表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《始動編》
170/220

第百六十九話 孤独の光帝 ③


 目を覚ますと、真っ白い天井が目に入った。手触りや感覚から察するにベッドの上だろう。

柔らかい感覚が背中から伝わってくる。

「何でや、俺は助かったんか……? 」

腕に力を込め、立ち上がろうと試みるが全身に激痛が走り、動けなかった。

「いててててててて!! 」

身体だけでなく、頭痛もし始める。頭を抱えて蹲った。


 「よう、起きたのか?篝火輝夜(かがりびかぐや)。 」

足元の方で声が聞こえ、視線の先には真剣な表情の新島鎮雄が立っていた。

「……何や、余計なことをした奴が。 」

「あ?余計なことってなんだ? 」

輝夜のボソッと呟いた言葉に対して、新島はしかめっ面で問いかける。

「魔術師もアビスも俺だけで倒せたんや!アンタらの出る幕じゃなかったわ! 」

「はぁ……やっと目を覚ましたと思ったら、飛んだクソガキじゃねえか。鏡の教育はどうなってんだよオイ……」

「なら、鏡隊長にでも文句言いにいったらええやんか! 」

新島はハッとした表情で輝夜の言動に全てを悟る。輝夜は永浜の死こそ目の前で見たが、鏡の死体は見ていなかった。よって、輝夜を除く鏡隊全員が殉職したことは知らない。

「……言いたくても、もう文句は言えねえんだ!俺はアイツと魔法学園来の先輩後輩の仲なんだよ。本当にいい奴だった……!! 」

新島の濁りのある言葉に輝夜は「え?」と言葉を溢し、目を丸くさせる。


「あの現場に居て、気がつかなかったのか?鏡隊、お前以外は全員殉職だ……! 」

「なっ……!?何やその大嘘は! 」

「……嘘じゃねえよ!聞く話によればお前、今回の任務は単独だったな? 」

新島は真剣な表情で輝夜に問いかけた。

「俺が独りで動いた方が強いんや!集団行動なんざ、効率が悪いに決まっとる!鏡隊、全員殉職やって知らん!俺のせーー」

「良い加減にしやがれ!篝火!ATSは家族をモットーにして反アビス組織だ!お前の隊の隊員や隊長が死んで、知らんなんて言葉吐いてんじゃねえ!!! 」

輝夜は片手で頭を押さえつけられた。

「な、何すんねんッ!!! 」

必死の抵抗で腕を掴み、引き剥がそうとするが新島の握力は異常だった。輝夜の力ではビクともしない。


 「お前の単独に拘る理由って、仲間の死が怖いからだろ? 」

「は?ンなわけないやろが!雑魚が足引っ張んのがイラつくんや!! 」

「じゃあ、何でそんなに熱くなってんだよ!テメェ!! 」

新島の言葉に輝夜は自分の中で疑問を浮かべた。


"俺は仲間の死が怖いんか?"

学園時代のトラウマがまだ俺を縛りつけとったんやろうか。親友と呼んでいたアイツがアビスに目の前で食い殺された瞬間から、篝火輝夜は心を閉ざしてしまってたんやろか。

仲間になって大切な人になって、そんな人を失って苦しむなら最初から仲良くなんかせえへんかったら良い。

いつしか俺はそういう風に思うようになっていったんやろう。この人のお陰でようやく自分の何がしたいかが分かった気がする。


 「はぁ……確かにそうかもしれん。アンタの言う通り、俺は仲間の死を見るのが怖いんかもしれん。そう言うアンタは怖くないんか? 」

輝夜は掴んでいた腕をソッと離して、瞳を下に俯かせ、問いかけた。

「俺だって怖いに決まってんだろ。何分何秒か前に共に戦ってたヤツが明日からはもう居ないんだぞ?そんなの慣れたら人間終わりだ! 」

「伝説の魔法師って謳われてるアンタでも怖いことなんかあるんやな。てっきり、怖いもの無しの人生送っとるんかと思っとった。 」

「俺とて人間に決まってんだろうが……誰が化け物染みてるだよバーカ!技じゃなくて、顔か?あぁん?! 」

輝夜は少しだけ笑顔を見せた。

「やっと笑いやがったか!篝火、さっきから表情が硬いんだよ!……ま、この仕事上、仲間や部下の殉職は必然と言っても過言じゃねえよ。じゃあ、一つ提案だがよ……」

新島はニッコリと笑った。

「お前の言う伝説の魔法師が隊長の隊員だったら、お前は上手くやっていけるか? 」

「絶対に死なんという確証がないやろうが!アンタやって人間やろ! 」

「ガキが舐めてんじゃねえぞ。俺は絶対死なねえよ!老後、歳取っても意地で生きてやる! 」

ふざけている様子もなく豪語する新島に、輝夜は感服せざるを得なかった。

ああ、この人やったら任せられる。仲間として戦えそうだ。そう思った。



 それから何年と新島隊を続けて、仲間を守ることの責任の重大さを重みを知った。

新島隊以外の仲間が死ぬ度に俺は思い出して、後悔するんや。

あの時、俺が歩み寄ることが出来ていれば鏡隊は良いチームになっとったんかなって。

だから、今は仲間と呼べる奴等を大切にしたいと思うとる。







 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ