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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編《revolución編》
147/220

第百四十六話 緊急招集

小説の書き方を今回から変えてみました。

違和感を感じるかもしれません。全て、この書き方に変えようかは迷い中です。

何かあれば感想でお願いします。

原石(クリスタル)

太古から存在し、創り出したのは魔術師だと言われている。

有り余る魔力を封じ込め、領土を守る為に使ったりと、様々な用途で使用されていた。


だが、原石は人類の歴史が刻まれ、魔術師がこの世から衰退していったと同時に地に封印されていった。


「父さんの本当の目的……それはね……」

リアンは珍しく普通の口調で話し始めた。

彼女にとって毎度の人格が変わることは当たり前で、それが普通なのかは定かではないが、人間が喋る口調として一般的な話し方だった。



「魔術師を超えた存在になることなんだよ。 」

「魔術師を超えた存在?」


魔術師を超える?新島は、リアンの言ったことが理解出来なかった。

魔術師は魔力操作の原点であり、それを超えるものといったら仮説でしかないが、魔力を永遠に生み出し、操作できる存在。

そんなこと実在可能なのか?


「実現可能なんだよ。原石に集められた魔力はそれだけ絶大で強大な物なんだ。君の部下のミクル、いや、本名はミルクだったか。彼女の国にも原石があったんだ。 」

「つまり、その原石を奪い取るためにルーニーは国を滅ぼしたのか? 」

端末の向こうからリアンの「うん」という言葉が聞こえてきた途端、新島の身体が熱くなった。

自分の暗殺を命じた頃からルーニーの存在を憎いと思っていたが、それでも育ての親だと思って躊躇をしていた。

だが、今回の件でその躊躇もなくなったと言える。ルーニーは間違いなく黒だ。



「鎮雄、君は原石を使用しているとはいえ、もう力が衰退し始めている。ルーニーを止めることは不可能だよ。 」

「不可能だってなんだって、俺の家族の本当の家族を殺した黒幕ってんなら立ち向かわねえ意味はねーよ! 」

端末越しにリアンの「やれやれ」と困った様子が流れ込んできた。

彼女は新島に話せばこうなることが予測できていたのかも知れない。だから、わざと話すようなことはしなかったのだ。



「私が止めても鎮雄、君は行くんだろう。だから止めることはやめよう。だが、来るならばその時、私は敵だ。協力は出来ない。私にも守るべきものがあるからね。 」

「ああ、分かってる。その時は全力で斬り伏せてやる。昔のことは関係ねーよ。 」

そう言って、電話を切った。

新島は瞳に炎を滾らせ、自室から出ていった。






学園の朝は今日も早い。

早朝だというのに、校庭には複数の生徒が多く見られ、中心には黒い戦闘服姿の夜十が立って、生徒達を指導している。

季節は夏を超え、秋に近づき始めているからか、早朝の寒風が頬を叩き、吐いた息は白い。


「クソ夜十、俺はこのままでいいのか? 」

「虎徹は特に指導する点はないよ。ただ、仲間との連携を取るのに広範囲な技を使用しないことを心がけた方がいいかもな。 」

「あるじゃねぇか!……まあ、その点は倉橋によく言われるからな。気をつけるよ。 」

「随分素直になったな、どうしたんだよ。変なものでも食べたか? 」


ニヤニヤと笑いを浮かべる夜十に、虎徹は飛び蹴りを食らわせた。

今日も当たり前の学園生活が始まる。

朝も昼も夜も訓練と授業、必要な知識は叩き込めていると言ってもいい。

後は彼らのやる気と成果次第だ。


そんな時、夜十のズボンのポケットが振動した。端末をスライドして、耳に近づけた。


「はい、新島さんどうしたんですか? 」


数分間、「はい」を数回返答し、夜十は電話を切った。その顔は深刻そうだ。


「皆、今日の訓練は中止だ。各自、自己練習を行ってくれ。 」


真剣な表情に生徒達も勘付いたのか、何も言い返さずに「はい」と頷いた。



「燈火、新島さんから緊急招集。寒いから……ああ、燈火は寒くないか。 」

「うん、行こう!てか、私だって寒いわよ!炎魔法の提唱者だって厚着はするだから!……って、聞いてるの?! 」

「聞いてるよ、ははは!ごめんごめん、冗談だから!! 」

燈火の顔が赤くなったと同時に夜十はひょいとしゃがんでみせる。直後に通過する彼女のすらりと伸びた長い足。未来予知の出来る夜十にとって容易な動作。その後、怒り狂う燈火の手を取って、校庭から飛び出した。



「新島さんから招集命令かい?分かった、早く行ってきていいよ。ミクルちゃんの様子も聞きたいからね。よろしく頼むよ。 」

そう言って風見は、ずずずーと白いマグカップで熱々の紅茶を飲み干し、学園長と白い文字で木彫りされた名札の後ろにマグカップを置いた。


「はい!行ってきます!燈火、行くよ!……アレでね? 」

「えっ?ちょっ……待っーー」


燈火が夜十の口から「アレ」の二文字を聞き、顔色が一瞬で青ざめた瞬間、二人は職員室から消えた。


「待って待ってええええええ!! 」


頭がグラグラと揺れて、ジェットコースターに乗っている時の数百倍の嘔吐感が身体中をひた走る。燈火の絶叫なんて物ともせず、亜光速で青白いトンネルを突き進む。

燈火の瞳がクルクルと回転し、気絶しかけたタイミングで浮遊感が無くなり、地に足がついた。


「はぁ……はぁ、はぁ……これ、きつ、い……」

燈火はそう言って床に尻餅をついた。

頭をゆらゆらと揺らして、彼女の意識が現状を取り戻そうと必死に自己回復を試みる。

開いた口は塞がらず、マトモに喋れない。


「そんなにキツイ?俺は慣れたけどなー」

燈火の疲労感を一切感じず、目も回してない夜十は燈火の手を握り、無理矢理にでも立たせた。背中を右手で支え、白く長い廊下を一歩ずつ進む。


「ミクルちゃんの時はこんなことないけど、夜十の時は本当に辛いの! 」

「そりゃ、彼奴は空間コントロール力に長けてるからな。俺のはただの真似事だし……」


ミクルの空間移動は魔力の精密度がかなり必要になる魔法だ。《追憶の模倣(メモリーレプリカ)》でコピーをして使用しているだけでは使用者に負荷がかかってしまう。

それでも夜十は一瞬で移動出来る部分に惹かれ、使用回数を重ねているのだ。

いつか上達することを夢に見ている。



呼び出された予定地の演習場へ入ると、二人は中に居る面々に頭を下げる。

今日は緊急招集、予期せぬ事態が起こり、新島はが招集をかけねばならないと判断したということだ。緊急にも関わらず、大勢の面子が揃っていた。


「よし、全員揃ったな。話を始めるぞ。 」


新島の話をコクリと頷き、全員が耳を澄ませる。今日、招集された面々はソロの全員と、冴島隊、輝夜隊、神城隊、ミクル隊、騰隊、虹色隊の多勢だ。


「先日、神城と龍騎と俺でrevoluciónの本部に出向いた。理由は、援軍要請だ。ここまでは皆に話しただろうが、その話は破棄とする! 」

新島の声音は驚くほど強く、怒りが感じられる。拳を強く握りしめ、理由は分からなくとも雰囲気だけで何かは感じられた。


「……俺から言うよりも、ミクル。お前にお願いしたいんだが、どうだ? 」

新島が自分の名前を呼ぶとは思わなかったのか、ハッとして彼女は数秒の間を置いて頷いた。

夜十はミクルの姿を見るのは久しぶりだが、雰囲気も態度も以前とは違いすぎる。

長かった為、ポニーテールで纏めていた髪を一気に下ろし、絶えなかった笑顔も消えている。何が彼女をそこまで変えたのか、数年間付き合っている夜十ですら分からなかった。


「その前に新島さん、皆に黙っていたことを伝えてもいいですか? 」

その声音は冷静で冷酷で冷たく、怒りを感じるような声音。

「ああ、構わない。 」


新島の返答に安堵したのか、頷き、話を続ける。


「私の本名はミクル・ソネーチカではありません。 」

その場にいた誰もが驚愕した様子を見せることもなく、静かにミクルの話を聞いていた。

「私は一国の姫でした。名は、ミルク・シャダ・ソネーチカ。シャダの名は、祖国で伝説の覇王の生まれ変わりとされた者の意義。私は産まれながら双魔(ツイングラマー)と、《魔源の原石(クリスタル)》を有する半魔術師として生きてきました。 」

全員が双魔という単語で口を開けた。

双翼、伝説に残るくらいの単語で実際に存在しているかさえ分からなかった程の話だ。


「《魔源の原石》ってなんだよ? 」

夜十はミクルへ素朴な疑問を問いかけた。

「夜十の持っている《魔源の首飾り(アミュレット)》の原石のことだよ。使用者に上限回数を与えず、詠唱さえすればどんな魔法も扱うことが出来るようになる。私は全て努力でここまできたわけじゃないの。 」

夜十はこの時、ミクルの言葉に違和感を覚えた。努力でここまできたわけではない?

そんなはずはない。ずっと見てきた、長い年月を経て、ずっと。一緒に。


「は?小便臭いガキが何言ってやがる? 」

「家族家族とたわ言か、所詮はボロだらけの組織ってことだな。 」

「半魔術師?そんな、化け物じゃないか!ATSは魔術師を擁護していたのか?! 」

「違うぞ、コイツらは騙されていたんだ!この化け物に! 」


ソロメンバーが連れてきた精鋭魔法師達が騒ぎ始めた。ミクルの言っていることは、そんなに簡単に認められることではない。力を隠し、助けられた命を見捨ててきたということだ。だかしかし、ATSの面々はその男達の言葉に怒りを覚えた。


「テメェ、言っていいことと悪いことがあるだろうが!!そんな区別も付かねえのかよ! 」

夜十は精鋭魔法師の男の胸元を掴み、詰め寄る。今の一言はそれだけ重く、強いものだ。

怒り狂う夜十を輝夜は羽交い締めにして、引き止めた。


「やめーや!そんなんしても、何も変わらんやろうが!!頭を冷やせ!夜十! 」

「離してください!輝夜さん、頭に来てないんですか!家族がミクルが……!! 」

「頭に来てないわけないやろうが!!それでも、お前がコイツを殴る必要はないって言っとるんや!! 」


輝夜は顔を赤らめて、暴れている夜十を演習場の奥へ投げ飛ばした。


「ぐあっ……!! 」

壁に叩きつけられ、肺が圧迫され、口から呼吸をしようと必死に空気を吸い込む。

息を切らし、はぁはぁと嗚咽混じりの呼吸を続け、夜十は立ち上がった。


「野蛮だな、ATS。俺はついていけない。 」

「俺もその意見に賛成だ。やはり組織など、この程度か。」

「化け物が属する以上、俺達はこの作戦に参加することはない。」

「不知火、お前の目も曇ったか。ソロ組を仮にも纏める立場で居ながら。 」


男達は非情な言葉を並べ続ける。

夜十の怒りが治まることもなく、輝夜もその場にいた全員が彼らを睨みつけた。


「お前らいい加減にしろよ!この状況でそんなことが言える奴だと思わなかった。任務から外れてくれて構わない。出て行け!! 」

不知火は強い口調で吐き捨てた。


「言われなくても出て行くよ。くだらねえ、小便臭い組織だな。」

「天下の新島鎮雄も神城優吾も大したことねえな。組織内の問題点も見極められないとは……」


男達が出て行こうと歩み始めた瞬間だった。


「新島さん、私は今限りでATSを辞職します。化け物が組織に属するのは違いますよね。こうなることは予期していました。 」

ミクルが冷酷に語り始めたのだ。


「は?何言ってやがる?コイツらが何を言おうと、お前は俺らの家族じゃねえか! 」

「はぁ……馬鹿と話すのは疲れる。 」

「あ? 」

新島は耳を疑ってしまった。

あのミクルが吐く言葉ではなかったからだ。


「……新島さん、ルーニーと戦うのはやめてください。皆さんではどうやっても勝ち目はないです。 」

夜十はミクルと何年も同じ月日を歩んできたからこそ、彼女の今の言葉は虚勢に過ぎないと一瞬で理解した。


「俺は家族としてお前の力になりたいんだ。どうして、ソレを望まない? 」

「皆さんじゃ足手纏いになるからです。私は、ATSを辞職してルーニーを止めます。 」

「神城、ミクルを止めやがれ!! 」

新島は俯いている神城へ強く問いかける。


「……ミクル、そんなに俺ら頼りないか?!焦っても無駄だって二人で話した時、お前は納得したじゃねぇか! 」

「いい加減暑苦しいんですよ、神城さん。私は一人で戦うって決めたんです。私は化け物なんですよ、私を倒せる人は誰もいない。ここに居る人間は誰も!この人達が言ってくれたでしょう?皆の本音を。 」


神城は血眼になって怒り狂った。

二人だけで会話した時、お前は泣いていただろ?それは間違いなく虚勢だ。お前はそれを本心から願えるほど、強い人間じゃない。

神城の感情は不安定になり始めた。


「《氷凍の追鎖(グラキエース)》……!これでお前は少しでも頭を冷やせミクル! 」


地面に手を伏せ、神城は魔法陣を展開する。展開速度は0.5秒にも満たず、ミクルの周囲を無数に取り囲むように多数展開。

青白く光り輝く陣は見る見るうちに縮小し、消滅すると同時に氷の鎖がミクルに拘束を図る。


「《烈火万象、陽光、熱火、神火、炎焔、浴びせしは豪炎の導。絶炎の太陽(デスプレイト・ソレイユ)》 」


ミクルが放つ言葉、単語、一つ一つが周囲に浮遊する空気に熱を与える。

冷気立ち込める空気を一瞬で熱し、頬を殴るような冷気が暖められ、ジリジリと焼けるような熱の痛みが頬を灼く感覚。

詠唱だけで魔法の凄まじさを実感出来たが、異常を感じるまでの力に魔法を血眼で展開した神城でさえ、目を丸くさせている。


「な、なんや、あれは……!!黒い太陽!? 」

輝夜は演習場の天井を焼き溶かす黒く丸い炎の球体を指差して言った。


「魔術師が使用する炎の魔法の中で最も強力とされる魔法ですよ。絶望の黒い太陽は、周囲の絶望による負の感情を吸い取り、更に大きくなるんです。私を止めることの無謀さ、分かっていただけました? 」

ミクルは不敵にも笑みを浮かべた。

この状況下で笑えるお前のその心、どうしちまったんだ?最初からそうだったなんて、言わせない。


誰もが諦めた時、絶望の黒い太陽はーー



「……テメェ、虚勢張ってんじゃねえええ! 」


ーー真っ二つに両断された。

熱気を帯びていた太陽は両断された途端、空気に混じるように消滅。周囲の熱も下がりはしないが、頬を灼く程ではなくなった。



「邪魔しないでくれるかな、夜十。 」

「今の俺がお前の邪魔なら、俺は何度だった邪魔してやる。俺は正しいことをしてると思ってんだ!! 」


夜十の瞳が黄色く光沢を帯び、生成した黒剣を手に、構えの姿勢をとった。

この状況下で長年過ごしてきた友の行動は読まずとも分かる。

夜十は、冷酷な表情で詰め寄るミクルへ、一撃を与えんとばかりに、一歩を強く踏み出したのだった。


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