、やめてくれ!! 」

「は?ガレオン王はもっと辛かった。もっと痛かった。自分の身を守ることしか頭にないなら、人の命を弄ぶんじゃねえ! 」

両手で覆った顔面をそのまま鋭い蹴りで吹き飛ばす。その直後、ボルハザードは何も話すことなく、白目を剥いていた。



 「……貴様、どうやって死にたい? 」

尻餅をついていたガレオン王はピキピキと顔中に血管を浮き上がらせ、あり得ないほどの魔力であっという間に空間を支配した。

「ガレオンさん、俺と貴方が戦う必要なんて無いですよ。落ち着いてください。でも……」

「言っている意味が分からんが、私の知ったことではない!私の同胞をよくも……! 」

背中に刺した大剣を抜き取り、構えの態勢を取る。彼の瞳には怒りが強く焼き付けられ、大剣を握る拳をギリギリと鳴らした。


「……貴方が戦うというのなら、俺は真っ向から受けますよ。 」

夜十の瞳にも怒りが宿っていた。それはガレオンに向けてではないが、彼の怒りを受け止めるには自分自身の怒りを上手く左右させる必要がある。彼は真剣な表情で黒剣を体現させると、頭身を肩に乗せて構えた。

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