第百五十七話 ギル一家の連携
環境が変わり、書ける頻度も前より少なくなりそうな気はしますが、精一杯書きます!
これからもよろしくお願いします!
ジーナ、グリフ、ギル、夜十、燈火以外のルーニーを除いた魔法師達は敵同士だったと言えども、今は同じ標的を前に奮闘しようと手
「どいつもこいつも邪魔ばかりしおって!そんなに死にたいのならば死なせてやろう! 」
を取り合った。
仲間に裏切られたことでルーニーは酷く怒りの表情を見せた。ルーニーの怒りと連動する魔力は空気を震撼させ、悪寒を走らせる。それ程までに強大だった。輝夜の体感ではミクルに感じた魔力の恐怖と同等か、若しくはそれ以上。
「動け、俺達の心臓は居なくとも標的は目の前だ……! 」
ルナールが叫び倒すと、ギル隊のフェニキア以外の隊員は無言で頷き、地面を蹴った。
夜十の行う縮地法を用い、前の速度とは比べ物にならない程の力でルーニーへ向かう。
武蔵は刀を鞘に戻し、ルーニーとの間合いが一定になると地面に足を擦って速度を落として、ピタリと止まった。
「……ジャック、タイミングはお主に任せるぞ! 」
「ああ!任せろ!! 」
綺麗に煌めく金髪はふわりと宙に浮かび、自分自身が映り込む銀色を無数に放った。持ち手の刃は凡そ数千本。服の袖から現れ、現れた瞬間には的を射る矢となる。
「その程度の攻撃じゃ、ワシに傷一つ付けることなど出来んわ! 」
掌をジャックの放った無数のナイフの方へ向け、怒り混じりの言葉を吐く。標的を確認し、確実に射止めると意思を持った刃は謎の障壁によって弾かれ、粉砕した。
ナイフを放つだけの攻撃、ルーニーには意味もなさないようだった。
「……な、なんじゃ?! 」
だが、ルーニーの腕がずっしりと重くなり、彼は腕を上げていることが出来なくなった。上を向いていた掌も下に下がり始める。
「この人数は何回分じゃ……!! 」
ルーニーの両肩には数百にも登る亡霊が取り憑き、腕の自由を奪う。亡霊は怨念の塊。自分を生み出したフェニキアの意思に基づき、標的を阻害する。
「武蔵、ルナ、今だよッ! 」
ジャックの指示で二人は詠唱を始める。
「我が胸に眠る鬼神よ、この身が朽ち果てようとも我が同胞へ力を手向けろ!鬼神の一太刀! 」
武蔵の持つ刀に赤黒く禍々しい靄がかかり、その場の空気に悍ましさを加える。
「|Black flame, show power to me(黒炎よ、我に力を示せ)黒炎の雨」
武蔵とフェニキアの生み出した不死者を巻き込んでの大幅な魔法展開。
黒炎の礫は空を舞い、空気を焦がし、決して消えることはない。
「あの連携……滅茶苦茶や!まるで仲間を殺そうとしとるようやッ!!信用がなってないんか?! 」
目の前の光景に輝夜が声を上げた。だが、焔はそれを否定し、首を横に振る。
「いや、あれは違うな。信用してるからこその特攻と全力の攻撃だ! 」
焔はギル隊の覚悟の強さを、その瞳で見た。
仲間を傷つける奴は許さない。それはATSとて同じ、国際的な壁があったとしても怒りの原点は誰とて同じなのだ。
「……ワシはこの隊に入って良かったと思うとる。日本じゃ嫌われていたワシをここまで信頼してくれたのじゃからなッ!! 」
一歩一歩を強く踏み抜いた足で飛び上がり、空中で加速。手に取るは黒き刃。瞳に映る標的の頸動脈の位置ーー|No problem(問題なし)。
武蔵は己の体重と速度を乗せ、空気を切り裂いて、ルーニーの頸動脈を確実に射止めた。
武蔵が地面に足を曲げて着地する刻、ルーニーの首からは血飛沫が飛散する。
「ぐっ、ぁぁぁあああああ!!! 」
傷口には赤黒い靄がかかり、追い討ちをかけるように黒炎が彼の身と不死者を焼いた。バチバチと燃え行く炎は消えることはなく、黒い煙を生み出す。
「やった……のか? 」
「まだ分からぬ……! 」
四人のギル隊がルーニーの亡骸を目視せんと目を凝らした。黒煙の中に五体満足で立っている者のシルエットが見える。
まさかと思い、ジャックは数本のナイフをシルエットへ放った。
「はぁ……ガッカリじゃよ。この程度の力で刃向かおうとは、愚か者めがッ……! 」
服が焼け、引き締まった筋肉の塊のような上半身が露わになったルーニーが立っていた。
低く野太い声で強く放たれた言葉。それよりも、ギル隊も含め、その場にいた全員が彼の腹部を見て絶句した。
「それが原石だと……? 」
腹部に埋め込まれた原石の大きさは異常。胸部から腰部まで間を埋め尽くしている。白、赤、黄色、緑、青、様々な色の結晶が混ざり合い、綺麗で鮮やかな虹色に輝いている。
「……ワシが長年を費やし手に入れた原石じゃよ。この力を使えばお前達など取るに足らん虫程度。覚悟するがよいッ!! 」
ルーニーはルナールの目の前に瞬間的に現れた。当然のことでルナールも身体の反応が追いつかず、僅かに重心が傾く。
地面を蹴って加速したというよりは、本当に瞬間移動をしたようだった。
「……お主さえ死ねば小虫が沸くこともなかろう。トドメじゃよ、裏切り者めがッ! 」
ルーニーの大きな掌が黄色く発光し、眩く、魔力の密度が高い球体を作り出した。今の間合いで回避行動を取ろうとすれば、瞬間的に放出されるのは目に見える。ルナールは冷や汗をかき、自分の最後を見た。
ーーだが、一人の言の葉が聞こえた。
それは激しくなく、冷静沈着で優しく小さな声。小さいのにその場に居た全員は誰もが聞こえている。不思議な声だった。
「ーールナールは死ぬようだね。 」
ぽつりと呟かれた言葉から一閃。ルーニーの創り出した高密度の魔力球は空気と混じるかのように消滅した。
「……ッ!?その声は、リアンかッ!? 」
「ご名答、父上。拙者はリアン、仲間の命を救う為にやってきた救世主と申す! 」
橙色の髪の少女は颯爽と現れ、己の組織のボスへ、態とらしい自己紹介を披露した。
「お前らよく頑張ったな。ここからは俺らに任せろ! 」
リアンの後ろから歩いてきた男は、酷く煮えくり返った表情でルーニーを睨みつけた。
「……ったく、遅えじゃねぇか!新島! 」
焔が冗談混じりの言葉を上げると、新島はニッコリと笑った。
「ヒーローは遅れて来るもんよッ! 」
かつての部下であり、弟子であった新島にルーニーは恐れをなし、顔を歪めたのだった。




