表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《潜入編》
189/220

第百八十八話 突然の強襲


 「今、そこに誰かいたか? 」

熱矢は遊園地外の茂みの中に不思議な違和感を覚え、声を上げた。

「何を言っているのです?誰も居ませんよ。野良猫でも迷い込んだのでは? 」

珈琲の入ったマグカップを口に運び、キョトンとした表情で明刀は首を横に振った。

確かに誰かがそこに居た気がしたが、魔力感知を試みるも、何も居ないようだった。

「さて、そろそろ良いくらいの時間ですわね。二人を呼び戻しましょうか。 」

「そうだな。てか、あいつらどこまで行きやがったんだ? 」

熱矢達が虎徹達の居場所を探るべく行動しようとしていた頃、虎徹は冷や汗を額に浮かべて腹を立てていた。



 「虎徹、"神"に楯突いてタダで済むと思っているの?私は知らないけど……」

黒いローブを被った数人の男女が虎徹と周囲を見回して冷静を必死に保とうとする倉橋を取り囲んでいる。

「神はご立腹だァァア!虎徹!ここ数ヶ月の間にお前の不在で何人の犠牲が出たと思ってんだァァ? 」

「今、ここで死ぬか。二度と"神"に逆らわないと誓うか。どちらが良い? 」

ほぼ同時の質問攻めに歯軋りをする。

虎徹は完全に追い詰められていた、多勢に無勢。数でも力量でも圧倒的に相手の方が上。

恐怖に感情を支配されそうになる。


「態々、総出で俺を探しに来るなんてな。普段は学園に居るから入れないってか? 」

拳を握り、逆の手で震えている倉橋の手を握った。

「まー、俺らも暇じゃないんでね。命じられなきゃ、お前を連れ戻そうなんて思いもしなかったよ! 」

「さあ、観念しな。私達相手に一人で勝てると思わないでしょ?流石に私でも分かるわ! 」

虎徹の肩をローブを被った一人が掴み、そのまま地面へ力任せに叩きつける。なす術もなく倒れる虎徹に倉橋は驚きを隠せなかった。普段の虎徹ならどんなに強い相手にも屈せず、戦い抜くはずだ。


「一切の抵抗をしないとは……こりゃあ、予定違いだな。《無敵(アンビータブル)》と名を馳せた頃のお前はどこへ行ってしまったんだ? 」

「薄汚い女ね、こんなのを連れてるから雑魚になっていってしまうの。私は知らないけど……コイツはどうでも良いし、殺ろうよ。 」

倉橋も地面に叩きつけられ、硬いコンクリートと頬が一体化するくらいの衝撃が走った。

「……ソイツに手を出すんじゃねェ! 」

ドスの効いた低い声にローブ姿の男女は一瞬だけほぼ同時に身震いし、その場の空気が凍りつく音を耳にした。



 ローブ姿の男は肩を震わせ、大きな声で笑い始めた。

「ぷっ、くはははははははは!!! 」

腹を抱え、地べたに這いつくばっている虎徹の顔近くにしゃがみ、髪を鷲掴んだ。

「……お前、立場わかってんの?高圧的な態度取って、良い方向に進むわけないだろ? 」

虎徹の髪を掴む手に魔力が宿り、地面へ押さえつける力が飛躍的に増す。顔の形に地面が陥没し始め、虎徹の口や鼻、耳などの穴から鮮血が吹き出る。頭を地面に押さえつけただけかに見えたが、男の持つ力は絶大で不安に満ち溢れている倉橋に凄まじいまでの恐怖を植え付けるにはあまりに簡単すぎた。


「がはっ……はぁ、はぁ、はぁ……!ク、クソがぁぁあああ!!約束しろ、クソ共! 」

「へぇ、ディモンドの重力波(グラビティハンド)を食らってマトモに話せるのか。……ほう?約束? 」

ゼェゼェと息を切らしながら、虎徹は周囲を見回してローブ姿の男女達を強く睨みつける。

「倉橋は……、コイツは逃せ……ッ!そうしたら、黙って連れてかれてやる。じゃなきゃ……! 」

虎徹の周囲が突然爆発し、ローブ姿の男女は一定の距離を取るべく、後ろへ跳び、後退する。爆発による煙幕で倉橋の姿も虎徹の姿も見えなくなってしまった。

「元より抵抗される前提で総出で来てやったんだ。何処へ隠れようが俺らは俺らのやり方を尽くすだけよ! 」

煙幕の中で虎徹と倉橋の魔力を検知した男は両手を広げ、何かをやって見せろとでも言いたげに楽しそうな顔で嘲笑した。



 「倉橋、今すぐ何処かへ逃げろ!俺もすぐに後を追うからよ。 」

「直ぐにって……あの人数相手に一人で大丈夫なわけないじゃん!私も戦う! 」

不安な表情を浮かべる彼女の頭に優しく手を置いて、虎徹はにっこりと笑った。

「……関係ないことに巻き込んで悪いな。でも、これは俺の問題だ。お前を巻き込むわけには行かねえよ。 」

「でも……っ!! 」

「でもじゃねぇんだ。今直ぐ逃げろ! 」

「分かった……増援の要請してくる!それまで持ち堪えてよ! 」

「ああ……ありがとな。頼んだ! 」

倉橋が走り去っていくのを確認すると、虎徹は地面に手を伏せ、煙幕が晴れるのを待つ。



「仲間想いになったな。この数ヶ月間でそんなに成長して……俺、泣こうか? 」

銀髪の口元から顎にかけてまでの大きな刀傷が印象の厳つい男が瞳をうるうるさせて言った。

「泣かなくて良いわ!このクソ野郎、折角の休日をぶち壊しやがってッ! 」

「……私の休日をぶち壊した無敵君にそれを言う権利はないね。私は知ってる! 」

怒り気味で特徴のある話し方をする女性は、拳を強く握り締め、ズンズンと虎徹へ近づく。

「少々手荒な真似、許してよね。……私は知らないけど! 」

地面を蹴って一瞬で間合いを詰め、手負いの虎徹へ殴りかかったのだった。




 「……はぁッ……はぁ、はぁ、はぁ! 」

息を切らし、頬に当たる強い風を押し退けて前を見て突き進む。冷や汗が頬を伝い、眼鏡の中で視界を眩ました。

ーー背後で凄まじい爆発音が響く。一瞬立ち止まりそうになるが、今ここで立ち止まっては残った虎徹への援軍に遅れが出てしまうだろう。

「虎徹……絶対無事で居てよ!! 」

地面を蹴って、強く前に進んだのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ