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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編《revolución編》
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第百四十九話 焼肉屋あらきばちゃん ②

「店長、提案の勝負やるんですか? 」

店の奥から出てきた青年は、呆れたような様子で新木場に尋ねる。

「ああ、やることになった。だから、頼んだぞ! 」

「分かりました……分身で頑張ります。今日だけで二万円も貰えるんだ、我慢我慢! 」

青年は自己暗示で自分のやる気を無理矢理引き出す。今日だけで二万?新木場さん、太っ腹すぎか!!


いつの間に新木場と燈火の早食い対決の流れになってしまったことに、夜十は頭を抱えた。久々の二人だけのディナーなのに、何故こんなバトル系の展開になってしまうのか。


「スタートコールは俺がやります。 」

せめてもの手伝いだ!スタートコールだけでもと、夜十は自ら提案した。

「ああ、頼んだ。いつでもいいぞ! 」

既に白く丸い皿の上には、400gのステーキが熱々の状態で盛り付けされている。これを早食い?出来るわけがないだろう。


「それでは、スタート!! 」

夜十のスタートコールと同時に新木場はフォークで肉を抑え、ナイフで黙々と一口サイズに切り始める。

そんな中、桃色の瞳を光らせ、標的(にく)を視界に捉えた燈火の皿の肉は一瞬で消えた。


「……え? 」

400gの巨大ステーキが皿の上から一瞬で消滅?いや、そんなはずはない。

だが、彼女の口元を見ると数回の咀嚼をしてゴクリと飲み込む姿が見えた。

僅か一秒足らずで一皿分を完食した。

「このお肉、美味しいですね!お代わりお願いしますー!! 」

燈火は手を挙げて、もう片方の手で空になった皿を動かした。

この速度に流石の新木場も開いた口が塞がらず、青ざめた表情で驚愕している。

自分はとんでもない相手に勝負を仕掛けてしまった、仕掛けなければ良かったと後悔してしまうくらいには。



ーー、一時間後。

「はい!そこまででー! 」

夜十がセットしていた端末のタイマーが鳴った為、燈火は肉を食べる手を止めた。

「えー、もう終わり?たった15キロくらいしか食べれてない! 」

「え?それだけ食べて、まだ余裕なの? 」

夜十は、燈火の異常な大食いっぷりに青ざめた。異常なまで食べることは知っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。

大食い勝負を提案した新木場は隣で肉を咥えながら、伸びている始末。


「じゃあ、新木場さん!明日から私の食費お願いしますね!領収書、纏めて渡します! 」

ルンルンと鼻歌を歌いながら、彼女は続ける。

「すいません!もう五皿くらいくださーい! 」

「えええ!?まだ食うのかよ、俺が悪かったぁあああ!! 」

新木場の悲しみの叫びは燈火に届くことはなかった。


一通り、満腹だと感じたのか、燈火は一時間後ほどに持っていたフォークとナイフを置いて、伸びている新木場へ尋ねる。

「ご馳走様でした。ところで、新木場さん、お聞きしたいんですが、焔……父とはどういう関係なんですか? 」

燈火は前に一家が集合する会食の席で父、焔が尊敬出来る魔法師として新木場の名を出していたことを思い出していた。


「俺は有名な一家の出でもないが、焔とは魔法学園での先輩後輩でな。戦闘派(クルーウ)の当主同士でもある。光明(こうめい)とも接点はいくつかあるぞ。 」

「え?お母様とですか!? 」

「一週間前か、前線で会ったな。相変わらず、冷静な判断で指揮を取っていた。流石は朝日奈家の副当主だ。 」

二人の話が盛り上がっているところへ水を差すように夜十は、燈火へ問いかける。

「燈火のお母さんってどんな人なんだ? 」

「お母様は凄く尊敬できる人よ!焔と違って、冷静で指揮取りが凄くて、魔法も私の永遠の憧れよ! 」

焔の扱いとは天と地の差がある程、淡々と語る様に新木場はクスッと笑った。


「朝日奈光明、俺の知る限りで美香を除くなら、女性魔法師で一番の実力者だよ。……っと、おお? 」

新木場の端末が振動し、液晶を見ると、急いで電話に出た。

「こんな時間にどうしたんだ?今日は休暇を貰ったんだよ、だから前線には行けない。嗚呼、今から?良いぜ?何分で来るんだ?……分かったよ。二分で待っとくぜ。 」

どうやら前線の兵士からの電話らしい。荒ぶった口調で切り返し、端末をポケットの中に押し込んだ。


「誰からの電話だったんですか? 」

「光明からだったぜ、後二分で来るんだとよ。夜十、良かったな!挨拶出来るぞ! 」

「えっ!?」「お母様が!? 」

二人の拍子抜けした表情に大笑いする新木場、いやいや笑ってる場合?!

てか、二分!?早すぎじゃないか!?


そう思うのも束の間、店の外が光り輝き、扉が開いた。現れたのは、燈火とそっくりの顔立ちをした長髪の髪の女性だった。瞳も髪の色も燈火と同じ桃色。赤と桃色の着物を着ており、動き辛そうな服装を身につけている。

服装以外で言えば、ここまで親子の区別がつく、見かけはないくらいだ。


「二分十秒もかかってしまったわ。私もまだまだのようね。新木場さん、一週間ぶりですね。元気にしていました? 」

上品な貴族のような口調で話し始めた光明。

「嗚呼、俺は別に元気だ。それよりも、お前の娘と娘の彼氏が来てるぞ! 」

「あら、燈火さん。会食以来ですわね。 」

自分の娘をさん付け?父の焔とは真反対の性格のようだ。

「はい、お母様。お久しぶりです。此方が私の彼氏の夜十です。会食の時に少しだけお話したと思いますが……」

あの燈火が完璧な敬語を話している!?

明日は雨でも降るのだろうか、というようなありえない振る舞いをしていた。


「貴方が冴島家の生き残りなのね。……まあ、いいわ。よろしくお願いね、夜十さん? 」

夜十はこの人から感じる無限の魔力と寛大さを大きく感じた。これが副当主?

普通に当主をしても違和感のない魔力量だ。

夜十は燈火の母、光明が持つ力に感服し、素晴らしいと祝福するだった。


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