第百八十三話 ロゼの襲来
体調崩して遅くなりました(´・ω・`)
「あははははは!!全然大したことないね〜! 」
黒と茜の連携を軽々と避け続け、ロゼは高らかに笑った。
「クソッ……!どんな身体能力だ、コイツ! 」
「はぁ、はぁ……はぁ、私達の連携を全て避けるだなんて……! 」
ゼェゼェと息を切らしながら、茜の綺麗な水色の瞳が鋭利に尖ってロゼへ向けられた。
「そんな怖い顔したって無駄だよ?未完成品がどんなに仲間を付け足そうが完成品には敵わない。アハハッ! 」
地面を踏み砕くような跳躍から空気を切り裂く蹴りはコンマ数秒どころではなかった。
気がつけば迷彩柄のズボンに包まれた筋肉質な足が黒の腹部にめり込み、身体の内部の幾つかの骨を粉砕した。
「がハッ……!! 」
威力も去ることながら、身体の形に地面を崩す勢いだ。吐血し、一瞬だけ気を失いかける。
だが、ソレは終わっていなかった。
「黒!! 」
「あ、あッ……茜ッ!うし……ろッ……! 」
振り向く暇も与えない、茜の背後に冷徹な憎悪と怒りが肌を震わせる。
高く振り上げられた足が茜の後頭部に届くや否やーー不意打ち以上の速度、誰も反応出来るはずがないが、その一撃は止められた。
「……黒、鳴神先輩ありがとうございます。こっからは、俺が行きます! 」
漆黒の刃を片手に鋼鉄よりも硬い蹴りを牽制する。甲高い金属音が周囲に響いた。地面が靴の底状に陥没する。
「出てきたなぁあああ!!末裔ぃぃ!! 」
ロゼは瞳を大きく開け、顔が歪むくらいの笑みを浮かべる。
歯を食い縛り、力を身体全てへ循環させた。
「……もうお前との勝負は終わらせるッ!ロゼ!! 」
携えた刀剣を弾き、一旦ロゼとの距離を取るが、地面を大きく踏み込み再度懐へ潜る。
携えられた刀剣は速度、力、タイミング、全てが絶妙に相手の急所を狙い、空気を滑った。
「……コイツ相手じゃ、私のダイヤもッ! 」
首を獲られると判断したのか、彼女は冷静に後ろへ飛んだ。
しかし、ロゼの眼前を通り過ぎた鋭い刃の剣圧で浅く皮膚が切れ、一筋の鮮血が流れる。
彼女の額から大粒の汗が首元へ垂れた。
「次は確実に当てる。ロゼ、お前は俺に勝てないッ! 」
夜十の瞳に赤と黄の光が収束し、透き通るような蜜柑色に輝く。
それはまるで太陽の宝石だった。
「ハハッ、アハハアハハッ!! 」
ロゼは急に狂ったように笑い始めた。絶望的状況下の中で二度目の死を体験することに恐怖を覚えたのだろうか。
「何がおかしい!! 」
「……魔法を消せるから私を倒せるって?笑わせないでよ。私は金剛の魔女、未完成なんかに負けるわけない! 」
ロゼは地面を強く踏みしめ、蹴り飛ばした。
「金剛の細氷! 」
薄氷の微粒子が吹雪のように吹き荒れ、ロゼは吹雪に身を潜めた。
「どこに隠れようたって無駄だ! 」
夜十は"視る"ことに意識を向けた。ロゼの創り出した細氷の吹雪を。
魔法で創り出された偽りの吹雪がピタッと止まるかのように消えた瞬間ーー。
「《第一の瞳》! 」
吹雪の中から現れたのは赤紫色に瞳を輝かせたロゼ。彼女はニッコリと頬の筋肉が千切れるくらいの笑顔で夜十を"見た"。
「それが少しでも俺に勝てると思った秘策か? 」
「うん、そうだよ?だって、お前は連続で魔法を消せないでしょ? 」
夜十の頭上に「?」が浮かぶ。
最初の戦闘だけでこの魔法が連続で魔法を消せないという情報まで読み取れるか?それもまた、確信があるかのような口ぶり。ロゼの言動にとてつもない違和感を感じる。
「いや、そんなことを俺がいつ、言ったって? 」
夜十は再びロゼの紫色の瞳を"視た"。
魔力の篭った瞳はスッと元の色に戻り、ロゼは口を大きく開けて驚愕する。
地面へゆっくりと着地し、怒り剥き出しの表情で歯を食い縛り、後ろを振り返った。
「……ラブカ!!ガセネタを掴ませやがったなッ!クソが、クソが、クソガぁぁぁ! 」
力一杯に叫び声を上げ、怒りの感情に支配されたロゼの魔力は枷を失って暴走した。
溢れる魔力で大気を回し、雷が空の上で喧嘩を始める。大地は揺れ、空に向かって小石や岩が浮かび上がった。
「なんて魔力だ、俺が全て消してやーー」
夜十はこれから数分後の未来を脳裏に映し出した途端、動きを止め、後ろへ後退する。
「オイ、夜十。なんか嫌な予感でもしたのか? 」
「ここから先は俺達が踏み込んで良い領域じゃないみたいだ。 」
夜十の言っている意味は理解が出来なかったが、リアンもギルも彼の真剣な表情にふざけているわけではないと悟り、彼の言葉を受け入れることにした。
「ふふふ、ロゼ。少々恐怖を与えすぎでは? 」
彼女はずっと夜十とロゼの勝負を傍観し、ニヤニヤと笑っていた。まるで"ゲーム"を見ているかのような視線でだ。
「お前、私に伝達魔法で嘘を教えた意味を答えろッ!クソが!! 」
「理由?そんなの、"面白そうだったから"。それ以外にあるの? 」
「お前は私の下僕、奴隷、道具だろうが!私に逆らったらどうなるか、分かってんのか! 」
「……ふふふ、分からないわ。私ね、貴方のような子供の言葉、理解出来ないの。 」
怒りに身を任せたロゼは地面を蹴り、ラブカの懐へ潜り込んだ。凄まじい速度で繰り出される拳は足元からのアッパーカット。
「……ALMA24。 」
彼女が小声で何かを囁いた瞬間、吹き抜ける風が如きでラブカの位置にナニカが空気を裂いた。
ロゼの渾身のアッパーカットが届くか、届かないかの瀬戸際に。
渾身のアッパーカットは"ソレ"に直撃した。凄まじい衝撃で空まで浮かび上がり、ロゼはソレを直視し、目を大きく開いた。
「……ALMA24?!なんでアイツのがここに……ッ!! 」
「あら、気付いてくれたの?少し嬉しいわ。そのお子様な頭でも覚えられるのね? 」
「その勘に触る物言い。お前、キングかッ!! 」
ロゼは驚愕のあまり、口を開いては閉じてを繰り返し、あわあわと落ち着きがなくなった。足は震え、握った拳も震え始める。
「女性の振りというのも少し楽しめたな。今度、道具を女装させようか。 」
夜十がラブカを直視した瞬間、魔力で創り上げられた幻想が砕け落ちる。金色の髪をオールバックで纏め、金の鎧を身に纏う姿は例えるならば"王"そのものだった。




