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追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《潜入編》
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第百九十一話 王の最期


 「俺様を挑発した割には大したことないなァ!三下はよく喋るッ!! 」

キングの右手に宿る金色の五宝籠手(オールガントレット)の威力は凄まじいもので、全ての属性の性質を100%に引き出された状態での合体技は近づくことさえ許されない。


「ギル、いつものやつで行くよ。 」

「……了解。 」

うねりを上げ、空気を震わせ、地面を削る強大な竜巻へ橙色の髪の少女が一人前に立つ。そのやる気なさげな姿に無謀ささえ感じた。

「クソ魔術師がッ……!粋がんじゃねェ! 」

ギルはキングを睨みつけ、歪んだ表情で怒りのままに両手を握りしめ、黒い瞳を真っ赤に染める。

燈火は目の前の二人の振る舞いを真っ直ぐに見つめ、体内で滾る炎をゆらゆらと揺らした。



「ふんッ……!貴様如きに何が出来る? 」

「……虚言、私の嘘に騙されるのはだあれ?」

リアンはニヤリと黒い笑みを浮かべ、真っ直ぐに竜巻へと突っ込んだ。ギルもそれを待っていたかのように速度を上げて加勢する。

だが、二人とも侮ったのか、強大な魔力の竜巻に飲み込まれ、空中に放り出されてしまった。

たった一瞬、たった一瞬だけ飲み込まれただけだというのに服は破れ、身体中も傷だらけ、最後には重みのあるドサッという音を出して地面に叩きつけられた。


「所詮は雑魚!俺様の竜巻に突っ込んでタダで済むとでも思ったかッ! 」

「虚言、私の嘘に騙されたのはお前。 」

そう一言、キングの耳にだけ届いた。

「な、なッ……なんだ? 」

辺りを見回し、二人の遺体を探した。さっきまで近くの地面に寝転がっていたはず。なのに、どこを探しても見当たらない。

「虚言、まずは邪魔な右腕を頂く。 」

爆発音と破壊音が響き、キングの右腕の義手が音を立てて粉々に砕け散る。

あまりに突然すぎる破壊に驚きを隠せず、目玉が飛び出るくらい大きく目を見開き、キングは当時に怒りを露わにした。


「……お前の魔法、なんなんだァ! 」

捥がれた腕の断面がブクブクと膨れ上がり、金色に輝くと真新しい金色の義手が出来上がる。どうやら、義手は自分の魔法で作っているようだ。

「俺様の腕を取ったからって、終わる話じゃねェよ。そんなんはダメージにすらなってねェ! 」

「虚言……煩い口を塞ぐよ。 」

「……ッ!?……!! 」

彼女から自分にだけ聞こえる不快な声が耳に届いた時、キングは声が出なくなった。それもなんの前触れもない突然な話だ。

「魔術師の言葉なんてどうでもいいよ。その傲慢な態度、少しは危機感、感じた? 」

顔に血管を浮き立たせ、キングは口から空気を押し出した。出ない声に不快感を感じながらも、目の前の橙色の髪の少女に掌を向けた。

「……俺の王に何をしようとしてんだ? 」

甲高い金属音が響き、キングの腕は一瞬で真っ二つに両断し、重い音と共に地面へ落下。

「テメェの相手は俺だ。俺だけのことを考えてりゃいいんだよ。 」

ギルは強く地面を踏み蹴り、腰に刺さったトレンチナイフでキングに攻め入る。

顔面スレスレで繰り出される攻撃に避けるだけで手一杯なキングだが、また新しく不快な声が耳に届いた。


「虚言……お前は一歩も動けない。 」

ピタリと止まる自分の身体に強い怒りを感じるのも束の間、ギルのトレンチナイフが容赦なく左目に突き刺さった。

「……ッッッ!!!……………!!! 」

断末魔さえ叫べず、どうやっても動けない自分の状況に腹が立って仕方がなかった。

トレンチナイフが刺さった左目からは夥しい量の血液が流れ、激痛が止まらない。

「オイ、今どういう気持ちだよお前。お前の大得意なアルマも使えない。助けも呼べない。死ぬしかねえんだよ。 」

ぐちゃりと音を立てながら抜かれるトレンチナイフ。

「……俺の名前、覚えとけ。《赤目》のギル・リブロだ。 」

ギルは歯を食い縛り、キングの首にトレンチナイフを突き立てると力を込めた。

「虚言、痛覚が百倍になり、声は戻る。 」

「……ッ!ぁあああああああああッ!! 」

「その様子じゃアルマも呼べねえな。魔術師にお似合いな最期だ。 」

リアンの虚言が耳に届き、キングは自分の最期を肌身で感じ、目から涙を流す。

首に刺さったナイフが脊椎を徐々に破壊し始めている感覚、出血が止まらない左目。本気で自分は最期、ここまでかと思った。


「があああああああああッッッ!! 」

「こいつらの生命力は底知れねえからな。リアン、手加減はすんなよ? 」

コクリと頷き、リアンは冷たい表情でキングに最後通告を渡す。

「虚言……お前の人種は人間になる。 」

その声が届いた瞬間だった。

ぐしゃりと何かが潰れる音が辺りに響き、キングは大量の血液を流し、断末魔を上げる。

「ぎゃああああああああああああッッッ! 」

「クソ魔術師が、汚く散れッ! 」

ギルの腕がキングの胸に突き刺さり、体内で心臓を強く握り潰す。

動力を失った身体が膝から崩れ落ち、血液を地面に飛散させながら前のめりに倒れた。

「……はぁ、はぁ、はぁ……!! 」

「リアン、休んでろ。遺体確認は俺がする。」


キングの死と同時にリアンは地面に尻餅をつき、呼吸を乱した。

「……うん、ありがとう。もう、暫くは動けそうにないや。魔力を使い過ぎたよ。 」

そんなリアンを傍らにギルはキングの遺体確認で死亡が確認するとホッとしたように胸を撫で下ろし、肩を落としたのだった。

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