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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編《revolución編》
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第百四十三話 氷獄の修羅城(アイス・ブルーリオン)

バッと開かれた扉の先に居たのは、夜十とミクルだった。二人とも必死そうに険しい表情を浮かべている。


「新島さん!!神城さんがどうしたんですか!? 」


新島は、全て聞かれていたのかと、首を傾げ、やれやれと頭を掻き毟る。


「何だよお前ら一緒だったのか? 」


「廊下でバッタリ会って、新島さんの声を聞いて来たんです!!そんなことより、神城隊長は!? 」


新島は必死に自分へ問いかけてくるミクルへ、なんと返答していいか分からなかった。



「……うむ。 」


「なんですか!答えてください! 」


「待て、ミクル!一回、落ち着け! 」


新木場が興奮状態のミクルを諭すが、彼女は聞こうとしなかった。

明らかに新木場と新島の様子がおかしいからだ。いつもなら、神城に何かがあっても焦ったり、冷静さを欠くことはしないはず。

だが、今回は明らかにおかしかった。



「新島さん、ギル隊に連れていかれたってことですか? 」


新島と新木場がこの場で一番言ってほしくないことが、夜十の口から出てしまった。



「ギル……? 」


ミクルはギルという名前に聞き覚えがあった。それも、自分が憎んでいる組織の中の人間だ。


「あぁ〜、ギル?誰だよ夜十!俺はそんなやつ、知らねえよ〜!さっ、新木ーーっ!! 」


白々しい態度で新島と新木場は部屋を出ようとするが、空間が音を立てて破れ、部屋の中から出れなくなった。

扉の先に出ようにも見えない壁があるようだ。



「新島さん、新木場さん。どこへ行くんですか?まだ、私の質問に答えてもらってませんよ? 」


話し方、声のトーン、形相全てがミクルじゃないかのようだった。



「ミクル……? 」


夜十の声も届いていないのか、彼女は夜十を無視した。



「分かった、答えるが焦るなよ。ミクル、焦っても何も始まらない! 」


「……」


ダンマリを決め込むミクルへ、不安を覚えるが、新島は仕方なく話し始めた。


「神城がrevoluciónのギル隊に転移魔法で連れて行かれた。行き先はミクル、お前の故郷。……ミルク王国だ。 」


「……っ!! 」


行き先を聞くと、ミクルは焦ったように空間を飛び立たんと魔力を展開する。

新島と新木場が恐れていたことを実行し始めていた。



「ミクル、落ち着けって言われただろ!お前一人で何が出来るっていうんだよ!! 」



転移の魔法陣が完成し、今にも飛び立つことが可能となった瞬間、ソレは音を立てて破壊される。

ミクルが異変を感じ、横目で黒剣を手に怒った夜十が立っているのを捉えた。



「邪魔しないで!私のせいで大切な人が居なくなるのはもう嫌なの! 」


ミクルはもう一度、魔法陣を展開するが、完成する前に夜十に両断された。



「今、お前が何度同じことをしようが、俺は何度だって斬り捨ててやる!神城さんのことが心配なら死に急ぐような真似はやめろ! 」


「夜十に私の気持ちなんか分からないよ! 」


今の一言で夜十の堪忍袋の尾がプツリと切れた。



「あぁ!分からねえよ!口で何も言ってくれない奴のことなんか分かってたまるか!一人で行くんじゃなくて、俺らのことを頼ろうって気がねえのかよ! 」


「これ以上、私事に巻き込めないよ!私は呪われてるの、あの王国との糸は何年経っても切れない! 」


ミクルは何度も同じ魔方陣の展開を行うが、夜十は容赦なく斬り捨てた。



「私事に巻き込めねえなんて、お前のワガママ通そうとしてんじゃねえよ!そんなの通るわけねえだろ! 」


「うぅっ……うわぁぁぁん!ど、どうしたらいいの!私のせいで、私のせいで!! 」


ミクルは大粒の涙を流し始めた。

咽び泣く、ミクルの大きい声が響き、夜十は剣を床に突き刺した。



「お前の過去のことは今まで聞かなかったよ。ソレは詮索になると思ったからな。でも、今は知る必要があると思った。教えてくれないか?なんでお前のせいだと言える? 」


「うぅ……それは、言えない。私は皆に、嘘をついているから。真実を言うのは怖い……。もう忘れたいことなんだ。 」


ミクルは俯き、哀しい表情を浮かべる。

嘘?何のことだよ?ミクル!夜十は問い詰めたかったが、ミクルの様子に口は出せなかった。



「とにかく、今から向かうのはやめておけ!しっかり準備をしてから行くんだ!分かったな? 」


「……分かりました。 」


そう言って、ミクルは部屋から出て行った。

一応念の為と、新島は吉良へ命じる。


「吉良さん、ミクルもバカじゃないからそんなことはしないだろうが、念の為だ。 」


「分かりました。《魔の力、抑え込むのもまた魔の一閃なり。魔力錠(マジックロック)》! 」


吉良の詠唱が終了すると、目には見えないドーム型の魔法障壁が本部内を包み込んだ。

吉良の固有技である魔力錠は、包み込んだ一つの空間内で魔力の使用を不可にする魔法。

使用用途はアビス討伐ではなく、対魔法師と対魔術師用だ。






ーーその頃、元ミルク王国玉座前。

崩れた外壁や割れた窓ガラスが散り散りになって床に落ちており、内装は最悪そのもの。

玉座と部屋の中心にはベッタリと永遠に消えない血痕が付き、廃国になった瞬間の惨劇を物語っているかのようだ。



「はぁ、危なかったぜ。ルナ、外してくれよ。 」


ルナールは、自分の腕力だけで拘束具を外そうと試みる。両腕両足をがっしりとホールドしてある頑丈な拘束具なだけに外すのは困難を極めた。無闇に外そうとすれば、自身の人体に影響が加わるのは必然だった。


みしみしみし、ぼとっぼとぼと。

聞こえ慣れない嫌な音が連続で続き、ルナールは自由を手に入れた。



「《全回復(オールヒール)》! 」


自身の身体の欠損部分を全回復し、仲間の拘束具も外し始める。



「……お前ら、ここは何処だ? 」


丁度、拘束具を取って貰えたジャックが楽しげに口を開いた。


「ここは俺の祖国だよ。まあ、俺が潰した国なんだけどね〜!ミルク王国って知ってる?あはははははははは!」


「お前の故郷?……チッ!テメェが8歳だったミクルを悲しませやがった張本人かよ!!許さねェ!! 」


神城は地面に手を伏せ、ジャックを睨みつけた。



「この状況でまだ好戦的な態度取るんだね〜。従順に俺らに従った方が賢いと思うんだけど? 」


「悪人に従う道理はない! 」


神城は周囲に冷気を漂わせ、手を伏せた地面から玉座と壁、天井までも凍らせた。

天井からは巨大な氷柱が生えている。



「氷系の魔法か〜。……厄介だね! 」


ジャックは何処からか取り出したナイフを指に挟んで構える。

他の隊員も戦闘状態に入った。



「早く串刺しになれよ、三下ァ!! 」


前の口調、態度、人格とはまるで別人かのような挑発的で狂気的な態度は、神城の中のジャックのイメージを一転させた。



「……何だよお前。猫被ってーーッ!!」


「そんなこと、どうでも良いよ。うるせェから、さっさと死ねや! 」


神城の頬へ強い空気が当たったかと思うと、頬からは血が垂れ始めた。



「首を狙ったんだけどなァ、お前の冷気、邪魔くせえんだよ!! 」


ジャックは無数のナイフを放ち続ける。

どこに隠し持っているのかは不明だが、神城には確実にナイフが放たれ、自分の横か上、真下で消えているのを冷気で察知し済み。


「あいつの魔法、分からねえことだらけだが仕方ねェ……!《諸刃の剣、刃、凍てつけ己!氷獄の修羅城(アイス・ブルーリオン)》 」


神城は飛んでくるナイフを無視して、地面へ両手で触れた。掌をピッタリ付け、魔力の展開に全身全霊をかける。



「……何をしようとしてやがる? 」


付いた掌からは巨大な氷柱が無数に生え、腐敗しきった王城の壁、天井を容易に貫き、新たな建造物を建設し始める。

氷柱と氷柱が交わり、ミルク王国の王城を消滅させた場所には氷の王城が出来上がった。



「はぁ、はぁ、はぁ……」


魔力を急激に消費してしまったことで、神城は思わず膝をついた。



「こりゃあ、凄えな。全世界でもこれだけの氷魔法を使える人間はアンタしか居ねえだろうよ。それで?この城は何の意味がある? 」


傷を癒してもらい、やっと立ち上がることが出来たギルは、瞳の色を非色に染めて、神城を問い詰める。



「《……王の命令だ、跪け! 》」


神城はギルの質問を無視し、独りでに呟いた。


「……あ?王? 」


すると、ギルの立っていた床に段差が現れ、身体の重心を強制的に崩されてしまった。

なんとか持ちこたえようと、指に力を入れて踏ん張ろうとするが不可能。

ギルは前のめりに倒れ、膝をついた。



「この城は俺の意のままに動く。お前らの好き勝手はさせない!《お前は目を閉じろ》 」


ギルが瞬きで瞼を閉じた瞬間、天井からタイミングよく降ってきた水滴が瞼の上に付着し、両眼が開かないように凍結した。



「……あっ、ぐっ、ぁぁぁ!!くそが!! 」



床に手をつき、四つん這いの状態で瞳の周辺に付いた氷を払おうと殴り続ける。

だが、容易な力で崩れない。それに、ギルは魔法使用条件である瞳の開眼が出来ていない為、力を出すことが出来ないのだ。

いくら殴っても常人以上の力は出せない。



「《そのまま、動くな》 」


膝と手、氷の床に干渉している部分から、ギルの身体は凍りつき始め、身体の自由を奪う。



「武蔵、一思いにやれ!! 」


「あぁ、任せるん……!?動けん!! 」


ギルは凍りつき始めたギルの身体を刀で一刀両断しようと試みるが、ギル隊全員の身体の半分は既に氷漬けにされていた。

誰一人として身動きが取れず、神城の作った王城に圧倒され始めている。



「これが第一世代(ファースト)か?ウチのボスのが強いな。なんなら、ミクルの方が百倍以上も強い。 」


全員が凍結し、身動きが取れなくなった頃、神城は近づいてくる二つの反応へ身構えていた。



「……はぁ、増援かよ。《守れ!》 」


上空から加速し、城内への侵入を試みようとしているらしい。

神城は侵入させまいと、結界を貼り続ける。

氷の結界はそこまで強い出力は出せない。厚みを増しても、勝てない力もある。



「……グリフ、少しだけ……本気、出すね。 」


「チッ、仕方ない。状況が状況だから、許可するよ。 」


青と赤の炎で具現化された双翼で、上空を優雅に飛び回り、結界の弱点を探る。

グリフと呼ばれた男は、獣のような翼で空を飛び、相方の様子を見守っている。



「《緋色の炎、碧色の炎、紫炎となりて、標的を燃やし尽くせ!双翼の紫炎(ヴァイオレット・フィアンマ)》! 」


羽ばたかせた翼の緋色と碧色の炎が交わり、紫炎の球体を生成し始める。

グリフと少女の身体二つ分以上の大きさに球体が出来上がると、出力を上げ、光線銃のように紫炎が発射された。



「チッ……なんだこの炎はッ!! 」


神城の結界は容易く、硝子のように砕け散る。炎で結界が破れた拍子に、神城の数メートル先に侵入者二人が降り立つ。



「……《双翼のジーナ》とアンタは? 」


神城は《双翼》の横にいる茶色い髪の前髪が長く、右目が隠れている男へ問いかける。


「私はグリフ・ステラ。通り名は《隻眼》で通っていますよ。神城さん、今日は戦いに来たわけじゃないんです。 」


「は……? 」


神城は拍子抜けた様子の返事を返す。


「そこのギル一家(ファミリー)をこちらに引き渡してくれませんか? 」


「何言ってやがる、コイツらはーー」


「貴方の弟子を殺そうとした張本人ですよね。それなりの報いを受けてもらいたいと? 」


「当たり前だ!契約期間中に宣戦布告なんざ、良いわけねえだろ! 」


うんうんと頷き、グリフは神城の言い分を肯定する姿勢を見せる。



「そうですよね、分かっています。ですが、契約期間中。この言葉、私達にも使いようはあるんですよ? 」


「どういう意味だ? 」


「契約はこちらがお願いされたもの。此方は戦争に手伝うことを止めようといえば、貴方は彼らを渡さざるを得ないでしょう? 」


グリフは途端に黒い笑みを浮かべ始めた。


だが、


「んなもん、関係ねェよ。お前らの力は強い、それは認めるが、ここまで性根の腐った奴らの集まりとは思わなかった。契約は破棄してくれて構わない。その代わり、今からここをすぐに出て行け!! 」


神城の言葉が響き、床、天井、壁からは無数の氷柱が覗く。



「これは困りましたね。言葉では揺さぶられませんか。じゃあ、貴方も覚悟してください……!! 」


グリフとジーナを前に、神城は冷や汗を流す。挑発と牽制を同時に行い、今、奴らが退避してくれることを希望していた。


だが、奴らはやはり好戦的だったらしい。

こればかりは仕方ない。


神城は自分の死さえも受け入れて、覚悟を決めたのだった。




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