第百三十三話 接触
revoluciónとの交渉で海外へ来ている龍騎と新島、神城の三人は、スラム街の奥地にある路地に来ていた。
周囲を見渡せば、360度煉瓦造りの建物が建ち並び、至る所に英語で落書きが書かれている。見た目だけで、あまり良い場所とは言えなかった。
すると、色黒の男達、数人が三人を取り囲み、話しかけて来た。
日本で言う、だる絡みという奴だ。
「見ねえ顔だな?俺らの縄張りに入ったってことは姐さんに金払え、金! 」
「……お前ら、リアンの部下だろ?黙って、アジトに通せ。これの意味、分かるよな? 」
新島は懐から取り出した丸いガーネットの結晶を、黒人に見せた。
「そ、その石は第1世代の……!? 」
「分かったなら通せ。お前らの上には、どうせ話が行ってんだ。 」
黒人の男達はお辞儀して、煉瓦の壁の窪みに触れた。
すると、煉瓦が少しづつ動き、大人が通れるくらいの穴が現れた。
「……ここが入り口だ。行くぞ、足下気をつけろよ。 」
新島の忠告通り、足下に気をつけて突き進む。小刻みに灯りが道の影を揺らす。
奥に進めば進むほど、光が強くなった。
穴を通り抜けて、白い壁、白い天井、白い床の場所までたどり着けた。
すると、目の前から黒髪の少女が興味津々な表情で笑いながら、歩いて来た。
「……あれ、久しぶりだね。鎮雄、何か、私達に、用事……あるの? 」
黒い髪を短く整えた、どこか大人しそうな少女は新島に親しげに話しかけた。
彼女は黒と白の戦闘服を身に纏い、新島が持っていた宝石と酷似した、緑色の宝石が嵌め込まれた腕輪をつけている。
「ジーナ、久しぶりだな。俺はまあ、上の奴らにな。……今から任務か? 」
新島は特に喜びもせず、淡々と応えた。
「うん……今日は、国家の重要人物の依頼。 」
「そうか。お疲れ様。……じゃあな。 」
彼女はコクリと頷くと、新島達の来た道の奥へ去って行った。
「……今のは? 」
神城が眉間にしわを寄せて、疑問げに問いかけた。
「ジーナ・ラウル。暗殺を主にやってる魔法師だよ。《双翼》って言ったら分かるか? 」
「《双翼》だって!?あの国際的に有名な魔法師の!? 」
「ああ、そうだ。ここは何たって、revoluciónの総本部だからな。ジーナに会えるのは当たり前だ。 」
神城と龍騎が驚愕の表情をしているのを他所に、新島は真顔で言った。
「……そうだったな。目的の場所まではどれくらい掛かるんだ? 」
「んー、この施設広いからな。二十分くらいだな。 」
「二十分……」
「とほほ」と根をあげ、神城と龍騎は広すぎる施設内を淡々と突き進む新島と後を追うのだった。
「ほう……来たか。鎮雄。 」
魔術師の首を中心に、剣と剣が交差している紋章が刺繍された布地の服を身につけ、白髪の顎まで伸びた髭を触る一人の老人。
彼は、野太く掠れた低い声で呟いた。
「親父、ヤツを受け入れるという言葉、本当かよ! 」
新島の持つ赤い宝石と同じモノを首から下げた男は、金色の玉座に座る老人に跪き、頭を下げて言った。
「うむ。かつて私は恐怖を覚えてしまった。新島鎮雄という男に……。だから、殺そうとしたのじゃよ。 」
「……恐怖?偉大なる親父を震撼させる事がヤツにあるってか? 」
「左様、お前もそれが分かるわい。ほれ、来たぞ。客人を通せ。 」
老人は、男へ部屋の扉を開けよと命じた。
老人の服に刺繍された紋章と同じモノが刻まれた扉は、思い金属音を響かせ、部屋へ三人の魔法師を招き入れた。
「……テメェ、久しぶりだな? 」
新島達が長い道のりを経て、部屋の中へ入ると玉座に座り込んだ老人と、その前で少し伸びた黒髪をセットして整えている黒スーツの男が目に入った。
「《赤目》か。 」
「……っ!俺様をその名で呼ぶんじゃねぇ! 」
酷く怒った表情で怒鳴り散らす男。
新島の言った《赤目》という単語への怒りだ。
「待て、坊。場を乱すな。席を外せ。 」
「テメェ、クソジジイ!俺は坊じゃねぇ! 」
老人の言葉にも怒りを露わにした男は、新島の横を素通りして、部屋の外へ出て行った。
「すまないな、鎮雄。アイツはまだ若いんじゃ、許してやっとくれ。 」
「別に何も気にしてねえよ。ジジイ。 」
すると、老人は少し笑って、新島を指差した。
「もうお前もジジイじゃろが!ハハハハハハ!! 」
「うるせえ!まだ若えわ!! 」
新島は後頭部を指先で掻き、老人に向き直って、床に正座で腰を下ろした。
それを見た龍騎と神城も真似たように正座をした。
「revolución総司令兼最高権力者、ルーニー・パズ様へ今回のご協力のこと、御礼申し上げます! 」
三人は頭を下げ、地面に頭をつけた。
「ほほほ、お前らしいな。鎮雄。 」
「そりゃ、お褒めに預かり光栄で。 」
ルーニーは、口元を歪めて、ニンマリと笑って、話を続ける。
「我々は今も最初も変わらぬ。魔術師と人間、分かち合うことは出来ぬ身同士。ならば、殲滅するしか道はない。革命の風穴を開けてやるのが我々の仕事じゃよ。 」
「ジジイ。じゃあな、俺はその言葉を聞けて安心した。俺は日本に帰る。ジーナによろしく言っておいてくれ。 」
新島はそれだけ言って立ち上がると、ルーニーの居る部屋を後にした。
龍騎と神城は頭を下げて、部屋を去る。
「全く……常々恐い男じゃろ?ジーナ。 」
「私……気配、消してたのに。 」
部屋の天井から現れたジーナへ、ルーニーは笑いながら問いかけた。
「ヤツは儂の一番弟子じゃからの。あの程度では、勘付かれてしまうか。 」
「何度やっても……勝てない、かな。 」
ーーその頃、施設の外に向かう新島を含めた三人は、焦っていた。
「信用はならねぇな、やっぱりよ。 」
「協力するってのに、暗殺者に見張らせるか?普通。 」
龍騎と神城は気づいているようだった。
新島は二人に苦笑いをして言った。
「あのジジイは俺を怖がってんだよ。復讐しに来たんじゃねえかってな。だから、首を取られそうになったら《双翼》が守る。そういう役割だ。 」
「はぁ?なんでお前を怖がるんだよ。大体、古い知り合いって言ってたけど新島、お前とこの組織に関すること、なんも聞けてねえぞ!教えろよ! 」
龍騎は怒り気味で新島を問いただす。
神城はそういう感情はない。何故なら、知っているからだ。
何故、新島が組織のトップと知り合いなのか、数々の有名な魔法師と顔見知りなのかを。
「分かった。今まで黙っていたことは悪いと思ってる。俺のこと話すよ。聞いてくれ……」
新島がそう言ったと同時に三人は施設の外へ出られた。
誰も居ない静寂が漂うスラム街の奥地で新島は自分の正体について明かし始めた。




