第百四十五話 《魔源の原石》
「私、実は双魔なの! 」
「は?双魔?……なっ、それは本当か!? 」
双魔。人類は皆、一人一種の魔法を使用することが出来るが、稀に二種類の魔法を使用することのできる人物がいる。
それを彼らは双魔と呼んだ。
類稀なる才、奇跡と一つの単語で表してもいいようなものではない。
「うん、私の魔法は二種類。継承者の継いだ魔法の空間魔法を入れて三種類だよ。 」
「他の魔法は……? 」
「その前に、話さないといけないことがあるんだ! 」
「……その話さないといけないことは、魔力量の話か? 」
ミクルは神城には全てお見通しなのだと、思わず笑ってしまった。
「凄いね、神城さん。そんなことまで気がついてたの? 」
「お前と居た時間は誰よりも長かったからな。当然だろ。 」
神城は笑って言い返した。
「うん、確かにそうだね。神城さん、私実はね……魔術師みたいなものなの。 」
「は?!魔術師?! 」
神城は飛び抜けたような返事を返す。
「神城さん、《魔源の原石》って知ってる? 」
「《魔源の原石》? 」
神城は知らなかった。
長い魔法師人生の中で一度として聞いたことないワードに首を傾げた。
「うん、さっき話したパパの話。たった一人で国を守り続けた英雄、おかしいよね。 」
「ああ、いくら強くてもミクルの父が倒れたら国は文字通り破滅する。兵士の一人、居ても良いんじゃないか? 」
兵士が居ない国など聞いたことがない。
それも国王が国を守る責務をたった一人で全うする国など俄かには信じられなかった。
「うん、そうだよ。だから、私の国は滅んでしまったの。特別な人、《魔源の原石》持ちが倒されてしまったから。 」
「《魔源の原石》、そんな特別な物なのか? 」
「《魔源の原石》は、私のパパが発見した特殊な鉱石でね。夜十が持ってる、《魔源の首飾り》の元になる宝石なの。 」
そう言って、ミクルは上着を脱ぎ始めた。
白い肌が見え、女子には付かないような腕の筋肉が露わになる。
続けて、ミクルは下着も脱ぎ始めた。
これには流石の神城も上を向いて、ミクルへ問いかける。
「ちょっ……おま、何をしてやがる?! 」
「神城さん、私の胸元を見て! 」
「お前の胸が無いのは知ってるが、なんで急にそんなことしてんだ! 」
「はぁ!?胸が無い?……神城さん、セクハラもいい加減にして?! 」
神城は言われるがまま、ミクルの無い胸を凝視した。すると、ミクルの胸板には、紫色の靄が揺れ動く球体が埋め込まれているのが見える。
「これが《魔源の原石》だよ。私は一歳の時にこの石を体に埋め込まれて、次の継承者になるって言い聞かされてたんだ。 」
「実の父にか? 」
「うん、この石は言ったら魔力の原素みたいなものだから、この石を持っている人間の魔力は無限大。つまり、魔術師になる。 」
《魔源の原石》を用いた《魔源の首飾り》だけでもかなりの脅威となるのに対し、ミクルはその上をいく原石を持つ人物?
神城の頭は困惑していた。胸元に埋め込まれた石を見てもなお、俄かには信じがたい。
「魔術師になる……?それは、どんな魔法でも使えるってことか? 」
「うん、私は詠唱さえすればどんな魔法も回数なんて関係なく使えるの。 」
「生まれながらの魔法が二種類で、継承魔法で三種類。詠唱をすれば無限大ってか?! 」
神城は驚愕した。
ミクルの隠していたこと、それは、あまりにも壮大過ぎていたからだ。
実質の人間側の即戦力となる魔術師。
「うん、そうだよ。私は小さい頃から特別だって言い聞かされてた。でも、国も家族も救うことは出来なかった。あんなに強かったパパもアイツには勝てなかった!! 」
「アイツ……? 」
「そう、revoluciónのルーニー・パズには。ルーニーは、《魔源の原石》を狙って、王国転覆を自らの組織で行なったんだ。その中に、私の兄もいる……」
神城はジャックとルーニーのことを思い出し、唇を強く噛んだ。
「ミルク王国の転覆の理由は、アビスによるものじゃなかったのか? 」
「天下のrevoluciónには、情報操作なんて容易いものだよ。真実を知る生存者は残り私だけ、だからルーニーは私を殺したいんだ。重要な秘密を話されたくないから。 」
「ミルク王国の《魔源の原石》はルーニーに取られてしまったんだろ?それってどれくらいの大きさなんだ? 」
次々と話される衝撃的な事実に、神城は聞いているのがやっとだった。
だが、取られたものの大きさが気になった。
王国転覆というリスクのある犯行をするに至る程の代物、どれほどなのか。
「かなり大きいよ。地下道から続く大きな洞窟の中に封印してたんだ。 」
「まさか……!?まさかな……そんなことは!第一に王国転覆の年月と新島に渡された石の年月は一致しない。いや、でも……ルーニーが元々《魔源の原石》を別で持っていたとしたら? 」
神城はブツブツと呟き、頭の中で繰り広げている推理を纏め始める。
「ミクル、俺は今から新島に会ってくる!ちょっと確認したい用ができた!! 」
「うん、分かった。私は多分、演習場に居ると思う。細かい話は後日でいいよ。 」
「おう、了解!またな、ミクル!! 」
まだ聞きたい事は沢山あったが、取り敢えずは新島に確認するのが優先だろう。
もし、神城が今考えて居ることが本当なら新島はーー。
「ーー《魔源の原石》? 」
「そうだ、ミクルが教えてくれた。お前のその第一世代の石って、それじゃないのか?! 」
新島は疑問げに首を傾けた。
どうやら、新島は知らないらしい。
渡された石も実際のところ、なんなのかは分かっていないみたいだ。
「話が飛躍しすぎてんだよ。順を追って説明してくれ、分かんねぇ!! 」
「あぁ、悪い。ちょっと熱くなっちまった。 」
神城は新島にミクルから聞いたことを、ゆっくりと説明し始めた。
そして説明が終わる頃、新島は第一世代の緋色の石を手にして、こう言った。
「俺の魔力の量はこの石のせいだったのか?けど、上限回数は俺の腰に刻まれている。その回数だって減ってんだぞ? 」
「あぁ、見せてもらったことがあるからな。分かってる。一回、その石を解析に回した方がよさそうだ。新島、貸してくれないか? 」
神城の、この言葉に新島は横に首を振った。
「何だよ、お前だって真相を知りたいだろ? 」
「だが、この石を俺が手放すことは出来ないんだよ! 」
新島は緋色の石を強く握りしめ、哀しげな表情で続ける。
「前に、この石を外そうとしたことがあったんだ。その時のことは今も忘れられねぇ!自分の身体を劈くような痛みが走って……俺は意識を失っちまった!! 」
「嘘だろ……。じゃあ、その石はーー」
「ーー《魔源の原石》で間違いないと思うよ。 」
神城の声を遮るように現れたミクルは、新島の石を指して真剣な眼差しを当てる。
「《魔源の首飾り》も、《魔源の原石》も、所持者は永久に持っていなければならないんだよ。だから、新島さんが外そうとした時、拒否反応が出たんだ。 」
いつもの明るい性格とは打って変わって、表情も、顔つきも、声のトーンまで冷徹さを秘めている今のミクルに新島は驚愕した。
「ルーニーがそこまでして、強くなりたい理由ってなんなんだ!! 」
「それは分からねーよ。ただ、ルーニーが俺のことを殺そうとした理由もようやく納得できるような理由が分かったよ。 」
新島は緋色の石を服の中にしまった。
「態々、海外まで行ったんだがな。今回の件で援軍の話は無かったことにする。驚きしかねぇが、まあいい。ちょっと電話するから、席を外してくれないか? 」
「分かった。ミクル、行くぞ! 」
「はい! 」
ミクルと神城は新島の部屋を後にした。
二人が出て行ったことを確認すると、新島は端末を弄って何処かへ電話をかける。
「久しぶりだな、リアン。元気にしてたか? 」
電話の相手が受話器を取ると、新島は笑いながら口を開いた。
「お〜、鎮雄!!おひっさー!元気元気ぃ!それで何の用〜? 」
端末の向こうから元気そうな女性の声が耳に届く。
「俺が持ってる赤い石なんだが、何なのか知らねえか? 」
「その内容と該当するデータに関しましては、機密事項です。他人に話すことは出来ませんのでご了承ください。 」
次に聞こえてきたのは、機械のように冷たい声音。これも彼女の声だ。
「家族じゃねぇのは、分かってる。だが、緊急事態なんだよ。頼む!! 」
「はぁ……ったく、仕方ねぇな!俺の口から聞いたってこと、ルーニーにチクるんじゃねぇぞ! 」
はたまた次は男らしい悪ぶった声音。
revolución内で最も変わっていると言われる、通称《嘘吐きのリアン》は、話す度に毎度毎度、人格が変わってしまう体質待ちだ。
リアンは新島にその石について話し始め、新島は衝撃のあまり目をカーッと見開くのだった。




