第十七話 闇 VS 炎
※2017/07/12
文法と誤字、脱字を修正しました。
ーー沖との対戦から一時間後。
何処かの暗闇の中には、尖らせた銀髪の髪を自分で撫でる銀の姿があった。
「……咄嗟に吸収したが身体が言うことを聞かねっ……ゴボッ」
生傷を受けていない彼だったが、咳き込んだ拍子に大量の血反吐を地面に吐いた。
忽ち、地面が赤い液体に侵食される。
「クッソ、反動が……!!だが、コレで……お前を邪魔するものは誰もいねえぞ、黒!一思いに姉ちゃんの仇取ってやれ!」
銀の想いはアリーナの控え室で二本の剣を撫でている少年に届いたーー
「……最後の斬撃、吸収しやがったな。あの威力の魔法じゃ体が持たねえだろ!!間違いなく臓器の一個や二個は潰れてやがるな、俺はあいつの想いを踏み躙るような真似は出来ない!!だから、次の試合で朝日奈燈火を確実に仕留める!」
ゴーン、ゴーン、ゴーン、と鐘の音が学園中に鳴り響く。
それは、試合開始を意味する合図だ。
彼は、彼女の待つ土俵へ歩き始めた。
相変わらず、観客席とアナウンスの熱気は計り知れない。
それさえも彼は強く憎み、呪った。
彼の姉が血を流し、優しく振りまいていた笑顔さえも踏みにじられたこの場所を、好き好めるわけがないからだ。
「ここで姉さんは殺されちまった……!あの憎っくき男に!俺は許さねえ、朝日奈燈火を殺して、火炎に思い知らせてやる!逃げ場はもうねェ!!」
彼の瞳は真剣な眼差しというよりは、憎しみの怒りが篭った緋色の瞳になっていた。
ーーアリーナには、一時間を使って調整を経た防御障壁が観客を守ろうと、聳え立っている。
銀の乱入により迎えた第一回戦の試合を無事に終えて、この試合からは妨害が無いように入り口もシャッターが閉められた。
「さあ!いよいよ、第二回戦が始まります!一回戦目は妨害が起こり、沖選手が搬送されてしまう事態となってしまいましたが、今回は大丈夫です!!試合が終わるまで、誰一人として入り込むことはできません!シャッターを用意しましたー!試合開始まで残り一分です!選手の方々は準備をお願いします!」
二人が入場を確認された瞬間に防御障壁の防御度が100%にまで上がり、入り口もシャッターによって塞がれてしまった。
ここまでは、黒と銀が考えていたシナリオ通り、事が進んだ。
そして、段々と明確になっていく彼らの目的は……。
「……あんた、所属狩りよね?」
アリーナの中心、防御障壁内で朝日奈が彼へ声をかけた。
試合まではあと一分ほどの時間があり、まだまだ余裕がある。
「先輩に対しての口の利き方がなってねェな〜。まあ、火炎の妹じゃ期待しても意味は無いか。……だったら何だよ、俺を止めるってのか?」
黒はニヤリと微笑み、背中に挿した剣を鞘から二本とも引き抜いた。
剣というには短すぎる刀身からするに、小刀程のリーチであることがわかる。
「悪者に私が尊敬を持って接さないとならないわけ?阿呆らしいにも程があるわね。身の程を弁えたら?」
堂々と黒を見下す彼女は、
右手を火照らせ、炎で具現化した剣を発現した。眩く赤い光と共に現れた刀身には、灼熱の炎が滾るように纏われている。
「数分後、お前が泣き噦る姿が見えるぜ。さっさと、死ね!」
両者がいがみ合う中、アリーナ中心部の天井に取り付けられたモニターの時間は10秒をきった。
五秒前になると、アナウンスが声を紡ぐ。
「
4
3
2
1
START!」
STARTコールと共に動き出したのは、黒。
二本の小刀の刀身を彼女に向けながら、地面を蹴り、一気に間合いを詰めると斬りかかった。
「はぁぁぁぁぁああああ!!」
彼は叫びながら彼女に剣を振るう。
ーーだが、彼女には届かない。
すり抜けるように回避を行われ、大きな隙を見せた瞬間。
彼女は詠唱で彼に手向けを捧げる。
「《朝比奈の名の下に、焔を従え、神火の如きで敵を貫け!|焔弁の爆炎花(アキメネス
)!》!」
炎で具現された無数の鉾が、黒を貫こうと襲いかかる。
案の定、避けられなかったのか。
放たれた無数の鉾によって、黒の身体に無数の鉾が突き刺さった。
グレーのブレザーと白いワイシャツには、赤いシミが大きく広がり、腕伝いに手からは血液が流れる。
「流石は朝日奈だな。炎魔法の精度が段違いに凄い……だが、俺は本物ではない!」
瞬間、黒い液体となって消えてしまった。
液体も地面に落下した瞬間に蒸発して消滅する。
読めなかった男の行動に困惑し、周りへの警戒心を怠ることなく、集中力を咎めているとーー彼女の右足に痛みが走った。
「お前の影はなかなか住み心地がいいな。俺が切り取ってやるよ、お前の心臓を!」
地面から黒いオーラを放ちながら現れたのは黒の姿ではなく、彼の右手に携えられた小型の刀身だけだった。
彼女の黒ニーソを切り裂くと、再び影の中へ消える。
「……っ!!
影の中ですって!?」
彼は彼女が見せる一瞬一瞬の綻びを絶妙に拾い取りながら計算し、相手が魔力を出せないような状態へ持っていくのが上手いようだ。
「ま、また……!!」
今度は、小型の刀身が彼女の左足を切り裂く。脹脛には赤い切れ目が付き、ニーソは破れてしまった。
「このままじゃ……!!」
自分の影を巻き込んだ魔法。
彼女が今考えられる思考はこれだけだった。痛みに耐えながらも詠唱で手向けを。
「《滾れ炎よ、偶像を焼き尽くし、内に秘めたる邪の化身を祓え!!白薔薇の調伏!》」
彼女の立つ地面には、白い薔薇が描かれた魔法陣が発現された。
右回りに回転し、異形を見せつける薔薇からは主人を巻き込んでの大噴火が放出された。
白く青い炎が柱となって辺り一帯を焼き尽くす。
「……ぐぁぁぁぁあああ!!」
焼き爛れた姿で地上に出てくるしかなかった黒は、火傷による痛みと熱で叫び声を上げた。
影に一度憑依した場合、自分の思念した絶対条件を達成せねば解除されない。
つまり、《白薔薇の調伏》のような全体攻撃には圧倒的に弱いのだ。
「……ダメ、また魔力の負荷で倒れるのは!絶対に勝たなきゃ……あいつにリベンジするまでは!! 」
彼女は回数を一度消費する魔法を使った上に、自分を巻き込んだコトで身体にガタが来始めていた。
0.5回以下の魔法を連発しようが倒れることはないが、一度に一定以上の魔力を消費した場合に自分の身体がついて来ない場合がある。
燈火の思念は強く……身体を動かした。
「……テメェ、殺してやる!!」
「っ!!」
燈火は剣を持ち直し、重心を低くして構え直した。黒の猛追を止めようと。
ーーその頃。
俺は病室で目を覚ました。
テレビで朝日奈と黒の試合がモニタリングされている。
目を覚ましたばかりの俺の瞳にはボヤけて何も見えない。
暫くして画面をよくよく見てみるとーー魔力を消費しきったのか動きの鈍い彼女を確実な戦闘技術で猛追している黒の姿があった。
すると、黒は地面に尻餅をついている彼女に剣の矛先を向けながら言い放つ。
「……俺の姉貴の仇の為に、今からこいつを殺す!KMCも所属してる奴らも自分を呪え!火炎、お前の妹……死ぬぞ?」
黒が観客席で笑っている火炎へ言の葉を紡いだ。火炎はモニターが拾えるほどの音量ではないが、確かに「構わない」と言った。
あ、あいつ!!
俺は病室を飛び出して、アリーナへ向かう。
一秒で五百メートルを走る速度で病室からアリーナであれば、十秒もかからなかった。
だがーー
……ブレーキがかからねぇ!!
アリーナ入り口から入った俺は朝日奈と黒が一戦を交えていた防御障壁の外部へめり込んだ。
入り口の扉と床の破壊、速度によって、轟音と煙幕が会場に分散する。
観客側も黒も朝日奈も突然、凄まじい速度の何かが突っ込んできたことに驚愕し、思わず目を見開いた。
ーーすると、火炎だけが俺に気づいたのか面白くなさそうな声で問いかけてきた。
「オイ、《平和派》のクソ坊主!何しにきた?ベッドの上でおねんねしてろよ!」
観客側も騒然としている、朝日奈はまだ突っ込んできたモノが俺だということを理解していない。
まだ消えない煙幕の中、俺は地面を蹴り、火炎の背後に瞬間で移動すると、後頭部を強く殴りつけた。
「……ぐがぁっ!!!」
突然のことで思考が追いついていない火炎は、俺に殴り飛ばされて防御障壁に背中を打ち付ける。
血反吐を吐きながら、俺へ睨みを効かせると彼は吐血で赤くなった歯を見せながらニヤリと微笑んだ。
「……オイオイ、何のつもりだぁ?」
アリーナの防御障壁と観客席には、隙間が存在する。だいたい十メートル程の隙間だが、火炎は落下地点で防御障壁に背中をつけて、腰を下ろした体勢になった。
厳密には、落下した。
「……お、お前は!!朝日奈の家族だろ!?兄貴が妹を守ってやらなくてどうすんだよ!!」
火炎に怒りの叫びをぶつけた時、何故か姉を頭に浮かべていた。
いつだって守ってくれた、そんな大切な存在をこいつは否定してやがる。
俺は許せなかった。
朝日奈のことを大切に思うことが重要ではない、目の前で大切な人を守ろうという意思が無い気持ちにイラついたんだ。
ーー煙幕が消えて、アリーナの空気が透き通った瞬間。
彼女は血の付いた拳を握り、火炎の目の前で鬼の形相を浮かべている少年を見た。
「何だよ、夜十?……俺の姉貴の復讐の邪魔をするのか?」
「違います。俺は俺の信念を貫き通すだけです!!
絶対に……目の前で人を失わせない!!」
俺は彼女を助けたい。
刀身を振り上げようとする黒を止めたい!
死ぬ気で速度を高めながら防御障壁へ拳を振り上げる。
彼女を助けないとーーだが、その拳は止められた。
「悪いな、お前のその信念……無に還させて貰うぜ!《超反射》!」
火炎は俺に掌を向け、黒い笑いで受け止める。
瞬間ーー壮絶な迄の痛みが俺の拳へ跳ね返った。自分の本気の拳だ、それも怒りに満ち溢れた状態の!!
吹き飛ばされて、為すすべなし。
もう終わりかと思えた時ーー
動けない彼女の首を斬ろうとする黒を、まさかの人物達が食い止めたのだ。
観客席から立ち上がり、黒く長い髪を靡かせながら彼女は叫んだ。
「あまり、《平和派》を舐めないでもらって良いかな?てんちょー!」
「……はいよ!防御障壁の魔力を解除、識別番号は……060578340627325822803…!オーケー、入力完了!さあ、暴れろ、《攻撃障壁》!あ、轟音、障壁よろしく!」
風見の隣で、彼は自前のPCをカタカタと動かし、画面に、無数の数値が光速で流れ出てくるのを目で追って、入力を完了する。
enter keyを強く押した後、青く光り輝き、観客を護っていた防御障壁が芯から緋色に染まった。
黒も火炎も何が起こったのか、理解出来ずにいると、火炎が寄りかかっていた障壁は、赤い刀身の剣に変化し、火炎へ襲い掛かった。
「オッケー!《俺の音楽は時に人を護り、人を癒す音色となる!さあ、聞け!俺の音楽を!音波障壁!》」
観客席側に飛び散る火花や戦闘を妨げるように、飛び上がった轟音は、音による一定時間だけ保つことが出来る障壁を観客席に展開させた。
「……あぁん?
俺の《超反射》には、こんなもん効かねェ!」
赤い刀身の剣は彼の背後を狙ったが、打ち砕かれてしまった。
破壊された障壁の一部が再び剣となって、無限に火炎へ襲いかかる。
「クッソ、面倒くせえ!!」
「今の内だよ、夜十君!!」
火炎が手間取っているうちに、風見は笑顔で俺へ叫んだ。
この瞬間、俺は理解した。
もう、一人じゃない。
一人で戦うんじゃない……皆、皆で戦うんだ!!
「はぁぁぁぁぁあああ!!」
地面を蹴って加速した俺は、火炎を通り過ぎて、何が起こっているのかさえ、理解出来ていない黒の顔面に拳をぶつけた。
怒りの混じった拳の威力は絶大……数メートル先に吹っ飛ばされて、音の障壁に静止された。
「……大丈夫か?朝日奈」
彼女の目の前に現れた俺は率直に心配になった言葉を紡ぐ。
すると、瞳に涙を溜めた燈火はーー俺の方を見上げながら呟いた。
「あんたっ……ほんっとにバカじゃないの!でもっ、うん、ありがとう!」
泣きながら笑っている燈火の表情を笑顔で見つめていると、背後から呪われた声が聞こえた。
闇が深く入り込み、影が彼を操作する。
復讐を、目的を果たす為に彼は自分を捨ててしまったようだ。
「冴島夜十ぉぉぉおお!!殺してやる……全部、全部、全部!!」
闇に呑み込まれた彼の姿は、まさに異形。
ぶつかり合う、復讐心と護りたい心。
歯を食いしばって、満身創痍の身体を叩き起こした。
俺は……此処で《仁科黒》を止めます!
十七話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
家の事情で、昨日と明日は投稿が難しい状態でしたが、今日は出来ました!
続けて来た毎日投稿が途切れる形となってしまって、誠に申し訳ございません!
7/8は休みなので、出来れば二話投稿したいと思っています。
それでは、次回も是非、お楽しみにしてくださると光栄です!
えーと、次回です!
次回は……仁科黒の過去が……!?
拝見ありがとうございましたー!
では、次回またお会いしましょう!




