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追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《始動編》
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第百六十五話 《上限回数0の遺体》


火炎から言伝で招集を受けた夜十と燈火は、招集場所のATS総本部にある演習場へ足を運んだ。

「ーーおう、夜十と燈火に火炎、来たか。これで全員揃ったな! 」

スーツ姿で髪型をワックスで整えた外行きの格好をした新島が真面目な表情で三人を出迎える。夜十は何故、その格好?と一瞬疑問に思ったが、演習場に集まっている面子を見て察した。


「はぁ……なんで、私の……隣が、コイツ、なの……? 」

前よりも少しだけ髪が伸び、肩までのミディアムに整えた黒髪の少女は、隣で赤い眼を光らせるスーツ姿の男を見てボヤいた。

「それは俺様の台詞だ!何でお前みたいなクソ弱いチビの隣に最強の俺が肩並べて立たなきゃなんねえんだよ!クソが! 」

「……誰が、クソ弱い、チビ?、……だって? 」

familiar(ファミリア)に所属するジーナとギル、各々強く、自身が率いる隊も持つ程の有名な魔法師だ。だが、彼らの相性は頗る悪く、いつ会う時も必ず喧嘩している。

相性の悪い二人だが、一つだけ確かな共通点が存在する。それはーー。

「ジーナ、その辺にしときましょうか? 」

「ギル、お前もだ。今の状況を考えろ! 」

グリフとルナールというお世話役が居て、ギルとジーナは二人に頭が上がらない点だ。


「本当ごめんな、グリフ。うちのギルが……」

「いえいえ、ジーナも悪いんです。最初に喧嘩を売ったのはジーナの方ですから。 」

ニッコリと二人は微笑み合いながら、問題児の頭を掴み、無理矢理下げさせる。


 「familiarの幹部全員と、あっちはーー」

夜十が新たに視線を向けた先の方でも、暴動が起こっていた。全く、穏やかではない。

「ふふふ、これはこれは日南さん。お久しぶりですね? 」

「ぜんっぜん、久しぶりじゃないわ!顔を合わせるのは久しぶりでも毎日同じ場所に立ってるじゃない! 」

葛城日南と燈火の母、朝日奈光明。

二人とも顔の皮膚に血管が浮き出るほど、苛ついているのか口調がややキツめだ。

「大体、貴方ねぇ!この前、本当にキツかったんだから!何で私と不知火さんをワザと分けたんだよ! 」

「えー、ワザとでしょうか〜?結果的に私の策略で大型を駆逐出来たのですから。単に気にしすぎでは?それにお二人を分けてはいけない理由って何でしょう? 」

「うぐぐ……!!分かってるくせに!!人の恋路を邪魔する輩が指揮官だなんてクソくらえだぁぁあああ!! 」

日南と光明の話がヒートアップし、二人が今にも戦いそうになった時、夜十は一歩を強く踏み出す準備を行った。

あの二人がここで戦うと考えただけで身の毛がよだつ。


 「……《魔を愛する者よ、一度とて離れることを知り、己を見るがいい!束縛結界(バンデージ)》! 」

日南と光明の全部位五箇所は、黒く太い輪型の拘束具が強制装着され、身動きが取れなくなってその場にうつ伏せで倒れる。まるで芋虫のような容姿だ。


「……全く、血の気の多い奴らで困る。吉良(きら)ちゃん、会が終わるまでそのままで頼む。ああでも、光明さんは駄目か……」

不知火(しらぬい)はやれやれと言った様子で芋虫型に倒れた二人に冷たい眼差しを向ける。

「不知火さん、何してくれてんの! 」

光明の拘束具が消滅し、彼女が立ち上がったタイミングで日南は顔を赤らめて怒鳴り声を上げる。

「そりゃ、光明さんは今回の全体召集の第一人者だしな。説明とか、お前と違って役割があるから、当たり前だ! 」

ぷくーっと頬を膨らませ、日南はガクリと頭を地面につける。その真横に吉良が腰を下ろし、彼女へニコッと微笑んだ。

「無理矢理にでも拘束を解こうとしたら、日南さん、分かってますよね? 」

「……くっ!わ、分かったわよ!今日は大人しく会が終わるのを待つ! 」

「それでこそ《比翼》ちゃんです!《比翼》ちゃんは私の中で完璧なんですから! 」

「はあ……」



 「全体招集か……。凄いな、これだけの人数が一同に集まるなんて中々無いよ。 」

「そうね!あっちはミクル達じゃない? 」

夜十と燈火が一同に見つめた先では、ミクルが騰と共に地面に正座した標津へ何かを言っている光景が広がっていた。

標津がまた何か騰を怒らせるようなことをしてしまったのだろうか?

安直だが耳を澄まして聞いてみると、その考えが安直ではなかったのだと別の意味でホッとしてしまった。


「何で集合時間前にお酒飲んでくるの? 」

「いや、その、はい……ごめんなさい。 」

頭を下げ、必死に謝罪している標津に真上から冷たい目線を向ける二人の女性。

「標津さんは危機感が足りてないよね。騰さんが怒ること、わからなかったのかな? 」

「いえ、分かってました。でも……」

「でも?この期に及んで、まだ言い訳しようとしてるのかしら?凄いわね、あなた! 」

「そうですよ!騰さんの気持ちを考えて、物事の発言をしてください! 」

「はい……すみません。もうしません! 」

夜十と燈火は二人の攻め具合に冷や汗をかく程の恐怖を覚えた。



 「……そろそろ、始めましょうか!皆さん、暇ではないでしょうしね。 」

光明が低めの声音で圧倒した。それまで騒がしかった演習場は、すっかり静まり返り、光明に真剣な眼差しが集まった。

では、と新島は真剣な表情で話し始める。

「今日集まってもらったのは、最近起きた不可解な事件について、皆に話すべきだと思ってな。……これが資料だ。 」

五枚ほどの紙がホッチキスで止めてある資料が全員に配られる。

そしてそこには"上限回数ゼロの遺体"と書いてあった。


「上限回数ゼロ? 」

最初に声が出たのは龍騎だった。

龍騎は身体に刻まれる上限回数のことを趣味の一つとして深く追求する研究をしているからか、余計に気になったのだろう。

「そうだ、二枚目は遺体の上限回数が身体に刻まれている部分の写真なんだが……」

二枚目の紙には写真が印刷されており、どうやら遺体は男性で、この男性の上限回数は首に記されているようだった。

そしてそこにはハッキリと"0"の文字。

「普通なら、0回になれば身体は嫌でも消滅してしまうはずじゃないですか!? 」

鳴神は声を上げた。轟音を亡くした時、目の前で大切な人は消滅していった。だからこそ、0回の遺体が残ることなど俄かには信じられない。

「"普通なら"か。これは極めて異常事態。おかしなことだよ。 」

「彼は生前70回の上限回数で生まれ、ATS所属で現役の魔法師を続けていたんだが、上限回数が30回未満になったという報告は受けていないぞ。なあ、輝夜? 」

ATS所属の魔法師は全員、上限回数が元の半分以下になった場合に報告する義務がある。

新島や神城などの特殊な回数の場合は除くが、通常の値で半分以下になれば大きく動き回ることは厳しくなるのだ。

勿論、任される任務も大型アビスなどは無くなっていく仕組みだ。


「コイツは俺の隊に所属してたんやけどな。今回の任務は小型アビスだけに俺はついていかんかって、結果がこのザマや。良い部下だっただけに腹の底が煮えくりかかっとる。一刻も早い原因の追及を頼みたい……! 」

「それは分かってる。前に事例がない以上、時間はかかるかもしれん。申し訳ないが、そこは勘弁してくれ! 」

新島は怒り狂った輝夜に頭を下げた。

「新島さん、そんなんされても俺は困るだけやで!アンタは胸張って前向いとってくれたらええんや。この合併軍のボスやろが!! 」

輝夜はそう言って、出口へ歩き出した。

「何処へ行くのでしょう?まだ終わってませんが? 」

光明が引き止める。

「少し外で頭を冷やしてくるだけや。資料は全部目を通したわ。別にええやろ……! 」

そう言って、輝夜は出て行った。

何か嫌な予感がする、輝夜に限って変な行動を起こすようなことはしないだろうが、夜十は心配になった。子供の頃から世話になった兄貴みたいな存在の人だけにかもしれない。


 「新島さん、俺見てきます! 」

頭を上げて、疲れた表情の新島へ夜十は声をかけた。

「世話をかける。すまないな、俺がもっとしっかりしていれば……。 」

「部下達の前で愚痴は良くないですよ。話は、また聞きます! 」

夜十も輝夜の後を追った。外と言っていたからに、ビルの屋上だろうか。そう遠くには行っていないはずだ。


夜十は、屋上へ行くエレベーターのボタンを押した。



  

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