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追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《潜入編》
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第百八十六話 気分転換に遊園地へ ①


ーー夜十達が魔術師との連戦を続けている頃。虎徹と熱矢を含めた新入生組は久々の充実したオフの日を送っていた。

ここの所、ずっと学校の演習場に篭りきりで、対アビス戦のシミュレーションやら対人戦の練習でハードな毎日を送っていたせいか、身体に疲労が積み重なってしまった。


「熱矢、いつまで怒ってるつもりだよ?折角、学園長がリフレッシュ休暇くれたんだぞ? 」

「俺にリフレッシュとか要らねぇ!何で特訓が出来ねぇんだ!後少しで虎徹との新連携完成すんのに! 」

熱矢は不満げにぷくーっと頬を膨らませた。

「一週間以上もかけて作り上げた連携だ。たった一日休んだだけで忘れるような代物じゃねぇだろ! 」

「……休暇なんか貰っても暇なんだよ! 」

熱矢の間の空いた一言で虎徹達の後ろから悪寒が吹き始める。これには流石の熱矢もサァァと血の気が引いた。


 

 「ふうん?私の誘いがつまらなそうだとでも言いたいのかしら? 」

「……ッ!!べ、別にそういうわけじゃねぇよ!お前こそ、特訓はいいのか? 」

熱矢、虎徹、倉橋、明刀の四人は、白く長いリムジンに乗って、"ある場所"へ向かっていた。特訓詰めの毎日に生徒達の身体のことを考えて、教員組総一致の休暇。勿論、喜ぶ生徒が殆どだが戦闘狂の熱矢には退屈だ。


「私は別に構いませんわ!寧ろ、こうしてお友達と一緒に遊ぶことが出来るのですから、楽しみでたまりませんの! 」 

目をキラキラさせ、彼女は顔の前で両手を結んで満面の笑みを浮かべた。

「休暇の話を聞いて沖先生に殴りかかったのなんて熱矢くらいじゃない? 」

「まあ、一撃で叩きのめされてたけどな!ははははははははは!! 」

倉橋と虎徹は二人して肩を震わせた。

「そこまでして特訓がしたいかよ。お前は十分強えじゃねえか! 」

肩をポンポンと叩く虎徹に、熱矢は真剣な表情のまま下を俯く。

「……今、姉貴は重要な任務に行ってんだぞ!それに……俺と姉貴の力の差は歴然だ!もっと強くなって追い越さねえとならねェ! 」

掌の中心の肉に爪が食い込むくらい、拳を強く握りしめ、悔しそうに歯を食いしばった。

「特にクソ夜十達の世代は修羅場を経験してきたんだ。力の差?あったって、当然だ! 」

「燈火先生との差、戦闘面だけじゃないよ!ただ、熱くなって一生懸命にやることだけが強くなる秘訣じゃないでしょーが! 」

「……休んで日頃に溜まったストレスを発散することも大切ですのよ? 」

俯いた熱矢の体を触れながら、三人は強いことの意味を怒鳴り倒した。


 「そういうもんなのか……! 」

「復讐心に駆られすぎたせいで頭おかしくなってんじゃねえの? 」

虎徹が肩を震わせて馬鹿にしたように言った。

「なんだとぉぉぉおおおお!!虎徹、テメェ!俺に喧嘩を売ったな?買ってやるよ、表出ろやァ! 」

「お前本当に馬鹿だな!車ん中だぞ、外出れるわけないだろうが!ははははははは!! 」

虎徹の胸ぐらを掴み、熱矢はとにかく吠えた。車内は大混乱、それでも熱矢以外の三人は心の中で胸を撫で下ろす。

最近、死に物狂いで特訓詰めの毎日を送っていた熱矢、休むという選択肢が頭にないのか、寝る間も惜しんでいた程だ。

いつもなら、夜十や燈火が止めてくれるが生憎、二人は任務。彼を止められる人物は誰一人としていなかった。

そこで今日、三人で計画し特別休暇を満喫する方法を見つけるまでに至ったのだ。


 

 「さあ、着きましたわ!お父様が私の為に建ててくれた遊園地、MEITOOランドですのよ!お友達を招待するのは初めてでして、今までは身内の方としか来たことがなかったものですから、嬉しい限りですわ! 」

流石は日本随一のお菓子企業の一人娘か、自分のために建ててくれた遊園地?熱矢、虎徹、倉橋の三人は規模の大きさに驚愕する。

巨大な観覧車と遊園地内を綺麗に装飾するかのように張り巡らされたジェットコースターのレールはあまりにも印象的だった。


「話だけは聞いてたけど、規模違くない?! 」

「ええ?遊園地に行くとは伝えておいたでしょう?何か問題でもおありで? 」

「問題は無いけど……この量のアトラクションを四人で回ろうとしてる?! 」

「ええ!私達だけですし、どのアトラクションも乗り放題ですわ! 」

熱矢も割り切ることを心を決めたのか、ウキウキした表情で入場口に立った。

虎徹と明刀は、自分達の計画が結果として良い方向へ傾いたことに喜びを感じ、心の中でガッツポーズを構えた。


倉橋はというとーー、

「ちょ、ちょっと……パ、パンッ、パンフ! 」

はいどうぞ、と明刀の近くに居る女性のSPが倉橋の手元に何枚にも折り畳まれた大きいパンフレットを渡す。

「……え、あ、ありがとうございます。絶叫系が合計で十五台、ホラー系は三台……ファンシーな可愛いやつ、コレだ! 」

パンフレットを広げるなり、倉橋は培ってきた観察眼で全ての文字を頭の中に落とし込むと、瞬時に全ての計算を終わらせた。


どうせ男子陣は絶叫とかホラーがいいっていうに決まっている。ここは先手必勝!私が希望を掴み取るんだ!


「明刀さん!私、この可愛いの乗りたーー」

「ーーでは、参りましょう!順路が決まってまして最初は、300mからの急降下!奮い立たせろマイ髪(ヘアー)!デンジャラスエレベーターですの! 」

「ぉぉぉおおおお!!めっちゃ面白そうだな!てか、名前カッケェ!! 」

自慢げに胸を張る明刀と楽しげに騒ぎ立てる熱矢の声で倉橋の希望は消された。


「えっ……今何が……え? 」

「えーっと、倉橋さん何か言いました? 」

一瞬で希望が消されたことで驚きと同時にショックを隠しきれない。

男子陣はまだ分かる、なのに明刀まで?!

女の子は皆可愛いものが好きじゃないの!?

※倉橋独自の超偏見。

「……あ、別に何でもないよ! 」

倉橋は覚悟を決めた。過去に両親と行った遊園地のジェットコースターで最頂点からの急降下時にあまりの恐怖で気絶したことが脳裏に浮かび上がり、胸の奥に穴が開いたような気分になった。

それでも、やっと立ち直れた熱矢に楽しそうな表情の明刀が居る前でこんなことも言えない。そう思っていた時だった。



 「あ、悪ぃ。明刀、俺絶叫系苦手でよ。熱矢は行きたがってるし、俺暇だから倉橋と二人でどっか適当に回っとくわ〜!それじゃ! 」

「ーーえっ、ちょ!虎徹さん!? 」

明刀に引き止められる前に倉橋の手を取って虎徹は地面を蹴った。無我夢中に化け物から逃げるかのような勢いで走り続け、明刀と熱矢が見えなくなったところで手を離した。

アトラクションの近くにあるトイレの真裏だ、明刀の側近が探しに来ても容易にはバレないだろう。



「はぁ、はぁ……。嗚呼、別に構わねえよ。あんなに嫌がっててトラウマも脳内再生じゃ、乗ったってつまらねえだけだろ? 」

息を乱しながら虎徹は手をそっと離し、腰に手を当てて口元を歪めながら言った。

「……ありがとう。でも、何であの状況で読心魔法を使ったの? 」

「そりゃ……いや、何でもない。それより、これからどうする? 」

顔を赤らめ、何かを言おうとしたが言うのをやめて、目と話を逸らしたのだった。

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