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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《新入生編》
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第百三十一話 聞きたかったコト

追憶の慧眼(リコレクション・シャープ)》は、通常の《追憶の未来視》がより鋭く、強力に標的の情報を索敵する能力を得ている。


視界に捉えた標的の記憶に潜入し、全ての情報を一つのデータへ収縮。

全てのデータを得た状態で《追憶の未来視》と同じ、未来予知を働かせる。


これによって、夜十は、情報収集をする動きを取らずに済むことになるわけだ。



「……なんで俺の魔法が分かったんだよ! 」


「それが俺の新しい魔法、《追憶の慧眼》だよ。……さてと、反撃開始だ。」


夜十は、受け止めた拳を左手で握りしめ、右足を強く踏み込む。今の間合い、剣を使う必要はあまり無い。

いつも使っている剣は間合いが遠い場合の武器。つまり、今は素手で充分。


捻った身体の遠心力を拳に乗せて、力一杯に虎徹へ振り下ろす。



「……がはッ!!! 」


殴る瞬間に右手を放し、虎徹を遠くへ吹っ飛ばすと、瞬時に地面を蹴った。



「……遅いよ、防御。間に合ってない。 」


飛び蹴りで腹を蹴り飛ばし、地面に叩きつけた。



「ぐっ……がぁっ……!! 」


腹部を蹴られまいと、両腕を組んで防御に徹しようとするが、夜十の蹴りの方が早かった。


今の攻防だけで圧倒的な力の差に、周囲の観客及び、虎徹さえも震撼した。



「さ、さっきと……まるで、べ、別人の動き! 」


直ぐに立ち上がり、《詠唱破棄(レヴァケーション)》で相手との間合いを取る牽制の動きを取ろうと試みる。


だが、掌から出るはずの炎と氷、二つの属性を併せ持った魔法は出なかった。


虎徹が詠唱破棄で魔法を完成させようと思った時にはーー"斬られていた"のである。



「……無駄だよ。 」


更に次の魔法を打とうと考えている最中、夜十は低く野太い声で言った。

その言葉に嘘は何もなかった。事実だけを言っている。



虎徹は諦め始めていた。

ここまでの強さ、自分が行おうと思った一手は読まれ、その先を考えても読まれる。

どうにも出来そうになかった。



「……くっ、降参だ。アンタには負けた……」


虎徹は両腕を上に挙げ、降参の意思を見せた。虎徹は生涯初めて、一対一での勝負の敗北を経験した。


アビスに家を追われた時、彼は恐怖心でいっぱいだった。逃げることもした。

逃げることが敗北ではないというのなら、絶対勝利を持っていた。


けれど、今回は夜十の方が一枚上手だった。



「……戦意喪失か。約束は守ってくれるよね? 」



夜十の瞳から金色の輝きが消える。

夜十は、ニッコリと笑って、虎徹に拳を突き立てる。新島と新木場との挨拶だ。




「人類の為に……戦うだったか。分かった。アンタが勝ったんだ、俺は従うだけよ。 」


虎徹は立ち上がり、夜十の拳に自分の拳を重ねた。

二人は笑い合い、ステージから去った。




控え室へ向かうと、既に風見達が集まり、待ち構えていた。

風見は二人が立ち止まると、口を開く。



「紗雪虎徹君、君はアビスなのかい? 」


後ろのメンバーも冷や汗をかきながら、風見の問いかけに対する答えを待っている。



「俺はーー」


「風見先輩。少し時間をくれませんか?俺と虎徹だけで少し話したいんです。 」


真剣な表情で風見へ懇願した。



「……わかったよ。夜十君が言うなら仕方ない。私達は先に校舎に戻るよ。皆、生徒達の呼びかけを頼むよ。但し、夜十君! 」


「……何ですか? 」


「私達に納得のいく回答をよろしく頼むよ。 」


「はい!任せてください! 」


風見はその返答だけ聞くと、後ろのメンバーと共にアリーナを去って行った。




「ははは、風見先輩はやっぱ怖いや。じゃあ、中に入って話をしよっか。 」


「あぁ、わーったよ。 」


二人は控え室に入ると、青いベンチに腰を下ろした。



「単刀直入だよ!俺の姉は生きてる? 」


本当に単刀直入だった。

この質問には、流石の虎徹も呆れ顔で苦笑いしてしまうほどだ。


「前置きも無しに俺の姉が生きてるかって……んなもん、まあいいや。俺はもうこの世界の理に従うのはやめる。 」


「それはどういう意味……? 」


その質問は回答されなかった。

虎徹は真剣な表情で夜十へ口を開いた。


「アンタの姉、《戦場の歌姫(アーサー)》だろ?……生きてはいる。アビスとして、だけどな。 」


「……ッ!! 」


もうその言葉を聞けただけで幸せだった。

夜十の瞳から自然と大量の涙が流れていた。生徒の前だけに止めようと必死に腕で目を擦るが、一向に止まる気配はしなかった。


「泣くなよ、とは言えねえや。もう俺が聞こえてた声は聞こえなくなっちまった。兄貴、安らかに眠ってくれよな。 」


虎徹は誰にも聞こえないくらいの声でボソッと呟く。

その呟きは、涙を必死に拭い続ける夜十には聞こえていなかった。



「……はぁ、やっと止まっ……ダメだ。止まらっ、うぅ、ぐす、止まらぁ……うぇ、 」


「泣きながら聞いとけよ。俺の予想じゃ、アンタら人類は魔術師には勝てねえ。 」


虎徹はきっぱり言った。


「魔術師の数は尋常じゃねえし、その個体の魔力は異常だ。アンタみたいな所持者じゃ、何とかなるかもしれねえが、そうじゃない奴らは厳しい戦いになるだろうよ。 」


「……はぁ、ぞ、ぞうじゃなぐでもざ……」


涙と鼻水を拭い、夜十は答える。



「俺は目の前で大切な人を二度と失いたくない。だから、負けない。魔術師、打倒だ! 」


そう言って、夜十は青いベンチから立ち上がる。



「はぁ、バカだとは思ってたがそれ以上を行くかよ。アンタ、教師向いてねえよ。 」


「はぁっ!?そんなことないだろ!? 」


「いーや、向いてないねバーカ!! 」


虎徹は心の底で少しの可能性を感じた。

もしかしたら、夜十なら、この世界の残酷なまでの理を変えてくれるかもしれない、と。


「じゃあ、戻ろっか。風見先輩には俺から話しておくよ。虎徹君はーー」


「今更、君付けもねえだろよ。虎徹でいい。 」


照れ臭そうに夜十と目を合わせないようにそっぽを向く。



「じゃあ、俺のこともアンタ呼びはやめろよな。先生ってのは、まだ慣れないから、夜十でいいよ。虎徹。 」


「けっ……!やっぱり、夜十は、教師向いてないんじゃねえの?生徒に呼び捨てで呼ばせるとか、普通じゃありえねえよ! 」


普通に呼んでくれたことに対して、夜十は思わず笑った。


「ははは、確かにそうかもな! 」


「そこは怒るとこだろうが、クソ教師! 」


「誰がクソ教師だぁぁぁ!!! 」


平穏な日常の再スタート。

夜十との新たな絆が結ばれた瞬間である。



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