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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編《revolución編》
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第百三十四話 新島鎮雄

revolución(レボルシオン)

国際的に作られた対魔術師専門の集団組織。

組織に所属する魔法師の九割が魔術師に故郷を追われ、行き場を失った身。


俺、新島鎮雄もその一人だった。

小さい頃、日本から少し離れた国で生まれた俺は、父親が日本人で新島鎮雄と名付けられる。


父は有名な魔法師で、母親はそれを支える良い妻として、家族は幸せで溢れていたのだが、その幸せは、俺が五歳の時に崩されることになる。

数ヶ月前に俺の父親は、魔術師の城を壊滅させ、崩落にまで追い込むという功績を得た。


魔法師の界隈では国際的に感謝される程のことで、初の快挙となるほどの大金星。複数人での城占拠は歴史上にあるが、父の場合"たった一人だった"という部分が表彰を受ける理由となったのだ。

その報告を受けた時、俺は父が偉大なる人物で、とても誇らしかった。当然、たった一人で魔術師を滅ぼす力を持つ人間など早々に居るものではない。

周りから聞こえる賞賛の声は厚く、家族全員で喜びを分かち合った。


特別、その日からではないが、改めて父は俺にとって憧れの存在と感じさせてくれた。


ーーけれど、平和な日の朝。

父に恨みを買った魔術師が軍勢を引き連れて、俺達一家の住む街に攻め込んできた。早朝ということもあってか、父の対応も遅れ、一瞬で街は壊滅、街の人は次々に殺された。


自分の敗北が決定づけられたと確信した父は、俺を他者から目視されない壁で包み込み、隠した。

"お前だけでも逃げろ!"そう訴えかけた表情、瞳は、その数秒後に大量の血を流して輝きを失う。ドサリと重みのある音が響き、俺は思わず叫んだ。


「……な、何でっ!そ、そんなぁ!! 」


だがそれでも、俺の悲痛な叫びは誰にも聞こえない。

父の作った壁をドンドンと叩き、家族が、大切なものが失われていく光景をジッと見ているだけの光景が嫌だった。

嫌で嫌で仕方がなかった。でも、俺の力で壁が壊れることも、音が漏れることも当然ない。


魔術師は俺に気づいていなかった。

父の仇だと、その魔術師の姿を頭の中に刻み込む。沈黙しか出来ない自分が唯一出来る反抗。

憎しみ、憎悪、怒り、憤り、齢五歳の男の子が決して抱かないであろう感情。

そんな負の感情が俺を支配していった。



「憎い憎い憎い……!!絶対殺してやる!魔術師を……!! 」


俺の両親、家、平和な時間、全ての大切なものを破壊した魔術師は、青い髪と青い瞳をしていた。特徴的な姿だけに、今でも忘れたことは一度もない。

あの男の表情、仕草を思い出す度に腹の中で何かが煮え繰り返るように憤りが止まらなくなる。



数日が経過し、憎しみを蓄え続けていると、壁が消え、崩壊した家に降り立ち、俺はその場から崩れ落ちた。

既に鮮血は乾き、家のフローリングの床に酷くこべりついている。濡れたタオルで何度拭いても落ちることはなさそうだ。


遺体に生気もなく、手を握ったが、とても冷たかった。まるで、人の手ではなかったかのように。


一通り、血が抜け切ったのか。

皮は萎み、筋肉質な肉体は衰弱し切っていた。以前のような偉大な父の姿はない。

母も数メートル先で亡くなっていた。首を刃物で斬りつけられ、出血多量で死亡。

俺はその姿を見ていたから、今でも鮮明に思い出せる。

あの死に方、殺され方は無残だった。


生きていた頃、優しくしてくれた母。

いつ如何なる時も俺を気遣ってくれた。


大好きな家族、大切な居場所は一夜で奪われてしまった。



「……うわぁぁぁん!!わぁぁ!!! 」


瞳から涙が止まらなかった。もう、止め方も分からない。そんな状態で泣き続けた。

泣き叫んでも、誰も助けに来ない。

当たり前だ。この街で生き残っているのは俺だけなんだから。


すると、背後から人の気配がした。

恐る恐る後ろを振り返ると、ガタイのいい白髪の老人が金と青で装飾された高級そうな杖をつき、立っていた。



「坊主、生き残りか……? 」


「……うぅ、ひっく、うわぁぁぁぁん!! 」


老人はしゃがみこんで俺の頭に、ポンと手を置いて話しかけて来た。



「……一先ず、ここは離れた方がいい。坊主、ちと眠ってもらうぞ。 」


老人は、優しい声でそう言った。

俺は意識がどこかに吸い込まれる不思議な感覚に陥り、気を失った。






ーー目が覚めると、知らない天井が眼に映る。いつもの日常だったら、白く何もない無地の天井。

でも、その時は古い木造建築の組み木が剥き出しの天井だった。



「……あれ?あっ、パ、パパ!!起きたみたいだよ! 」


頭上から俺の顔を覗き込み、キョトンとして大きな声を張り上げた赤い髪の少女は、「パパ」を呼んだ。



「こ、ここは……? 」


身体を起こし、辺りをキョロキョロと見回す。木造建築の家屋の中のようだ。

古めかしい家具や道具が並んでいる。



「私の家だよ。君の名前は?


「……ん、新島鎮雄。 」


「鎮雄、魔術師が憎いか? 」


老人は単刀直入と言わんばかりに俺は質問を振ってきた。


「……んっ、くぅ、憎い!!絶対絶滅させてやる!! 」


俺は憤りを通り越して、怒り狂っていた。

歯を強く食い縛る。歯が割れてしまうんじゃないかってくらい強く。


すると、老人は何を思ったのか、俺を抱きしめてくれた。

まるで母に抱きしめられているような感覚に、俺の瞳から大粒の涙が溢れ始める。



「うぅ……ぐっ……うわぁぁぁぁん!! 」


その日は一日中泣いたっけな。

それから老人、恩師のルーニー・パズの元で十三年間修行して俺は日本へ旅立つことに。



「潜入調査? 」


「うむ。彼処は日本中の強い魔法師候補が集まる。お前には潜入という名目でスカウト活動をしてもらいたい。……どうだ? 」


見違える程、大人になり、筋肉も身長も当時とは比べ物にならないほどになった俺は、ルーニーの言葉を鼻で笑った。


「アンタの命令に文句を言ったことなんかないだろうよ。 」


「そうだったな。明日から日本に飛んでくれ。 」


「おう!ジジイ、達者でな! 」


「お前もだよ、鎮雄。 」


鎮雄はルーニーの部屋を後にした。

今、別の作戦が動いているとは知らずに。



日本に飛んだ後、KMC魔法学園に入学した。

色々と面倒ごとはあったけれど、仲間にも恵まれ、何不自由のない生活を送れていた。


そんな時、不幸は起きた。

ルーニーの元を離れてから、一年目のこと。


俺は日課である朝四時からのランニングに勤しんでいた。


ーーすると、空気を切り、俺へ向かって突き進む浮遊物の気配。

首を傾けて回避行動を取ると、地面に突き刺さった浮遊物を凝視した。


刃渡りの短いナイフだ。刃の先が僅かに光っていることから毒を塗っているのだろう。



「新島……鎮雄、補足。暗殺、作戦に移行。 」


そう言って出て来たのは、黒いペストマスクを付けた全身が真っ黒の人物。

声からするに女性であることがわかる。


「誰だよお前? 」


「……」


彼女は、右から赤い炎、左から青い炎の短剣を具現化させると、地面を蹴って俺との間合いを一瞬で詰める。


俺は驚いて、後ろへ跳んで後退。

然し、彼女の持つ短剣の刃渡りが伸び、確実に俺の首を捉えた。



「……ったく、仕方ねえな。 」


一筋縄でいきそうもない敵だと判断した俺は、首と刃物の間に金の短剣を発現した。


弾かれる炎の短剣、金属音が鳴り響き、彼女は俺から一歩退いた。



「何処のモンだよ?テメェ……! 」


「答える必要、ない。 」


「クソつまんねえ野郎だな!! 」


俺は金の短剣を消すと、右拳を地面に振り下ろす。金色の光が地面から漏れ出し、ヒビの隙間から強い光となっていく。


「仕方ねぇ、本気でやってやるよ。 」


ヒビの入った地面から金色の剣を抜き取ると、肩に乗せて狙いを見定めた。



「ふん、私には、敵わ……ない。 」


彼女の背中に赤と青の炎で具現化された。

"双翼"が生え、短剣に宿る魔力が先程とは格別に上がった。



「……なんだそりゃ、魔力の塊かよ。 」


「黙って……死ん、で!! 」


両者共、ほぼ同時に地面を蹴った。

速度は彼女が上、地面を蹴ったタイミングで背中の羽を爆発させ、爆風で速度を上げたのだ。


といっても、俺には関係なかった。

捩じ伏せるのに速度は重要だが、この剣には"必要なかった"。



「はぁぁぁぁ!!! 」


爆速で突っ込んでくる彼女の持つ、二つの刃を同時に剣で受け止めた。


しっかりとした重み、地面が足の形で窪み、俺を背後に押し続ける。



「……じゃあな。《積み重なる力よ。術を知り、逆境を超え、糧となれ。剣反射(ブレイド・カウンター)》!! 」


その瞬間、彼女は白い光に包まれる。

太く濃度の高い魔力が込められた斬撃を真正面で受け止め、数メートル先に吹っ飛ばされた。



「なっ……がぁっ、わ、私が……負け、た? 」


仮面が壊れ、彼女の素顔が露わとなった。

そこに居たのは、短い黒髪の少女。



「……お前、何処のモンだよ? 」


「流石、は……《第一世代(ファースト)》。私で、は、相手に……ならない、か。 」


俺は《第一世代》という言葉に目を見開いた。


「お前はrevoluciónから来たのか!オイ!どうなんだ!!誰の指示だ! 」


怒り狂い、必死に少女の肩を掴んで、揺さぶった。



「誰の、指示か……なん、て、分かっ、てるくせに……」


「……う、嘘だ!嘘だ!嘘ーー」


「ーー嘘じゃないよ。こればかりはね。 」


背後から気配を感じ、振り返ってみると、寮室が同じ、赤い髪の女性、《嘘吐きのリアン》という異名を持つ、リアンが立っていた。

学園に入学してから幾度とお世話になった彼女にそう言われたのはショックだった。


俺は、頭の中が真っ白になった。

組織が俺を殺そうとした?

その事実だけを否定したいと、葛藤する。



「でも、失敗しちゃったんだね。《第二世代(セカンド)》。帰りなよ。任務失敗って父さんに報告しなさい。 」


「は、い……任務、失敗。退避……」


そう言って黒髪の少女は、炎の灯火のようにその場から跡形もなく消滅した。



「ど、どういうことだよ!リアン!場合によってはテメェを俺は……! 」


「殺してしまうって?でも、私を殺しても何にもならないよ。話してあげるから、落ち着いて、ね? 」


リアンは怒り狂って、理性がブチ切れた俺を慰める。

吐息を荒い中、俺はリアンと二人で寮室に戻った。


そこで話されたのは、俺の運命を変える事実。



「……パパは、鎮雄、貴方が怖いんだ。あの日、魔術師に襲われた街から拾って来た少年が強くなっていく過程が。 」


「……飼い犬に手を噛まれるのが怖いってか?俺がジジイを裏切るわけねえってのに! 」


「私は反対したけど、ダメだった。もう決定事項って感じで話が進んでって、私も協力せざるを得なくて……」


淡々と話してくれるリアンに感謝を覚えた。

組織内で任務遂行を部外者に話すこと自体、禁止行為だというのに。

自分の身を案ぜず、俺の親身になって話をしてくれたことに好意が持てた。



「俺、組織抜けるわ。 」


「え……? 」


「日本で俺の組織を作る。大切な家族って、血が繋がってなくても良いだろ?俺は、誰も失わない家族のような組織を作ってやる!! 」


俺はこの時、強い決心をした。

組織を家族化させて仕舞えば、負の感情なんて産まない。



ーーそして、その願いは数年先に叶った。






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