第百四十一話 《比翼》との関係
「……私達、実は従姉妹なんだよ! 」
「……え? 」
夜十は、彼女が言った言葉に驚きを隠せなかった。従姉妹?確かに今まで親戚のことを気にしたことがなかった。
姉からも当然、聞かされたことなどない。
「日南さん、歳はおいくつですか? 」
「私?私は42歳だよ!美夏と同い年! 」
姉のことを知っているような口ぶりの彼女へ、疑問げな表情を取ると、彼女は夜十の表情を感じ取ってか、口を開いた。
「美夏とは何度か、アビス討伐の時に同じ標的を狙っていた時があったんだ。そうじゃなくても、子供の頃、よく一緒に遊んだよ! 」
「そうなんですか……俺、聞いたことないです。 」
「むー、信じてないって顔だなぁ! 」
日南はぷくーっと頬を膨らませた。
「あはは、世界的に有名な魔法師さんが俺の親戚だったなんて俄かには信じられないですよ。 」
「夜十君のお姉さんは、《戦場の歌姫》でしょ!!親戚に私がいたって何も違和感ないよ! 」
「違和感は間違いないですけどね!! 」
夜十の反応に、やれやれと首を傾げた日南は、胸元に手を突っ込んで、とある物を取り出した。
「これを見ても信じられないー? 」
「……っ!?日南さんも、《願いの十字架》を!? 」
彼女が胸元から取り出したのは、銀色の十字架のネックレス。
夜十がしている《願いの十字架》と同じ形状だ。
「ううん、私のは偽物だよ。美夏も同じようなネックレスしてたでしょ?夜十君のお母さんとお父さんがしてた形見なんだよ。 」
「形見……!! 」
「うん、そう。二人は私の恩人だったんだけど、亡くなった時に泣いてたら、美夏がくれたんだ。 」
日南は哀しげに言う。
すると、ハッと思いついたように話を切り出した。
「夜十君ってその歳で、もうプロの魔法師なんだよね!!一戦、交えてみない? 」
「え……?日南さんとですか?! 」
相手は、あの《比翼》。
一戦交えてみたいが、夜十には万全に戦えるだけの余裕は無かった。
すると、日南は夜十の様子を察したのか、口を開く。
「あぁ、体が回復しきってないんだね。少し待ってて!《叡智なる癒しの力、私の呼び掛けに応じよ!全回復》! 」
日南の行なった詠唱後、夜十は自分の身体に取り憑いていた疲労感と痛みがスーッと消えていくのを感じた。
「ありがとうございます……。あの、日南さんの上限回数って何回なんですか? 」
「私の上限回数は後、五百は残ってるよ。気になるよね、親戚だもんね。 」
「五百……!?あの、元は……? 」
今で五百なら元の数は千回?
様々な予想が頭の中で繰り広げられた。
だが、彼女はーー。
「私との勝負に勝てたら、教えてあげてもいいよ。勝てたら、だけどね? 」
「……分かりました。やります、疲労も取り除いてくれたことですし、断る理由はありません!その代わり……」
「その代わり? 」
夜十はスーッと息を吸い、吐き出した。
「全力で日南さんを叩きのめします!! 」
「そうこなくっちゃ〜!先ずは、壱でいいかな。 」
日南はボソッと呟き、黒い柄に、金色の龍が巻き付いた装飾がされている槍を手にした。
鋭く鋭利な刀身は、銀に輝く。
「やれやれ、日南が始めちまったよ。吉良ちゃん、其奴ら全員を新島さんに預けに行くぞ。この辺りは危険だ。日南、程々にしとけよ〜! 」
不知火と吉良は、拘束具で身動きの取れないギル隊を連れて、演習場から出て行った。
「はーい!不知火さん怒ると怖いからね! 」
日南は演習場から出て行く三人とギル隊を見送って、目の前の標的に集中する。
「……行きますよ、日南さん! 」
両掌をパンっと叩き、空気を焦がす魔力で生成した黒剣を手に、夜十は日南を直視する。
金色の輝きが瞳に宿った。
「《悪行の叡智よ、私の呼びかけに応じなさい!真偽夢》 」
彼女の詠唱が完成し、周囲に白い煙幕が立ち込めた。
視界は閉ざされ、夜十は日南を見失った。
だが、それは然程重要なことではない。
「煙幕で見えないとでも思ったんですか……? 」
背後に現れる、それはもう事前に分かっていることだ。《追憶の慧眼》の前では好き勝手は出来ない。
黒剣の柄で槍の連続攻撃を全て牽制する。
この動きに日南は驚いたのか、一歩後退した。
ーーけれど次の瞬間、夜十の腹部に強い衝撃が与えられた。ねじ込むような蹴りだ。
「ぐあっ……!! 」
吹っ飛ばされそうになるが、何とか持ちこたえた。
「耐久力もあるんだね、流石だよ! 」
一体どういうことだ?確かに《追憶の慧眼》で予知した動きを避けたはず。
なのに、彼女の攻撃は突き刺さった。
疑問げな表情を浮かべる夜十へ、日南は楽しげに笑った。
「はははッ!何があったか分からないって顔してるね。もっと行くよ!! 」
次は右斜めから槍による連続攻撃、全て刀身で跳ね返した。次は背後に空気を裂く感覚があり、状態を逸らして回避に成功する。
だが、上体を逸らしたことで動きが鈍くなってしまった。
だから、頭上から来る槍の攻撃を避けるには到底間に合わない。
ーーはずだった。
《緋色の情熱花》×3
《全反射》
夜十は既に布石を打っていた。
立ち込める煙幕で何も見えないが、《追憶の慧眼》で未来を見ることは可能だ。
しかし、それでも読めなかったということは何かカラクリがあるのだ。
「なっ……!? 」
地面から炎柱が三柱も噴出し、周囲を爆散する。
立ち込める煙幕も、爆風で消し飛び、夜十の近くに潜んでいた日南は、爆撃を食らった。
「……こ、これだけの魔法の種類!やっぱり、夜十君の魔法は夜百さんと同じ記憶魔法?! 」
爆撃を食らった後だが、彼女は余裕綽々と立ち上がる。
「夜百?……誰ですか? 」
「貴方のお父さんのことよ。未来を読む力、魔法を覚え、使う力。その歳でそこまでの力を使えるなんて! 」
日南は感激した様子だった。
そして向き直り、新たなる詠唱を始める。
それは次の周期、弐を意味する。




