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追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《潜入編》
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大百七十二話 ダイヤモンドの魔女

「……くっ!! 」

夜十は金色に輝かせた瞳でロゼを視る度に、歯を食い縛って焦った声音を出す。

「ほらほら、避けてばっかじゃ勝負は決まらないよー? 」

まるで獣のように動き回り、四方八方からの強襲を仕掛け続けるロゼは笑みを浮かべていた。紙一重でロゼの攻撃を避け続けても、一向に打開策は思いつかない。


この追憶の慧眼(リコレクション・シャープ)の未来演算を以ってしても、夜十が見るのは同じ未来だった。

それは、このまま避け続けている間に本気を出したロゼへ一網打尽にされる未来。

魔術師と一戦を交える経験は少ないが、全くないわけではなかった。アビスならば、今まで大型から小型に至るまで数百体と任務で仕留めてきたのは確か。


 「……コイツ!只者じゃない……どうしたら!! 」

だが、目の前のロゼと名乗る魔術師は明らかに次元が違った。勝てるビジョンが浮かばないなど有り得ない。

「シンの末裔って聞いてたけど、大したことないね〜。そろそろ飽きてきたよ。 」

ロゼは退屈そうに夜十を冷めた目つきで視界に捉えた。もう興味がないと言った目だ。

「《焔弁の爆炎花(アキメネス)》! 」

それでも死に物狂いで相手に喰らいつかなきゃ、魔術師と人間とでは既に上限回数の有無という差が生まれているのだから。

追憶の模倣(メモリーレプリカ)で具現化した焔の鉾をロゼの背後へ無数に発現させた。この数の鉾を無視することは出来ない。未来予測でも一瞬だけ重心が後ろへ傾いていた。ならば、"この一瞬"を逃してはならない!


俺は"目の前で二度と人を失わせない"と、生涯の信念全てをかけて、そう誓った。俺が今ここで殺されたら、助けられる命が助けられなくなる。ロゼを倒して、皆で"家"に帰るんだ!

 「……えっ!? 」

予測通り、ロゼは後ろへ大きく振り向き、重心を崩した。いくら強い魔術師とて、炎の鉾が無数に背後へ現れたら焦りはする。

夜十の読みは決して外れていなかった。



「これでッ……!終わりだぁぁぁぁあああああああ! 」

地面を蹴って一瞬で加速した。片手に携えるは、刀身の黒い刀。狙うは、敵の首。

一撃で確実に敵を仕留めるしか勝機はない。

空気が頬を掠める感触さえも、この時は集中していたからか感じなかった。

今この"一撃"をロゼに屠らせること。

夜十の頭の中はそのことでいっぱいだった。



 ーーキーーン。

甲高く耳に残る一筋の金属音が周囲に響き、夜十は思わず目を見開いた。

今この瞬間、彼女の首を確実に獲れる間合いに速度、《追憶の慧眼》で生み出した僅か数%の可能性だったというのに。

夜十が振り下ろした渾身の剣は、ロゼの首を射止めてこそいたが、白く輝く鉱物、ダイヤモンドへ変化した首に受け止められてしまっていた。


「……弱点狙い、対策なんてあるに決まってるじゃん! 」

ロゼは身体を捻り、夜十へ渾身の回し蹴りを放った。腹部へ彼女の固いブーツの先が食い込んで胃の中の空気が一気に押し出される。

「くっ……!! 」

飛ばされる瞬間、瞬時に右手をつき、倒れることは防げた。もし、仰向けで倒れれば何秒かのうちにとどめを刺してくるだろう。

「全魔術師を震撼に陥れた"シン"の末裔って言っても、こんなものか。この程度なら恐れるに足らないね。 」

ロゼは呆れたように言った。そして退屈そうな表情に態度、夜十を舐めているのは明らかだった。

「末裔とか、シンとか、知らねえ!俺は冴島夜十っていう名前があるんだよ!いい加減、人間の名前くらい覚えやがれッ!! 」

夜十は構え直すと再び、《焔弁の爆炎花》を展開させた。今度は四方八方からの無限放出だ。当然、体に負荷はかかるが、この程度なら大丈夫。


 「だからさ……退屈だって言ってるよね? 」

ロゼは両拳を握りしめ、四方八方から放たれる鉾を悉く打ち砕き始めた。雨のように降り注ぎ続ける炎の鉾に面倒臭くなったのか、ロゼは顔を真っ赤にして拳を掲げた。

「うっとうしい!!周りで飛んでるコバエみたいにウロチョロウロチョロして!この一撃で絶望すればいいんだよ! 」

掲げた拳を強く振り下ろし、素早く地面にこうこうと光る魔法陣を展開する。

そのまま、魔法陣ごと地面へ拳を叩きつけた。


「《金剛の細氷(ダイヤモンド・ダスト)》! 」 

ロゼの根強い声音が周囲に響き渡った瞬間、地面から白く冷たい蒸気が噴き出始める。まるで火山の噴火のような勢いの良い噴出は、火山とは真逆の性質で周囲を確実に凍てつかせた。

「……っ!?何だこれ、氷魔法か? 」

夜十は思いのままに勘ぐるが、ロゼは嘲笑を浮かべ、馬鹿にしたように言った。

「そんな誰でも使えるような弱魔法、使うわけないじゃん。性質は似てるけどね! 」

無数の小さな白く輝いた結晶が優しく夜十を包み込んだ。フワフワと落下する細氷に見惚れていると、ロゼは満足げに笑う。


 「あははは!!……これで、終わりッ! 」

ロゼは開いた右手で何かを潰すかのように手をグッと握りしめた。

その瞬間、小さな爆発音が連続で続き、周囲が何の意図もなく爆発を引き起こし始め、小爆発ではあるものの確実に夜十の身体を直撃する。

「ぐっ……ぁぁあああ!! 」

爆発や魔法攻撃に強い対アビス用の黒い戦闘服が破れ、腹部の引き締まった筋肉から鮮血が流れる。

爆発を直撃してしまった夜十は、仰向けの態勢で腹部を抑え、ロゼを睨みつけた。

素早く態勢を整えようとも、痛みでそれどころではない。全く動けないーーそれに近い。


「所詮は《未完成(アンフ)》!末裔とて、私の魔法は防げない!! 」

「……ああああぁぁぁ!!! 」

固い靴底で抑えている手ごと腹部を強く踏みつけられる。手で無理矢理、止血している中の踏みつけに腹部からはドクドクと血液が溢れて、ロゼの靴が赤く染まった。


 「汚いなぁ……!まあいっか。死んだら、頭で血を拭えばいいだけだしね。 」

平気な顔で怖いことを言ってのけるロゼに血の気が引いてきた。

このままでは本当にまずい。夜十は必死に《追憶の慧眼》を駆使して未来予測を行うが、見える未来は全て"死"の結末。


頭上で煌々と光るロゼの右手を前に、夜十は全てを諦めたのか、気絶してしまったのだった。

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