第百六十三話 ノエル・ヴォイドという男
「ーー居ました!新島さん特殊演習場です! 」
「特殊演習場だって……!?何でまた戦闘の最中に身を投じるような場所に居んだよ! 」
リアンの言った容姿を元に監視カメラから分析し、照合して見つけることが出来た。
風見から連絡を受けた新島とリアンは特殊演習場へ向かう。
「ごめんなさい。僕は傷付けたくて傷付けたわけじゃないんだ。 」
罪悪感があるような物言いをする男だが、その瞳には感情が宿っていなかった。虚な瞳、言葉一つ一つが安く軽い。まるでロボットのような。それでも、特殊演習場の案内ロボットの方が感情は組み込まれている。男を言い表すのなら"虚無"。空っぽだ。
「……熱矢、動ける!? 」
「いや、立てねえ!クソ……足の骨が逝っちまったッ!! 」
冷汗をかきながら悶える熱矢を心配して倉橋と明刀は腕を掴んで持ち上げると肩を貸した。
「特殊演習場のフィールド、消去してもらった!これで足場は大丈夫!熱矢、保健室へ行くよ! 」
「熱矢さん、後少し我慢するのですわ! 」
二人の女子の肩を借りて、熱矢は特殊演習場から去っていった。
部屋には残された燈火と謎の男のみ。彼は熱矢が去っていく際も虚ろな瞳で何かを見つめていた。
「……アンタ、何者よ。この学園は登録された人しか入れないはず。来客同伴者としてなら入れるけど、それでも極秘よ? 」
燈火は一番の疑問を男へぶつけた。後少しで熱矢に勝てたかもしれない。それを邪魔され、弟を傷つけられたことは許せないが何よりもこの男の正体が気になった。
「僕は、familiarの四王が一人、《虚逆のノエル》。本名はノエル・ヴォイドだよ。よろしくね。 」
淡々と自己紹介し、彼はニコリとも笑わず、燈火に背を向けて踵を返す。
だが、その時だった。特殊演習場の扉が勢いよく開き、あれ程までに無表情だったノエルが目を見開き、立ち止まったのは。
「……ノエル!あれ程言ったじゃないか!お前は私と一緒でなければ厄介事に巻き込まれることになると! 」
扉の先にはリアンと新島が立っていた。
リアンは酷く怒った様子でノエルを問い詰める。それにもしっかりとした理由があった。何処かへふらっと出掛けては問題を起こすノエルに嫌気が差したリアンは、今回こそはと側を離れないことを絶対条件とし、出掛けることを許可したというのにこの始末。最早、外出禁止を言い渡したくなるレベルだ。
「ごめんなさい……でも、リアンについて行ったら逸れちゃって、探してたんだ。 」
アタフタと焦りながら必死に弁解をするノエルにリアンはため息を吐いた。
「それでも、学園側に迷惑をかけたのは事実ヨネ?なら、責任を取りナヨ! 」
リアンは負傷した熱矢が保健室に連れて行かれているところを目撃していた。負傷の傷口からして致命傷は足の骨が逆側に折れ曲がっていることだ。その怪我の原因を頭の中で探ってみれば、どうしてもケガの形状からしてノエルにしか辿り着けなかった。
「……何をしたら良いのか、分からない。 」
「じゃあ、四王としての権利を剥奪するってのはどう? 」
彼は焦った様子でアタフタと動き回る。本当に分からないのだろうなと読み取れるような仕草だ。
「……っ!!それは嫌だ!僕は忠告したんだ。二人へ僕に近づいてはいけないと、それでも不用意に僕に近づいた彼らが悪い。 」
リアンは頭に手を当てて首を振った。直後、ギリっとノエルを睨みつけている燈火へ頭を下げた。
「すまない。私の監督不行き届きが原因で弟さんの足を……どうお詫びしたらいいのか。 」
「確かに忠告はされました。でも、私と熱矢の本気の勝負を邪魔したんです。足の骨は魔法で治ります。でも、過ぎてしまった時間は巻き戻されない! 」
燈火は怒りを通り越して哀愁の表情で俯いた。
「……こうなっちまった以上、リアン?分かってるよな? 」
リアンは青ざめた表情で新島の顔を恐る恐る視界に収めた。
「……わーってるよ。ただ、お前らにノエルのことは話しといた方がいいかもしれねえな。コイツとは仲間なわけだしよ? 」
リアンは燈火に謝罪の面での視線を送る。
「……はぁ、分かりました。リアンさんに免じて今回は許しますよ。新島さんも大丈夫です。 」
「すまない!燈火さん!今度何かお礼を必ずさせていただく! 」
掌を合わせて申し訳なさそうにリアンは言った。
「それでノエルについての話ってどこまでを話すんだよ? 」
新島がキョトンとした表情で首を傾けた。
「彼の魔法、いいや……体質と言うべきなのかもしれないことについてだよん! 」
体質という言葉に燈火は頭を傾ける。魔法じゃなく体質?どういうことだ?率直に思った。
「体質って何ですか? 」
「うん、燈火さんは魔力永続症って知ってる? 」
聞いたこともない言葉に首を横に振る。
「そりゃ知らなくてトーゼン!これは病気の名前なンダケド、発症者は世界に二人しカイナイ! 」
リアンが話を続けようとすると、新島が言葉を遮って割り込んだ。
「まあ、要は回数の減りようがねえんだ。魔法の制御をどんだけ努力しようが出来ねえ。常時、いついかなる時も魔法が発動しちまってる状態なんだ。 」
燈火はハッとしてノエルを凝視した。
だから、近づくなとか自分なりの警告を出していたのか。あの曲面でなら、事情を知らぬ限り、煽り文句にしか捉えられない。
だが、当の本人は事実として本気で言っていたようだ。
「つまり、自分に「害」があると判断した場合、自分の範囲外の攻撃を無条件に跳ね返してしまうってことですか? 」
「そうそう!理解が早くて助かるよ。 」
だとすれば、かなり強い魔法師である。
彼は魔法を使うことに対して"意識"も無ければ"興味"もない。ただ単純に自分の近くで殺意を持つ何かが飛んでくれば無作為に反射して敵を射止める。先程の熱矢みたいに。
燈火は目の前の無感情の少年を凝視し、聞かされた体質の話で冷や汗を流したのだった。




