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追憶のアビス  作者: ezelu
第二章 組織編《成長編》
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第百六十話 特殊演習場


 「燈火先生に勝てる自信あるんですの? 」

「何だよ急に……」

熱矢は六花の突拍子もない発言に困惑した表情を浮かべた。

「自信がなければやる気なんて起きませんもの。先程のガッツポーズはそれ故でしょう? 」

「まあ、ハッキリ言って自信はねーよ! 」

下を俯き、赤い髪を掻く。

「自信が無くとも立ち向かう心さえあれば乗り越えることが出来るということですわね。 」

「そんな大層な心意気はねーよ。俺はただ姉貴を超えたいだけだ。 」

熱矢の真剣な眼差しと表情に六花は心を打たれたのか、顔の前で両手を組み、顔を赤らめた。

「素敵ですわ〜! 」

「全く、一々大袈裟な奴だな。 」

呆れたように言った。

 

「そう言えば!《炎姫(フィーリア・レーギス)》って名前が付きましたわね! 」

「ああ、何の因果か分からねえけど凄えよな。 」

燈火を含め、冴島隊の全員はこの間のルーニーの一件でATSから正式に異名を名付けられた。

《炎姫》朝日奈燈火が名付けられた異名だ。

焔の貴公子(フィーリウス・レーギス)》とかつて謳われた兄、朝日奈溶二と対をなすような異名だけに初めて聞いた時は胸が熱くなったのは今でも忘れられない。


 二人が其々の想いに耽っている時、背後から二人分の足音が聞こえてきた。

「お待たせ!……って、二人とも何を考え事してたの? 」

燈火と二人で歩いてきた倉橋が熱矢の顔を覗き込む。

「……っ!別に何もねえ!てか倉橋、いつも言ってるけど近えよ! 」

「熱矢が気にしすぎなだけじゃない?別に虎徹は嫌がったりしないよ? 」

「アイツと俺を一緒にすんじゃねぇ! 」

「えー、でもいつも一緒にいるじゃん。 ハッピーセットみたいなものでしょー! 」

倉橋と熱矢のやり取りを側から見て、燈火はクスッと笑って、熱矢の方へ歩みを進める。

「姉貴、遅かったな。俺と交戦ーー」

「ーー熱矢、戦闘技術だけじゃなくて恋愛の方も頑張ってね! 」

それだけ言って燈火は何事も無かったかのように通り過ぎて行った。

「ちょっ、オイ!そんなんじゃねぇよ!バカ姉貴ぃぃぃいいい!!!! 」



特殊演習場の扉を開くと、簡易的な長いソファと長テーブルが置かれた待合室に出た。

壁の一面がガラス張りになっており、外の景色が透き通るように見える。待合室には飲料ドリンク用の自動販売機と食用の自動販売機が数台置かれていた。ここで休憩も出来るのだろう。


 受付カウンターには店長(みせなが)が開発したAI受付ロボットが立ち、こちらを見てニッコリと笑った。ロボットというよりはアンドロイドに近く、限りなく人間に寄せている印象が見て取れる。

「私は受付嬢ロボットNo.7です。今日ご予約予定の方はカードキーをお渡しください。 」

燈火はズボンのポケットから赤色のカードキーを取り出すと、受付嬢ロボットへ渡す。 

「朝日奈燈火様のお名前でご予約されていますね。確かに承りました。真っ直ぐの扉へお進みください。演習場内に入ってからは案内ロボットにお話しかけください。 」

受付嬢ロボットは一礼し、笑顔で手を振った。



 「ここに入るのは初めて? 」

「そういう姉貴は入ったことあるのか? 」

「私はよく夜十と稽古してるから当然よ。 」

頷きながら燈火は言った。明刀は思いついたように燈火へ問いかける。

「そう言えば!夜十先生と燈火先生の戦績ってどちらが上なんでしょう? 」

「確かに!私もそれ気になる!オープンスクール通りなら夜十先生の方が上手? 」

倉橋も乗っかるようにして手を合わせた。

「そうね、夜十の方が上よ。80勝120敗58引き分けってところかしら! 」

「結構負けてるじゃねえか、姉貴! 」

「分かってるわよ!でも取り返すように勝ってる時もあるもん!! 」

「へぇー、じゃあ俺との一戦目は俺の勝利で刻ませてもらう! 」

熱矢は掌を広げ、燃え盛る炎を具現した。



 受付嬢ロボットに指定された扉を開くと、横にも縦にも広く大きな白い部屋が目の前に現れる。この人数で使うのが勿体無いと感じるくらいには広い。

「こんにちは。私は案内ロボットNo.4です。どういったステージで戦われましょう? 」

受付嬢と同じような容姿の人型のアンドロイドは、首を傾けて質問を発した。

「じゃあ、戦いにくい渓谷なんかでどう? 」

「渓谷か、構わねぇよ!俺に足場なんざ必要ねぇからな! 」

熱矢同意の元、特殊演習場は姿形を変える。

真っ白い部屋の床、壁、天井が白く大きな四角いブロックで構築され、平面から注文通りの地形を簡単に組み上げる。

ブロックに描かれた魔法陣が起動し、様々なギミックが発動。そして、数分後には立派な渓谷が出来上がった。



 「これが新しい演習場ですのね。 」

「魔法を組み込んで、ここまでの再現を行うなんて凄いこと! 」

今、四人は渓谷の滝の上にある岩場を足場にして立っている。あと一歩、踏み出せば崖から真っ直線に落ちてしまうだろう。

「この水も本物か? 」

「この場所に本物はないわよ。ただ、水も触れば冷たいと感じるし、飲めば空腹感を多少は抑えられるわ。 」

再現というよりは実現に近い。


 「長話をしていてもつまらないでしょ? 」

「ああ、俺は姉貴に勝ちてえ!そして勝った時、俺はまた成長出来んだッ!! 」

倉橋と明刀は少し離れた場所に移動し、二人の勝負を見守ることにした。今から行われるのはプロの魔法師とその弟の激戦。

激しい戦いになるのは目に見えている。

熱矢は集中力を咎め、構えたのだった。

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