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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編《revolución編》
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第百五十四話 《炎帝》の圧倒力

「熱い……熱すぎる、この魔力量はっ……」

ジーナはジリジリと皮膚が焼ける感覚に戸惑っていた。自分も炎魔法を使う身、炎に対する耐性は勿論ある。なのに、目の前の男から発される熱は自分の持つ熱よりも遥かに上。

「対魔術師組織の炎魔法使いはそんなもんか?日本なら幹部にすら入れねえぞ? 」

焔の挑発に歯を食いしばり、ジーナは目の前の男を睨みつける。

「おぉ、怖い!まあ、俺の脅威ではねえけどなッ!! 」

焔はニコニコと笑っているグリフに視線を移した。特に何かをしてくる様子もない。構えているだけで攻撃的な意思も感じられない。

だが、何かこの男にはあるのだろう。警戒を怠ってはいけない。



「ジーナ、本気でやっても良いですよ? 」

「本当……に? 」

「ええ、《白雪の帝(ユミル)》は本気を出して直ぐに壊れてしまいましたから、対をなす《炎帝(アドラメルク)》なら楽しませてくれるでしょう。 」

焔は《白雪の帝》の名が出た途端、形相を変えた。先程の怒りよりも、より一層濃くなった怒りだ。

「そうか、お前らがミルク王国の廃墟で神城に重傷を負わせたっていう奴らか。 」

「死んでいなかったのが奇跡ですね。致命傷を与えて、完全に殺しきったと思ったのですが、詰めが甘かったですよ。 」

グリフは淡々と話す。焔の怒りの表情を楽しんでいるかのように。


焔が怒りで一歩を踏み出そうとした瞬間、ジーナは凄まじい速度で青と赤の炎翼を発現し、焔との間合いを詰める。

両手に双翼と同じ炎の剣を持ち、二刀流の剣戟を焔へ放った。

「全然緩いじゃねえか、そんなもんかよ? 」

焔はまた挑発として言ったわけではない。本当にそう感じたのだ。双翼の出す炎の熱が生温いと。剣戟を回避する気もないのか、焔はその場に立ち尽くしていた。

「……私のこと、舐めすぎ……馬鹿なの……? 」

ジーナが"貰った"と首筋に剣を放った瞬間、焔の身体は首から斜めに真っ二つに切り裂かれた。


「ふふふ、ただのハッタリでしたか。全く、しょうもない方でーー……っ!? 」

だが、すぐに身体は元に戻った。焔は退屈そうに溜息を吐く。

「そんな弱ェ炎で俺に手ェ出しても痛い目見るだけだぜ。 」

ジーナが何のことかと疑問を浮かべていると、焔の炎に触れた剣の刀身は燃え、ジーナの魔力さえも焼き始めた。気付いた時には剣全体が燃え尽くされ、消滅してしまった。


「《緋色の炎、碧色の炎、紫炎となりて、標的を燃やし尽くせ!双翼の紫炎(ヴァイオレット・フィアンマ)》 」

余裕そうに笑みを浮かべる焔へ高速で詠唱を完成させたジーナの紫炎が放たれる。

双炎が混じり合い、一つの紫炎の球体を作り出す。ジーナは焔へ紫炎の球体を放った。

だがーー

「だから言ったろ?お前の炎じゃ、俺の炎は燃やせねェんだよ! 」

詠唱もせず、掌を前に突き出して球体を生身の身体で受ける。紫炎の球体は受けられた瞬間、紅く強い炎に呑み込まれ、ジーナの魔力はその一切を燃やし尽くされた。

「このままじゃ、舐めてるって思われるのも嫌だからな。少しだけ本気を出してやる! 」

ジーナの放った球体は跳ね返され、二人に迫る。そして、爆散した。威力は絶大で二人との距離はほぼゼロに近かったからか、グリフとジーナは直で爆発に巻き込まれた。

だが、それだけでは終わらない。


「……これは燈火の分だ。歯ァ食い縛れェ! 」

一歩を強く踏み込み、ジーナの何倍との速さで二人との間合いを詰める。今、二人に視界は無いに等しい。魔力を感じるための感知能力が高ければ別だが、通常の数値であれば問題はない。拳を強く握りしめ、ジーナの顔面を殴りつけた。空間の熱を足場に方向転換をすると、グリフの顔面へも強烈な一撃を叩き込む。


「まだまだ俺は現役だ、若いのに負けてらんねェ!! 」

爆発による黒煙が消え、ジーナとグリフが仰向けに倒れていることに周囲は驚愕した。

圧倒的なまでの焔の力にrevolución(レボルシオン)の幹部達は唖然と口を開ける。


「ジーナとグリフ、もう動けないのかよ。雑魚だな、雑魚乙!まあ、暗殺隊は本職に任せておけってなァッ!! 」

この時、夜十を含めた引きこもり(アイソレーション)の空間内に居た全員は驚愕した。

真っ黒焦げに焼き崩れたはずのギル・リブロが五体満足で立ち、二人の仲間を馬鹿にしているのだから。


「ほう、蘇生魔法(リーサースティーション)を使えて五体満足か?ルナール久しぶりだな? 」

焔はギルの蘇生を終えたルナールへ話しかけた。ルナールは文字通り、蘇生魔法を使用したのだ。蘇生魔法は本来、禁止魔法の一つとして世界的にも禁じられている禁術だ。

肉体さえ残っていれば、魂を黄泉の世界から呼び戻し、身体との意識を繋ぐ魔力量の激しい魔法だ。回数で表すならば、100回分の魔力消費を伴う。その為、たった一度のみしか人生で使うことを許されないはず。


「焔、久しぶりだな。刻印の時以来か? 」

「そうだな。俺が断ったあの日からいくつの魔法師の刻印を手に入れたよ? 」

夜十がタトゥーだと思っていたルナールの体に入っている無数の文字は刻印だった。

人間は普通、刻印を身につけるためには相当な努力を要し、刻印の持ち主との親密度を高めなければならない。そうしなければ、魔力の引き出しが出来ないからである。

だが、ルナールはそれを無数に持っているのだ。どれだけの魔法師の刻印所持者と知り合ってきたのだろう。膨大にして無謀とも言える。


「150以上は取り続けたか。お陰で魔力も無限だよ。後残る刻印は朝日奈だけだ。お前の刻印、渡してくれよ! 」

「……何度お願いされても無駄だッ!!仲間殺しの罪は重いんだよ、ルナール!! 」

どうやら、焔とルナールは見知った関係なようだった。両者はいがみ合い、間にいるギルをお構い無しに魔力の展開をした。


「俺のことを忘れるなァッ!! 」

興奮した様子でギルは焔に叫ぶ。

さっきとは別の魔力量に夜十は違和感を覚えた。あれ程の動きが出来たはずなのに、今は出来ないようだった。どういうわけだ?と頭の中の思考回路を駆け巡らせる。

ジーナとグリフが簡単にやられてしまい、少しだけご立腹なのか、はたまた無視されたことが嫌だったのか分からないが、ギルの瞳が緋色に染まった。

実質の二対一、焔はなんの動揺も見せずに二人を見つめ、構え直したのだった。


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