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追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《潜入編》
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第百九十六話 ガレオンの過去 ①



 「……はぁ、はぁ、はぁ……がはッ……! 」

金色の王冠を被り、銀の鎧を身に纏った勇ましい王は、自分の魂と同一である大剣を杖に、覚束ない足取りで王城の頂上へ向かう。

「人間風情が……ッ!キング様をよくも……! 」

道中、殺された兵士達の亡骸を踏み台に逆上した魔術師の軍勢が瀕死のガレオン王を襲ったが、彼に攻撃は効かなかった。

それどころか、魔術師達はその力に屈し、恐怖に怯えてそのまま意識を失っていった。


王城の頂上へ辿り着くと、数人の魔術師が立っていた。明らかに普通の魔術師とは違う魔力量と、余裕そうな表情にガレオンは焦りを覚える。こちらは手負の身、それに加えて相手は複数にして、力は格上と見た。

どう考えても勝てる状況じゃない。それでも、自分の背中には民の命がかかっている。

王になると決めたその日から、民の命を、魂を背負うと覚悟したのだ。

「クックック、人間。もう戦えるような状態じゃないだろう?諦めないのか? 」

「私はこの国の王!私が諦めるということはこの国が止まるということ!絶対に諦めん! 」

巨大な剣を携え、目の前の魔術師を鋭い眼光で睨みつける。

「全く、馬鹿だな。お前じゃ俺らには敵わないってのにさァ? 」

巨大な一振りを一閃させようとした直後、ガレオンの視界は空に向けられる。

それが一瞬で倒されたのだと勘づくには少しだけ時間を要した。


「……さあ、どうするの?アンタじゃ、私達には勝てない。大人しく国を渡す? 」

頭上から黒く短い髪の魔術師が面倒臭そうにガレオンへ問いかける。その冷たい瞳はゴミでも見るかのようだ。

「お前らとて王を失っただろう?戦ならば我々の圧勝だ。ここは退くのが流ーーふがッ! 」

相手方はキングというボスをガレオンに殺されている。ここは退くのが得策であり、戦の流儀だろう。だが、彼女はガレオンの話を聞くのをやめて自らの黒いブーツを彼の口へねじ込んだ。喋るのに疲れたかのようだった。

「話長すぎよ。どうするか決めさせてあげようとしただけ….…。それ以上話すなら私の靴で窒息させてあげようかな? 」

「……ッ!! 」

その一連のやりとりを見ていた金髪のチャラ目な男が口を開く。

「ぷっ、あははははは!!超笑える!一国の王が最後に口にしたものはベティの靴!とか?あははははは!! 」

「ちょっと、フレディ。黙っててくれる? 」

テンション爆上がり!な様子だったフレディは急に青ざめ、足早にその場を離れた。


「……ベティ、その辺にしておけ。その王様はまだ利用価値がある。 」

「チッ、ボルハザードか。この人間を生かしておいて何の価値があるって? 」

ボルハザードはベティに手招きをし、その場から去っていった。不満げに首を傾げ、ベティはガレオンの口に突っ込んだ足を引き抜いてボルハザードの後を追っていった。

ボルハザードの驚いたような様子にガレオンは彼らが向かった場所を察知していた。

「……がはッ、はぁ、はぁ、はぁ……!あ、あの場所だけは……ッ!! 」

生まれたての子鹿、覚束ない足取りでガレオンは彼らの向かった場所へ向かう。




 「……何よ、これ! 」

「本当に偶然だったが、見つけたんだよ。この技術があれば、この状況は打破出来るだろ。 」

ベティとボルハザードは、全長一キロメートル以上はある白く四角い部屋にある、無数のガラス管を見て、驚愕した。

中には、金色の長い髪の女性が全裸姿で水の中に酸素マスクを装着され、ありとあらゆる配線を括り付けられて眠っていた。

その数、百を有に超えている。

「この装置、中心の装置からデータを送信し、身体を作り上げているのか。 」

「クローン技術ってヤツね。この技術があれば、ソロモン様にバレることなく、国探しが成功するわ! 」

ガレオンが現場に到着すると、ボルハザードとベティは何やら嬉しそうに言葉を連ねている。


「オイ人間、この装置で我らの王を蘇らせろ! 」

「もし出来ないとでも言うなら、アンタの命どうしてやろうかしらねぇ? 」

ガレオンはポタポタと血液を流しながら、彼らの足元に跪いた。頭を深々と下げ、目には大粒の涙を溜めて、鼻水と涎が顔中に広がっている。

「か、か、彼女だけはっ……助けでぐれッ!!それ以外なら、なんでもッ!! 」

「俺らの質問は無視か。……まあいい。今、何でもすると言ったな?この人間の女には興味はない。好きにしろ! 」

「ボルハザード、甘いわね。こういうのは、弱みってヤツにしないと後先困るわよ? 」

ボルハザードの言葉を聞いて一瞬だけ安堵したガレオンをベティは見逃さなかった。口元を少し歪め、ガレオンの頭を黒いブーツで踏みつける。

「この装置でキングを蘇らせれば、この女は助けてあげる。でも、協力出来ないって言うなら彼女の頭が飛ぶだけよ。 」

「ぐふっ……わ、分かった……!君達の言う通りにしてやる!だから、その足を……! 」

「……してやる?ですって?随分とまあ、上からなのね!まあ良いわ!今からキングの蘇生をしなさい! 」

ベティはガレオンの頭の上から足を退けて、つま先でコツンと軽く蹴った。



ガレオンは立ち上がり、全身から溢れ出る血液を止血し始めた。

腕や腹部の筋肉がある位置は気張って筋肉での強制的な止血、それ以外は布を使って雑に処理した。それである程度どうにかなる。

「人間でそこまでの再生力、キングが殺されたのも頷くことは出来るわね。 」

「キングは君のボスだろう?悲しくはないのか?王が殺されたのだぞ? 」

あまりに悲しみの感情がないベティに疑問を覚えたガレオンは首を傾げながら問いかける。

自分が仕えている王が死んだのだ、どう考えても悔しく、苦しいはずだ。それなのに、彼女はそんな感情もなく、ただ淡々と蘇生させることに執着をしている。


「……殺してくれたことには感謝してるわ。でもね、機会は今じゃないのよ。ソロモン様にキングが死んだことがバレたら、私達もこの国も跡形もなく消滅させられてしまうわ! 」

「ソロモン……?誰なんだそれは! 」

初めて聞く名前にキョトンとする。

「魔術王ソロモン、全ての魔術師の頂点に立ち、世界に通じる全ての魔術を司る王。全世界全ての種族であの方に勝る者は居ないの! 」

「……キングが死ぬことの何が、ソイツにとって都合が悪いんだ? 」

ベティは自分の前髪をくしゃりと掴んで、哀しげに言った。

「キングは……ソロモン様に仕える四天王のうちの一人なの。自分に仕えている強い魔術師が死んだと分かれば、彼は腹を立てるでしょうね。 」

「そして、私を含めた王国全てが消し飛ぶと……!そんなの無茶苦茶じゃないか!元はと言えば、お前らが攻めてこなければ私がキングを殺すこともなかっただろう! 」

ガレオンは怒り心頭に発する。


「そんな単純な話じゃないのよ。私達だって、好きで攻めたわけじゃないわ。キングだってそれは同じよ!コレはあくまでソロモン様からの任務なの! 」

「……先程国探しと言っていたが、それがお前らに課せられーーッ!!?! 」

ガレオンが神妙な顔つきで話し始めた瞬間、彼の後頭部に鋭い蹴りが突き刺さる。

「ベティ、話し過ぎだ。何もそこまで話さなくてもいいだろ? 」

「ルドルフ……!戦況は? 」

細長い長剣を持った銀髪の男が蹴り飛ばされたガレオンを睨みつけた。

「人間側の身柄は拘束した。王を殺されちまったのは残念だが、戦争は終わりだ。俺らの圧倒的勝利でな。それで王を蘇らせる方法って? 」

ルドルフはベティの近くまで歩み寄ると、地面に四つん這いで突っ伏して嗚咽しているガレオンの背中に腰を下ろした。

「ぐっ……ぁッ! 」

「人間の王、体勢崩したら首が飛ぶぞ。 」

「はぁ、はぁ、はぁ……ッ! 」

この男の雰囲気は他の二人とは違った。

明らかに冗談で言っているわけではなく、体勢を崩せば首を切り落とされてしまうのは確実だ。


「そこの王様が独自に研究してたクローン技術を使うわ! 」

「ふーん、クズ種族でも頭は良いんだな。特別に未来永劫、俺の椅子として使ってやろうかと思ったが、使えるなら働け! 」

ルドルフは立ち上がると、再びガレオンの腹部に鋭い蹴りを放ち、その場を去っていった。

「がはッ……!!ぐ、ぅぅぅ……!! 」

「……分かったわね?キングの蘇生を直ちに行わなきゃ、アンタの大切なものは全部無くなる。 」

「……分かっている。直ぐに取り掛かろう! 」


そう言ってガレオンは死せる全ての力を使い、キングの蘇生及びクローン体の製造を可能とさせた。自らの民を守る為だと自分に言い聞かせ、研究室に篭って作業を続けていた。



 「ここまでやってくれた王様に感謝だね。お陰様でソロモン様にもバレることもなかったし、もう……用済みだよ。 」

「……は? 」

ベティはニッコリと笑い、二回手を叩くと研究室の入り口にはルドルフとその手下達が現れた。

「任せたよ、ルドルフ。私は実行部じゃないからね。王様のお陰で装置の使い方も制御の仕方も分かった。ソイツ、用済みだから。 」

「ああ、分かっているよ。オイ、カス。抵抗せずに大人しく捕まりゃ、殺さないでおいてやる。 」

「な、な、なんなんだ!私は出来ることを全てお前らのためにやってやったんだぞ! 」

素早くガレオンの前に現れたルドルフの鋭いパンチがガレオンの腹部にめり込む。

「……お前らの為?んなもん、知らねえよ。人間に俺ら魔術師が恩を着させようとする訳ねえだろうが!気色悪りぃ! 」


薄れていく意識の中で民と笑い合った日々を、ガレオンは思い出していた。

皆、無事だろうか。そうであってほしい。


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