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追憶のアビス  作者: ezelu
第1章 学園編《所属狩り編》
18/220

第十八話 仁科白離

※2017/07/12

文法と誤字、脱字を修正しました。

ーー、一年前。

心地のいい風に桜の花弁が舞い落ちる四月。俺、仁科黒は学園に入学した。一般から入学した俺には、一つ年上の姉が居たんだ。


そもそも、俺がここに通おうと思ったのは、姉が居たからだ。

貪欲に力を求めていたわけでも無ければ、魔法師になりたいという欲があったわけではなかった。

けれど、きっと姉を守りたいという心が途中で芽生えたのかもしれない。



「黒!入学おめでとう!大きくなったね、一人でトイレ行ける?」


「行けるわ!!……もう姉ちゃんの力借りなくても大丈夫だし!」



一年ぶりに姉に会ったことで感動し、心の中がほっこり暖かくなった気がした。


「派閥はどこに入るの?」


白く短い髪を撫でながら、俺の姉は聞いてきた。そんなのは既に決まっている。



「姉ちゃんと一緒のとこ!!」


俺は笑顔で答えた。

すると、それを予期していたかのようにガッカリし、姉は真剣な表情で俺の瞳を見つめる。



「……私と同じ場所は無理だよ!黒、あんたは《平和派(ジャスティス)》に入れるように努力しなさい!彼処なら差別化も少ないし……」


するとーー姉の言葉を遮るように赤髪の男が現れ、姉の手を掴んだ。



「お前が仁科白離(にしなはくり)か。来いよお前、何でもするんだろ?」


赤髪の男は、恐い顔を歪めて笑う。

姉は嫌がっていたが俺に別れを告げると、男に連れられたまま去っていった。

姉ちゃん、それはどういうこと?

理解は出来なかったが、学園に入った瞬間、俺に友達は出来なかった。それが意味することを俺は次第に気づいていくことになる。


少しの時間を経てからーー

ーー振り分け試験当日。

同級生との対決に圧倒的大差をつけられて負けた俺を、ソイツは見下した。

「……よっわ!やっぱりお前、《奴隷娘(スレイヴ)》の弟なだけあるわ!そんなに弱いのに何でここへ来た?」


「姉ちゃんと一緒にいたいから……!」


すると、そいつは俺の返事と態度に対してなのか。笑いながら頭をグリグリと踏みつけてきた。

「キモっ!さっさと死ねよ、ここはお前みたいな雑魚が来るような場所じゃねえんだよ!精々、《奴隷娘》のようにならないこったぁ!」


それだけ言い残し、彼は出口へ去っていった。



《奴隷娘》?聞いたことのない名前。けれど、今、弟と言わなかったか?馬鹿で平和ボケした俺でも流石に理解が出来た。



仁科白離は《奴隷娘(スレイヴ)》。


「仁科黒を欲しいと思う方は赤旗を!!」


ジャッジの時間では、当然、全員が白旗を上げた。

マトモに戦闘も出来ない俺を必要としてくれる団体がいるわけがないからだ。

俺は《無所属(インディペンデント)》になった。

今は大分軽くなったが、当時の学園内での《無所属》の扱いは酷いモノで、言うなれば昔の奴隷制度と同じ。所属している人物達には、何をされても逆らえない。姉は《無所属》に所属し《奴隷娘》という名前で色んな生徒の言うことを聞いていた。俺自身はクラスメイトからも軽蔑され、席のない日々が続く。


一週間の時が経り、身体測定と戦闘演習があるらしいと、一報が(くだ)ってきた。

俺はその時、教室の隅の床に腰を下ろして購買で買ったパンを貪り食べていたのだが、教室の外から手招きをしている姉の姿が見え、教室の外へ出た。



「姉ちゃん、どうしたの?」


「これから大切な話があるから、覚えておいてね。イベントで戦闘演習というのがあるのだけれど、一年生限定で二年生と戦うというルールがあるの。その日、熱でも何でもいいから……!寮の部屋から出ないで!休んでほしい!」



姉は教室の中に聞こえないくらいの小さな声で俺に言った。周りを気にしているようで、どこかソワソワしている。



「……どうして?」


率直に出た疑問を姉は答えてくれなかった。俺の教室から赤髪の男がヒョコッと頭を出してきたからだ。

此奴は、朝日奈火炎。俺と同じ一年生にして、《戦闘派(クルーウ)》の隊長を早くも任された天才。



「……お?お前ら仲良く話してんじゃねえか。俺も混ぜてくれよ〜、何話してたんだ?」

火炎は気性が荒く、相手が女だろうが子供だらうが、気に入らなければ殴り飛ばす屑だ。


「特に何もないです……。私はコレで!!」


姉は階段に戻るべく、後ろを振り向いて去っていく。

その姿から視線を外した火炎は、俺の肩を掴んで低く野太い声で聞きたくもない情報を投げてきた。


「ちょっと面白いこと教えておいてやるよ。……俺の戦闘演習の相手、お前なんだよ。普通なら先輩なんだけど、その必要も無いらしいから余り物と戦わされるんだとよ。まあ、精々クソッタレな試合しないように死んでくれや」


彼はそれだけ言い残すと、教室へ戻っていった。

姉が言った意味はこういうことか。

戦闘演習の俺の相手が気性が荒く、性格の悪い最悪の男、朝日奈火炎の相手だから、ロクなことがないって先に判断したんだ。

今の学園で信じられる人物はたった一人。姉しかいない。その俺が姉に逆らう理由はなかった。



ーー戦闘演習当日。

窓から射し込む太陽の光が眩しくて、目が覚める。現在時刻は、8:30を回っていた。それでも、今日は行かない日だ。ゆっくり寝ていよう、クラスメイトも俺の寮室の場所は知らないだろうから、連行される心配もきっとない。試合開始時刻は九時だ。後三十分で支度が出来るわけがない。そもそもする予定もないので、そのままベッドの中へ入った。



ーー、一時間後。

俺は大きな校内放送の音で目を覚ます。


「仁科黒くーん、おねむかな?

姉ちゃん今から殺すけど、良いんだな?」


「黒、来なくていいからね!お姉ちゃん大丈夫だから!」


「うるせえんだよ死ね!」


それは、火炎が姉をボコボコにしているような音声だった。行かなきゃ……いや、でも行ってどうする?火炎に勝てるわけがない……!!


ーーと、考えていたはずなのに自然と体は動いていた。次第に激しくなる校内放送での姉の呻き声で、火炎がどれだけ姉に暴力を振るっているかが分かる。

そしてそれが、どれだけのものなのかも。

寮室からアリーナまで十分以上はかかるので、俺は、急いで廊下を走り抜けた。一年生は一階だが、《無所属》はかなり遠めの場所にあるのだ。




「はぁっ、はぁっ!!つ、着いた!!」


アリーナの入り口に着くと、最後の一踏ん張りで地面を蹴り、中へ入った。

するとーー

「お、弟君遅かったね〜!さあ、やろうか?」


彼は殺気立った表情で姉の顔に靴を履いたままの足を乗せ、グリグリと踏みつけている。


「火炎……ッ!!弟には、手を出さないでぇっ!お、お願いしま……!」


姉は振り絞ったような声で、火炎へお願いを紡いだ。だが、彼に通じるわけもなく。


「んー、そうだな。じゃあ、お前の一番の必殺魔法を弟に全力で当てたら良いぜ?」


姉は絶望したように表情を暗くし、下を俯いた。そしてーー



「《蒼穹の印よ、天下に基づき、その光……解き放ちなさい!蒼穹の水弓(アクエリオス)》」


姉が水で具現化した弓矢の矢の刀身が水色の光を放ちながら、俺へ向けられた。



「ごめんね、こんなお姉ちゃんで……!」


彼女は背を向けていた火炎の方へ方向転換すると、一気に矢を放つ。凄まじい速度で加速する矢に、笑みを浮かべた火炎は、掌で矢を受け止めようとしているのか、前に突き出した。



「それがお前の答えか。《超反射(フルカウンター)》!」


矢は当たり前のように方向転換し、彼女の心臓を貫くーーその瞬間、俺の中の時は止まったような気がした。静寂が空気を飲み込み、噴出する血液が空気を侵食した。



「ね、姉ちゃぁぁぁ!!」


あまりの絶望に俺は、地面に倒れそうになった穴を受け止めた。俺の膝の上で姉は、涙でグシャグシャになった顔のまま、言の葉を紡ぐ。



「んっ……黒っ、ごめんね。こんな姉で……!!……今まで、ありが、と」


口から血を吹き出し、彼女は他界した。

その時の俺は何を言って良いのか分からずに只管、嗚咽と涙を流す。今まで色んな思い出を作ってきた姉が、支えになってくれていた姉は、目の前で死んでしまった。ショックのあまり、気絶しそうになる。グッと堪えて、火炎に視線を移した。



「死んだか、呆気ない人生だったな。

まあ、楽しむことは出来たから感謝してやるよ。んじゃなー」


火炎は会場を去っていった。観客席側からは、非難の声の比率よりも火炎を賞賛する声の方が多く聞こえる。そしてーー俺は自覚した。


ーーああ、この学園は狂っている。

俺が粛清し、所属しているモノを直してあげなければ……!!



"復讐"してやる!!




ーー時は戻り、現在。

俺、冴島夜十の前に現れるのは異形を成した人物。黒い影は付き纏うように彼の両腕両足を覆い尽くし、彼自身は、赤く鋭い眼光をこちらへ向けている。


その姿は、まるでアビスのようだった。



「殺してやる……所属してる奴ら全員!お前らが全部いけないんだよ、姉が死んだのも!!お前らがぁぁああ!」


瞬発力は低下しているようで、彼の動きはとても遅い。

背後へ回り込み、本気で殴りつけた。

だが、彼の影によって防がれてしまう。

拳は受け止められて、掴まれてしまった。

身動きが取れない……!!



「先輩を背後から殴ってんじゃねええええ!」


腹部めがけて放たれた拳の威力は絶大で身体の中の空気が一瞬で押し出された。

肺が酸素を欲しがっては、嗚咽交じりの声が出る。



「……ぐあっ!!」


地面に叩きつけられるように殴られた俺は、一気に朝日奈の横まで吹っ飛ばされた。うつ伏せの体勢で彼女へ視線を移す。


「朝日奈、お願いがあるんだ。……炎の剣を俺に貸してくれないか?」


燈火は驚愕した。夜十は、自らに激痛が伴うペナルティ付きの、魔法師にとって禁じられた行為の一つ、《魔力渡(オーバー)》をやろうとしているのだ。



「それってあんた……!!私の炎に焼き尽くされてしまうわよ!?」


そう、彼女の言う通り。俺の魔力量は彼女とは段違いだ。そんな奴が魔力を受け止めきれるわけがない。それでも、黒剣が無い今はこうするしか勝ち目がないんだ。



朝日奈は、呆れたよう言った。


「あんた、時間を稼ぎなさい!……生成したら渡すわ!」


「OKッ!!」


俺は立ち上がり、目の前の異形へ向かって地面を蹴った。彼の速度は遅すぎるくらいだが、装甲の硬さと攻撃力は段違いに高くなっている。



「まるで戦車だな……」


遅い動きで猛追してくる黒から逃走し、全力を振り絞っている朝日奈を待つ。急激な魔力消費で尻餅をついているのだ、彼女が絞り出せるだけの魔力は剣を作る状態にまで至っているかどうかさえ、定かではない。



「……出来たわよ!夜十!!」



彼女は俺に向かって剣を手から放つ。空中で回転し、柄の部分が絶妙に下の位置になった瞬間、俺は剣を掴み取った。



ーードクンッ、ドクンッ!

心拍数が大きくなり、体に大きな振動が伝わった。

彼女の魔力が俺を腕から身体にかけてまで侵食していくのが分かる。身体の火照りとともに湧き上がる魔力、彼女に優しく包み込まれているような感覚が一気に消滅し、大きな痛みへと変わった。手の皮膚が爛れ、真っ赤に染まる。今なら耐え切ることはできるが、この剣を持ち続けながら戦うのはかなりのリスクを生む。つまりーー。



「これは一太刀で決めるしかなさそうだな。この熱さに耐え切れるのは一度のみだ!この……一太刀で決める!はぁぁぁぁぁあ!!」


俺の気迫に応えるよう、黒は巨大な真っ暗い球体を無数にアリーナの天井は飛ばした。ふわふわというよりも、一直線に何の迷いもなく急上昇した球体は、一定の高さまで行くとパンッと高く乾いた音を発しながら割れる。


すると、弾けた影響で夜十の前には無数の黒く太い針が、まるで雨のように降り注いだ。それでも、俺が出来ること、すべきことは一つのみ。真っ直ぐに頭を回転させることだけを考え、集中力を咎めた。




「考えろ……あの針が飛ぶ角度を、太さを、音を、空気を裂く音は教えてくれる!ならば、見出せないことはないはずだ。このまで見透かすのは未来!俺に見切れない技はない!!」



分析完了。《追憶の未来視(リコレクション)》に異常なし。


「《大火が如き、熱を帯びた剣は火照り、空気に触れれば溶けて消える。だから、この一瞬だけ……俺に引導を渡せ!電光石火!》」


俺の動きは次第に加速する。

相手の動く位置、空気の中の振動、音、角度、全てを計算した上で何処に飛べば確実に相手を仕留められるかを瞬時に頭の中で計算、未来を複製し、行動へ移す。


その速度、音速の域を軽く凌駕し、黒の影の魔力源を見切った!!


彼の背後へ回り込む。

次に背後へ攻撃が来ることが視えると、方向転換で目標の位置に到達した。

この時をずっと待っていたーー相手の魔力の根源、核の部分を相手が曝け出す、大きな隙を。




「ここか……!!

いっけぇぇぇえええええ!!」


俺の剣は魔力の根源である核を、真っ直ぐに断ち切った。

瞬間、音を立てて砕け散った核部分の影響で、

彼に纏わり付いていた影が消滅する。



「……ぐぁぁああああ!!

それでも……まだ終わってねえええ!!」




彼は立ち上がり、地面を蹴って、俺に二本の剣を放ったーーだが、それは届かない。

追憶の未来視(リコレクション)》で複製した未来で分かっていたのだ。

地面に剣が落ちたことで金属音が周囲に分散されるよう、響き渡った。


自分自身も地面へうつ伏せになった黒、彼は悲しみの表情で語り始めた。



「俺の姉はここで死んだんだ……。

去年の今日にな……。


お前が……二度と目の前で人を失わせないっていう信念を貫き通す奴なら、分かるだろ?」


目の前で人を失うということの辛さ。

涙も嗚咽も出ない、シンプルな悲しみ。

大切な人が平気で自分を庇い、生命を手放していく感覚を。



「……だとしても、人を傷つけることはしてはいけません。

俺と貴方は同じ境遇で、貴方は歩む道を間違えてしまった……!!


誰を恨むのも個人の自由ですが、一番恨むべき対象は……己の弱さだ!!

……黒さんも俺と一緒に人を護る方へ来ませんか?」


黒はハッと目を見開いて、瞳に涙を溜める。分かっていた……なのに、心の中ではいつも誰かのせいにして、自分自身の弱さを棚に上げてばかりいた。

そうして、誤魔化していたんだ。自分は弱くない、と。




「姉の復讐でつけた力だ…この力で人が守れるわけない!!

それに俺を受け入れてくれる人なんて……」



「……俺が、《平和派》が貴方を受け入れます!!

だって、誰が何と言おうと貴方は強いじゃないですか!!

それがどんな経緯でつけられた強さかは重要じゃないんです、重要なのはこれからどう使っていくかに限ります!!


……努力でつけた力じゃないですか!」


彼は瞳から悲涙を零れ落とし、嗚咽混じりの声を出しながら泣き始める。

ここで死んだ姉を想い、《所属狩り》として剣を振るった人物は、剣を手放した。



ーー黒に言った言葉を思い出しながら、俺はふと、思ってしまった。



俺は、間違っているかもしれない。

人がどんな道に進むかなんて、その時の状況次第でいくらでも変わってくる。


俺も平気でアビスが蔓延る場所に生まれたのなら、感情を押し殺して、《アビス狩り》をしていたかもしれない。


人間の感情はいつだって……!!



『残酷だ……!』



十八話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今日の投稿は少し遅れましたね~!

まあ、また後でもう一話投稿する予定ではいるんですが、それが何時になるのかはわかりません!Twitterで随時お知らせはする予定です!


さて、今回で《無所属編》は終了です。

次回はその後の話と……日常に戻ります!



それでは!拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!

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