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追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《潜入編》
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第百八十一話 エーデルシュタイン ③


 串に刺された綺麗な三色団子、一つ一つがそれぞれの色彩を持ち、各々の役割を絶妙に果たしている。それを口一杯に頬張り、早三本の串が皿の上に置かれた。

「……やっぱり、団子やな。最高や! 」

ズズズ、と"団子屋雷電"と黒字で刻まれた茶飲み茶碗を啜り、熱々のお茶を喉に落とす。流暢な関西弁を話し、ご満悦の輝夜はこじんまりとした茶屋の中を覗いた。


「前線を離れたって聞いたから心配だったけど、元気そうね。……ほら、コレはオマケよ。 」

親しげな様子で茶屋の中から出てきた女性は、お盆の上に乗った皿の上に美味しそうなお萩を二つ、輝夜へ差し出した。

「お!恩に着る!……ん、やけど雷子(らいこ)も前線に戻ってこーへんのやろ? 」

「姉さんも子供産んで引退したし、私は元々戦闘は得意じゃないからね。 」

「何言っとん……?鳴神の名が泣くぞ? 」

「家の名前なんて名前に過ぎないよ。私の人生の引導を渡すほどじゃない! 」

雷子は水色の綺麗な髪を右手で払った。


「じゃあ次の当主は? 」

「今は姉さんがやってくれてるけど、私にそんな役目は務まらないからね。か弱くて頼りないけど、妹に任せようかなって……」

雷子の瞳の中は脇から見れば一雫が表面張力で固まっているような、潤いがあった。

「全然か弱ないわ!冴島隊は今やATSの即戦力と言うても過言やない隊やで?そこの隊員なんやから、弱いわけないやろ!」

輝夜は雷子の様子と口調に違和感を覚えた。

鳴神茜の戦い方は何度か見たことがあるが、あの荒々しい戦闘スタイルの中に洗練された攻撃構成を組み込むセンス、視野の広さ、対応力全てにおいて世代で比べれば群を抜いている。


「……え?冴島隊?……ちょ、え?何の話よ!茜はまだ学生よ?何で魔法師の隊に?! 」

雷子は一瞬キョトンと首を傾け、ハッと我に帰ると輝夜へ問いただした。

「本人から何も聞いとらんのか? 」

「入学式の日に"心配いらない"ってメールが来たっきり、何も聞いてないわ! 」

「あちゃー……そんな感じやったら、当主任せるんは打ち明けてからにせーよ? 」

「何々、どういうこと!?今、茜はどういう状況なの!? 」

自分の知らない妹の情報が出てきたばかりに雷子は興奮して騒ぎ始めた。

「あー、話すんやなかった……折角のワイの休日がぁぁぁ……! 」

「前線離脱したんだから暇でしょーが! 」

輝夜がそそくさと逃げようとするが、雷子は目を光らせて茜の情報を聞き出すべく、怒号を浴びせるのだった。




 それはまるで千本以上の針が連なる山のようだった。

頭の部分には鋭い牙と角、黄色い瞳は全てを見透かされているような気分になる。

「グォォォォォオオオオオオオオオオ! 」

凄まじい力を帯びた咆哮が空気を切り裂き、大地を揺らした。

「……アビス化しようが関係ねえ!俺がお前をぶっ倒す!! 」

地面を蹴ろうと足を踏み出した瞬間、夜十の顔面へ強烈な蹴りがめり込んだ。バチバチと空気を焦がし、数メートル先まで夜十を吹っ飛ばす圧倒的火力。


「はーい、夜十君は戦いすぎ!ここはお姉さんと黒に任せなさーい! 」

「……ったく、お前は休むってことを知らねえのか。俺は休ませてもらった、次はお前の番だ!あったまっとけ! 」

色白の筋肉質な足を伸ばし、準備運動に入った。

足、手首、胸、腰、身体全体の調子は完璧。良い傾向だ、茜は自身の身体に雷を纏わせる。


「先輩方……!どうかご無事で! 」

せめてもの言葉にカチンと来たのか、目を鋭く尖らせ、夜十を睨みながら二人は言った。

「無事を心配される程、落ちぶれた覚えはねェよ! 」

「本当に私達のこと先輩って敬ってるのかな?まあいいや、夜十君には後で私の蹴りでもお見舞いしてあげるとしようっ! 」

"可愛い顔して怖いことをあっさり言いやがったな"休憩を取りながら夜十は思った。



 「さて、黒。怪我しちゃって弱くなっちゃってないよね? 」

「……ったくお前は、一言二言が多いんだよ。弱いなんて言わせねェ! 」

黒は背中に挿してある交差した鞘から二刀を取り出して構える。持ちやすい小刀とは違って、普通両手で持つ程の長さだ。

それを軽々と持ち、鋭い眼を光らせた。

「それを使うのは、実戦じゃ初めてなんじゃない?大丈夫? 」

「だーかーらーっ!うるせええええ!今集中してたんだよ! 」

「今一番うるさいのは黒だよ?! 」

夫婦喧嘩みたいな言い合いをし始める黒と茜にシビレを切らしたザックは、巨大な身体を素早く動かして鋭い針だらけの腕を振るう。


「グォォォォォオオオオオオオオオオ!! 」

「……待てが効かないのかな?誰が今、お前の番だって言った? 」

腕を振り下ろした先には真剣な表情の茜、重く強い一撃は空気を切り裂き、地面を破壊した。凄まじい破壊音と共に地面が割れる。

ーーけれど、そこに茜はもう居ない。


「先手だってレディファーストだよね?《鳴神の名の下に敵を両断せしは雷光の輝きを!電雷宝刀(でんらいほうとう)》! 」

ザックの背後より頭上で白に近い青色の電撃がバチバチと空気を焦がす。電撃は茜の手に収まると同時に雷の剣へ具現化した。

「燈火ちゃん程の魔力制御は私にはないよ。でもね、このくらいのことなら出来るんだッ!はぁああああああ!!! 」

背後からの凄まじい魔力に驚いて、ザックは急いで後ろを振り返る。

ーーだが、時既に遅い。

茜の電雷宝刀は振り向く程度の速度なんざ、軽く凌駕する。

振り向くよりも早くザックの後頭部へ剣が振り下ろされた。


「ガァァァァァアアアア!! 」

身体中の鋭い針は茜の雷の剣の熱で溶かされ、皮膚へ綺麗にダメージを与えられていた。ザックは頭を両手で押さえ、頭を右へ左へと傾けている。凄まじい痛みから悶えているのだろう。

「やっぱり、その針は剣を弾くようだね。でも、私には効かない!《駆雷(ハクビシン)》の雷からは逃れられない! 」

茜は右手に携えた電雷宝刀を構える。

きっとザックの次の攻撃は大振りではなく、慎重な攻撃が来るだろう。誰だってあれだけの一撃をくらえば、大人しくなるのは必然。

と、茜はザックの動きを呼んだ。



 「グォォォォォオオオオオオオオオオ! 」

頭の痛みがひいたのか、怒号のような咆哮を放つと、茜の読み通り慎重にゆっくりと動き始めた。間合いを詰めるか否か、適度な距離を保ち続ける。

電雷宝刀の距離を把握したようだった。

「でも、関係ないもんね!お前がどれだけ慎重になったとしても、私には効かない! 」

地面を蹴って雷光の速度で高速移動を続ける。四方八方からの死角を永遠に狙い続け、敵の弱点への攻撃を的確に成功させたい。


大型アビスとの戦闘とは即ち、慎重オブ冷静でなければならない!

コレは新木場の言葉だが、鳴神茜には強く刺さった。冷静であることが唯一、生徒としての自分と変わったところ。

技を磨くことよりも最優先に判断力と対応力を磨き、結果として魔法が強くなった。


鳴神茜は決して天才ではない。

自分よりも下の年代に魔法師の名家で天才と呼ばれる朝日奈燈火と肩を並べられる程の魔力ではなかった。

だが、直向きな努力と名家生まれが持つ類稀なるセンスで肩を並べるかそれ以上の力を手に入れている。


彼女は目の前の怪物、ファフニールに一撃を喰らわせられたことで気持ちが昂っている。

次の一撃も、と、狙いを確実に定めたのだった。


因みに駆雷(ハクビシン)は、鳴神茜の異名。

新島鎮雄から直々に頂いた。

本人は凄く気に入っている模様。

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