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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編《revolución編》
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第百四十四話 神城の行方

ーー数日後。

夜十、ミクル、新島、吉良、葛城、不知火の六人は神城救出の為、ミルク王国の近辺に亜光速で移動して来ていた。


周囲は破壊され尽くしており、王都に入った直後からミクルの表情は険しくなった。



「大丈夫だよ、神城さんなら!あの人、強いだろ? 」


「うん……。それは、分かってる。 」


腐敗しきった街並みでも分かる通り、ココは外国で日本のような和の景色は無い。

どちらかと言うと、西洋の建物が並んでいる。

王城への一本道を進んで行くと、西洋の雰囲気には似合わない氷の城が見えてきた。



「あれは……!!神城隊長の!! 」


城を発見した途端、ミクルはその場から消えた。瞬時に空間を移動して、亜光速で城内へ向かったのだろう。



「なっ!!ミクル、一人で行くなぁぁあ! 」


夜十は地面を蹴り、賺さず彼女の後を追う。

今、あの城に敵が潜伏していたら、標的になっているミクルはどうなる?

敵に包囲され、下手すれば最悪の事態だって免れない。



「はぁ、はぁ、はぁっ……!! 」


氷の道を抜け、玉座と思わしき場所に辿り着くと、玉座の上に座り、血塗れで意識を失いかけた神城の姿があった。



「神城隊長……っ!!! 」


肩を揺さぶり、ミクルが名前を呼ぶたびに嗚咽混じりの吐息を漏らしている。

まだ息はあるようだ。


その時、後ろから足音が聞こえ、新島達が追いついてきたのを確認する。


「……神城!神城おおお!!! 」


新島は神城に駆け寄り、神城の状態を見て、葛城へお願いをこいた。


「葛城さん、頼む!神城を何とかしてくれ! 」


「はい!任せてください!!叡智の力よ、我ごふぁ! 」


葛城が詠唱を行うタイミングで、夜十は葛城の口を右手で覆った。

直ぐに右手は日南に払われる。


「何するの?いくら、夜十君でもーー」



「日南さん、黙っていてください。はぁぁぁああ!!《全回復(オールヒール)》! 」


日南は、夜十の悪態に一瞬ムッとするが、彼の真っ直ぐな瞳に疑問を浮かべた。

そして、夜十が終えた詠唱と塞がっていく傷口と戻っていく神城の意識を見て、彼女は察した。



「……優しすぎる。 」


日南は、夜十が自分の上限回数のことを気にして使用する必要はないと気遣ってくれたことに気がついた。


「……オイ!お前、何者だ? 」


日南の魔法、《全回復(オールヒール)》は思いの外、魔力を使う魔法だったようで夜十ら若干よろめいたが、背後からの怒鳴り声でシャキッと姿勢を正した。



「お前、その計り知れない魔力。魔術師の仲間じゃねえだろうな!? 」


背後からの怒鳴り声、それは不知火のものだった。不知火は夜十が以前、別の魔法を使用して戦っていることを見ていた。

だが、今、日南の《全回復》を使用したことに疑問を覚え、そう解釈したのだ。



「魔法の種類は一人一つだ。お前はその点、複数持ちと来た。そんなヤツは見たことねえな、魔術師だったら納得がいく! 」


不知火は更に声を荒げ、夜十に怒りの矛先を向けた。


ーーその時、


「不知火さん!彼は私の血族よ。……人間だわ、潔白よ! 」


日南はそう言って、不知火の顔面へ蹴りを入れようと、地面を蹴った。


「……お前が熱くなるなんて珍しいな?魔術師じゃないとしても、複数持ちの理由は? 」



日南の蹴りを右腕で受け、牽制すると、不知火は後ろへ飛んで後退した。



「隠す理由も無いですし、言いますよ。俺は、《魔源の首飾り(アミュレット)》所持者なんです。 」


「……っ!!《魔源の首飾り》持ちだと?……そういうことか、だから魔力がその歳でそこまでか! 」


「俺の魔法は記憶魔法。記憶することに長けた魔法。一度見た魔法を《魔源の首飾り》のありふれた魔力で使用出来る《追憶の模倣(メモリーレプリカ)》も俺の魔法です。 」


不知火は納得したようで、夜十へ近寄る。



「疑って、すまなかった。 」


そう言って、不知火は頭を下げた。


「いえいえ、そんな!誰でも最初は疑問に思う部分ですから、大丈夫ですよ。 」


夜十が優しくフォローしていると、神城が目を覚ました。傷口が癒えても、意識は完全に戻ってはいなかった。



「俺は助かったのか、そうか。……良かった。後少しでお前に会えなくなるかと思ったよ、ミクル。 」


「神城さんのバカ!!……うぅ、うわぁぁん!うぅ、ひっく、うぅ、ぐすん……」


玉座に座り直した神城に襲い掛かるように、ミクルは強く抱きつき、涙を流す。


神城はミクルの様子に泣くのが止まらないと察したのか、新島へ口元に人差し指を立てて合図した。


「夜十、帰還だ。全員飛ばしてくれ。 」


「……分かりました。はぁ、今日の夜はよく眠れそうです。 」


ミクルが今、空間転移魔法を使用する状態ではないのを理解して新島は夜十へ指示を出した。夜十であれば、《追憶の模倣》でミクルの空間移動魔法を使用することが出来るからだ。


夜十は詠唱を唱えずに、施設内への空間へ風穴を開けた。周囲の人物全員を亜光速で空間へ押し込み、氷の城を後にしたのだった。





「……神城、話は後だ。取り敢えず、ミクルと話つけてこい。 」


本部内、新島の部屋へ着くと、新島は泣いているミクルを抱き抱えた神城へ頭を掻きながら言った。



「おう、悪いな。ちょっくら、行ってくるわ。 」


そう言って、神城とミクルは新島の部屋を出て行った。



「新島さん、俺は今から学園に用事があるので、ここで失礼します! 」


「そうか、分かった。夜十、またな。 」


新島は部屋の椅子に腰を下ろし、右手を挙げた。


「夜十君、またね。次会うのは戦場かな? 」


「はい、日南さん。お元気で! 」


夜十は帰り際に日南と吉良、不知火の三人に挨拶をして学園へ向かっていった。



「新島さん、別のソロ組に連絡を取り合ってお願いされていた情報の調達完了しました。 」


不知火は椅子へ腰を下ろした新島へ、懐から取り出した自分の端末を見せる。


「そうか、仕事が早くて助かるよ。それで? 」


「ありがとうございます。はい、revoluciónの目的なんですが……」




ーーその頃、神城の部屋では泣き噦るミクルが神城へ何かを言おうとしていた。



「ミクル、話したいことってなんだ? 」


「うん……か、神城さん、……!! 」


あまりにも苦しそうに言おうとするせいか、神城は彼女がこれから言うことを真剣に受け止める覚悟を決める。



「私、実はミクルって本名じゃないの。それと、あんなにテンション高いキャラじゃない。 」


「本名じゃない?テンションについては知ってる。……なんか、無理してたもんな。 」


「はぁ?気づいてたの??恥ずかし!! 」


ミクルは赤面して、話を続ける。



「そう、私の祖国はミルク王国っていう国で小さくも大きくもない平和主義の国ってことで知られてたんだ。軍事力は無いけど、特別な人が居て! 」


「特別な人? 」


「うん、パパがね。私と同じ空間魔法の継承者だったんだけど、皆からは英雄って言われてた。名高く軍事力の高い国々をたった一人で滅ぼして、国を守ってくれる英雄。 」


神城は、"たった一人で"という点でかなり疑問を浮かべたが口にはしなかった。


「少しだが聞いたことがある。日本じゃ、名家のトップは当主。当主は当主のみ、爆発的な魔力を手に入れられる。外国では、そのことを継承者と呼ぶと。 」


「うん、私は空間魔法の継承者なの。継承者は代々、国を守る立場にある。でも、私は守れなかった。パパに張ってもらった空間で逃げ延びただけ。 」


ミクルは淡々と話し続ける。


「でも、もう何もせずに大切な人を失うのは嫌なの。だから、力をつけた。付けるために何でもやってきた!なのに……神城さんを守ることが出来なかった! 」


「……人間、全てを助けることは不可能だ。俺も沢山失ってきたから分かるけどな。でも今回、俺はまだ死んでねえじゃねえか。 」


「……それでも不安だったの。今、ホッとしてる自分が許せないくらいには。私がもっと強ければ、神城さんはこんな目には合わなかったのに!」


必死な様子でミクルは続ける。



「本当に巻き込みたくないの!revoluciónはそれだけ危険な組織だから! 」


拳を強く握りしめ、歯を食い縛るミクル。

そんな彼女の表情は神城でも見たことがなかった。



「ミクルの国を滅ぼした理由ってのは分かってないのか? 」


「うん、分からないよ。私なりに調べてみたつもりだったけど、ダメだった。奴らの足取りすら分からない。 」


「そうか……。」


国を滅ぼした理由がわかれば、ミクルを殺したい理由もわかるはずだ。

だが、その目的手段がない。神城自身もグリフとジーナに敗北し、ギル隊を連れていかれてしまったことに後悔している。


手がかりはゼロ。

これ以上、ミクルに無理はさせたくない。

自分のせいだと、自分が狙われていることも含めて自分自身に負い目を感じている。



「巻き込まない……か。良いんだぞ、ミクル。好きなだけ巻き込んでくれてよ。だって俺ら、家族だろ?頼り合うのが家族ってモンだ! 」


「頼り合うのが家族……そうだよね。あはは、私何焦ってたんだろ。 」


ミクルの瞳が潤いを帯び始める。


「そうだぞ、お前は一人じゃない。家族がいる、俺がいる。仲間だって居るじゃねえか!何だって話してくれたら良い! 」


「何だって話しても良い……じゃあ、神城さん、聞いてほしい。私、実はーー」


神城はゴクリと生唾を飲み込んだ。

一度だけ聞いたことのあるソレを持つ人物に会えたのだ。

類稀なる才能、そんなもので片付けていいようなことではない。


神城は目の前の事実を受け止めようと必死に葛藤するのだった。


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