第百七十六話 一難去った後は……
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これからも追憶のアビスは全力をあげて突き進んでいく予定ですのでお願い致します!!
「なぁなぁ、聞いたかよ!ロゼ、死んだんだとさ!!はははははは!!!笑えるぜ!あの調子に乗った女、死んだんだとよ! 」
金色に輝く立派な玉座に腰を下ろしている金髪の男は高らかな笑い声を上げ、手を叩いて感激した。
男の玉座の足元には首を鎖で繋がれ、両腕両脚全てを拘束された全裸の男が横たわっている。
「ま、全くもってその通りにございます!陛下! 」
「……はぁ?お前、誰の許可を得て発言してんだよ。雑魚が調子に乗ってんじゃねえ! 」
白いブーツの硬い靴底で強く男の顔を踏みにじる。
「お前は俺の足置きか靴磨きの道具。道具が口を開いてんじゃねえよ。その口は靴磨きようの口だろ? 」
「……」
男は次喋ったら口を塞がれると思ったのか、金髪の男の言葉に返答を返さなかった。
「俺の言葉を無視するとは良い度胸だな?お前は失格だ!もう少し良い態度を見せれば、妻子の元に返してやったものを……! 」
「勘弁してください!陛下!どうか、どうかお許しを!! 」
「俺の許可なく喋るなと言っただろ!もういい!お前を殺した後はお前の妻子を道具として使ってやる。覚悟しろ! 」
「陛下!お許……っ!!がはっ……! 」
男は首に金色の剣を突き刺され、大量の血液を流した。最早それは即死だった。
この最低最悪の性格の持ち主はこの国の王、《金色の魔術師》の異名で名高い北の魔術師、キングである。
「陛下!また死体増やしたのですか?洒落になりませんぞ!今週だけで十五人目です! 」
赤い髪の老魔術師が木の杖を持ち、激怒しながら部屋に入ってきた。その様子を面倒臭そうな表情で頬杖をつきながら視界に捉える。
「こいつが粗相を犯さなければ死体にはならなかっただろ?それとも何か、俺が悪いってのかよ? 」
「そうは言っておりませぬ!だがしかし、このままでは国民からの支持は下がる一方にございます!! 」
「じゃあ、支持率を低くしている奴等を此処に連れてこい! 」
キングはニヤリと笑った。
「それじゃ今までと何がーー」
「ーー大丈夫だ。殺しはしねえよ。殺しはな!ははははははは!! 」
赤髪の老魔術師は目を細めて目の前の男、キングを見て、何かを呟いた。
それはキングにすら聞こえないほどの声だ。
「何ボサッとしてんだ!さっさと連れてこい!殺されたいのかぁ?! 」
「ハハッ!陛下の仰せの通りに!! 」
赤髪の老魔術師は部屋からそそくさと出て行った。
「全ては俺の掌の上。邪魔な奴らは全て、平伏せば良い!! 」
キングは高らかに笑い声を上げた。
その笑い声は宮殿の天井を更に越え、国内にすら聞こえそうな声音だった。
「ロゼが倒されたってなれば、魔術師側は嫌でも増援を送り込むだろ、フツーは! 」
「確かに……。でも、あれから半日も経ってる。もしかして、ロゼが倒れたって一報が上に行ってないんじゃないのか? 」
この場に居る全員が疑問を浮かべた。
少なからず増援が来たら、新たに加勢してくれたリアンとギルを含めたメンバーで戦いを凌ごうと身構えていたというのに。
増援どころか、一人の住民も街には居ない。
「ところで街の住人は? 」
「寝てたから分からねえんだったな。アイツらはロゼと少年達の遺体を背負って、何処かへ消えてしまったんだ。俺らが止めようとした時には遅くてな、まさに一瞬だった。 」
黒は悔しそうに拳を握り、開いてはを繰り返す。まるで自分に力がなかったからと後悔しているかのようだった。
「闘いで誰かが悪いなんてことはねえよ。全ての原因は生み出した世界。お前も冴島隊の一員なら胸張って剣を振れよ。俺とリアンが全力でサポートしてやる!! 」
黒も含めてだが、ギル以外の全員は驚愕し、その次の時にはニコリと笑った。
あの自分勝手に生きていたギルが味方を励ますなんてことは珍しくてたまらない。
「明日雨降るかもしれませんね、リアンさん。 」
「ああ、ギルが味方を励ますなんて……お母さん嬉しいよ! 」
「アンタは俺の母親じゃねぇだろうがッ!それに雨ってどういう意味だぁぁああ!! 」
ギルの渾身の叫び声と共にリアンと夜十、燈火の三人は異変に気がついた。
ポツポツと頬を打ち始める雨が降り始め、空はいつの間にか黒雲に覆われている。
「待って……何この魔力……!! 」
「雨?な、なんで雨が!本当に俺が降らせちまったのか?! 」
「ギル、少し静かにしてくれ!明らかに異常な魔力が近づいてくる! 」
リアンが声を荒げた瞬間、足音が前方から聞こえ始めた。コツコツとハイヒールのような高い靴でコンクリートを踏み鳴らす高い音。
「ロゼ様が殺られてしまったのは全て私の責任と言えましょう。私の責務は……」
腰に刺さった長刀の柄に手を当て、漆黒の和服を身に纏うポニーテールの女性、魔力からして魔術師であることは間違いない。
何かを小声でぶつぶつと呟き続ける。
「貴方を守ることだったというのに……」
ずぶ濡れで夜十達の方向へ突き進む。
「皆、構えるんだ!魔力からして只者じゃない! 」
夜十達はそれぞれ武器生成や己の魔法を解放して構えの姿勢を取った。
女性は夜十達を通り越した後直ぐに立ち止まり、悲しげな表情で問いかける。
「そんなに身構えて、どうしたんでしょう?……もう貴方達は斬られているというのに。 」
悲しげな表情の中ではニコリとも笑顔を見せず、それが当たり前であると言いたげにマジマジと夜十達の顔を見つめていた。
「斬られてる?だぁ?何言ってんだ!魔術師ィ!! 」
黒は地面を蹴って飛び上がり、漆黒の大剣を女性へ向かって大きく振り下ろした。
間合い、速度、意外にも計算し尽くされた特攻だったのか、彼女への直撃は免れない。
ーーはずだった。
「なっ……!?ありえない!! 」
彼女は黒の大剣を自身の刀で受け止めたのではなく、あろうことか素手で受け止めている。それも、大剣の方が硬いはずなのに飛び上がって火力を上げた黒の攻撃は簡単に弾かれてしまった。
「……何がですか?私が刀を抜かなかったことでしょうか? 」
「くそッ……魔術師ってのは皆、こんなに馬鹿げた力なのかよ! 」
一度距離を取って、再度構え直した。
「私の刀は特別なのです。抜くのは余程の時。貴方如きに抜く必要はありません。それに……」
「……なっ!?ぐっ……ぁぁああ!! 」
黒の両足から血が噴出し、思わず膝から崩れ落ちてしまった。必死に立ち上がろうと試みるが、立ち上がれそうにない。どうやら、アキレス腱を切られたようだった。
「黒!大丈夫か!? 」
「クッソ……!情けねえ!動きを封じられちまった……! 」
大剣を杖にして必死に上体を起こす。
「燈火、回復任せても良いか! 」
「うん!任せて!! 」
黒と女性の間に夜十とギルが立ち塞がった。
燈火は後方で黒の回復、リアンは回復中の護衛の役回りを行う。帳は後方から支援。
夜十の脳内に既に出来上がっていた作戦を帳は汲み取り、全員に念話を繋げた。
「雑魚が何人増えようとも、私には敵わない!ロゼ様にマグレでも勝ってしまったこと、心から後悔するといいでしょう。 」
夜十とギルの前で女性は、そう吐き捨てた。
夜十は《追憶の慧眼》、ギルは《赤目》を解放して目の前の未知なる敵へ立ち向かうのだった。
投稿時期は未定ですが追憶のアビスの日常系外伝シリーズ「追憶のあびちゅっ!」の投稿を予定しています。もう少し、書き溜めが溜まった後に投稿時期を検討する形ですのでお待ち頂ければ光栄です。
面白く読んで後悔させない作品を読者の皆様へ届けれるように頑張ります!




