表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編《revolución編》
154/220

第百五十三話 天輪の爆千寿(マリーゴールド)

「……なんでお前らがここに! 」

突然の襲来に距離を取って、不気味な笑みを浮かべる赤い瞳のギルに叫びかける。

「ふっ……俺はお前らに借りを返しに来たんだよ!! 」

直後、ギルの姿が夜十の視界から消えた。周囲を見回し警戒していると、腹部に強い衝撃が走り、反撃の拳を瞬時に繰り出す。だがそれは"ぶんっ"と低い音で虚空を切った。

「そんな攻撃じゃッ……!! 」

背後から頭を地面に押さえつけられた。

「俺は倒せねえよ、雑魚! 」

ギルはうつ伏せで地面に顔を伏せている夜十の頭を踏みつけた。


「ぐっ……この前とはッ……!! 」

この前と格段に速度も攻撃力も上がっていることに驚きしかない。夜十の驚愕した反応に、ギルは高らかな笑い声を上げた。

「はははははは!!この力、凄えよ! 」

夜十の頭にかかる重みがより一層強まり、頭が割れそうな痛みがジリジリと走る。

「テメェ、好き勝手しやがって! 」

黒の手に黒い影が纏わりつき、刀へ具現化されると、ギルは更に笑った。

「ははははッ!!何人来たって変わりはしねェよ!雑魚は何人でも雑魚だッ!! 」

そう言われて、"はい、そうですか"と引き下がれるわけではない。地面を蹴って加速、刀をギルへ勢いよく振り下ろした。


「見世物には丁度いいな。雑魚は俺様にどうしても敵わないってことを証明してやる! 」

ギルは避けず、指先で掴むようにして受け止めた。

「……っ!? 」

まさか受け止められると思わなかったのか、次の行動への反応が数秒遅れてしまった。ギルはそこをつき、掴んだ刀を自分の方へ引っ張る。凄まじい腕力で引き寄せられ、重心が前のめりになった所を、蹴りで一閃。

「なっ……ぁっ!? 」

刀を影で腕に固定していたせいか、吹っ飛ぶことも出来ず、身体が大きく浮き、その場に崩れ落ちた。


「い、一撃で黒先輩を鎮めた!?……それでも、これは避けられないわよ!《永なる炎は灯火さえ消えず、千寿の花と一重に。天輪の爆千寿(マリーゴールド)》! 」

詠唱完成時、無数に地面に張り巡らされた緋色と黄色に輝く魔法陣。魔法陣からはオレンジ色に輝く華が咲き誇る。黒とギルが一戦を交える瞬間から、援護用に展開していた。


「うおっ……なんだこりゃあッ!! 」

「あらま、ギルやられたわね〜。その威力じゃ、貴方死んだわよ〜! 」

とてつもない程の魔力を魔法陣から感じ取ったのか、燈火達と一定距離を置いたところでギルの戦闘を見ている仲間、フェニキアが笑いながら言った。


「夜十、黒先輩をお願い!! 」

「ああ、任せろ!! 」

既に起き上がっていた夜十は地面を蹴って加速、黒の身体を掴んで燈火の魔法の間合いから外れた。

「ふっ、俺だって逃げることくらい……っ!?な、なんだよこりゃあッ!か、身体が動かねェッ!! 」

「俺からのプレゼントだ、受け取っておけ!そして、爆散しやがれ!! 」

夜十は黒の身体を掴む瞬間、固有空間魔法を展開していた。吹雪の使用する魔法だ、夜十自身でどんなに肉体的に強かろうが簡単には動くことさえ出来なかった。それだけでこの数秒間の中、ギルをその場所に止めるものとしては余裕がある。


「ぐっ……がぁぁぁああああッッ!! 」

膨大な量の華が爆散しては咲き誇り、爆散することを永遠に繰り返す。身体は固定され逃げ道はない、それに無数ということもあってか数の暴力がギルの身体を蝕んだ。


「……終わりよッッ!! 」

左手で右手首を掴み、握り締めた拳を勢いよく開くと無数の華は個々が集まって一輪の巨大な華として咲き誇り、瞬時に大爆発。

技の威力の凄まじさに燈火以外は唖然としていた。



「……この技は私でも世話を焼くレベルの物よ。これで倒れてくれなきゃ……! 」

爆発によっての煙幕が過ぎ去ると、ギルは真っ黒焦げの状態でピクリとも動かなかった。

嗚咽も声も上げず、息もしていない。

「あらま、完全に逝っちゃったわね。父さん、例の石も砕けちゃったわよ。 」

「ほう……やはり、耐久性は劣るか。 」

ギルが"死んだ"のにも関わらず、なんの焦りも動揺もしていない姿に違和感を覚える。

コイツらは自分の仲間が目の前で死んでも別の話をするくらいには非情なのか?と疑問が頭を駆け回るくらいだ。


だが、一人だけ哀しそうな表情でその場に崩れ落ちた人物がいた。

「……ギル、こんな真っ黒焦げになって!あぁ、くっそおおおお!! 」

地面を拳で叩き、瞳から大きな涙を流す。

「グリフ、ジーナ、数秒間稼げ……」

ボソッと呟いた人物は《禁忌》と呼び名がつくルナールだった。ルナールは全身の至る所に無数のタトゥーを入れている。何やら、日本語のモノもあるようだった。


「そいつの……為だったら、嫌だ……死んでくれたなら、、それで……良いん……だけど? 」

「ジーナ、そういうわけにもいかないだろう?分かってくれるか? 」

「ふんっ!今回は、グリフに免じて……命令されて……あげる……!! 」

グリフの背中から真っ白な獣のような翼が生え、彼は構える。ジーナは地面を蹴って一気に加速、標的は真っ直ぐに燈火だった。

あれ程の魔法を起こせる能力者なら、先に潰すのが妥当だと考えたのだろう。

ジーナの両手からは青と赤の炎が其々発現し、それは翼となって更に速度を加速させる。夜十はこの瞬間、迫ってくる熱すぎる魔力に何処かで安心し、ジーナの動きを止めることを辞めた。



「……そりゃ、ウチの大切な宝だ。お前ら如きじゃ触れさせやしねえよ。 」

ジーナの光速にも劣らない速度の攻撃は燈火へ確実に突き刺さったかに見えた。

だがそれは届くか届かないかの距離で止められていた。

「なっ……私の動きを……読ん……だ? 」

これにはジーナもビックリし掴まれた腕を振り払って、グリフの近くに飛んだ。

「《隻眼》に《双翼》か。その他にも有名な魔法師が揃いに揃ってるときた。ウチの宝を摘もうとしてんじゃねえよ! 」

夜十と燈火達の前に現れたのは、《炎帝(アドラメルク)》の異名を持つ魔法師の火の名家、朝日奈家の現当主朝日奈焔(あさひなほむら)だった。


「《炎帝》?何故ここに貴方が居るのでしょう? 」

「《隻眼》、《双翼》が狙おうとした、その完璧超絶天使的美少女は俺の娘なんでな。 」

"うわぁ"と引いた歓声が周囲から飛んだ。

燈火も怒ったような表情で焔を見つめる。

「どれだけ親バカなんですか、流石に私でも気持ち悪いと思ってしまった……」

「あぁ!?煩えな!燈火を含め、日本の若い衆は俺の宝なんだよ。許さねェ!! 」

焔がキレて、魔力を展開する瞬間、燈火は夜十へ叫んだ。

「ま、まずい!夜十、空間の展開をお願い! 」

「あぁ、分かった!! 」

手を地面につき、夜十は《引きこもり(アイソレーション)》の空間で焔以外の全員を包み込んだ。引きこもりの空間は外部から干渉しようとする行為全ての一切を遮断する。

空間自体は外部からは見えないが、内部からは外の情報を360°把握することが出来る。


「夜十、動かないで……! 」

「あぁ、悪いな。 」

「《朝日鳥よ、傷を癒すは不死の炎。不死鳥の揺り籠(フェニークレイドル)》 」

燈火は夜十の背中を触れ、詠唱を完成させた。夜十の体内に炎が流れ込み、傷などの蓄積された疲労感さえも回復させる。朝日奈家に代々伝わる回復魔法の一つだ。


「《炎よ、我に全てを与えん。焔よ、力となりて我を燃やし尽くせ!大火の万象(クリエイション)》 」

吹雪の影響で曇っていた空が一瞬で晴れ、太陽の光が射す。焔の魔力が空へ上昇し、陽光と混じると小さな魔力が膨大な魔力に膨れ上がった。小さな太陽と言い表してもいいかもしれない。

それだけの膨大な魔力が濃縮された小さな太陽を焔は自らに(こうむ)った。


「何をしている?自殺行為でしょう? 」

「馬鹿な真似は……やめて……欲しい。戦いの炎が……冷めて……しまう。 」

ジーナとグリフはつまらなそうに言った。

「冷める?ふっ、何を言ってやがる。今から嫌でも熱を与えてやるよッ!! 」

焦げて黒煙が体から立ち込める中、焔の魔力が格段に上昇した。ジリジリと空気を焦がし、地面を焼く様は太陽と一重だった。


グリフとジーナは表情を変え、構え直す。

目の前の大災害と一戦を交える為に。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ