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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編《revolución編》
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第百三十六話 懐かしきメンツ

久々の休日、夜十は燈火とミクル、虹色の四人でATSの拠点に来ていた。

海外と国内で魔法師の招集活動を行なっていたメンバーが全員、帰省してきたらしい。


そして、情報共有の為に呼び出されたということだ。



「お、来たな。それじゃあ、始めるぞ。 」


夜十を含めた四人が椅子に座ったのを確認すると、新島は話を切り出した。



「俺と神城、龍騎の三人はrevolución(レボルシオン)の本部に行ってきた。協力を仰いでくれるとのことだ。」


新島の言葉にミクルが少し不機嫌そうになる。だが、誰も気づいては居なかった。


「……revolución、偽善者……」


ボソッと呟いた一言に夜十が反応する。

首を傾けて、ミクルへ小声で問いかけた。


「どうした?何か言ったか? 」


「ううん、何も言ってないよ! 」


夜十は自分の空耳だと判断して、新島の話に耳を傾けた。


「revoluciónは、ルーニー・パズを筆頭に様々な分野の部隊を兼ね備えた国際的な対魔術師、対アビス組織。本部はイギリスで、各国に支部を置く程の巨大組織だ。今回の協力は、戦争に向けて素晴らしい結果を残せると期待していい!国内はどうだったよ?騰! 」


新島の問いかけで、騰が続く。



「国内は、私と旦那……あぁ、標津で周りました。魔法の名家と剣の名家、その他にも組織に属さない単独の魔法師に了承を得ました。近々、情報を共有する為に招集をかけると言ってあります。情報共有の日程は後ほど、決定し、私か標津に一報ください! 」


「そうか、単独の魔法師もか!彼らとの連絡手段は切られてしまってたからな。よく見つけたな!凄いぞ流石だ! 」


騰は淡々と説明して、新島へ深々と頷いた。

着々と戦力が固まり始めていることに、安心感を得た。

魔術師に人類は負けてはならないのだ。

自分達の正義と、世界を守る為だ。



「学園組はどうだ? 」


新島は夜十に視線を送った。

全員の視線が夜十へ傾く。



「学園全体で一丸となって戦力強化に励んでいます。勿論、戦闘主体じゃない生徒もいますが、各々が出来ることを極め、戦争に向けて日々精進していきます。 」


「全員、順調だな。良い傾向だ!よし、今日は解散でいい!代表とミクルは残ってくれ。話したいことがあるからな。 」


報告会は意外とあっさりに終わった。

全員、多忙の日々を送っている。必要なこと以外を話している余裕はないからだろうか。


呼ばれたメンバーは残った。

他のメンバーは次々に部屋を出る。燈火と虹色は部屋の外で待っている、と伝えてきた。

二人に「オッケー!」と伝えると、夜十は新島の近くの椅子に座りなおす。



「事態は深刻だ。国内組から聞いた報告だと、最近、住民区の方へ頻繁にアビスが出現しているらしい。輝夜隊と新木場に対処を任せているが、数が多くてな……」


住居が多い国内の区域を狙ってなのか、小型から大型のアビスが出現しているという。

今のところの負傷者は数人で留められているらしいが、これから増える可能性もある。



「……そこでだ!魔法学園組の戦力になりそうな生徒を連れ、修練も兼ねてアビスの討伐を行なって欲しい。 」


夜十は少し顔をしかめて、ウンウンと頷いた。最近、生徒達の練習相手になって、彼らの力を間近で見ているが、実戦に慣れておくのは必要なことだろう。

練習では力を引き出せていても、実戦で使えなければ意味はないからだ。



「分かりました。部隊編成については、また後日、データを送ります。 」


「分かった!学園の方は夜十達に一任しているからな。頼んだぞ!! 」


「はい!! 」


夜十の返事にニッコリと微笑んで、新島は続けた。


「それで次なんだが、revoluciónについて、ミクルは何か心当たりがあるか? 」


さっきまで何も話さず、真剣な表情で待機していたミクルは突然の質問にピクッと反応した。



「……」


「ミクル……? 」


珍しく何も話そうとしないミクルに、神城は疑問げに首を傾けた。



「新島さん……無理は承知です。revoluciónとの契約を解除してもらえませんか。 」


ミクルは聞いたことのないような低く真剣な表情で新島へ訴えかける。

顔は真っ赤で目が少し腫れていた。



「ど、どういう……」


あまりに突然すぎるお願いに、新島は困惑した。勿論、周りの皆もだ。

いつも明るいミクルが今日はあり得ないほど、沈んでいる。

その理由がrevoluciónとの契約に繋がることに。



「ミクル、それはどうしてだ? 」


神城は優しい声、優しい表情でミクルを気遣うように問いかけた。

今は刺激はしてはいけない。そう、周りに語りかけているかのようだった。



「アイツらは偽善者だから……」


「偽善者? 」


元revoluciónに所属していたこともあってか、新島がミクルの言葉に一番過剰に反応した。当然だ、自分が所属していた時は知らない情報はないが、偽善者と呼ばれるような悪行はしていない。



「それはーー 」


「なっ……!? 」

「嘘だろ……!! 」

「何だよそれ、本当なのか!? ミクル!! 」


全員、思わず声を上げて驚愕した。

そんなことが?あり得ない!と言った表情だ。


あまりの驚きに新島は後日、話を聞くとのことで詳しくは聞かなかった。

その日はそれで解散になった。




「ミクル……」


「この話はまた今度詳しくするから……今日は楽しんでよね!分かった!? 」


ミクルはワザとらしくテンションを上げ、夜十へ声を張り上げた。


「ああ、そうだな!もう、皆待ってる。行くぞ、ミクル!! 」


「うん!! 」


部屋の外に出ると、虹色と燈火が退屈そうに立っていた。夜十とミクルが出てくるのを確認すると、「やっと来た」と呟いた。



「ごめん!待たせちゃって!! 」


ミクルは以前、普段の平然な自分を装って、明るく謝罪した。


「良いよ、別に。それより、早く会場に向かおっか!ミクル、お願い! 」


虹色の言葉と同時に、ミクルは自分を含めた四人を別空間に移動させ、亜光速で今晩の予定会場へ向かった。


今晩の予定会場というのも、教員になってから、あまり特別な会というのをしなくなった。

そこで、今日は旧校舎を使い、全員でパーティーを行うことになったのだ。


旧校舎に着き、中へ入ると、久々の小日向が立っていた。



「おぉ!久々でいやがりますね!夜十君! 」


「小日向先輩!帰ってたんですか!? 」


小日向は魔法師免許の特別取得メンバーではなかったが、新島に直談判して特別許可を獲得した。その後というもの、教員や生徒などの学園系の仕事とは外れ、単体の魔法師に弟子入りをして旅を続けていた。



「沖から連絡が来たです!!まさか、全員招集なんてどんちくしょーに嬉しいです! 」


相変わらずの容姿と口調に懐かしげを覚える。魔法師になって、前線に立っているからか、勇ましくも感じた。


「まあまあ、中へ入りやがれです!! 」


「はい!行こう!皆! 」


夜十達四人は、会場へ足を踏み入れた。

既に招集されたメンバーの夜十達以外は揃っており、椅子に座って談笑していた。



「お、来たね!じゃあ、始めるとするかい? 」


風見が席から立ち上がり、夜十達は着席した。長い横テーブルには、一面に美味しそうな料理が並べられている。

硝子のグラスに注がれているのは、オレンジジュースだった。鮮やかな色が食欲を唆る。



「ごほん!じゃあ、全員集まったということで堅苦しい挨拶も今日はやめよう。それじゃあ、楽しんでくれ!乾杯! 」


風見の簡単な挨拶で会はスタートした。

来ているメンバーは今までの会の中で一番多く、懐かしい《平和派(ジャスティス)》の面々や教員組、風見に呼ばれた生徒まで来ていた。



「オイ!クソ教師! 」


席を立とうとした瞬間、背後から聞き慣れた声が聞こえた。

間違いなく虎徹だ。


「なんだよ、虎徹? 」


振り返ると、虎徹と熱矢が立っていた。

二人とも制服でニヤニヤと笑っている。


「今日はオフだろ? 」


「あぁ、もう用事は無いよ。 」


二人とも顔を見合わせて喜んでいるようだ。

なんだその無邪気な子供みたいな反応は、気持ち悪い。夜十はそう思った。

普段の虎徹や熱矢は子供っぽいところさえあるが、言っていることは基本的に真面目で大人っぽいところがある。

そのせいか、イメージとは合わない。



「まあ、俺らって言ったら魔法の実戦ってのはピンと来ると思うんだけどよ。同クラの倉橋(くらはし)って分かるよな? 」


「うん、分かるよ。倉橋さんがどうしたの? 」


倉橋輪廻(くらはしりんね)、虎徹と熱矢と同じクラスの女の子で魔法は索敵魔法。

聴覚、視覚、感じられる感覚の全てを研ぎ澄ますことの出来る魔法。

使用回数は少なく、敵の位置を知ることも出来るため、非常に戦闘場面で重要になってくるだろう。



「アイツの提案だ。クラス全員の戦闘力の向上は当たり前に出来てっと思ってる。だからよ、この辺で実践させてくれよ。クラス全員とクソ教師、勿論お前も魔法アリだ。手抜き無しの本気のバトル、やってくれねえか? 」


クラス全員となると、三十人を相手にすることになる。多少のリスクはあるが、教え子の頼みとあらば、断るはずもない。

それに、アビス討伐の遠征に連れて行くメンバーも決められる。一石二鳥だ。



「……いいよ。その代わり、俺は本気で戦う。手加減は一切しないって、皆に伝えておいてくれるかな? 」


「ああ、分かった!俺らは準備に戻るわ。じゃあ、また後でな! 」


熱矢と虎徹は嬉しそうに去っていった。

最初から招待されていたわけではなかったのか?そんな疑問がよぎった。



「夜十君、教師教師してるね〜。 」


やり取りを見ていたのか、沖が笑いながら話しかけて来た。


「あはは、そんなことないですよ。沖先輩も忙しいでしょうけど、決闘の誘いは多いですよね? 」


「嗚呼、よく知ってるね。最近は俺の剣を覚えたいって人が多くて、嬉しいよ。自分の道場を開いているみたいで。 」


沖は本当に楽しそうに話す。



「今の沖先輩を流藤(るとう)が見たら喜びますよ! 」


「そうだと嬉しいよ。流藤ともう一度剣を合わせたい。そう願っているからね俺は……!あ、風見に呼ばれた気がする。それじゃ! 」


沖ーー!と叫ぶ風見の声が聞こえると、沖は笑顔で去っていった。



「お、夜十じゃねえか。久々だな! 」

「オイ!立とうとすんじゃねぇ!ドクターストップだ馬鹿野郎! 」


声のする方を振り向くと、車椅子に縛り付けられている火炎の姿があった。

演習試験から全く会っていなかったからか、本当に久しぶりな気がする。

見舞いに行くにしても、生徒達の稽古で行くに行けなかった。

纏が横で監視をしているようだ。



「お、火炎!怪我は大丈夫なのか? 」


「勿論だ!もう立てるぞ!ほら! 」

「オイ!殺すぞお前!大丈夫なわけねえだろ!あと一週間半は絶対安静だ! 」


纏は立とうとする火炎を叱りつけ、包帯をグルグルと巻いている無防備な裸足を右足で踏みつけた。


「ぎゃぁぁぁあああ!医者のすることじゃねぇよ!鬼!鬼!鬼医者ぁぁ!! 」

「お前が俺の忠告を無視するからだろ!?あぁん!?もういい!保健室に帰るぞ! 」


あまりの痛みに泣き叫ぶ火炎を他所に、纏は怒り新党で火炎と共に部屋を去っていった。



「くっそおおおお!なんだって俺がこんな目にぃぃいいいい!! 」


玄関先から聞こえる大声に、夜十は大変だな纏先輩。と、本気で思った。


そろそろ会はお開き、というわけでもないのだが、夜十はこの後の予定のため、少しだけ早めに出ることにした。


生徒達の成長を間近で体験するために。




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